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86伝説エーペックス  作者: SAI
第1シリーズ 開幕編
6/160

第6話[新] 頂き

2025.11.09 アプライドをEに切り替え。

大幅にシーンを完全版にしました。

よりよい品質でお楽しみください。

翌朝、伊藤自動車。

いつも通りの開店準備の音が響く中、テレビの音だけがやけに大きく感じられた。


伊藤「エーペックスカップ……第1戦は5月5日。あとちょうど1ヶ月だ……!」


カナタは、整備用手袋を外しながら、ぼんやりとカレンダーを見上げる。


カナタ「でも……俺、まだエントリーしてないんだよな……」


その瞬間、休憩室に置かれたテレビの音量が上がった。


──「この中央戦線“フォースドメイン”は、国道4号線を使用した超高速ストリートコース!!」

──「見てください!いま最も注目される赤と黒の86が、アルピーヌA110とサイド・バイ・サイドです!!」


カナタと伊藤は思わずテレビへ振り返る。


画面の中で、国道のセンターラインをまたぎながら、数台のマシンが火花を散らしていた。

赤と黒のボンネットに身を包んだ86――そのフォルムは一見カナタの愛機にも似ていたが、明らかに異なる。


カナタ「……あれ、俺の86じゃねぇな。ボンネットのフード形状が違う……空力チューンか……」


伊藤「くっそ、映ってるの全員バケモンじゃねぇか……」


銀色のフェラーリF8が火を吹くように抜け出し、後ろからアストンマーティン・ヴァルハラがライン際を滑るように忍び寄る。

そのすぐ後ろには、ゴリゴリのマットブラックGT-R R35。

いずれも、桁違いのパワーと挙動を見せていた。


実況テレビ

「なお、今回の中央戦線では全出場者中11名がプロ契約済みのフルワークスドライバー!そしてこの赤と黒の86は、非公式ながらトップスピードで他車と互角に並んでいる!!」

「……なんだこの動き!?この86、何者なんだ!!?」


カナタ「……」


その刹那。

画面の中の赤黒86が、突如アルピーヌとR35のわずかなスリップの隙間を突いて――


ズバァアアアアアアンッ!!!

咆哮を上げて加速。


伊藤「やべぇ……突っ込んだ!?あの幅でいけるか!?」


実況「いったぁああああああああ!!!!赤黒の86が、信じられないラインでトップに立ったあああああ!!!」


伊藤は天井を仰いだ。


伊藤「……見たか、カナタ。これが“エーペックスカップ”だ。全員が、次元が違ぇ」


カナタ「…………面白そうだな」


カナタの目は、すでに86のキーを見据えていた。

拳を握り直し、ゆっくりと立ち上がる。


カナタ「……伊藤。エントリー方法、教えてくれ」


伊藤「よう言った!今から福島戦線の事務局に連絡だ!!急げば、次の仮エントリーに間に合う!!」


──目指すは、あの戦場。


中央のプロに並ぶにはまだ早い。

だが福島戦線なら、初陣として申し分ない。


ボクサーサウンドが再び、伊藤自動車のガレージに響く。


カナタ「俺も……あの赤黒の86に追いついてみせる」


テレビに映し出されたのは、まさに戦場のような映像だった。


国道4号線を舞台にした「フォースドメイン」中央戦線―― 画面には猛然と競り合うハイパワーマシンの群れが映し出されていた。


先頭を走るのは、赤と黒のボンネットを持つ86。

そのすぐ背後に銀色のフェラーリF8、そしてヴァルハラ、R35GT-R、アルピーヌ、そしてさらにもう一台の86が割り込んでくる。


エンジン音がテレビ越しにすら響き、まるで画面が揺れているかのように感じられた。


カナタ「この赤と黒の86……」

テレビの中の86が斜めに滑るようにヴァルハラを抜き去る。


伊藤「これ……かつての、古代のエーペックスカップの映像なんだ……」


カナタ「……は?古代?」


伊藤はうなずきながらリモコンを手に取る。


伊藤「1990年代の終わり、エーペックスカップは“クラブマンによるクラブマンのための”草レースとして生まれた。だけど、いつしか伝説的な存在になって、いつの間にか消えていった……。

