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この世界の歴史

「お前ら……」

「なんですか?」

「桐原と神阪だよな?」

「先輩、何言ってるんすか。そうに決まってるじゃないすか」

軽い調子の返事に、胸の奥がざわついた。

違和感の正体が、少しずつ輪郭を持ちはじめる。

「……学年は?」

「二年ですけど」

「もう、先輩ぼけたんですか?」

「そういう言い方しないの、颯ちゃん」

神阪のたしなめる声。

そのやり取りまで、記憶と一致しているのが余計に不気味だった。

「じゃあ、また放課後に」

「はい」

短くそう言って、二人は去っていった。

教室に戻ると、案の定、停学だの退学だのと冷やかされたが、適当に流した。

昼食、午後の授業――どれも表面上はいつも通りなのに、世界だけが微妙に噛み合っていない。

放課後、指定された教室へ向かおうとしたところで、スマホが震えた。

《招集》

姫野さんからだった。

神阪たちに連絡を入れると、どうやら彼らも協会に呼ばれたらしい。

自然と、協会で合流する流れになった。

電車を降り、最寄り駅から歩き始めた時だった。

人通りの少ない路地で、黒塗りの車が音もなく目の前に止まる。

「……なんだ?」

ドアが開き、スーツ姿の男たちが降りてくる。

鍛え抜かれた体が、布越しにも分かる。

「御影真一だな?」

「違うと言ったらどうする」

「今は、素性は明かせない。だが、君に用がある」

空気が張りつめる。

「一緒に来てもらう」

「理由もなしに?」

男は一瞬だけ、口元を緩めた。

「君が“知りたいこと”を、我々は持っている」

その一言で、足が止まった。

――今の俺に必要なのは、確かに情報だ。

「……分かった」

車に乗り込むと、目隠しとヘッドフォンを渡された。

「着くまで、場所を特定されるわけにはいかない」

「信用されてないわけだ」

「必要な措置だ」

否定する気力もなく、従った。

どれほど時間が経ったのか分からない。

音も光も遮断されたまま、誰かに導かれて階段を下る。

やがて、ヘッドフォンが外された。

「目隠しも外していい」

薄暗い空間。

少し先に椅子が並び、その向こうに人影がある。

声がするまで、年齢も表情も分からない。

「御影真一君」

「……用件は?」

「我々は〈八咫烏〉」

聞き慣れない名だった。

「この国の、表に出ない部分を管理してきた者たちだ」

胡散臭い。

だが、ここまで手間をかけて連れてきた理由は、それだけではないはずだ。

「君は、この世界に違和感を覚えている」

否定できなかった。

「詳しい説明は省く。今は一つだけ覚えておいてほしい」

空気が重く沈む。

「近く、“封印”をやり直す必要がある」

「封印?」

「失敗すれば、“災厄”が戻る」

その言葉だけで、背筋が冷えた。

「――君に、それを任せたい」

一拍の沈黙。

「封印の再構築。その間の護衛」

役割は単純だ。

だが、内容は重すぎる。

「状況は……理解した」

「ならいい」

「ただし」

声が低くなる。

「今日のことは、誰にも話すな」

「理由は?」

「その時が来たら話そう」

納得はできない。

だが、拒否する選択肢もない。

再び目隠しとヘッドフォンを付けられ、車に乗せられた。

気づけば、協会の前だった。

世界は何も変わっていない。

それなのに、確実に――何かが動き出している。


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