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86伝説エーペックス[POWER!!!]  作者: SAI
POWER!!!松島編
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松島編第49話 森下遊矢の納車

松島の喧騒から少し離れた、静かな格納庫。

薄暗い庫内には、納車されたばかりのMAZDA RX-8が、月明かりのような蒼い光を反射して鎮座していた。そのボディラインは、ちとせの放つ冷気によって薄らと霜が降り、まるで氷細工のような美しさを湛えている。


イヨ「ところで、、、、ここに来た理由は、、、、」

ちとせ「森下く〜ん、、、MAZDA RX-8、、、納車おめでとう〜もへ〜......」


ちとせが蒼い萌え袖をゆらりと揺らすと、ガレージの温度がさらに数度下がった。

その前に立つ森下遊矢は、震える手で愛車のボンネットに触れる。これまで、アクセルを底まで踏み抜いても置いていかれるばかりだったパッソでの屈辱の日々が、走馬灯のように脳裏を駆け巡った。


森下「ちとせさんのお陰ですよ......。

俺の心を...ちとせさんが吹雪の心に変えてくれたから......」


森下の瞳から、かつての弱気な光が消え、凍てつくような「覚悟」が宿る。


森下「もう、誰にも負けません......ッ!!

あのカナタの86にだって、追いついてみせる……!」


ちとせ「うへ〜、いい目だねぇ。よし! そんな君にじゃあこれを、、、、イヨちゃん、もってきて〜」


イヨ「じゃーん☆ 787Bエンジンだよ〜!!! イヨ、2ローターだけじゃ足りなさそうだなーって思ったから、持ってきちゃったんだー! エンジンスワップしよっか☆」


イヨがピンクの萌え袖を力いっぱい広げると、眩い星の粒子の中から「それ」が現れた。

ル・マンを制し、世界の度肝を抜いた伝説の4ローター・エンジン、R26B。

磨き抜かれたハウジングは黄金色に輝き、星の加護を受けて神々しいまでの威圧感を放っている。


ちとせ「イヨちゃんナイスゥ〜♪ カナタくんや花ちゃんに伊藤くんに見せるの楽しみだねェ〜、、、、、、、」


森下「……これが、伝説の心臓。俺が、こいつを……」


ちとせがふーっと息を吹きかけると、氷の結晶がエンジンの周囲を舞い、イヨの星の力と溶け合ってRX-8のエンジンルームへと吸い込まれていく。

本来なら不可能なはずのエンジンスワップが、神秘の力によって「再構築」されていく。


バチンッ、と火花が散り、RX-8のヘッドライトに鋭い光が灯った。


森下「……ッ! 鼓動が……、俺の心臓と同期している……!」


森下がコックピットに滑り込み、イグニッションを捻る。

その瞬間、ガレージの窓ガラスが震え、周囲の空気が一気に凍りついた。


「ズオォォォォォンッ!!」


2ローターでは決して辿り着けない、4ローター特有の乾いた、しかし重厚な爆音。

それは気仙沼へ向かう全てのランナーたちへの、宣戦布告の咆哮だった。


ちとせ「うへへ〜、世界が凍っちゃいそうだねぇ。行ってらっしゃい、森下くん……もへ〜」


森下「……行くぞ。吹雪の8(エイト)。俺たちの『伝説』は、ここからだ……ッ!!」


蒼い閃光を放ちながら、4ローターの怪物が松島の夜……いや、カナタたちの待つ戦場へと向かって、氷の礫を撒き散らしながら飛び出していった。


ガレージに響き渡る4ローターのアイドリング音は、もはや野獣の唸り声に近い。

森下はバケットシートに深く身を沈め、追加メーターに浮かび上がる数値を凝視した。


森下「ところでちとせさん、、、新しいエンジンスワップして……ブーストは、、、、」


