松島編第57話 VIP
若林「フェルリアさん! 今回のMVP誰だと思いますか? 今のところ、、、このバイパスの熱戦を見ていて!!」
フェルリア「……非常に難しい質問ですね、若林さん。本来ならトップを快走する黒川選手や、氷壁の防御を見せるイオリ選手を挙げるべきでしょうが……。今のこの『混沌』を作り出した功労者という点では、二人の名前を挙げざるを得ません」
若林「ほう! 二人とは!?」
フェルリア「一人は、相川美保ちゃんです。時速$300km$の極限状態で『潮風』を味方につけ、大外から格上のマシンを飲み込んだあの閃光……。14歳という若さでバイパスの支配者として君臨した彼女のセンスは、まさにMVP級の輝きを放っています」
若林「確かに! あのブルーシャークの牙は、視聴者の度肝を抜き続けています!! では、もう一人は……?」
フェルリア「……腹切カナタくんです。スペックだけを見れば、彼の86(200HP)はこのバイパスでは『存在してはいけない』はずのマシンです。$450HP$超の怪物たちに囲まれながら、エンジンの悲鳴を執念で抑え込み、今もなおトップ集団の視界に居座り続けている……。この物理法則を超えたサバイバル能力こそ、真のMVPに相応しい『奇跡』と言えるでしょう」
若林「なるほどォォ!! 才能の美保か、執念のカナタか!! しかし、後方で『4ねェ!』と叫びながらスライド走行を続ける内藤選手や、愛の叫びを上げる佐藤大河選手も、ある意味でこのレースを盛り上げているMVP候補かもしれませんねッ!!」
※それとこれとは違うよ若林笑
内藤「…………あははっ! 何、今のあたし! すっごい醜い声出しちゃった! 恥ずかしー☆」
若林「えぇっ!? 内藤の様子が急変!! たった今までの殺気だった叫びが止まり、まるでシャンパンを開けたあとのような、キラッキラな声に変わったぞォォ!!」
内藤「見て見て、このV10の調べ……最高にハッピーじゃない? バイパスの風も、なんだかあたしを祝福してくれてるみたい! 大河くん、そんなに怖い顔しないで、一緒にこの『最高の夜』を楽しみましょ☆」
佐藤大河「(……っ! 何なんだこの女、急に気色が悪い……。だが、マシンの伸びがさっきまでとは比較にならねぇ……ッ!!)」
内藤の駆る黄色のR8が、先程までの強引なスライドを「ダンス」へと昇華させる。
四輪が路面を滑りながらも、無駄な摩擦を一切感じさせない、極上の『ポジティブ・フミッパスライダー』へと進化したのだ!!
フェルリア「……まさか、情緒の安定(?)によって走りのギスギスした角が取れたというのですか!? 内藤さん、今の彼女は完全に『ゾーン』に入っています。V10のパワーが淀みなく路面に伝わり、コルベットを……一気に引き離しにかかった!!」
内藤「うふふ、バイパスの神様、ありがとう! あたし、今なら宇宙まで行けちゃいそう☆ どきなさいザコども、クイーンのお通りよォォ!!」
若林「ポジティブ内藤、爆速!! 佐藤大河を置き去りにし、さらに11位の伊藤翔太を影さえ踏ませぬ速さで抜き去っていくぅぅ!! 狂乱のハッピー・スライダーが中堅集団を蹂躙するぅぅッ!!」
若林「見ろぉぉ!! 黄色のR8、内藤の加速が止まらないッ!! 狂気的なまでの笑顔を浮かべ、ついに10位を走る『氷の貴婦人』ミルキークイーンの背中に、その鋭い牙を突き立てたぁぁッ!!」
内藤「ミルキーお姉様ァ☆ そんなに重たい車でノロノロ走ってると、ハッピーな風に置いていかれちゃうわよ! あたしのV10と一緒に、天国までドライブしましょォォ!!」
内藤のR8が、バイパスの全車線を使って「ポジティブ・スライダー」を披露する。
左右に激しく車体を振りながら、あたかも「踊っている」かのようにレクサスLC500の周囲を飛び回り、攪乱していく。
ミルキークイーン「……あらあら、随分と賑やかなお嬢様ね。でも、私のティータイムに砂をかけるような下品な走りは、少し教育が必要かしら……?」
ミルキークイーンが冷徹にステアリングを握り直すと、LC500から放たれる「氷のオーラ」がさらに鋭さを増す。
内藤の放つV10の熱気と、ミルキークイーンの絶対零度の結界がバイパス上でぶつかり合い、路面から激しい水蒸気が立ち上がる!!
