Gift
ラビットの死体から、炎が噴き上がった。
その光と熱に、思わず飛び退く。焦げた毛皮の匂いが鼻を刺し、息が荒くなる。
「……俺の、せいか?」
掌を見る。そこには、かすかな赤い残光が揺れていた。
熱くもない、だが確かに“何か”が残っている。
恐怖と興奮が同時にこみ上げ、胸が早鐘を打つ。
夕焼けが沈み、闇が世界を覆い始める。
冷たい風が頬を撫で、遠くで獣の遠吠えが響いた。
逃げ場なんて、どこにもない。
なら――生きるしかない。
俺は、再び掌を見つめた。
「……炎を出せ」
――瞬間、光が夜を裂いた。
手のひらから、確かに炎が噴き上がる。
赤い火は闇を押し返し、周囲を照らし出す。
「……マジかよ」
恐怖が、静かな歓喜へと変わる。
これが……俺の力?
焚き火の明かりに照らされて、焼け焦げたラビットの肉を見下ろす。
空腹が理性を溶かし、自然と手が動いた。
「……生きるためだ」
枝を組み合わせ、即席のグリルを作る。
焼ける音。肉の匂い。
思わず唾を飲み込みながら、一口かじった。
「……悪くない」
その瞬間――
脳の奥で、声が響いた。
『お前のGiftが、なんなのか教えてやろうか?』
「……誰だ!?」
振り向く。そこには、半透明の“俺”が立っていた。
同じ顔、同じ声、だがどこか光を帯びている。
『落ち着け。俺はお前だ。』
「は?」
『虹ゲートの中で、イレギュラーが重なって生まれた“もう一人のお前”。幻みたいなもんだ。』
「……Giftを知ってるって言ったな」
『ああ。《イマジン》――想像したことを現実に変える力。』
「イマジン……」
『だが、代償もある。イメージできないものは生み出せない。お前の想像力が限界だ。』
その言葉に、胸が熱くなった。
“想像を現実にする”――それは、子どものころずっと夢見てた力だった。
「……なあ、お前の名前は?」
『名前?』
「俺が御影真一なら、影の反対は光だ。……光牙、ってのはどうだ?」
『……馬鹿か、お前は。』
笑うように言って、幻――光牙は消えた。
けれど、消える直前、確かに涙を流していた気がした。
「……光牙、ね。悪くない。」
俺は焚き火を見つめ、静かに笑う。
炎の中に、これからの運命を見た気がした。
――ゲートの中でも、生き抜いてみせる。
それが、俺のGiftだ。




