松島編第69話 漆黒の魔王,復活!
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松島の海岸線をなぞる超高速セクション。そこは今、一秒間に数千万円が吹き飛ぶような、狂気の戦場へと変貌していた。
漆黒のブガッティ・シロンを駆る坂田五郎丸が、先行する霧山トオルのランボルギーニ・ヴェネーノのリアバンパーを、容赦なくその巨大なフロントマスクで突き上げる。
坂田五郎丸「ハイ見て見て皆さーん!! 世界限定数台のヴェネーノちゃんが、ボクのシロンに煽られてビビり散らかしてまーす!! 数億円がスクラップになる瞬間、見たいよね!? 投げ銭10万超えたら、ちょっと『タッチ』しちゃうぞーっ!!」
霧山トオル「(……下品な男だ。その下劣な声、そしてそのどぶ色の車……。僕のヴェネーノの視界に入るだけで、吐き気がするよ)」
トオルは冷静だった。だが、握りしめたグローブの中では、血管が浮き出るほどの力が込められていた。
ヴェネーノのV12エンジンが、シロンのW16に対抗するように悲鳴を上げる。
超高速コーナーの進入。トオルはあえてブレーキングを遅らせ、ヴェネーノのダウンフォースを信じて、シロンの鼻先に砂利を浴びせかけるようなラインを通る。
若林「実況の若林です!! 12位争い、もはや公道レースの域を超えていますッ!! 坂田五郎丸のシロンが、時速300キロ近い速度でトオルのヴェネーノを左右から揺さぶる!! まさに漆黒の魔王が、白銀の戦神を食い殺そうとしているような光景だァァッ!!」
フェルリア「……トオルくん、危ないッ!! 五郎丸さんは本当にぶつける気です!! 彼にとって、ヴェネーノは倒すべきライバルではなく、配信の再生数を稼ぐための『小道具』に過ぎない。対するトオルくんは……プライドのために、この速度域で一歩も引いていない……ッ!!」
坂田五郎丸「あはははッ!! いいね、トオルちゃん最高だよ! もっと焦って、もっと無様な走りを見せてよ! 皆さーん、今のスレスレの回避、録画したぁ!? 拡散希望だよォォッ!!」
漆黒のシロンが、ヴェネーノのサイドミラーを掠めるほどの距離で並びかける。
トオルは、隣に見える五郎丸のニヤついた顔を一瞬だけ捉えた。
その瞬間、トオルの理性の糸が、静かに、だが確実に弾け飛んだ。
霧山トオル「(……消えろ。汚らわしい配信者め……。僕の聖域から、消し飛べッ!!)」
若林「いったァァァァ!!!! 霧山トオル、コーナーの頂点で五郎丸のシロンに車体をぶつけ返したァァァァッ!!!! 衝撃で数億円のカーボンが夜の闇に舞い散るぅぅぅッ!!!!」
松島の海岸線、数億円のハイパーカーが火花を散らす戦場に、場違いな怒声が響き渡った。
それは、トップ集団で相川美保を追い詰めていたはずの、黒川海斗の声だった。どうやら彼は、五郎丸が垂れ流しているライブ配信の音声を聞きつけ、我慢の限界に達したらしい。
黒川「ふざけんなァァァァァ!!!! お前、さっきから調子いいこと抜かしてるけどよォ! あの時、思いっきりオーバーランしてただろーがァァッ!!」
黒川のエボIXが、美保のR33を猛追しながら蛇行する。怒りのあまり、彼のドライビングにも殺気が混じる。
坂田五郎丸「あー、あれ? リスナーの皆さーん、黒川君が怒っちゃってまーす! でも安心して、あれ、海の前にたまたま壁があったから間一髪だったんだよねー☆ 奇跡の生存ってやつ?」
黒川「なんだそれ……!? 壁があったから助かっただと!? ふざけんじゃねぇ、あそこは本来ならそのまま海へドボンだろうがッ!! 運だけで生きてるような奴が魔王を名乗ってんじゃねぇぞッ!!」
若林「実況の若林です!! なんだこの会話はァァッ!! トップ争いの黒川と、12位争いの五郎丸が、順位を飛び越えて過去のオーバーラン事件で口論を始めています!! 松島の夜が、シリアスとコメディの境界線上で揺れ動いているぅぅッ!!」
フェルリア「……五郎丸さん、恐ろしい強運ですね。本来なら廃車どころか命を落としていてもおかしくないミスを、『壁があったから』の一言で片付けるとは。ですが、その隙をトオルくんは見逃しませんよ……ッ!!」
霧山トオル「(……壁があった? 幸運なことだ。だが、今の僕の前には、壁も海も関係ない……。君を奈落へ突き落とすだけだ)」
