世界の危機
そうして俺は解放された。
ヘッドフォンと目隠しを外されると、そこはハンター協会本部の正面だった。
「では、降りてください」
黒塗りの車の中から、低い声が告げる。
振り返っても、スーツの男は何も言わない。
「……忘れねえからな」
返事はなかった。
車はそのまま静かに走り去っていく。
――八咫烏。
日本最古の秘密結社。
信じ難い話だったが、あの場の空気は嘘じゃない。
俺は深く息を吸い、協会の中へ入った。
受付を済ませ、会議室の階へ向かう。
扉を開けると、すでに全員が揃っていた。
「遅いぞ、十分の遅刻だ」
御堂会長の一言に、軽く頭を下げる。
「すみません」
そこには、桐原、神阪、如月、黒瀬、栄太。
この世界でも、同じ顔ぶれが集まっているらしい。
「では、会議を再開する」
御堂会長は、低く落ち着いた声で切り出した。
「集まってもらった理由は一つだ。
京都にある、とある神社で行われる極秘儀式。その護衛任務を任せたい」
空気が一段階、重くなる。
鷹森が資料を広げた。
「公式記録には残りません。
関与しているのは、表に出ない組織――八咫烏です」
その名に、俺は表情を変えずに息を飲む。
姫野が続ける。
「京都の山中にある古社で、六年に一度行われる儀式があります。
選ばれた“Gift保持者の子供”を本殿に入れ、一定時間、神前に留める」
「……子供?」
神阪が思わず声を漏らした。
「ええ。
その儀式は“封印の再構築”。
地下には、かつて災害とまで呼ばれた存在が眠っています」
単独で街を壊滅させかけた、過去の怪物。
完全封印はできず、周期的な再構築が必要――。
「今回、選ばれた子は――」
鷹森が写真を示す。
「朝霧 澪。八歳」
どこにでもいそうな、普通の少女だった。
「彼女のGiftは、他者の能力を何倍にも増幅させる」
ざわり、と室内が揺れた。
「……狙われないわけがないな」
俺の言葉に、姫野が静かに頷く。
「その通りです。
すでに、彼女を狙う組織の動きが確認されています」
御堂会長が、はっきりと言った。
「任務は単純だ。
儀式が終わるまで、朝霧 澪を絶対に守れ」
「失敗したら?」
神阪の問いに、会長は目を逸らさない。
「封印は崩れる。
京都どころの話では済まなくなる」
沈黙が落ちた。
「……一つ、問題があります」
俺は静かに口を開いた。
「俺と神阪、桐原は、今回の任務にそのまま参加できません」
「は?」
如月が声を上げる。
「どういうことだよ」
「来週の任務日程、俺たちは定期テストと重なってます」
一瞬、間が空いた。
「こんな状況でテストだと?」
「学生の本分は勉強です」
場がざわつく中、栄太が頷いた。
「……御影の言う通りだ。
一般校じゃ簡単に融通は利かない」
御堂会長は、少し考えるように顎に手を当てた。
「では、どうする?」
「方法はあります」
俺は続ける。
「テスト日程を前倒し。
条件は三人とも全教科赤点なし」
「それ……神阪が一番きついな」
「笑わないでください!」
だが、会長は小さく笑った。
「いいだろう。
それで行こう」
鷹森と姫野も、無言で頷く。
「必ず任務には参加してもらう。
それだけは譲れん」
「分かってます」
世界が終わるかもしれない任務だ。
逃げ道なんて、最初からない。
会議が終わり、皆が出ていく中で、会長に呼び止められた。
「八咫烏のこと、知っていたな」
「ええ。さっき、直接会ってきました」
「……そうか」
会長の一言が、妙に重かった。
「あの組織が動く時は、必ず裏がある。
今回の任務、失敗は許されない」
「分かってます」
会議室を出ると、神阪が廊下で頭を抱えていた。
「……終わった」
「まだ始まってもいないだろ」
俺は携帯を取り出し、ある人物にメッセージを送る。




