松島編第51話 入れ替わる順位争奪戦
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山の麓に引っ越ししましたが通信速度は2.1GBPS出ています。
若林「そして! 古賀加奈子が小岩イオリの812スーパーファストを再び視界へ!!! M3が再び準位の座を獲得することは可能なのか!? 熟練の技が、イタリアの跳ね馬に牙を剥くッ!!」
古賀加奈子「……いい走りね、イオリちゃん。
でも、その綺麗なフェラーリの後ろ姿、そろそろ見飽きちゃったわ」
加奈子のM3 E46が、シルキーシックスの咆哮を上げながら、イオリの812スーパーファストの背後にぴたりと張り付く。
それに対し、先行するイオリはバックミラーを見つめ、少しだけ困ったように微笑んだ。
小岩イオリ「加奈子さん、やっぱり追いかけてくるんですね……。でも、私の後ろは少し……冷えますよ?」
イオリがステアリングを優しく撫でると、初夏の陽光の下、812の周囲にだけ「雪の降る亜麻色の岩」――巨大な氷岩が幻影のように浮き上がる。
それは彼女が司る、静寂と力強さを秘めた氷の守護。
フェルリア「……来ましたね。イオリ選手の『氷岩』の結界です。あれは単なる幻覚ではありません。マシンの周囲の空気を極限まで圧縮・冷却し、後続車へのダウンフォースを乱すと同時に、精神的な威圧感を与えます。優しい性格とは裏腹に、彼女のディフェンスは鉄壁ですよ」
加奈子「(……っ、このプレッシャー! まるで雪山の中を走らされているみたいね。でも、この銀色の翼は……氷くらいじゃ折れないわよッ!!)」
加奈子は氷岩の隙間を縫うように、M3のノーズを右へ、左へと振る。
初夏の熱気と、イオリが放つ氷の冷気がコース上で激突し、松島の空に霧のような蒸気が立ち込めた。
イオリ「私……負けたくないんです。黒川さんに追いついて、みんなに光を見せたいから……。ごめんなさい、加奈子さんっ!!」
氷岩が砕け、その破片がキラキラと光り輝きながら加奈子の進路を塞ぐ!
トップ3の争いは、もはや物理的なレースを超えた、魂と力のぶつかり合いへと突入していく!!
若林「古賀加奈子ォォォ!!! 並んでも抜き返せないッ!!! オーバーテイク失敗に終わってしまう!!!! 2位は引き続き小岩イオリの812スーパーファストが立ちはだかるゥゥゥゥ!!!!」
古賀加奈子「……っ、嘘でしょ!? 今のライン、完璧に捉えたはずなのに……!!」
加奈子のM3が、イオリのインサイドにノーズをねじ込んだ。しかし、次の瞬間、加奈子の視界が亜麻色の霧に包まれる。
812の背後に出現した巨大な氷岩の幻影が、物理的な圧力となってM3のダウンフォースを根こそぎ奪い取ったのだ。
フロントの接地感を失った加奈子は、無念のブレーキングを余儀なくされる。
フェルリア「完全な防御でしたね、、、イオリちゃんは、、、。彼女はただブロックしているのではないんです。自分の周囲に『不可侵の領域』を作り出している。加奈子選手の経験をもってしても、あの聖域を突破することは不可能でした」
小岩イオリ「加奈子さん、ごめんなさい……。でも、今の私は……止まるわけにはいかないんです。みんなの想いを、この光の中に届けたいから……」
イオリの瞳には、慈愛と、それ以上に強い「覚悟」が宿っていた。
初夏の太陽の下で、彼女のフェラーリだけが静謐な雪原の中を走るかのように、気高く、そして速い。
若林「加奈子、一歩後退!! 2位イオリ、1位黒川との距離を再び詰めにかかる!! トップ3の均衡は、依然として氷岩の令嬢によって守られているぅぅ!!」
加奈子「(ハァ、ハァ……)……参ったわね。あんなに優しい顔をして、なんて頑固な氷なんだか……。でも、これで終わりだと思わないことね、イオリちゃんッ!!」
再びエンジンを咆哮させ、赤色の翼(M3)が氷の残像を追いかける!!
