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86伝説エーペックス[POWER!!!]  作者: SAI
POWER!!!松島編
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松島編第61話 侍の危険な匂い

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若林「信じられない光景だァァッ!! 絶対王者だった小岩イオリの812スーパーファスト、さらに失速!! 5位を走っていたサテラのエボVIIが、この混乱を見逃さずに女王をオーバーテイクッ!!」


サテラ「イオリちゃんお疲れ様。タイヤ、もう限界なんだね……。

悪いけど、ここからはボクが前に行かせてもらうよッ!!」


イオリ「……ッ!! サテラにまで……!?

嘘よ、私のフェラーリが、こんな場所で終わるなんて……ッ!!」


若林「だが、物語はそれだけでは終わらないッ!! サテラの背後から、死神のような速度で迫る影が一つ!! 西日に赤く染まった、腹切カナタの86GTだァァァッ!!!」


フェルリア「……危ないッ!! この先は石巻バイパスへ戻る前の最難関、『高速S字ハイスピード・ベッド』です!! タイヤの終わったイオリさんと、一気に勝負を決めたいサテラくん、そして勢いに乗るカナタくん……三台が時速200kmオーバーで、逃げ場のない超高速域に突入します!!」


若林「危険な匂いがプンプンするゥゥゥゥ!!!!! カナタ、ブレーキを一切踏まない!! 磨耗でふらつくイオリのフェラーリと、逃げるサテラのエボの間……針の穴を通すようなラインに、赤い戦闘機が突っ込んだぁぁぁッ!!!」


カナタ「(……ここだ、この一瞬の乱気流スリップの中に、道があるッ!!

行けぇぇぇッ!!)」


石巻から遠く離れた、福島県郡山市。

夕暮れ時の「豚骨専門 黒川ラーメン」では、仕込みの湯気が立ち込める店内で、一人の女性がスマホの画面を凝視していた。


黒川サカエ。この店の店主であり、今まさに石巻で「狂犬」として暴れ回っている黒川海斗の母親である。


サカエ「……海斗、、、ッ 無茶しないでね、、、」


かつて暴走族総長として街を騒がせ、今はエーペックスカップで「ワースト」の汚名を背負いながら走る息子。世間が彼をどう呼ぼうと、彼女にとってはただ一人、不器用ながらも自分の姓を店名に冠してくれた、大切な息子だった。


画面の中では、海斗の黒いエボIXが、失速した女王イオリを嘲笑うようにパスし、表彰台圏内の3位へと躍り出ている。


サカエ「(あんなに楽しそうに笑って……。

でも、あの子が笑う時は、決まって自分を追い込んでいる時。

海斗……もう、自分を壊すような走りはやめて……ッ)」


若林「さあ、レースは石巻バイパスへの合流地点、超高速コーナー『ハイスピード・ベッド』に突入ッ!! 3位の黒川海斗、2位・佐藤大河の背中を完全に射程圏内に捉えたぁぁッ!!」


若林「コースはR45から逸れるようにR398へ進みます!! 石巻鮎川方面へ、険しい峠道へと向かうレーサー達!! 街灯の光が途切れ、代わりに海鳴りと木々の影が彼らを包み込むぅぅッ!!」


フェルリア「ここからはパワーだけでは勝てません……。R398は道幅が狭く、ブラインドコーナーが連続する『公道の真髄』。タイヤの終わったイオリさんには、残酷なまでの地獄が始まりますね……」


1位を走る相川美保のR33。その背後に、V8の爆音を響かせる佐藤大河のコルベットが肉薄する。

そして、そのさらに後方から、まるで故郷に帰ってきたかのような軽やかな挙動で、赤い86が加速を開始した。


カナタ「(……ここだ。この狭さ、このRアール。86が一番輝ける場所だッ!!)」


若林「先頭集団、R398の入り口を猛烈な勢いで通過!! 相川美保の『深海のジャベリン』が、波打つ路面を切り裂いていくッ!! だが後方、5位の腹切カナタがサテラと黒川の隙を伺い、赤い閃光となって闇へ消えていくぅぅッ!!」