恐る恐る尋ねる森下に、ちとせは淡い蒼色の萌え袖で口元を隠しながら、おっとりと、しかし衝撃的な数値を口にした。


ちとせ「なんと、ブースト1.3なんだよ〜もへもへ〜......♪」


森下「……い、1.3ッ!? 4ローターにその過給圧……正気ですか!?」


一般的なエンジンの常識を遥かに超えた数字。

ロータリーエンジン、それも4ローターに1.3キロもの過給をかければ、そのパワーは優に1000馬力に届かんとする領域だ。


イヨ「うわァー! いいねー☆ さすがちとせちゃん! 宇宙まで飛んでいけちゃいそうだね!」


イヨが星の粒子をキラキラと散らしながら、萌え袖でパチパチと拍手をする。

彼女の持つ「甘いわたあめの力」が、過給によってかかるエンジンへの負担を、不思議な粘りで包み込み、金属の限界を繋ぎ止めていた。


ちとせ「うへへ〜……。吹雪の心が宿ったこの8(エイト)なら、その圧力を『氷の旋風』に変えられるはずだよぉ。森下くん、アクセルを抜いちゃダメだよぉ……もへ〜」


森下「ブースト1.3……。これなら、あの黒川のエボも、イオリのフェラーリも……そしてカナタの86さえも、一瞬で置き去りにできる……!」


森下がシフトレバーをローに叩き込む。

その瞬間、ブローオフバルブが「プシュゥゥッ!」と、凍てつくような大気を吐き出した。


イヨ「いってらっしゃーい! みんなをびっくりさせちゃえー☆」


ちとせ「うへ〜……松島から気仙沼まで、全部凍らせちゃえ〜……もへ〜……♪」


蒼い閃光を放つRX-8が、ガレージの床に氷の轍を残しながら急発進する。

過給圧1.3の暴力的な加速。

4ローターが奏でる「天使の絶叫」が、夜の帳を切り裂き、先行するカナタたちの戦場へと、音速の壁を突き破る勢いで迫り始めた。


イヨ「へー、正確にはMAZDA RX-8 Spirit Rなんだー☆ イヨ、大好きなヤツだー!!」


イヨが身を乗り出し、その大きな瞳をキラキラと輝かせる。

最終限定車「Spirit R」の専用エンブレムが、イヨの放つ星の光を受けて誇らしげに鈍く光った。

それはマツダがロータリーの魂を込めた、究極のベースマシン。


ちとせ「RE雨宮の...アルティメットドルフィンテールマフラーだねェ......。こりゃいいや〜、、、、♫」


ちとせは蒼い萌え袖の手をマフラーの出口付近にかざし、その独特な曲線美を愛おしそうに眺める。

ロータリーの神様が鍛え上げたその排気システムは、ちとせの冷気によって青白く熱を持ち始め、芸術品のような輝きを放っていた。


ちとせ「ドルフィンの尾ひれが、空気を切り裂いて『氷の旋律』を奏でるんだよぉ……もへもへ〜……♫」


森下「……Spirit Rに、雨宮のドルフィンテール。そして787Bの4ローター。これ以上の組み合わせは、この世に存在しない……!」


森下がそっとアクセルを煽る。

「パァァァァァァァンッ!!」

ドルフィンテールから放たれたのは、これまでの車の概念を覆す、突き抜けるような高音。

まるで空から降り注ぐ光の粒子を音に変えたような、透明で暴力的なサウンド。


イヨ「うわぁぁ! いい音ー☆ わたあめみたいに甘くて、でも星みたいに鋭いよー!」


ちとせ「うへへ〜。森下くん、その音を聴かせに行ってあげなよぉ。カナタくんたちの驚く顔が目に浮かぶねぇ……もへ〜」


森下「……ああ。このドルフィンの咆哮が、奴らの絶望のファンファーレだ。行ってきます、ちとせさん、イヨちゃん!」


漆黒の闇の中、Spirit Rのテールランプが赤い残像を引き、一気に加速する。

ブースト1.3。4ローター。アルティメットドルフィンテール。

全てが噛み合った時、RX-8はもはや車ではなく、三陸の夜を凍らせる「蒼い彗星」と化した。