若林「さぁ、中継は再び7位争い!! ミルキークイーンの放つ『ミルク氷の結界』に、柳津雄介が真っ向から挑んでいます!!」
ミルキークイーン「あらあら〜……柳津さん。まだそんなに震えていらっしゃるの? 私のミルク氷、そんなに癖になりますの〜……? ほら、もう一度冷やして差し上げますわ♫」
LC500の周囲に展開された絶対零度の領域が、さらにその密度を増す。
柳津のM4 DTMのフロントカウルが、冷気でピキピキと音を立てて亀裂を走らせる。
柳津「(ガチガチと歯を鳴らしながら)……お、お嬢様よぉ……。アンタの氷は、確かに最高だ……。だが、俺は……冷たい飲み物より、湯気の立つ熱いコーヒーと……42度の草津の湯が好きなんだよぉぉッ!!」
柳津がシフトを叩き落とし、アクセルを底まで踏み込む。
M4 DTMのエンジンルームから、氷結を拒むかのような異常な熱気が立ち込めた。
柳津「燃えろぉぉッ!! 俺の情熱!! 湯気を出せ、M4!! これが……源泉掛け流し100%の爆走だぁぁッ!!」
パァァァンッ!!
M4のエキゾーストから、巨大なアフターファイヤーが炸裂。
その熱量は、ミルキークイーンが作り出した「ミルク氷」を瞬時に気化させ、松島の路上に真っ白な「湯煙」を巻き起こす!!
フェルリア「……信じられない! 柳津選手、エンジンの排熱と摩擦熱を一点に集中させ、物理的に結界を溶かしています!! 氷の檻が……消えていく……!!」
ミルキークイーン「あら……? 私の氷を溶かすなんて……野蛮ですわね。でも、その熱気……少しだけ、心地よいかもしれませんわ〜♫」
湯煙の中から、死神の如き形相の柳津が、ミルキークイーンのLC500の真横に食らいついた!!
ミルキークイーン「それでは柳津さん〜...ここからミルク氷であなたをぷるんぷるんにして差し上げますわ〜......ほら〜....」
ミルキークイーンが白い指先で宙をなぞると、初夏の湿った空気が一瞬にして「乳白色の結晶」へと変貌する。
若林「あぁっとぉ!! またしてもだぁぁ!! 柳津のM4 DTMが、今度はさらに巨大な『ミルク氷のキューブ』の中に閉じ込められたぁぁ!!」
それは時速200キロで疾走する氷の彫刻。
柳津のM4は、まるで高級なミルクゼリーの中に閉じ込められた標本のように、その動きを完全に静止させられる。車体はミルキークイーンの言葉通り、分子レベルで振動を凍結され、奇妙な「ぷるんぷるん」とした弾力を持つ氷の檻の中で、慣性すらも奪われていく。
フェルリア「……時間が……止まっているかのようです。ミルキークイーン選手、氷の密度をさらに上げましたね。これは単なる冷却ではなく、物質そのものを『氷の概念』で上書きしています……」
パリンッ……!!
