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ゲート帰還

 俺はエーテルが体の中を巡り、同時に体の周囲を白い光が包んでいるのを感じた。

 それはまるで、静かに燃える炎のようだった。


「なんか意外だな」


「何がだ?」


「エーテルって、見えると白色なんだなって」


「感想それかよ」


「いいじゃん」


 レインは呆れたように鼻を鳴らしたが、その口元にはわずかな笑みが浮かんでいた。


「だがよ、あれだけ苦労して“次元斬り”と“コントロール”の修行を終えたのに、その感想はねえだろ」


「次元斬りって……勝手に名前つけるなよ」


「いいだろ。分かりやすい」


「センスないな。まんまだし」


「おい……。折角丹精込めて修行見てやったってのに」


「まあまあ。名前なんてどうでもいいよ」


「諦め早っ!」


「俺がいいって言ってるんだからいいんだ」


「……そうか」


 少しの沈黙。

 レインの声が、ふと優しくなった。


「行くのか?」


「……うん。帰れるって分かったから」


「そうか」


「感謝してるよ。お前には、色んなことを教えてもらった」


「それなら、行動で示せ」


「分かってる。でも、まずは力を制御して、人間たちを説得できるくらいの存在にならないと」


「力ならもう十分ある。Giftも、手数も、誰よりも多い」


「でもそれだけじゃ、人間は生きていけないんだよ」


「そうなのか?」


「ああ。だから――どんな形でもいい、モンスターにも心があるって伝えるよ」


「それでいい。……カゲ、戻ったら何をしたい?」


「色々あるけど、この力を人のために使いたい」


「そうか。……詳しくは聞かない」


「その方がいい」


 俺はボロボロの服のまま、刀を出す。

 “マイクロ・ポータル”――収納Gift。空間の小さな穴に物を出し入れできる。

 つまり、俺版の四次元ポケットだ。


「カゲ」


「ん?」


「行くなら、これを持っていけ」


「どれ?」


 レインは唐突に、自分の右腕を切り落とした。


「なっ!? 何やってるんだよ!」


「食え!」


「はあ!?」


「食えば、お前のエーテルはさらに増える。

 永続的に湧き出るようになり、エーテル切れも起きない。

 俺のエーテルを自動的に共有できるし、毒・炎・氷への耐性もつく」


 説明は魅力的だった。だが――


「……でも、見た目がなぁ」


「今さら見た目気にするな! いいから食え!」


 俺は渋々刀で細かく切り、一気に飲み込んだ。


「うわ、不味っ!!」


「カッカッカッ!」


「気持ち悪い笑い方するなよ……」


「まあいい。それから――」


「まだあるのかよ」


 レインはどこからか木製の護符を取り出した。

 淡い光を帯びた、手作りのペンダントだった。


「何これ?」


「それにお前のエーテルを流し込め。

 そうすればゲートが開き、俺たちがどこにいてもお前の元へ駆けつけられる」


「へぇ……ありがとう」


「これくらいしかできないからな」


「いや、十分だよ。レインには感謝しかない」


「そうか。だがもし、それを持っているせいで人間に恐れられたら――迷わず捨てろ」


「そんなこと言うなよ。これは肌身離さず持ってる」


「……そうか。これを人間に渡すのが、カゲで良かった」


「“最初”ってことは、前に戦ったやつには渡さなかったのか?」


「ああ。あいつは強すぎて、渡すまでもなかった。それに……話す前に消えた」


「そっか」


 俺は深く息を吸い、刀を握る。

 レイン、そしてこの世界のみんなを見回した。


「じゃあ、行くよ」


「ああ。元気でな」


 周囲のモンスターたちが静かに見守る中、俺は刀を振るった。

 バチッ――。

 虹色の線が空間に走り、ゆっくりと裂け目が広がっていく。


 前に来た時よりもずっと大きく、人が通れるほどの“門”ができていた。


「それじゃあ、また今度」


「……必ず帰ってこい」


 俺は頷き、光の中へ踏み出した。


 ――まぶしい。

 目を開けると、そこはスクランブル交差点のど真ん中だった。


 青空が広がり、ビルのガラスが光を反射している。

 行き交う人々がこちらを見てざわついた。


「おい、ゲートから出てきたぞ!」


「気を付けろ、モンスターだ!」


 拳銃を構えるハンターたち。

 俺はゆっくりと両手を上げたが、その視線に恐怖が滲むのが分かった。

 髪は乱れ、服はボロボロ、体中に傷――

 しかも、俺の体からは今も白いエーテルが立ち上っている。

 人間には、もう“人間”には見えないだろう。


 でも、それでもいい。

 俺は確かに帰ってきた。


「やっと……出れた」

東京の空はどこか違って見えた。澄み渡る青の奥に、薄く揺らめく紫の亀裂。

 まるで世界そのものが、まだ“向こう側”と繋がっているように見える。


 その言葉を最後に、視界が滲み、意識が闇に沈んだ――。

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