佐藤大河「(……ふん、ここからはテクニックの領域か。美保ちゃん、そのR33を海に沈めるのは、この俺だッ!!)」


若林「コースはさらに険しさを増していくッ!! 国道398号、通称・リアスワインディング!! 右は荒れ狂う太平洋、左は切り立った崖!! わずかなミスが文字通り『命取り』になる極限のステージだァァッ!!」


フェルリア「……ここからはマシンの馬力パワーは二の次です。重要なのは、目まぐるしく変わる路面状況への対応力と、リズム。見てください、1位の美保ちゃんのR33、先程の市街地よりも車体が跳ねています……。GT-Rの重さが、このうねる路面では牙を剥き始めていますね」


美保「(……っ! 足が……サスペンションが悲鳴を上げてる……ッ!! でも、ここで引いたらイオリちゃんに笑われちゃう……ッ!!)」


佐藤大河「(……逃がさん。この先のタイトな複合コーナー、そこがR33の限界点だ。沈め、美保ちゃん……ッ!!)」


若林「1位・美保と2位・佐藤大河が火花を散らす背後!! ついに『彼』が動いたァァッ!! 5位の腹切カナタ、前方を走るサテラと黒川の三菱軍団に対し、掟破りのノーブレーキ・イン!!」


カナタ「(……タイヤの感触、路面の温度、風の向き。全部見える……。ここなら、86は誰よりも速く羽ばたけるッ!!)」


黒川「あぁん!? チョコマカと後ろでうるせぇんだよ、86がッ!!

崖から突き落としてやろうかァッ!!」


サテラ「ひえぇ〜! 黒川くん、それどころじゃないよ! カナタくんのライン……今のコーナー、四輪とも浮いてなかった!? まるで飛んでるみたいだ……ッ!!」


若林「赤い戦闘機、ついに加速ッ!! 牡鹿の峠道に、NAエンジンの乾いた高音が鳴り響くぅぅッ!!」


若林「おおっと!!!!?? 信じられないッ!! 11位まで沈んでいたはずのスバルブルーが、今まさに女王の真横に並びましたァァァ!! 山吹花、大外からの強襲だァァァァ!!!!」


フェルリア「……バカなッ!? 先程、黒川くんの挑発でリズムを崩し、失速を余儀なくされたはずじゃ……。なぜこのタイトな峠道で、これほどの速度を維持できるんですか……ッ!?」


花「……あいつに、あのクソ野郎に『おかあちゃ』なんて呼ばれたまま、終わってやるもんかァァッ!! 舐めるなッ! これがスバルの、WRXの底力だよッ!!」


若林「花のSTIが咆哮するッ!! 路面のうねりを、VABの強靭なシャシーが完璧に抑え込む!! 逃げるイオリのフェラーリに対し、花はあえてガードレール側の最も荒れた『外側アウト』を選択!! 砂煙を巻き上げながら、女王の氷壁を力ずくで砕きにかかるぅぅッ!!」


イオリ「……ッ!! この状況で外から来るなんて、正気なの……!? 壊れるわよ、そんな車ッ!!」


花「壊れたって構わねぇ!! あんたの気取ったライン、その青いボディで塗り潰してやるよッ!!」


フェルリア「……見えました。花ちゃん、怒りを完全に『トラクション』に変えています。四輪駆動の強みを活かし、滑りやすい路面を無理やり掻きむしって加速している……!! まさに、牡鹿の荒ぶる女神です!!」


若林「そしていったァァァァ!!!! 信じられないッ!! 2位を死守していた佐藤大河のC8を、腹切カナタの86が瞬殺ッ!! まるで吸い込まれるような、あまりに鮮やかな刺突オーバーテイクだァァァッ!!」


佐藤「……っ! R398に入った瞬間にこれほど詰め寄ってくるとはな。……さすがは腹切だ。並のレーサーなら、あの車線の減少に怯んでブレーキを踏む……ッ!!」


カナタ「佐藤……君との本当の勝負は、これからだよ。……ここからは、俺たちの『魂』の削り合いだッ!!」


フェルリア「……神がかってました。今の第7コーナー、3車線から2車線に切り替わる、最もラインが重なる場所なんですよ。そこへ迷わずねじ込んでいきましたが、こんな芸当ができる人間は普通はいません……ッ!!!」


