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世間ばれ

あれから俺は、稼働することもなく、静かに休暇を謳歌していた。長い間、常に戦場のような日々を送ってきたせいか、平和のありがたみが身に染みる。朝の陽射しに目を細め、ベランダの風に吹かれ、少しだけ自由を感じる時間——しかし、そんな静けさも長くは続かなかった。


テレビをつけると、俺の姿が画面いっぱいに映し出され、連日報道されている。

《この青年が新たな日本所属のZ級なのでしょうか?》

キャスターの声は冷静だが、画面に映るのは明らかに俺だ。写真、動画、全て俺が戦っている場面——しかも、あの夜の神阪君、桐原、少女のエーテルを取り込んだ時の映像まで混ざっている。


「なんでこんなことになったんだ…」

隣に座る姫野さんが申し訳なさそうに肩をすくめる。

「すいません、もっと私が気を張っていれば…」

「いや、悪いのは誰って話になるけど、でも拡散した生徒は秘密のことは知らなかったと思うし…どうにもならないよな」

「そうですね。協会も躍起になって情報を遮断しているみたいです」

「そっか…」

まあ、いつかはこうなるだろうとは薄々感じていた。情報を完全に遮断することには限界がある。


「この際、もう情報出しちゃう?」

「良いんですか?」

「まあ、住んでる場所もばれちゃってるし」

「確かに…」


今もマンションの下には報道陣が集まっていた。ネットに強い連中がどうやって場所を特定したのかは分からないが、俺の住まいまで特定されてしまった。

「テレビにもマンションの前が映ってますよ」

画面を見ると、マンションの入り口にスーツを着た人物たちが立ち、カメラとマスコミを押さえていた。多分、協会の人間だろうが、迷惑をかけている事実は変わらない。考えるだけで胃が締め付けられる。


「はー…もういいや」

「と言うと?」

「姫野さんに電話してくる」

「では、お供にアイスティーでも淹れましょうか?」

「いや、ベランダで電話する。終わったらもらおうかな」

「分かりました」


ベランダに出て、煙草を取り出し火をつける。白い煙が夜風に溶けていく。

「ふー…」

指先に残る熱を感じながら、姫野さんに電話をかける。


『はい』

『あ、御影です』

『もう大変ですよ…』

『テレビ見て分かってます』

『電話で連絡した時は原因が分かりませんでしたが…判明しました』

『何だったんですか?』

『どうやら、ハンター協会のサーバーにバックドアが仕掛けられて、それで情報が漏れたようです』

『つまり…ネットテロを受けた、と?』

『はい、申し訳ございません』

『まあ、いつかはこうなるだろうと思っていたので…もう良いですけど』

『ですが、情報を隠すことが協会にいる条件だったと…』

『はい。でも確実に守れるとは限らないので覚悟はしていました』

『そうですか…それでどうしますか?』

『もう情報は出しても良いですよ』

『本当ですか?』

『はい。後は協会に任せます』

『分かりました』

『では』


電話を切ると、残りの煙草をゆっくりと吸う。下を見るとまだマスコミがマンションの周囲に張り付いていた。だが、このマンションの防犯は信頼できるし、何かあれば警察もハンターも駆けつける。強行突破されることはないだろうと考えるだけで、少しだけ心が落ち着いた。


その夜、情報が協会からマスコミに流れ、次々と追加情報が報道される。SNSも炎上状態だ。


「SNSは見ました?」

「エゴサですか…」

「はい」

「したくないですね。何が書かれているか知りたくもない」

「ですよね」

「まあ、知りたくない情報の方が多いでしょうし」

「ですね。一応言っとくとトレンド一位でした」

「ちゃっかり確認するのやめてください…」


お風呂も済ませ、ご飯も食べた。あとは寝るだけだと寝室に向かう時、電話が鳴った。相手は高校の同級生だった。


『もしもし?』

『あ、御影今良い?』

『良いけど』

『明日暇?』

特に予定もないので、何か食事にでも行くのかと思った。

『特にないけど』

『じゃあ、明日心霊スポット行かね?』


そんな大学生みたいなことまだやってるのか、と内心思う。改めて餓鬼だな、と苦笑しながら答える。

『俺は良いや』

『そう?』

『うん』

『まあ御影は高校の時から怖がりだしな』

『もう克服したよ』

『そうか、なら他の懐かしい奴らで行くから、行く気になったら連絡頂戴』

『分かった。でも気を付けろよ』

『了解』


それを切った後、俺は窓の外に広がる夜景とマスコミのざわめきを眺めながら、少しだけ溜息をつく。人生で一番恐ろしい体験をしながらも、日常はまだ続く。だが、明日もきっと、俺の平穏は何かに侵されるのだろう——そう思いながら煙草の煙を夜風に任せた。


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