トオルのヴェネーノが、口論に夢中な五郎丸のシロンのイン側を再び激しく突く。
カーボンが削れる嫌な音が響く中、配信画面には「運ゲー乙w」「黒川さんマジギレw」というコメントが滝のように流れていく。
坂田五郎丸「おっとぉ、トオルちゃんが嫉妬の体当たりー! 黒川君、続きはゴール後にしよーぜ。今は配信中だからさぁッ!!」
黒川「まとめて海に沈みやがれェェェッ!!」
潮風が強く吹き荒れる松島のロングストレート。
そこでは、もはや公道レースの常識を逸脱した「富と狂気の衝突」が繰り広げられていた。
漆黒のブガッティ・シロンと、白銀のランボルギーニ・ヴェネーノ。
時速300kmを超える領域で、二台の巨躯が、まるで磁石のように互いを引き寄せ、弾き合う。
若林「霧山のヴェネーノと漆黒の魔王が、この速度域でサイドバイサイドォォォ!!!! どちらも引かないッ!! わずかなハンドルミスが、そのまま松島の海への葬送曲になるというのにッ!!」
フェルリア「……まさか、、、あのオーバーランから生きてたとは、、、、、、。五郎丸さんの強運は、もはや理屈を超えています。ですが、トオルくんのプライドは、その『運』さえも屈服させようとしている……ッ!!」
五郎丸のシロンが、巨体を感じさせない鋭さでヴェネーノに幅寄せを仕掛ける。
対するトオルは、これまで見せていた冷静な笑みを消し、獣のような眼光で隣の漆黒を睨み据えた。
霧山トオル「だれか知らないけどその腐ったようなボディごとペットにしてやんよォォォォ!!!!! 鎖に繋がれて、一生僕のガレージで泥でも舐めていろッ!!」
トオルがステアリングを左に一気に抉り、ヴェネーノの鋭利なカーボンボディを、シロンのドアパネルに叩きつけた。
ガリガリと、数千万円が削り取られる嫌な音が、松島の海鳴りをかき消す。
坂田五郎丸「あはははッ!! ウケるー!! トオルちゃん、本性出ちゃってるよォ!? 『ペットにする』とか、それなんてエロゲー!? 視聴者の皆さーん、今のご褒美ボイス、録音したぁ!? プレミア公開決定だねッ!!」
若林「当たっている!! 走行中に何度も接触しているッ!! カーボンが、タイヤのゴムが、松島の夜空に舞い散る!! 坂田五郎丸は笑いながらスマホを向け、霧山トオルは狂ったようにアクセルを床まで踏み抜く!! この二台に、もはやブレーキという概念は存在しませんッ!!」
漆黒と白銀の閃光。
二台の怪物が並んだまま、松島最大の急カーブ「デッドマンズ・ベンド」へと突入していく。
石巻から北へ。漆黒の機体が、巨大な北上川に架かる橋梁へと差し掛かった。
4基のターボが空気を貪り食う吸気音が、橋の鉄骨を震わせ、不気味な風切り音を奏でる。
ブガッティ・シロンの運転席で、坂田五郎丸は先ほどまでの喧騒をすべて遮断し、冷徹な瞳で前方を見据えていた。
そこに、ライブ配信のカメラも、視聴者への煽りもない。
今の彼は、ただ1500馬力という過剰なまでの暴力を、アスファルトの上にねじ伏せる一人の冷徹なドライバーに立ち返っていた。
坂田五郎丸「(……無駄な音はいらない。この速度域では、雑念は死に直結する。トオルちゃんも、他の連中も……まとめてこの闇に置いていく)」
五郎丸が、指先の微かな動きだけで巨大なシロンを御す。
時速300kmを優に超える世界。橋の継ぎ目で車体が跳ねるたびに、数トンのダウンフォースが路面を叩きつける。その挙動一つひとつを、彼は冷徹に、精密機械のように制御していた。
若林「レーサーたちが北上川を越えていくゥゥ!!!! 真っ先に飛び込んだのは漆黒のブガッティだァァ!!!!!!!!! 坂田五郎丸、凄まじい加速ッ!! 先ほどまでの喧騒が嘘のように静まり返った車内から、ただ最短最速のラインだけをトレースしているぅぅッ!!」
フェルリア「……恐ろしい。配信を止めた今の五郎丸さんは、まさに『魔王』そのものです。感情を排し、ただ物理法則に従って1500馬力を解放している。トオルのヴェネーノがどれだけ吠えようと、この圧倒的な『加速の壁』の前では無力に等しい……ッ!!」
霧山トオル「(……っ! 急にラインが安定した……!? あの野郎、本気で僕を突き放すつもりか……!?__だが、北上川の強風に煽られて、その重い巨体ごと河底へ沈めてやるッ!!)」