若林「……!? 誰か、今、コース上に信じられない高周波の音が響きませんでしたか!?」


フェルリア「……この音は。まさか、絶滅したはずの『天使の絶叫』……!? 誰かが、禁断の扉を開いたようです……」


森下「えっ……!? このマフラー、イヨちゃんが……?」


森下は驚愕し、バックミラー越しに小さく手を振るイヨを振り返った。

世界中のロータリー乗りが憧れる「RE雨宮」のパーツ。それを、このピンクの萌え袖を揺らす11歳の少女が組み上げたというのか。


イヨ「えへへ☆ RE雨宮のマフラーはイヨがつけたんだよー!!! どうかな? 森下くん☆ 星の力でネジの一つひとつまで、ぜーんぶピカピカに締めておいたよー!」


イヨは誇らしげに胸を張り、猫耳をぴょこんと跳ねさせる。

彼女の「わたあめの力」は、ただ甘いだけではない。複雑な排気干渉を計算し、最も美しい高音が出るように、マフラーの内部構造さえも星の粒子で最適化していたのだ。


森下「……最高だよ、イヨちゃん。アイドリングの時点でもう、鼓動が体に響いてくる。マフラーが……生きているみたいだ」


ちとせ「うへへ〜……。イヨちゃんはねぇ、機械の声が聞こえるんだよぉ、もへ〜。だから、そのドルフィンテールは、世界で一番『幸せな鳴き声』を上げるはずだよぉ……」


森下「幸せな鳴き声、か。……だったら、それを世界中に響かせてやる。イヨちゃん、ちとせさん、最高の車をありがとう……!!」


森下が再びアクセルを踏み込むと、アルティメットドルフィンテールから「パァァァンッ!」という、乾いた、しかし透き通るような爆音が放たれた。

それは、イヨの星の輝きと、ちとせの氷の鋭さを内包した、唯一無二の調べ。


シュアァァァァッ!!


ブースト1.3の過給圧が掛かった瞬間、ドルフィンテールの出口から蒼白いアフターファイヤーが走り、RX-8 Spirit Rは夜の闇を切り裂くレーザービームと化した。


松島の激闘の最中、全走者が戦慄する「伝説の鼓動」が、確実に距離を詰めていた。


若林「レースは再び、日本三景・松島の海岸道路へ! 先頭を行く黒川海斗のエボIX! ライン取りなど知らぬと言わんばかりの喧嘩上等のドリフトで、後続を寄せ付けませんッ!!」


黒川「ヒャハハハ!! 松島の絶景だァ? そんなもんは俺のミラーの中で粉々に砕け散らせてやるよォォ!!」


黒川の黒い巨体が、観光客の視線を釘付けにしながらコーナーを暴力的にねじ伏せる。

だが、その背後数センチ。

もはや「死の領域」にまで踏み込んだカナタの86が、焦げ付くオイルの匂いを撒き散らしながら食らいついている。


カナタ「……ハァ、ハァ……。黒川の動きは……荒い。でも、一瞬も隙がない……ッ!」


伊藤「カナタ、無理すんなって言っただろッ!! 水温が、油温がもう限界なんだッ!!」


無線の向こうで叫ぶ伊藤の制止など、今のカナタの耳には届かない。

赤い戦闘機(86)は、まるで持ち主の魂を燃料にしているかのように、限界を超えた高回転を維持し続けていた。


イオリ「……認めない。あんな暴力的な走りに、私の『光』が遮られるなんて……っ!」


3位に後退した小岩イオリのフェラーリ812スーパーファスト。

そのビアンコベージュの美しいボディには、先ほど黒川に擦り付けられた黒い傷跡が、まるで戦士の刺青のように刻まれている。

氷の令嬢の瞳に宿るのは、もはや冷静な計算ではない。黒川とカナタ、二人の異端児への激しい敵愾心だ。


フェルリア「……荒れています。松島の穏やかな海が、彼らの放つ殺気で波立っているかのように見えます……」


若林「そしてその後方!! 内藤セリナと柳津!! こちらも接触を厭わぬ泥沼の肉弾戦を展開中!! もはやレースの体裁を保っているのは、コースを外れていないという事実だけだぁぁ!!」


