練習
――目を覚ますと、空はすでに白み始めていた。
冷たい風が頬を撫でて、草の匂いが鼻をかすめる。
「……寝てたのか。モンスターに襲われなくてラッキーだったな」
『阿呆が。モンスターが来れば、俺が起こしている』
その声に反射的に振り向く。
「光牙、いたのか」
『ああ。お前に、いくつか説明しておくことがある』
半透明の彼は腕を組みながら、いつもの皮肉混じりの口調で言った。
「……お前、結局味方なんだな」
『勘違いするな。お前が死ねば、俺も死ぬだけだ』
言葉とは裏腹に、こいつが夜の間ずっと見張ってくれていたことは分かっていた。
だから――多分、光牙は優しい。
不器用なだけで。
『いいか、イマジンの力は“イメージ”が全てだ。』
「イメージ力……」
『ああ。Giftは科学では説明できない現象をも引き起こす。だが、その分、エーテルの消費も激しい』
「エーテルって……あの、モンスターの中にあるって言われてるやつ?」
『そうだ。お前、昨日ラビットを食っただろう?』
「ああ、まあ……」
『そのラビットのエーテルが、お前の体に染み込んでいる』
「ってことは……モンスターを食べれば食べるほど、俺は強くなるってことか?」
『簡単に言えば、そうだ。だが、普通そんな真似はしない。お前くらいだ、そんなバカは』
「うるせえな。生きるためだよ」
思わず笑って返すと、光牙はふっと目を逸らした。
『……まあいい。だがいずれ、それも必要なくなる。』
「どういう意味だ?」
『いずれ分かる。焦るな』
光牙の言葉はいつも含みがある。
でも、なぜか信じられる。不思議な感覚だった。
「それで……俺のGift、もっと使えるようになるのか?」
『もちろんだ。今のお前はまだ基礎も分かっていない。炎と速度強化しか扱えていないだろう。』
「確かに……」
『なら、次は“創造”を試せ。』
「創造?」
『ああ。何でもいい。構造を頭に思い浮かべ、手のひらの上に“存在する”と信じろ。』
「存在を……信じる、か」
深呼吸をして、川の方に視線を向ける。
せせらぎの音が、少しだけ心を落ち着かせた。
「よし……釣り道具、出ろ!」
手のひらに意識を集中すると、光が集まり、金属の輪と糸が形を成す。
「できた……!」
『なんだそれは』
「釣り道具。川で魚を釣るんだ」
『……お前、ほんとにゲートの中だって分かってるか? 魚型モンスターもいるんだぞ。毒持ちもな』
「大丈夫だって。気をつけるよ」
光牙は呆れたようにため息をつき、姿を薄くして消えた。
少しだけ、寂しい。
「……ま、いいか」
釣り竿を握って川に向かう。
そのとき、俺は忘れていた。
――この世界の“魚”は、もう普通の魚じゃないってことを。