トオルのヴェネーノが、横風に耐えながらシロンの背中を追う。
だが、橋の上を流れる気流さえも計算に入れているかのように、五郎丸のシロンは微動だにせず闇を切り裂いていく。
坂田五郎丸「(……さあ、邪魔な『過去』も『意地』も、全部この川に流していけ。俺が先に、その先の景色を見せてやる……)」
若林「漆黒の尾灯が、北上川の川面に紅い一線を引いていく!! 12位、11位と、五郎丸が次々と前方を飲み込んでいくぅぅッ!! 本気になった魔王の前に、もはや敵は存在しないのかァァッ!!」
北上川の広大な水面を、漆黒の機体が切り裂いていく。
公式ドローンが上空から捉えた映像は、衛星を介して全世界へと同時配信されていた。
数億人の視聴者が目撃しているのは、先ほどまで不遜な笑みを浮かべていたストリーマーの姿ではない。
そこに映っていたのは、ただ無言で、1500馬力を路面に叩きつける「死神」の如き冷徹な横顔だった。
坂田五郎丸「(……世界の視線なんて、どうでもいい。俺が今、この瞬間に求めているのは、前を走る奴らの絶望だけだ)」
公式カメラが捉えるシロンの挙動には、一切の迷いがない。
橋の継ぎ目で跳ね、一瞬だけ宙に浮いた車体が、着地と同時にアスファルトを噛み砕く。
五郎丸は、個人のライブ配信という「お遊び」を捨てたことで、シロンという怪物の真価を引き出していた。
若林「実況の若林です!! エーペックスカップ公式配信、視聴者数が一気に跳ね上がったァァッ!! 全世界が今、北上川を真っ先に突破した漆黒の魔王、坂田五郎丸を目撃しています!! 静寂の中に宿る狂気……彼は今、このレースそのものを『自分の独壇場』へと書き換えようとしていますッ!!」
フェルリア「……個人のカメラを止めたことで、彼の集中力は極限に達しています。トオルくんのヴェネーノとの差は、この橋の上だけでさらに開いた。もはや彼は、後ろを振り返ることすらしていません。彼の視界にあるのは、11位の岡田くん、そしてその先の柳津くん……『過去』に囚われた者たちの背中だけです……ッ!!」
霧山トオル「(……ふざけるなッ!! 世界中に、僕が引き離される姿を晒せというのか……ッ!! 消えろ、五郎丸……ッ!! お前のその沈黙が、何よりも鼻につくんだよォォッ!!)」
トオルのヴェネーノが、公式ヘリの爆音をかき消すほどの咆哮を上げ、シロンの残像を追う。
だが、全世界に映し出されているのは、北上川の夜風を切り裂き、一筋の黒い雷光となって消えていくシロンの圧倒的な「現実」だった。
坂田五郎丸「(……さあ、次の『生贄』は誰だ。俺の沈黙に、耐えられる奴はいるのか……?)」
若林「漆黒の尾灯が、北上川の対岸へと消えていく!! 次のセクション、11位・岡田大成と10位・柳津雄介が、魔王の接近を背中で感じているはずだァァッ!!」
北上川を越えた先、漆黒のシロンが夜の静寂を切り裂く。
そのわずか数メートル後方。超高速域での気流に耐え、シロンのリアバンパーを執拗に映し続ける物体があった。エーペックスカップ公式、全レーサー追尾型ドローン「アイ・オブ・ゴッド」だ。
視聴者「エーペックスカップの配信は、全レーサーの後ろにドローンを追尾しているんだ。だからこそ、あの五郎丸の『無言の狂気』が、まるで自分が運転しているかのような距離で見える……!!」
世界中のモニターには、五郎丸が一切の配信を止め、冷徹に1500馬力を御す姿が映し出されていた。
ドローンが捉える映像は、シロンが11位の岡田大成のGRカローラを、まるで路上の石ころを避けるように一瞬で置き去りにする瞬間を、無慈悲なまでの鮮明さで全世界に届けた。
若林「実況の若林です!! 岡田大成、一瞬でパスされたァァッ!! ドローン映像で見ると、五郎丸のシロンの加速はもはや物理法則のバグです!! 岡田もラリー仕込みの鋭いラインを通っていますが、シロンの『沈黙の暴力』の前には成す術もありませんッ!!」
フェルリア「……五郎丸さんのドローン視点を見ている視聴者は、今、震えているでしょうね。彼は一度もバックミラーを見ていない。ただ前を走る柳津くんのM4 DTMだけを、獲物を狙う鷹のように見据えている……ッ!!」
一方、10位を走る柳津雄介の後方ドローンは、彼の「震える指先」と「修羅の形相」を克明に映し出していた。