数秒後、ミルキークイーンが満足げに微笑むと、キューブは音を立てて霧散し、M4は現世へと解き放たれる。
しかし、戻ってきたM4のボディは、先ほどとは比較にならないほどの「深淵なる極寒」を纏っていた。
柳津「(……っ!! ……ぁ……っ!!)」
柳津はもはや、叫ぶことすらできない。
肺の中の空気までがカチカチに凍りつき、吐き出す息は白い煙を通り越して、微細な氷の粒となってコクピットに舞う。
ステアリングを握るレーシンググローブは、氷結してハンドルと一体化し、剥がそうとすれば皮膚ごと持っていかれそうなほどの絶対零度。
若林「柳津、再始動できない!! M4のエンジンブロックが真っ白に霜を吹き、完全に沈黙している!! 死神の鎌が、文字通り叩き折られたぁぁ!!」
ミルキークイーン「あら、意外としぶといんですのね。でも、その震えるリズム……とっても美味しそうですわよ〜♫」
LC500のV8サウンドが、凍りついた松島の路面に高らかに響き渡る。
柳津の視界は、寒さによる幻覚か、あるいはミルキークイーンの魔力か、一面のミルク色の世界に飲み込まれようとしていた。
ミルキークイーン「柳津さん〜...ミルク氷、甘くてたまりませんこと〜? そのまま、眠りについてもいいのですわ〜......」
ミルキークイーンのその言葉は、極寒に震える柳津の脳内に、直接「甘い毒」のように響き渡った。
M4のコクピットを満たす冷気は、今や芳醇なミルクの香りを帯び、死の淵に立つ柳津を優しく包み込む。
柳津「(……あ……ぁ……。……あったかい……気がする……)」
矛盾した感覚。あまりの低温は、時に脳に「熱」と錯覚させる。
柳津の視界の端から、松島の初夏の風景が消え、一面の真っ白な雪原と、湯気の立つ幻想的な温泉が交互に現れては消える。
指先の感覚は完全に消失し、重たくなった瞼がゆっくりと、抗いようのない眠りへと誘われていく。
フェルリア「……マズいですね。柳津選手の脳内バイタルが急低下しています。これは物理的な凍結だけでなく、ミルキークイーン選手による精神的な『安楽死』の誘いです……。このままでは、彼はレースどころか、現世に戻ってこれなくなりますよ」
若林「柳津ゥッ!! 目を覚ませェェェ!!
お前、こんなところで寝たら、一生温泉に入れねぇぞォォッ!!」
ミルキークイーンのLC500は、音もなく氷の上を滑り、まるで踊るように柳津を引き離していく。
その後姿は、柳津の霞む瞳には、天国へ導く女神のようにも見えていた。
柳津「……お、温泉……ロッ...露天、風呂……」
力なく呟く柳津。
だが、その時。凍りついた彼の胸の奥で、小さな、しかし消えることのない「一滴の源泉」が、ボコりと泡を立てた。
ギアを叩き込めば山道だって俺の遊び場だ、、、滑る路面?それがどうした。ハンドルは俺が握っている、、、、、
それは、この過酷なエーペックスカップに身を投じた全ての走り屋たちが、その魂の奥底に刻み込んでいる不文律。
最新の電子制御も、数千万円のカーボンボディも、最後は「意志」という名の加速には勝てない。
だが、現実は残酷だ。
腹切カナタと伊藤翔太と山吹花、、、この3人に何らかの覚醒が芽生えようとしていた。
しかし、一向に腹切カナタの86はNA(自然吸気)のまま。
過給器の暴力的なトルクを持たぬそのエンジンは、登り坂のたびに悲鳴を上げ、先行する怪物たちの背中が遠のくのを必死に繋ぎ止めている。
伊藤翔太のスイスポもまた、140馬力のまま。
「軽量」という武器だけで戦うには、この海岸線のハイスピードバトルはあまりにも過酷だ。1馬力、1ニュートンの差が、じりじりと彼の精神を削り取っていく。
そして山吹花も、順位を上げられないままだった。
WRXの四輪駆動がどれほど優秀でも、上位に陣取る「化け物」たちの狂気、あるいはミルキークイーンが放つような超常的な「力」を前にして、彼女の正攻法の走りは突破口を見出せずにいた。
覚醒の光は確かに見えている。
だが、マシンのスペックという「物理の鎖」が、彼らの飛翔を許さない。
初夏の陽光の下、もどかしさと焦燥が、アスファルトの熱気と共に陽炎となって揺らめいていた。
そう、3人の内面に覚醒がみすえていたのであった......。




