第65話 白いGR86とギャル高校生のレモンスカッシュR8
さらにそのザラついたアスファルトに、白く光るマシンが現れる。
TOYOTAのGR86の白色だ。クリスタルホワイトパールが白く光る。
週末に峠に現れる通勤車と聞いたが、その1台は明らかにーーただの通勤車ではないゴリッゴリッのエアロ仕様だった。
ドアが開き、ドライバーが降り立つ。
作業着のようなカーゴパンツに、少し日焼けした肌。
彼は、コンビニのホットカフェラテの紙カップを取り出して、一口だけ最後の一滴を飲み干すと......ゴミ箱にポイッ。
濱さん「濱野英紀 (はまのひでき)だ......。
濱さんって呼んでくれ......。
普段は、建設会社コバヤシで現場監督している......。」
「......まぁ、ちょっとしたーー86オタクだよ。
レーダー探知機もユピテル使ってるんだ。
アレ、業界最高峰だからさ。」
若林「き...きたああああああああ!!!!大人の余裕と職人魂が合体した男ーー濱さん!!」
ベルギー「ついに出てきたようですね...。つい一週間前首都高でトップ争いしてた人ですねーー。見た目はやさしそうで感覚鈍そうでのんびりしてますが、裏が手ごわそうです。」
「なぜなら...中央戦線でもかつやくした人なので......」
古田「中央戦線だとーー?たしかにあそこで活躍していたやつならやばそうだな......。」
ベルギー「静かな嵐......そんな感じがします。」
濱さん(心の声)
「ようやく直接見ることができたか......。
あの赤い伝説、どれだけ本物かーー俺が確かめてやる。」
さらにスタート地点の海辺エリアの公道に突如ーー
太陽のように眩しい、鮮やかなイエローのアウディR8が現れる。
さらにスタート地点の海辺エリアの公道に突如ーー
太陽のように眩しい、鮮やかなイエローのアウディR8が現れる。
低く唸るV10エンジンサウンド。
ギャオオオォォォン!!と、ひときわ目を立つ咆哮とともに停車!
そのドアが跳ねるように開くと、
中から現れたのは茶髪のポニーテールの女の子。
ネイルも完璧ですこしギャルの雰囲気があるようなお姉ちゃん系女の子だった。
内藤「やっほー!内藤だよ~!内藤セリナーー☆」
「高校2年生なんだー!」
手をひらひらと振りながら近づいてきてぎゅっとカナタを飛び乗ろうとしてきた。
カナタ「腹切カナタ。....こちらこそよろしくな。
その黄色く薄いR8お前のか?」
セリナはにこりと星のような笑顔で答えた。
内藤「そうだよ~!!!かっこいいでしょー?アウディR8-!!!」
「でもね......」
くるっと回って目線だけギラリとカナタを刺した。
「レースでは容赦しないよー?♡」
カナタ「面白そうだな......。リナとは比べ物にならなそうだな......。」
そして、内藤セリナは腹切カナタの胸をじーっと見つめてきた。すると彼女は、そこしか見なくなる。胸だけしか。
内藤「うんうん!やっぱり実物もイケメンだねー?大阪からきて正解だったよ~♪」
彼女は軽くウインクすると、ほんの数歩前に出て、ふわっと腕を広げた。
「じゃあ、応援の気持ちを込めて......」
ーーそのまま。カナタに抱きついた。
内藤「ぎゅ〜〜〜〜〜〜〜〜ッ☆」
伊藤「ッ......!?な......!」
不意打ちのようなハグに、カナタの体が強く張る。
彼女の体温と薫風のような香りがふわりと押し寄せてきて、返す言葉も見つからない。
観戦席がざわついた。
スタッフもピットも、一瞬時が止まったように静まり返る。
だが、たった一人ーー
その瞬間を見逃さなかった男がいた。
伊藤「なっ......な......」
伊藤翔太。カナタの後ろ手スイスポに寄りかかっていた彼は、手にしていたカルピス缶をカンッと落とした。
伊藤「なあああああああああああああああああああああああ!?!?!?!?」
伊藤翔太の口から喉の奥から突き出すような絶叫。
セリナはくるりとカナタから離れると笑顔のまま指を立てて振り振りさせた。
内藤「えへへっ♡カナタ君、応援してるよ~!また後で~〜〜っ☆」
スキップしながらR8に戻っていく。カナタは、その姿を呆然と見送るしかなかった......。
彼女の車のドリンク置きにはレモンスカッシュ1本が置かれていた。
伊藤「なんなんだよ......アイツ......」
耳まで真っ赤に染めながら、ぽつりとつぶやく。
その横では、伊藤の肩が震えていた......。
瞳には怒りとも焦りともつかぬ色が宿っている。
伊藤「畜生......セリナ......カナタ......
お前ら、レースでは......俺がぶっちぎる!!!」
まるでエンジン音よりもうるさい心臓の鼓動が、伊藤の胸を打ち続けるーー。
そして、レーススタートへの合図が鳴り響こうとしていた......。