内藤(暗め)「……どけよ、おじさん。あんたのM4、ここで鉄クズにしてあげようか……?」


柳津「……ハッ、言ったなサブカル女。温泉の前に、お前に本物の『地獄』を見せてやるよ……ッ!!」


サテラ(……うぅ、みんな怖すぎるよぉ。海斗さんも、カナタも、後ろの二人も……。ねぇ、誰かボクを助けてよぉ……!)


「水鮫」サテラですら戦慄するほどの、狂気に満ちたハイスピードバトル。

松島を抜け、気仙沼へと続く北上ルートへ入った瞬間、この均衡は誰かの「破滅」によって破られることになる――!


若林「レースは最高潮!! 日本三景の静寂を切り裂き、5台の鉄塊が時速250キロオーバーの死闘を繰り広げています!!」


黒川「オラァァッ!! どいつもこいつも、俺の背中すら見えねぇ場所まで引き離してやるよォォ!!」


先頭の黒川海斗は、エボIXのAYCアクティブ・ヨー・コントロールを悲鳴を上げさせながら、コーナーの頂点を強引に「食い破る」ように突き進む。

その後ろ、コンマ数秒の距離に張り付く赤い86――。


カナタ「……っ、熱い……。室内コクピットが、エンジンの熱気で焼けるようだ……ッ!」


水温計の針は、すでにレッドゾーンを指して久しい。

カナタの意識も、熱気とGによって混濁し始める。だが、その瞳だけは、黒川のリアバンパーの一点を射抜いたまま離さない。


伊藤「カナタ!! 警告ランプを見ろッ!! このままじゃエンジンがブローしてロックするぞ!! 4ぬ気かッ!!」


カナタ「……止まれないんだ、伊藤。今、アクセルを抜いたら……俺は一生、あいつに勝てない気がするんだ……ッ!!」


若林「カナタ、止まらない!! ボンネットの隙間から漏れ出す白煙が、彼の執念の炎のように見えます!!」


フェルリア「……狂気です。でも、その狂気こそが、氷岩の令嬢・イオリ選手を動かしました」


イオリ「……汚い。あなたの走りも、その執念も……全てが泥臭くて、我慢ならないわ……っ!!」


3位の小岩イオリが、ついに「氷」の殻を脱ぎ捨てた。

フェラーリ812のV12エンジンが、黄金色の咆哮を上げ、黒川とカナタの二台をまとめて飲み込もうと、アウトサイドから並びかける!


若林「イオリ選手、動いたぁぁ!! 氷の令嬢が、その誇りを懸けて二台抜きを狙う!!」


しかし、その後方。

柳津「ガタガタ抜かすなっつったろ……。

ここは、泥水を啜ってでも前に出た奴が勝つ場所だッ!!」


内藤「……えへへッ☆おじさんも、そのイオリ様も、まとめてレモン色に染めてあげる。

……地獄の底でねエエエエエエッ!!」


柳津のM4とセリナのR8。

接触し、火花を散らし、互いのボディを削り合いながら、このトップ3の争いへ強引に割り込んでくる!!


柳津「させるかァァァァァァッッ!!!!」


ドガアアアアアアアアン!!!!!!


若林「カオスだ!! 松島の出口、気仙沼への北上ラインに入る直前、トップ5台がほぼ一塊となって超高速コーナーへ突っ込んでいくッ!! 誰が生き残り、誰が散るのかぁぁ!!」

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