切り札
コードゼロ、その話を聞いてこの事態にどう対処するか考えていた。
何かあれば最後の最終手段として一つだけ対処はあるにはあるが、それに対してやらないといけないことがある。
そうして俺は日本ハンター協会に出向いていた。
時間がない状態でも時間を取ってくれた会長とコンタクトを取っていた。
そうして最上階の部屋に二階ノックをして入った。
「御影さん、お疲れさまです」
「会長は書類仕事ですか?」
「ああ、いつもこうしてやってはいるが、最近のコードゼロに対しての書類が大変でね」
「そうですか」
「うん、まあ鷹森も助けてくれたし君だから時間を作れた」
「それはすいません」
「何も謝ることじゃないよ、君から直接話があると言うことはそうとうなことなのだろう?」
「はい、これからゼロフィスとの戦争で一つだけ切り札があるんです」
「切り札?」
「はい、でもその為には一つだけ条件があります」
「その前にその切り札はどう言うものなんだ?」
「ホロウレインと共闘します」
「え?」
「ゲートを出る前にホロウレインのその軍勢を召喚できる術をもらいました」
「そんなことが…」
「はい、でもホロウレインは人間との共存を望んでいます」
「共存」
「なので今現状では力を貸してもらえるかどうか」
「その為に我々にモンスターとの共存を、と?」
「はい、許可なしで使うわけにもいかないですから。それにゼロフィスには、普通の手段じゃ勝てない。最終戦力を出し惜しみすべきではありません。」
「分かっている。」
御堂の声には感情が混ざっていた。
長年国を守り続けてきた者だけが宿す、痛みと責任の匂い。
「だが……ホロウレインを召喚するには“条件”がある。
その条件を、お前は分かっているな?」
御影は息を吸い、はっきりと答える。
「モンスターと人間の共存を、正式に世界へ宣言すること。
――それがホロウレイン側の要求です。」
御堂の眉がわずかに動いた。
ホロウレインは、元は“災厄側の存在”
同時に“異界の独立種族の王”。
人間だけに利する召喚はできない。
その力を借りるには、“共存”という政治的・思想的な宣言が不可避だった。
「御影……お前は魅せられているのか?」
御堂は静かに問いかけた。
「いいえ。」
御影の声は震えていなかった。
むしろ決意で熱く燃えていた。
「賛否は理解しています。
でも、もし共存が不可能だと言い切るなら、僕たちは永遠に“敵を増やし続ける側”になる。
ゼロフィスのような怪物を出した世界へ、ずっと。」
御堂の眼が細められた。
「言葉で言うのは簡単だ。
だが実際にはどうだ?
人を喰うモンスターがいる。
知性のない群れもいる。
憎しみと悲鳴と破壊の歴史がある。
共存など、夢想と言われても仕方がない。」
「分かってます。」
御影はそれでも前へ一歩踏み出した。
「でも……僕は戦場で、助けられたことがあるんです。
敵の生物――モンスターに。」
御堂は目を細めた。
「……なんだと?」
「ゼロゲートでの任務の時です。
僕が死にかけてた時、弱った個体が僕を庇ってくれた。
理由は分かりません。
でも、憎悪だけじゃないんだと知った。」
御堂は沈黙する。
御影は続けた。
「もちろん全部と共存なんて無理です。
でも、全否定して壁を作るだけじゃもう立ち行かない。
ゼロフィスはその先にいる“異界の王”。
僕たちが歩み寄らない限り、永遠に負の連鎖です。」
「……理想論だ。」
「でも、その理想を掲げなきゃホロウレインは動かない。
――そして彼の力がなければ、ゼロフィスには勝てない。」
御影の拳が静かに震えていた。
「僕は……誰も死なせたくないんです、会長。
仲間も。国も。
そして、世界も。」
御堂は長く、深く息を吐き──
その声は老いた者の重苦しいため息だった。
「御影。
私は国家を背負ってきた。
多くの命も失ってきた。
だからこそ言える。
――“共存”は想像以上に困難だ。」
御影は目をそらさない。
「それでも……やらなきゃいけない時があります。」
御堂は初めて、かすかに笑った。
だがそれは優しい笑みではなく、戦う者の笑みだ。
「お前は本当に厄介なハンターだ……。」
そう言って、背を向けた。
「だが、国を動かすのは私ではない。
政治、世論、世界情勢、すべてが絡む。
ホロウレイン召喚の宣言は、あまりにも大きすぎる。」
御影は唇を噛んだ。
「……無理、ですか。」
御堂は振り向かずに言う。
「“今は”難しい。」
その言葉の奥には、
“絶対に不可能ではない”
という微かな可能性が含まれていた。
御影の胸が熱くなった。
「僕は……諦めません。
ゼロフィスを倒すためにも、未来のためにも。」
「ならば――」
御堂はゆっくりと振り返り、御影を真正面から見据えた。
「まずは、ゼロフィスとの戦いで“世界に示せ”。
人間の限界を、そして可能性を。
お前が生き残って証明した時、
私は“国として動く理由”を用意してやる。」
御影の目に灯りが宿る。
「……はい。」
御堂は再び机に手を置き、静かに告げた。
「行け。
御影。
世界は、まだお前を知らん。
だが――これから知ることになる。」
御影は深く一礼し、背を向けた。
扉が閉まる直前、御堂の低い独り言が聞こえる。
「共存か……。
若い者ほど、無茶な夢を抱くものだ。」
しかし。
「……だが、夢が無ければ世界は変わらん。」