若林「熱気と冷気の激突!! だが、内藤のポジティブパワーが勝っているぅぅ!! スライダーの勢いそのままに、ミルキークイーンのインサイドへ強引にノーズをねじ込んだぁぁッ!!」
内藤「あははっ! 抜いちゃった☆ バイパスの神様、あたしを愛してくれてありがとうォォォ!!」
フェルリア「……信じられない。あの精密なミルキークイーンさんのブロックを、ただの『ノリ』と『勢い』だけで突破してしまった……。今の内藤さんは、バイパスの物理法則すら味方につけているようです!!」
佐藤大河「何がハッピースライダーだ......ッ!! こんなのレースなんかじゃねェェェッ!!!!」
若林「あぁっとォォ!! 12位を走る佐藤大河、激昂ッ!! 内藤の繰り出すデタラメなスライド走行と、そのふざけた態度に、ついにアメリカンV8の誇りが牙を剥いたぁぁッ!!」
佐藤大河「……エーペックスカップは、こんなふざけてねェェェ!! 俺もハラキリも、美保ちゃんもジュンも……みんな死ぬ気でハンドル握ってんだよ! 遊びでこの速度(領域)に来てんじゃねぇぞオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!」
「ドォォォォォォォォォン!!」
コルベットC8の排気音が、怒気を含んだ地響きへと変わる。
大河は内藤が撒き散らす不規則な気流を、力技でねじ伏せた。
ハッピースライダーで踊るR8の背後に、赤い弾丸と化したコルベットが、殺気すら感じる最短の最短距離で突き刺さる!!
フェルリア「……凄まじい!! 佐藤大河くん、内藤さんのスライドによって生じた路面の『乱れ』を、サスペンションの剛性だけで無視して加速しています! まさに力による粛清!! エーペックスカップを愛するがゆえの、本物のレーサーの走りです!!」
内藤「えっ、何この熱気……!? あたしのハッピーが……燃やされる……!?」
若林「捉えた! 佐藤大河、内藤をロックオン!! ミルキークイーンを瞬時に抜き去り、今、クイーンを嘲笑った黄色のR8の真横に、怒りのV8を叩きつけたぁぁぁッ!!!」
佐藤大河「レースを……ハラキリの戦場を、汚すんじゃねぇぇぇッ!!!」
内藤「もー、なんなのよッ! せっかくハッピーだったのに、あんたのV8がうるさすぎてエンジンがビビっちゃってるじゃないッ!!」
佐藤大河「……ビビってんのは、てめぇの弱気な心だろ!! 遊び半分で踏んでるヤツに、この戦場を走る資格はねぇッ!!」
若林「佐藤大河、猛進!! 内藤のR8が必死にスライダーでブロックを試みるが、佐藤大河のコルベットはその隙間を物理的にこじ開けていく!! 赤と黄色の火花が散り、ついにサイド・バイ・サイドから一車身、佐藤大河が前に出たぁぁぁッ!!」
内藤「なっ……嘘でしょ!? あたしの『ハッピー』が、力ずくで引き裂かれるなんて……!!」
佐藤大河「ハラキリィィィ!! 見てろよ、今、邪魔者を消したぜッ!! お前の背中に追いつくのは、この俺だッ!!」
佐藤大河のコルベットC8が、内藤のR8を地平線の彼方へ置き去りにし、10位を奪還!! その咆哮は、前方を走る佐藤ジュンや山吹花の耳にまで届くほどの凄まじい執念に満ちていた。
フェルリア「……凄まじいですね。佐藤大河くんは内藤さんの不規則な動きを『計算』で避けるのではなく、『意志』でねじ伏せました。エーペックスカップを愛する者としてのプライドが、マシンのスペックを超えた加速を生んだのです!!」
佐藤大河「(待ってろ、ハラキリ……!! お前を倒すのは、いつだって俺なんだ……ッ!!)」
だが、その熱い戦いを嘲笑うかのように、遥か後方から「異質な音」が迫っていた。
時速350kmオーバー。公道の速度を超越したヴェネーノの影が、一気に15位集団を消し去る速度で浮上してくる……!!