若林「カナタの86、ついに2位へ浮上!! 1位を走る相川美保の背中を、夕闇の向こう側に捉えたァァッ!!」


フェルリア「……今の彼と、山吹花ちゃんを見ていると、どこか日本の侍のように感じるんですよ。腹切カナタが『元立ち(もとだち)』、対して山吹花ちゃんが『掛かりかかりて』。花ちゃんが怒涛の攻撃を仕掛け、カナタくんがそれを受け流しながら、見えないパワーを自分のものにしている……。彼は今、コース全体のエネルギーをその手に収めていますね……ッ!!」


石巻・国道398号。

右手に広がる太平洋は、沈みゆく太陽の光を浴びて、まるで沸騰した血のような深紅に染まっている。

その海岸線を切り裂くように、一台の「赤い戦国」が猛り狂っていた。


岡田大成の駆るGRカローラ。

G16E-GTS、1.6リッター3気筒ターボが叩き出す過給圧は限界まで高まり、バックタービン音が周囲の木々に反響する。

「GR-FOUR」の四輪駆動システムが、アスファルトの僅かな凹凸を力強く掴み、1500kg近い車体を前へ、前へと弾き飛ばす。


岡田「(……見えたッ!! 逃げ惑う雑兵どもが……ッ!!)」


岡田の視線の先には、かつて上位を走っていた高級スポーツカーたちの群れ。

だが今の彼にとって、それらはただの「武勲」を立てるための標的でしかなかった。

18位から始まった彼の進撃は、今や13位。

戦国時代の騎馬武者が敵陣を縦横無尽に駆け抜けるが如く、赤い機体は先行するミルキークイーンのレクサスLCを、右コーナーの立ち上がりで強引に刺し貫いた。


若林「見たかッ!! 岡田大成、イン側の縁石を削り取るような最短ライン!! 立ち上がりのトラクションだけで、大排気量のレクサスを置き去りにしたぁぁッ!! 18位から13位……もはや抜き去ったのは車ではない、絶望という名の壁だァァッ!!」


フェルリア「……凄まじい集中力です。岡田くんは今、自分の車を『武器』として完全に使いこなしています。R398の、この先にある複雑なS字……そこを時速140kmで維持したまま抜けるなんて、並の度胸ではありません……ッ!!」


一方、遥か前方。

トップ争いは、さらに静謐で、それでいて鋭利な「殺気」に包まれていた。


相川美保のR33。RB26DETTの重厚なビート。

その後ろを、影のように追走する腹切カナタの86。NAエンジンの乾いた高音が、まるで研ぎ澄まされた日本刀の風切音のように響く。


カナタ「(……美保、お前のラインはもう読めている。R33の重さが、タイヤの熱を奪っているんだ。次の合流地点……そこが、お前の城が落ちる場所だッ!!)」


フェルリア「……侍ですね。やはり、そうとしか表現できません。山吹花ちゃんが荒々しく門を叩く『掛かり手』なら、カナタくんは一太刀で勝負を決める『元立ち』。無駄な動きが一切ない……。3車線から2車線に絞られるあのボトルネックで、彼は一切の減速を拒否して佐藤大河を斬り伏せた……。あれは、技術を超えた『覚悟』の差です」


若林「夕闇が迫る中、戦場はさらに混沌を極める!! 赤い戦闘機、そして赤い戦国!! 二つの赤き魂が、石巻の公道を支配しようとしているぅぅッ!!」


1位:相川 美保(R33 GT-R V-spec)

  → 1位。カナタの「侍の殺気」を背中で受け、冷や汗が止まらない。

2位:腹切 カナタ(TOYOTA 86 NA)

  → 2位。佐藤大河を瞬殺し、王者の風格。美保の懐へ潜り込む。

3位:佐藤 大河(Corvette C8)

  → 3位。カナタに抜かれた屈辱を飲み込み、プロの意地で食らいつく。

4位:黒川 海斗(EVO IX MR)

5位:サテラ(EVO VII MR)

6位:山吹 花(WRX STI VAB)

7位:小岩 イオリ(Ferrari 812 Superfast)

8位:古賀 加奈子(BMW M3 E46)

9位:柳津 雄介(BMW M4 DTM)

