松島編第63話 夕日の鮎川コバルトライン
若林「空をご覧下さい……!! いつの間にか、石巻の空は燃えるようなオレンジ色の背景に染まっています!! この美しい夕焼けの中、内海橋を抜けた三台の猛獣たちが、最後の光を奪い合うように加速するゥゥッ!!」
フェルリア「……逆光が厳しいですね。ですが、このオレンジ色の光が、芽衣ちゃんのポルシェの輪郭を鮮やかに浮き彫りにしています。見てください、PDKによる電光石火のシフトアップ。変速のたびに、ポルシェのフロントが浮き上がるような強烈なトラクション……ッ!!」
芽衣「(……この空の色、好き。でも、見惚れている暇はない……ッ!! 目の前のM3、その四枚のドアを……私のPDKでブチ抜くッ!!)」
バキィッ! と空気を切り裂くような変速音。
ポルシェのメーター針が一瞬の淀みもなく跳ね上がり、パワーが途切れることなく路面へ叩きつけられる。
オレンジ色の光を浴びたブルーのボディが、加奈子の赤いM3のサイドを、まるでスローモーションのように滑り抜けていく。
加奈子「(……ッ!! シフトアップの瞬間、私の車が一瞬止まっているように感じる……。これが最新のデュアルクラッチ、二つの魂の力なのね……ッ!!)」
若林「並んだ、並んだ、ついに並んだァァッ!! 山吹芽衣のポルシェ911 GTS、ついに古賀加奈子を捉えた!! オレンジ色の静寂を切り裂いて、二つのドイツの魂が火花を散らすぅぅッ!!」
柳津「(……前がポルシェとM3で塞がっている……ッ。だが、このオレンジ色の影が伸びる場所なら、俺のM4にも勝機はあるはずだッ!!)」
若林「まさかここでいくかァァァァ!!! 16位にいた佐藤ジュンのFD3Sが、この超テクニカルセクターで一気に2台抜きだァァァァ!!!!!! オレンジ色の光を切り裂いて、ロータリーエンジン独特のハイトーンが石巻の山々に木霊するぅぅッ!!」
フェルリア「……速いッ! FD3Sのフロントミッドシップが生み出す圧倒的なコーナリングスピード。1.3トンの軽量ボディが、うねる路面をまるでスケートのように滑り抜けていきます……ッ!!」
ミルキークイーン「あらあら〜……。私のレクサスが、まるでお散歩でもしているように見えちゃうですわね〜……あの黄色い閃光、とっても刺激的ですわ……」
伊藤「(……っ! さすがFDだな……。この区間に入ってから、バックミラーの中でどんどんデカくなって……。俺のスイスポがついていけないほどの旋回速度……速い、、、ッ!!)」
若林「佐藤ジュン、連続ヘアピンの二つ目!! イン側の僅かな隙間にFDの低い鼻先をねじ込み、伊藤翔太のスイスポとミルキークイーンのLC500を、一瞬の交錯で置き去りにしたァァッ!!」
フェルリア「……これぞロータリーの真骨頂です。ピストンの往復運動がないロータリーエンジンは、高回転域でのレスポンスが異常に鋭い。ヘアピンの立ち上がり、一瞬の加速勝負では、大排気量のLCもターボのスイスポも、ジュンのFDには届かない……ッ!!」
オレンジ色の空が、さらにその色を濃くしていく。
石巻の山々を縁取る光は、もはや燃えるような朱色へと変わり、路面に長く伸びるマシンの影を歪ませていた。
その歪んだ影の中を、一台の黄色い閃光が切り裂いていく。
佐藤ジュンのFD3S。
13Bロータリーエンジンが9000回転の領域へと踏み込み、過給圧計の針が激しく振れる。
ジュン「(……はぁ、はぁ……。怖い。本当は、すごく怖いんだ。……でも、この音を聞いている時だけは、ボクは一人じゃない気がする……ッ!!)」
バキッ、という鋭いアフターファイアの音と共に、ジュンはさらにアクセルを踏み込む。
前方にそびえ立つのは、二台の巨大な壁。
13位、内藤のアウディR8。そして12位、霧山トオルのランボルギーニ・ヴェネーノ。
数千万円、数億円という「怪物の咆哮」が、ジュンの小さな身体を威圧するように襲いかかる。
若林「ご覧下さい!! 14位・佐藤ジュン、全く怯んでいないッ!! いや、怯えを振り切るように加速しているゥゥッ!! オレンジ色の背景の中、黄色いFDがまるで彗星のように、怪物スーパーカーたちの懐へと飛び込んでいくぅぅッ!!」