若林「佐藤大河のC8が、レモン色のR8を抜き去っていくゥゥゥゥ!!!!! まるでジェット機がプロペラ機を追い越すかのような、圧倒的な速度差だぁぁぁッ!!!」
フェルリア「……驚きました。彼のコルベット、明らかに $700\text{hp}$ クラスのフルチューン機でありながら、今の今までタイヤや燃費、そして熱ダレを完璧に温存していましたよね……。このバイパスの『本当の直線勝負』が始まるこの瞬間まで、彼はあえて牙を隠していたんです」
内藤「な、なによあの加速……ッ!! あたしのR8が、止まってるみたいに見えるじゃないのォォッ!!」
佐藤大河「ハラキリが200馬力で命を削って走ってんだ……。俺が $700\text{hp}$ 振り回して自滅するわけにはいかねぇんだよッ!! 悪いな内藤、ここからは『本物の戦い』だ!!」
「ドォォォォォォォォォッッ!!」
佐藤大河がアクセルを床まで踏み抜くと、C8のリアセクションから巨大な衝撃波が放たれる。
温存されていたフレッシュなタイヤが路面を完璧に捉え、コルベットは文字通りバイパスを「飛翔」し始めた。
若林「佐藤大河、止まらない! 10位を奪還し、その目はさらに前方の佐藤ジュン、山吹花の背中を捉えているッ!! 一気にシングルランカーの喉元へ、アメリカの金獅子が飛びかかろうとしているぞォォォッ!!」
フェルリア「……計算され尽くした『暴走』。彼もまた、腹切カナタくんと同じく、このレースの勝機を冷静に見極めていた一人だったということですね」
若林「さあ! 1位は、、、うおおおっとォォ!?
小岩イオリのフェラーリが黒川海斗に並んだァァァ!!! 300km/hオーバーのサイドバイサイドォォォォォ!!!!!」
バイパスの防音壁が、V12エンジンと4G63エンジンの咆哮で激しく震える。
無敵と思われた黒川のエボIXの真横に、亜麻色の輝きを放つフェラーリ812が、まるで氷の上を滑るような滑らかさで並びかけた。
黒川(んだと......ッ!? 路面が滑るこの超高速域で、ミッドシップで何故そこまで速く走れる、、、、ッ!!? 4WDの俺ですら、リアが流れる恐怖と戦っているっていうのに……ッ!!)
イオリ(ミッドシップは高性能な旋回能力と荷重移動や小回りが利きやすいの……。まるで眠る極寒に浸された岩のようにね。私の『氷岩』は、どんな荒れた路面でも、その重みと冷徹さで平伏させてしまうのよ……)
フェラーリのフロントミッドシップ・レイアウトが、時速300キロの風圧を完璧な荷重へと変換する。
イオリの瞳は、真っ白な雪が降るような静寂に満ちていた。
黒川がどれだけブーストを上げようとも、彼女のフェラーリは「氷の壁」のようにその進路を譲らない!!
