引っ越し
モニターに映る複数の端末情報。
御影は目を細め、無言で指先を動かす。
侵入先は──あの日、真一を笑い者にした連中のスマホ。
暗号化の壁を一瞬で突破する。
チャット履歴、位置情報、写真フォルダ……すべてが赤裸々に晒されていく。
「……まだ同じクラスの奴らとつるんでやがるか。」
スクリーンに浮かぶLINEのやり取りをスクロールする。
画面の中では、笑顔のアイコンが並び、あの日の悪意が文字となって蘇る。
御影の目に、静かな怒りの炎が宿った。
──Gift。
それは情報を「感じ取り」、支配する力。
思考が電流に変わり、指先から黒いエーテルが滲み出る。
光の回路が皮膚に走り、モニターへと吸い込まれた。
「プロトコル・アンロック──ハーモニクス起動。」
瞬間、世界が変わった。
画面はもはやOSではない。情報の海そのものだった。
数千のデータスレッドが川のように流れ、暗号の壁が森のように立ちはだかる。
御影の視界に、Giftが生み出したハッキング専用のUIが展開された。
手を伸ばせば、コードの鎖が指に絡みつく。
「……壊すのは、呼吸と同じだ。」
暗号は霧のように溶け、ファイアウォールは脆い紙のように崩れ落ちる。
スマホのカメラ、GPS、メッセージ──すべてが掌の中に堕ちていく。
御影の復讐が、静かに動き出した。
標的は、あの日の主犯。
最初はただの悪ふざけだった。
けれど、笑いながら人を壊していく彼らの顔を、俺は一生忘れない。
復讐の実行は──明後日。
その前に、準備が必要だ。
新しい住処。安全な空間。誰も傷つけない場所。
通知が届く。
《契約完了》──新しい住所。名義は偽装済み。足跡は一切残らない。
「……これで、誰にも迷惑はかけない。」
深夜、家族が眠る頃。
御影は次元斬りを放ち、空間に黒い裂け目を生み出した。
押し入れから取り出した段ボールを裂け目へと放る。音もなく吸い込まれる。
ベッド、机、本棚──一つ、また一つ。
虚空へ沈んでいく度に、部屋は静かに空っぽになっていく。
そして新居。
再び裂け目が開き、異空間から家具が音もなく出現する。
まるで、時間を巻き戻す魔法のように。
部屋が整ったとき、御影は息を吐いた。
冷たい夜気の中、独り言のように呟く。
「……これで準備は整った。あとは、実行するだけだ。」