フェルリア「……ジュンちゃんの瞳を見てください。モニター越しでも分かる、あの真っ直ぐな意志。一匹狼として、誰にも頼らずに磨き上げてきたロータリーの旋回。最新の4WDスーパーカーたちが、タイトなコーナーで持て余しているパワーの隙間を……彼女は見逃さない……ッ!!」
内藤「……な、何だあのFDは!? 抜かせねェ...このアウディのクワトロ(4WD)が負けるわけェ……ッ!!」
ジュン「(……ごめんね。でも、ボク……止まれないんだ。……そこッ!!)」
若林「いったァァァァ!!!! 佐藤ジュン、ヘアピンの飛び込みで内藤のR8をアウトから被せ、クリッピングポイントで鮮やかにインを奪い返したぁぁッ!! 13位浮上!! 次の獲物は、時価数億円の死神、霧山トオルのヴェネーノだァァッ!!」
若林「ああぁぁっとォォォ!! なんということだァァァッ!! 2位で1位・美保を追い詰めていた腹切カナタの86GTが、中速コーナーの立ち上がりで一気に失速ゥゥッ!! 後方から迫る三台の猛獣たちが、獲物を仕留めるように赤い機体を飲み込んでいくぅぅッ!!」
フェルリア「……中速コーナーの罠ですね。86のNAエンジンでは、立ち上がりのトルクがターボ勢やV8に追いつかない。カナタくんのタイヤも、これまでの無理な突っ込みで悲鳴を上げていたのでしょう……ッ!!」
黒川「ヒャッハァァァ!! ハチロクの限界が見えたなぁ、ハラキリィィィッ!! そのまま路肩で寝てやがれッ!!」
黒川の黒いエボIXが、4G63エンジンの凶暴なブースト圧で86の真横を暴力的にブチ抜いていく。
花「……カナタくん、、、ごめんね、、、。先に行くよ、、、ッ!!」
山吹花のWRX STIが、蒼い閃光となってアウト側からカナタを被せ、強靭な4WDのトラクションで路面を掻き毟りながら前方へ消えていく。
さらに、佐藤大河のコルベットC8がV8の重低音を響かせ、カナタの視界を真っ黒に塗りつぶした。
若林「腹切カナタ、まさかの中速コーナーで後方3台に抜かれてしまうゥゥゥゥゥ!!!!! 2位から一気に5位へと転落!! 王者の翼が、オレンジ色の闇に引き裂かれたぁぁッ!!」
カナタ「(……クッ! 立ち上がりで……車が前に出ない……ッ!! 美保、黒川……みんな、なんて速さだ……ッ!!)」
若林「見ろッ!! これが狂犬の本性かァァァッ!! 黒カラスの異名を持つ黒川のエボIXが、佐藤大河のC8にそのままの勢いで並んできたァァァァ!!!!! 1ミリの躊躇もない、地獄への道連れを誘うような超特攻だァァッ!!」
フェルリア「……正気じゃありませんッ!! この区間は道幅が極端に狭く、二台が並走すること自体が物理的な自殺行為です!! 黒川くん……勝利への渇望が、安全という概念を完全に焼き切っていますね……ッ!!」
佐藤大河「(この狭い区間でか、、、ッ!? 頭おかしいんじゃねェのか、、、、、!???? ガードレールに当たるぞ……いや、俺を突き落とす気かッ!!)」
黒川「ギャハハハァッ!! ビビってんのかよプロォォォッ!! このエボの四駆はなぁ、道がなけりゃ崖の壁を走ってでも前へ行くんだよォォッ!! どけェ、そのデカいアメ車をよォッ!!」
若林「サイド・バイ・サイド!! オレンジ色の夕日に照らされた黒いボディが、火花を散らしながらコルベットをイン側に押しつぶしていく!! 佐藤大河、堪らずステアリングを切って回避するが、そこは崖際のスレスレだァァッ!!」
フェルリア「……危険です。黒川くんはわざとボディを接触させて、大河くんのラインを物理的に奪っています。プロとして『クリーンな勝利』を求める大河くんにとって、この泥沼の喧嘩走りは最悪の相性……ッ!!」
若林「黒カラス、ついに鼻先を出したァァッ!! 狂気の加速が、プロの理性を粉砕しにかかるぅぅッ!!」
若林「あああぁぁぁーーーッ!! 何ということだッ!! 黒川のエボIXが、時速160kmの超高速域で思い切り幅寄せしたァァッ!! 逃げ場のないガードレール際、佐藤大河のコルベットC8に……ガンッ!!! と、耳を疑うような衝撃音が石巻の峠に炸裂したァァァァッ!!!」
フェルリア「……なんてことをッ!! 大河くんのコルベットはミッドシップ、リアのフェンダーや足回りにあんな衝撃を受けたら、空力バランスもサスペンションも一瞬で崩壊します……!! これはレースじゃない、もはや殺人未遂ですッ!!」