フェルリア「……信じられない! 黒川選手のランエボが、加速負けしている……!? イオリ選手はミッドシップ特有の鋭いレスポンスを、この直線域での微細なライン修正にすべて注ぎ込んでいます!! まさに芸術……バイパスに咲く氷の花です!!」
黒川「(……クッ! この俺が……バイパスで並ばれるなんてッ!!)」
若林「いってしまうかフェラーリィィィィ!!!! 320km/hの壁を突き破り、小岩イオリの氷岩が黒川のランエボを完全に引き離しにかかったぁぁ!!」
フェルリア「流石はフェラーリ。トップスピードは、空力性能に優れたミッドシップの方が伸びますからね……。ただ、この先の鮎川区間のようなテクニカルなコーナーは四駆の方が強みがあります。黒川くんにはまだまだチャンスはありますよ。あそこで仕留められると良いのですが……。そこまではまだ距離があるので、今はまだ、体力を温存すべき時間ですね」
黒川「(……鮎川か。フン、わかってるさ。このまま行かせてやるよ、イオリ……。その代わり、コーナーが始まった瞬間に、お前の氷を粉々に粉砕してやる……ッ!!)」
黒川のエボIXが、わずかにアクセルを戻し、フェラーリの強烈な後気流を利用する巡航モードに切り替える。
その眼光は、獲物を逃さない猛禽類のように鋭く、イオリのテールランプを射抜いていた。
若林「黒川、ここは無理をしない! 王者の余裕か、あるいはフェルリアさんの言う通りの戦略か!! だが、後方ではそんな悠長なことは言ってられない男が一人ィィ!!」
佐藤大河「ハラキリィィィ!! 見えたぞ、お前の背中がッ!! 鮎川に入る前に、俺が横に並んでやるぜッ!!」
佐藤大河のコルベットC8が、700馬力の咆哮を上げ、ついに7位・腹切カナタの86の直後数センチまで肉薄!!
バイパスを切り裂くアメリカンV8の重低音が、200馬力の限界で戦うカナタの耳に直接叩きつけられる!!
カナタ「(……来たか。佐藤大河……!! お前の『音』を待ってたよ……ッ!!)」
若林「見ろぉぉ!! 境界線を越えるッ!! 東松島市から石巻市へと入るこの超高速区間、佐藤大河のコルベットC8がついに、ついに腹切カナタの86を捉えたぁぁぁッ!!!」
フェルリア「……あ、佐藤大河くん……ついに追いつくこと出来ましたね、、、腹切カナタくんに。この区間は遮るもののない完全なストレート……700馬力にまで高められたC8のV8エンジンが、その真価を遺憾なく発揮するでしょう」
カナタ「(……この地響きのような音、そしてバックミラーを焼き尽くすような赤い光……!!)」
カナタの86は、すでに時速$240\text{km/h}$を超え、車体全体が悲鳴を上げている。だが、その後方から迫る佐藤大河のプレッシャーは、それを遥かに凌駕していた。
カナタ「、、、、ッ!! 佐藤オオオオオッ!!!!!」
佐藤大河「貴様...絶対に逃がすと思うなよ、、、ハラキリィィィィッ!!!!」
若林「佐藤大河がついに快進撃を始めたァァァ!! 86の真後ろ、スリップストリームを突き破るような勢いで佐藤大河がサイドに並びかける!! 200馬力のNAと700馬力のミッドシップV8、物理法則を無視した宿命の並走だぁぁッ!!」
佐藤大河「ここでお前をブチ抜いて、あのトップの連中を引きずり下ろすのはこの俺だ!! お前の背中を追いかけるだけの時間は、今ここで終わりにしてやるッ!!」
フェルリア「……佐藤大河くんの加速、まだ伸びています。カナタくん、この直線で耐え切れるか!? 彼の86のエンジンが、限界を超えた熱を発し始めています……!!」
ズドオオオン!!!!
ストン!!ゆら....ギャアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!
腹切カナタ「もうグリップは逃したくはない......ッ!!でもC8が後ろから猛然と迫ってきている!!
死守しなければ....!方法を見つけなければ....!!」
次回 石巻ストレート