10位:山吹 芽衣(Porsche 911 Carrera GTS)

11位:霧山 トオル(Veneno)

12位:内藤(Audi R8 V10)

13位:岡田 大成(GR Corolla) ↑↑↑↑↑

  → 13位。「戦国モード」で怒涛の5台抜き。次なる標的は霧山と内藤。

14位:ミルキークイーン (Lexus LC500) ↓

15位:佐藤 ジュン(RX-7 FD3S)

16位:伊藤 翔太 (Swift Sport ZC33S)

17位:高村 圭吾 (Z33)

18位:柊 蒼真(Civic Type R FL5)

19位:川村 修一 (K-Works)

20位:湯川 サトル (S2000)


若林「コース後半戦! 牡鹿半島の深部、鮎川へと続く道はいよいよその本性を現したッ!! 連続するヘアピンカーブ!! 1台が通るのがやっとの狭隘なコーナーが、レーサーたちの神経を削り取っていくぅぅッ!!」


フェルリア「……ここからが本当の地獄、そして『彼ら』の独壇場です。気になるのは、やはり山吹花さんですね。STIの強靭なトラクションは、立ち上がりの鋭さで右に出るものはいません。後半のヘアピンが増えるほど、彼女の追い上げは加速するでしょう」


若林「女王イオリのフェラーリが、ヘアピンの旋回で苦悶の表情を浮かべている! 一方で、後方から迫る影はあまりに軽快だッ!!」


フェルリア「花さんだけじゃない……。あの黒川くんのエボ、カナタくんの86、そして……まだ牙を隠している伊藤翔太くんのスイスポに、戦国モードの岡田くんのカローラ。彼ら『軽量・高旋回』組にとって、このヘアピン区間は単なるコーナーではない。上位を仕留めるための『処刑台』です……ッ!!」


カナタ「(……ブレーキを奥まで残し、インの縁石を舐める。86の鼻先が、磁石に吸い寄せられるようにクリップを捉える……。重い車には、このリズムは刻めないッ!!)」


岡田「(ヘアピン一つ抜けるたびに、前の奴らの背中がデカくなる……ッ! 戦国の世なら、ここが奇襲の絶好機だぜッ!!)」


若林「1位・相川美保のR33、ヘアピンの出口でテールが流れる! 必死に抑え込むが、そのわずかな隙間に、カナタの86と花ちゃんのSTIの殺気が突き刺さるぅぅッ!!」


若林「さあ、コース中盤でも熱い火花が飛び散っているぞォォッ!! 8位・古賀加奈子のE46 M3に、9位・柳津雄介のM4 DTMエディションが急接近中だァァッ!! まさに新旧BMW、Mの称号を懸けた身内同士のガチンコバトルだぁぁッ!!」


フェルリア「……これが見たかった。E46はBMWの歴史の中でも最高傑作の一つと言われる名車。加奈子さんの精密なハンドリングが、そのポテンシャルを120%引き出しています。対する柳津くんのM4は、世界限定200台、DTM(ドイツツーリングカー選手権)の技術を詰め込んだ公道の怪物です……ッ!!」


柳津「……加奈子さん、尊敬はしていますが……レースは別だッ!! DTM直系のダウンフォース、その身で味わってもらうッ!!」


柳津のM4が、ヘアピンの立ち上がりで強烈なブーストをかけ、加奈子のリアにピタリと吸い付く。

夕日に輝くマットグレーのボディが、加奈子のバックミラーを威圧的に埋め尽くす。


古賀加奈子「(いいわよ柳津くん、来なさいッ! 最新の電子制御が、このE46の『呼吸』に勝てると思っているの……ッ!?)」


若林「加奈子、ヘアピンの頂点で敢えてリアをスライドさせる! 向きを瞬時に変え、M4のラインを封じるッ!! だが柳津は引かないッ!! ターボのトルクを活かし、わずか数メートルの直線で加奈子のサイドへ強引に鼻先をねじ込んでいくぅぅッ!!」


フェルリア「……世代を超えた『M』の魂が、石巻の峠で共鳴していますね。高回転域で鳴り響くNAの叫びと、空気を切り裂くターボの咆哮……。どちらが勝ってもおかしくない、極限のシンクロです……ッ!!」


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