一人暮らし?
俺が“赤から虹に変わったゲート”から帰還して、もう数日が経った。
静まり返った書斎の中、俺は相変わらず暇を持て余していた。
狭い部屋。壁一面の本棚には、好きなラノベや小説、漫画が並んでいる。
その中央で俺は、パソコンを開いてバトルアニメを流しながら、
「イマジン」で追加できる能力について考えを巡らせていた。
気づけば風呂も二日入っていない。
食事はデリバリー、しかも置き配。
誰とも顔を合わせず、ただ、仕事の依頼が来たら動けばいい――そう思っていた。
そんな時だった。
インターホンが鳴った。
「……誰だよ、こんな時間に」
時計を見ると昼過ぎ。記者やマスコミが来るような時間ではない。
姫野さんなら、まずメッセージをくれるはずだ。
出るか迷ったが、結局、重い腰を上げて一階まで降りた。
カメラを見ると、三十代後半くらいの見慣れない男が映っていた。
スーツ姿、目つきが鋭い。どこか只者じゃない。
「……記者、じゃないよな?」
無視しようとした瞬間、インターホンが連打された。
しつこい。仕方なく応答する。
「はい?」
『あの、私、ハンター協会所属のS級・桐生武人と申します』
「……はぁ?」
『御影さんにお話がありまして』
差し出されたカードには確かに協会の刻印。
俺は念のため、姫野さんに電話を掛けた。
『姫野さん、桐生って人が来てるんですけど』
『えっ!?もう?……あっ、日付間違えてました!』
『……はい?』
『すみません!話は本物なので、ちゃんと聞いてあげてください!』
雑だな、協会。
ため息をつきながら玄関のドアを開けた。
「桐生さん、どうぞ中へ」
「失礼します」
桐生は深々と頭を下げ、家の中を静かに見回した。
「Z級になると、こんな家に住めるんですね」
「家具は全部、協会の備え付けです。俺の持ち物は少ないですよ」
とりあえずコーヒーを淹れて、リビングで向かい合った。
桐生は丁寧にチョコレートの箱を差し出す。
「甘いもの、お好きですか?」
「好きですよ。ありがとうございます」
だが、その笑みはすぐに消えた。
「……実は、ゲートブレイクの際に妻と娘を殺されました」
テーブルに置かれたのは、一枚の写真。
防犯カメラの映像らしい。ぼやけているが、確かに“何か”が映っていた。
「このモンスターを測定したら、Z級の反応が出たんです」
「Z級……? ありえません」
「ですがデータは正確でした。私は、こいつを必ず殺します」
桐生の拳が震えていた。
半年経っても、その怒りと悲しみは消えていない。
「正直、俺でも勝てるとは限りません」
「それでも……お願いです。御影さんの力を貸してください!」
桐生は床に頭をつけた。
土下座。
重い空気が部屋を包む。
「……頭を上げてください。協力はします」
「本当ですか!」
「ただし、一人では無理です。情報が必要です」
「ありがとうございます……ありがとうございます!」
涙をこぼしながら何度も頭を下げる桐生。
だがその後の言葉に、俺は固まった。
「せめてお礼に、住み込みで家事をさせてください!」
「えっ?」
「掃除でも料理でも何でもします!お願いします!」
俺は呆れながらも、なぜか笑っていた。
こうして――
二十代の帰還者と、三十代の元サラリーマンの、
奇妙な同居生活が始まったのだった。