そして今――時代が巡って、同じ名を冠した“新生エーペックスカップ”が開幕するんだ。」


カナタ「じゃあ……この映像は……」


伊藤「ああ、これは伝説の一戦、"古代エーペックスカップ"の中央戦線。国道4号線を封鎖して行われた、あの時代最後の激戦だよ。」


テレビには、赤と黒の86が再び映る。


荒々しいダウンヒル、ブラインドの先に飛び込むように突っ込んでいく姿。

その運転手は、まるで“死と隣り合わせ”を愉しんでいるかのようだった。


伊藤「このマシンのドライバー、名前は知られていない。

だけど、後に“ハルキ・ザ・レッド”という異名で呼ばれるようになったって話だ……。

まさに、今のお前みたいだよ。」


カナタ「ハルキ……?」


伊藤「ま、都市伝説の一種だよ。

だがな、こういう伝説を生むだけの熱が、あの頃のカップには確かにあった。

そして、その熱が今また……俺たちの前に戻ってきたんだ。」


カナタは息をのんだ。


テレビの中、マシンたちが夜の4号線を猛然と駆け抜ける。


その姿は、どこか自分たちの未来を映しているかのように見えた。


その言葉を聞いたカナタは、少しの沈黙の後、にやりと笑った。

その顔は、どこかで見たことのある狂気と情熱が交じったような、かつてのあの「腹切カナタ」の顔だった。


カナタ「エーペックスカップか。――やってみようかな。

まずはこの福島の地方戦があるのかーー。」


カナタの目が燃える。炎のような意思がその奥底から立ち上がる。

そして、まるで何かを吹っ切ったように力強く言い放った。


カナタ「作るぞ、、、86伝説。

いや、、、創るぞ!!

歴史ある86の伝説を作ろう!」


それは誓いだった。

過去を背負い、未来へ挑むカナタの再起の号令。


NA86チャレンジオープンカップで経験を積み、数々の峠で奇跡を重ねてきたカナタ。

今、その名を再び刻むべく挑むは――

全日本耐久クラブマンレース・エーペックスカップ。


伊藤「この大会はまだ発展途上で、まだ正式にレースがされたことがないみたいだな。

でも、、、それが逆にいい。誰も知らないからこそ、伝説が作れるんだ。」


カナタ「車種制限がないってのもいい。面白えマシンが集まるってわけだ。」


実際、サーキットには

最新のスーパーカーから、国産コンパクト、伝統のスポーツカー、果ては30年前のヒストリックマシンまでが参戦予定だという。


その中で赤い86がどこまで食らいつけるか――

いや、食らいつくだけじゃない。

「圧倒する」ために、カナタは再びハンドルを握る決意をした。


数日後、主催側からの配信サービスを通じて、

福島県安達市で地方戦の開催が決定。

それを知ったカナタは、スマホを取り出し、

間髪入れずにエントリーフォームをタップした。


スマホ画面に映るエントリー完了の文字。


カナタ「よし……!いくぞ……!」


実績もランクも何も問われなかった。

むしろ、「できたばかりの大会」だったからこそ、

必要なのは――


走りで証明すること。


伊藤「伝説、、、創ろうぜ、カナタ。」


カナタ「――おう。」


4月25日――夕暮れ時。

福島県田村市の山沿いの町に、春の風が静かに吹いていた。

もうすぐ桜も終わるこの季節。カナタの家の前に咲いた八重桜が、まだ柔らかく風に揺れている。


カナタはガレージの前に立っていた。

赤い86はすでにトレーラーに積み込み済み。車体は洗車で磨き抜かれ、光を反射するほどに仕上がっていた。


そのボンネットに、カナタはそっと掌を置いた。


カナタ「明日が初戦か。……相川、伊藤、MRTAKA……それに、あのクリスタってやつもか。化け物ばっかじゃねえか。」


ふと空を見上げる。淡い群青色に染まり始めた空に、ぽつりぽつりと星が浮かび上がる。

空気は冷え込み始めていたが、カナタの胸の奥は熱を帯びていた。


カナタ「でもよ……。俺は、俺のやり方で行く。」


グリッドは最後尾の8番手。

だが、カナタの表情に焦りはなかった。むしろ、闘志を湛えた瞳が夜の中に光る。


その頃、伊藤翔太も田村市内の自宅で準備をしていた。

黄色いスイフトスポーツはガレージで整備を終え、静かに待機していた。


伊藤「明日か……カナタと本気でバトルできる日が、やっと来る。」


部屋の奥、壁に貼られた古い写真には、初めて一緒に峠を走った頃のカナタと伊藤の姿。

まだサーキットも、大会も、テレビ出演も知らなかったあの頃――ただ、走ることに夢中だった自分たち。


伊藤「負けるわけにはいかねぇ……。俺は、本気で“その先”を掴みに行くんだ。」


その言葉を胸に、伊藤はスマホに目を向けた。

「明日、7時 本宮南サーキット入り」

主催からの詳細スケジュールが届いている。


【エーペックスカップ 第1戦:グリッド確定】

1.クリスタ(488GTS)

2.伊藤翔太(ZC33S)

3.相川律(MR-S)

4.樹里・オルティス

5.MRTAKAヴェイロン

6.菜園宗一郎(911GT3)

7.リナ・グレーシー(R8)

8.腹切カナタ(TOYOTA86)


伊藤「俺が2番グリッド……カナタが8番。だがどうせすぐ追いついてくる。

いや……抜きにくるな、あいつは。」


そうつぶやいた瞬間、スマホが鳴る。


通知:

腹切カナタ

『おい、寝てるか?』


伊藤は笑みをこぼしながら通話をタップした。


伊藤「おう、起きてるさ。お前は?」


カナタ「今、星見てた。明日……いけそうな気がする。」


伊藤「ははっ、らしくねぇな。緊張か?」


カナタ「ちげぇよ……ワクワクしてんだよ。」


伊藤「なら同じだ。なぁカナタ。明日はテレビに映るぞ。

エーペックスカップの初陣だ。全員が観てるぞ……。

でもな、俺は“お前に勝つ”ことしか見えてねぇ。」


カナタ「言うじゃねぇか……!でもな、俺もだ。

お前の“頂き”ってやつ、見せてもらうぜ。真っ向からな!」


そして――夜は静かに更けていく。


春の星がきらめく田村市の空の下、

二人の車はそれぞれのガレージで、まるで戦士が眠るように息を潜めていた。


明日は4月26日――


エーペックスカップ第1戦、本宮市。


86伝説が次のページを刻む、その前夜の物語だった。


その夜。

腹切カナタがグリッド表を見て叫んだあの瞬間から、世界は――いや、モータースポーツ界は静かに、だが確実にざわめき始めていた。


──SNS、掲示板、街の雑談、居酒屋のカウンター、そして走り屋たちのグループチャット。


どこもかしこも、話題は「エーペックスカップ初戦のスターティンググリッド」に集中していた。


【エーペックスカップ第1戦 (完全版)選手一覧】


1. クリスタ・ニールセン(フェラーリ488GTS)

2. 伊藤翔太(スイフトスポーツ ZC33S)

3. 相川律(MR-S)

4. 樹里・オルティス(車種未定)

5. MRTAKA(本名不明)(ブガッティ・ヴェイロン)

6. 菜園宗一郎(ポルシェ911GT3)

7. リナ・グレーシー(Audi R8)

8. 如月レン(日産 フェアレディZ Z34)

9. 神代ナツメ(レクサスRC-F)

10. 西野ユナ(TOYOTA86)白色

11. 長野ミハル(BMW M2)

12. 霧山トオル(スバルBRZ)

13. 神風アヤメ(マツダRX-8)

14. 腹切カナタ(TOYOTA86)赤色



「おい、見たか?このグリッド……」

とある都内の居酒屋、レース好きが集まるカウンター席で。


「フェラーリ、ブガッティ、R8、ポルシェ……その中にスイスポって……どうなってんだよ!?あり得ねえ!」


「伊藤翔太って名前、初めて聞いたけどよ……あいつ、相川と同列に出されてんだぞ?本物だな。」


「相川もまたMR-Sかよ……てか、R35はどうしたんだ?」


「……相川律って、あの走り屋集団“白ノ牙”のリーダーだった奴だよな?

どうしてまたそんな軽量車に戻ってんだ……?」


「いやいや、オルティスって何者だよ……海外の天才少女って噂はあったけど、まさかこんな大会に……!」


別の町のカフェでは――


「如月レンと神代ナツメの名前も出てる……」


「ナツメって確かRC Fに乗ってるって噂の……あの“神域の雪女”じゃん。来るのかよ……」


「ユナは出るな、絶対出る。Zでミッドナイト走ってたって聞いたことある。」


「ミハルって子……福井で無敗のBRZ乗りって噂じゃなかったか?ホントだったのかよ……」


「……待てよ、霧山トオル!?

まさか、あの“緋のアルファロメオ”って言われてた元WRCジュニアの……!?」


全国各地のレーサーたちが、ざわめきの中にいた。

動画投稿者たちは即席の考察動画を上げ始め、コメント欄は嵐のように騒がしくなっていた。


【速報】

「まさかのスイスポ2番手グリッド!」

「腹切カナタ、まさかの最後尾スタート!?」

「グリッド表に謎多すぎ!?オルティスとは?MRTAKAの正体は!?」

「西野ユナ参戦!?Z界の怪物が動き出す!」

「次戦に如月レンと霧山トオルも!?まさに伝説の始まり……!」


――誰もが気付いていた。


これはただの草レースなんかじゃない。

歴史が始まろうとしていた。

「86伝説」と呼ばれるその物語が、この“エーペックスカップ”から火を吹こうとしているのだと。


だが、この夜まだ誰も知らなかった。

明日の本宮南サーキットで、赤い86がどれほどの爪痕を残すのかを――。

店員2 さあ!きたああああ!

エーペックスカップ!!!私達も今練習して出ていくぞおおおおお!覚悟しろおおおおおお!

※彼ら三試合目までは必ず出ません。

店員2 、、、、、え?ちょっとなんか言ってよおおお!

次回 第7話 弱肉強食

店員 ーー次回も見てね。

店員2 ぎゃああああああ!!

※はしゃぎすぎて壁に思い切りぶつけて血がドバーッと......

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