佐藤大河「(ガッ……ハッ……!? クソッ、ステアリングが……取られるッ!! 狂ってやがる……あいつ、車を凶器に使いやがった……ッ!!)」
鈍い衝撃と共に、C8の美しい白いボディが黒いエボに削り取られ、オレンジ色の光の中にカーボンパーツの破片がキラキラと舞い散る。
大河は必死にカウンターを当てるが、縁石にタイヤを乗り上げ、車体は激しくバウンドする。
黒川「ギャハハハハァッ!! どうだァ、プロの御高説も、この『鉄の塊』の前じゃ無力だろうがッ!! そのまま崖の下まで転がっていけよォ、大河サァァン!!」
若林「黒川、追い打ちをかけるようにさらに寄せていくッ!! 佐藤大河、堪らず急ブレーキ!! 激しい白煙を上げながら、コルベットが後方へと沈んでいくぅぅッ!! 2位争いは、狂犬の完全な勝利かァァッ!?」
フェルリア「……許せません。あんな走り、スポーツでも何でもない……。でも、これで1位の美保ちゃんが完全に孤立しました。あの狂犬が、次に狙うのは……ッ!!」
若林「ウソだろ、、、、ッ!!?? 信じられません、、、、、ッ!!! なんと初参戦の相川美保が、この極限のR398で単独1位に躍り出てしまったァァァァ!!!!!」
フェルリア「……なんてこと。彼女、兄であるあの『伝説の相川』が成し遂げられなかった領域に、今まさに足を踏み入れようとしています。R33 GT-Rが、まるでオレンジ色の光そのものになって、アスファルトを滑走している……ッ!!」
若林「兄よりも遥か遠くへ、戦績を残して行ってしまうのかァァァァ!!!?? 相川美保、バックミラーに映る狂犬・黒川の殺気をその細い背中で受け止めながら、アクセルを一切緩めないィィッ!!」
美保「(……お兄ちゃん。見てる……? 私は今、お兄ちゃんが愛したこの車で、お兄ちゃんが見たかった景色の中にいるよ……。怖くない……。この重たいGT-Rが、今は羽が生えたみたいに軽いんだ……ッ!!)」
若林「RB26の咆哮が、石巻の海へと響き渡るッ!! 1位・相川美保!! だが背後、数センチの位置には、先程プロを崖際に沈めた黒川の黒いエボが迫っているぅぅッ!! オレンジ色の闇が深まる中、少女の孤独な逃走劇が始まるッ!!」
フェルリア「……彼女の走りは、もう単なるテクニックではありません。亡き兄への想い、そして自分の存在を証明するための『祈り』です。ですが、黒川くんはそんな情緒を、力ずくで踏みつぶしに来ますよ……ッ!!」
黒川「ギャハハハァッ!! 兄貴越えかよ、泣かせるじゃねぇか相川美保ォォォォッ!! だがなぁ、死んだ奴の想いなんて、このターボの過給圧で一瞬で吹き飛ぶんだよォォッ!!」
若林「そして!! 14位走行中の内藤セリナに、、、チャンピオンイエローが襲いかかるッ!!! 伊藤翔太のスイフトスポーツ、このオレンジ色の闇に紛れて、音もなくその牙を研いでいたァァァッ!!!」
フェルリア「……内藤さんのR8、先程の混乱でリズムを崩したようですね。V10エンジンの重厚なパワーは、この先の『低速ヘアピン』では逆に足枷になります。対する翔太くんのスイスポは、1トンを切る軽量ボディ。止まる、曲がる……そのすべての初動で、R8を圧倒しています……ッ!!」
伊藤「(……R8が落ちてきたのか、、、ッ!? この先の低速ヘアピン、そこならボクの『黄色い弾丸』が、その巨大な四駆を刺し貫けるッ!!!)」
内藤セリナ「(……っ、後ろの黄色いのがうるさいわね……! こんな狭い峠で、格下のスイスポに煽られるなんて……セリナのプライドが許さないわッ!!)」
若林「内藤がR8のワイドな車体でラインを塞ぐ!! だが伊藤翔太は怯まないッ!! オレンジ色の背景に溶け込むような鮮やかなイエローのボディが、ヘアピンの進入でR8のイン側、わずか数センチの隙間に鋭くノーズを突っ込んだァァァッ!!」
フェルリア「……見事です!! 荷重移動を完璧に使った、スイスポならではの軽快な旋回!! 大排気量車がブレーキの熱に苦しむ中、翔太くんはノーブレーキに近い速度でコーナーを駆け抜けていく……!!」
若林「いったァァァァ!!!! 伊藤翔太、低速ヘアピンの出口で内藤セリナを鮮やかにパス!! チャンピオンイエローが、オレンジ色の空に一番映える瞬間だァァッ!!」