柳津「(……後ろから来る。あの日の津波と同じ、巨大で、無慈悲な『黒い塊』が……ッ!!)」
柳津は、ドローンの羽音さえも、あの日の波の音のように感じていた。
全世界の視聴者は、10位の柳津視点と12位の五郎丸視点をマルチウィンドウで切り替えながら、この「過去」と「破壊」が激突する瞬間を、固唾を呑んで見守っている。
坂田五郎丸「(……柳津。お前の『過去』は、1500馬力で踏み潰してやるよ)」
漆黒のシロンが、柳津のM4 DTMのスリップストリームへと潜り込んだ。
ドローン映像の中で、二台の距離がゼロへと収束していく。
北上川を越え、コースは再び複雑な海岸線へと戻る。
だが、そこはもはや柳津雄介が「過去」に浸ることを許さない、地獄の加速区間となっていた。
柳津のM4 DTMが放つ直列6気筒の咆哮を、背後から迫る4基のターボの吸引音が物理的に飲み込んでいく。
若林「外からシロンがいったァァァァ!!!!!!!! 坂田五郎丸、あえてインを狙わず、空気の壁を力技で切り裂きながらアウト側から並びかけるゥゥッ!!」
ドローン映像が捉えるのは、二台のマシンが火花を散らすほどの超接近戦。
時速280キロを超える領域で、巨大なシロンが柳津のM4のサイドを「塞ぐ」ように覆いかぶさる。
柳津「また外からいかすかよ....! クソ......ッ!!! あの時の波と同じだ……力で全てを奪い去りやがってッ!!」
柳津は狂ったようにステアリングを左に抉り、M4のワイドなフェンダーをシロンのサイドパネルにぶつける。
しかし、2トン近い質量を誇るシロンは、その衝撃をものともせず、ただ冷徹にアウト側のラインを維持し続けた。
フェルリア「……無理です! 柳津くん、引いてッ!! シロンの圧倒的な重量と馬力に、外から押さえ込まれたら、M4のダウンフォースが死んでしまう!! このままじゃコーナーの入り口で、ガードレールとシロンの間に挟み潰されますよ……ッ!!」
柳津「(……嫌だ、もう奪わせない……俺から、走る場所まで奪わせるもんかァァッ!!)」
柳津の瞳には、かつて大河小学校の窓から見た「外側から全てを飲み込む黒い海」が重なっていた。
ドローンは、その柳津の絶望的な抵抗と、五郎丸の「無音の冷徹さ」を克明に映し出し、全世界の視聴者の心拍数を跳ね上げる。
坂田五郎丸「(……お前の『俺』なんて、この速度域じゃノイズでしかないんだよ。消えろ)」
若林「五郎丸、さらに踏み込んだァァッ!! シロンのW16エンジンが爆ぜる!! 外側からM4を強引にコースの内側へ押し込み、柳津のラインを完全に殺したァァァァッ!!」
柳津「____ッ!!」
【松島・沿岸ハイスピード・全19台ランキング】
1位:相川 美保(R33 GT-R V-spec)
2位:黒川 海斗(EVO IX MR)
3位:山吹 花(WRX STI VAB)
4位:腹切 カナタ(TOYOTA 86 NA)
5位:サテラ(EVO VII MR)
6位:小岩 イオリ(Ferrari 812 Superfast)
7位:佐藤 大河(Corvette C8)
8位:山吹 芽衣(Porsche 911 Carrera GTS)
9位:古賀 加奈子(BMW M3 E46)
10位:柳津 雄介(BMW M4 DTM)
11位:岡田 大成(GR Corolla)
12位:坂田 五郎丸(Bugatti Chiron) ↔ 13位:霧山 トオル(Veneno)
→ 12位争い。数億円のマシン同士が火花を散らして衝突。
14位:佐藤 ジュン(RX-7 FD3S)
→ 14位。前方のハイパーカーの破片を避けつつ、チャンスを伺う。
15位:伊藤 (Swift Sport ZC33S)
→ 15位。執念で食らいつき、前方の混乱を利用しようとする。
16位:高村 圭吾 (Z33)
17位:ミルキークイーン (Lexus LC500)
18位:柊 蒼真(Civic Type R FL5)
19位:川村 修一 (K-Works)
20位:湯川 サトル (S2000)
【リタイヤ】
内藤 セリナ(Audi R8 V10)
→ 松島観光中。「えーっ! トオルくんがぶつけた!? 珍しー☆ でもあの音、カーボンが割れる高い音だねー☆(もぐもぐ)」




