松島編第47話 激突!
若林「先頭グループ!!! 小岩イオリのフェラーリ812が、黒川のエボのインサイドへ鼻先を突っ込んだぁぁ!! 抜きにかかるかァァァ!!??」
フェラーリのV12エンジンが、松島の空気を切り裂くような高音を奏でる。
しかし、黒川はミラーを見るまでもなく、その気配に反応した。
黒川「..ッ!! いかせるかよォォォ!!!!!
オラァァ!! とっとこどけやァァァ!!!!!
ぶち殺すぞコラアアアア!!!!!!」
とっとこ黒川w
黒川のエボIXが、まるで生き物のように横へスライドした。
時速200キロ近い超高速域での、躊躇のない「ぶつけ」に近い強引なブロック。
タイヤが激しく鳴り、アスファルトに黒い跡が刻まれる。
イオリ「おっと……。相変わらず気性が荒いね、黒川さん。でも、その程度の威嚇で引くほど、僕は優しくないよ?」
イオリは冷静にステアリングを戻すが、黒川の咆哮は止まらない。
ダッシュボードの般若ステッカーが、まるで黒川の怒りに呼応するように歪んで見える。
黒川「連合の前に立つ奴は、誰であろうとブチ抜くだけだッ!! フェラーリだろうがなんだろうが、俺のケツを拝んでろォ!!」
若林「凄まじい!! 黒川、まさに『特攻』の走り! ラインなんてお構いなしだ! 小岩選手もこれには一旦引かざるを得ないか!?」
フェルリア「……いいえ、若林さん! 見てください! その二人の争いのすぐ後ろ、赤い影が……カナタ選手が、二人の火花を至近距離で浴びながら加速しています!」
カナタ「……黒川の動きは読める。でも、サテラが……」
カナタは前方の首位争いを見据えつつも、バックミラーを埋め尽くすサテラのエボVIIの存在に神経を研ぎ澄ませる。
水鮫――サテラは、黒川が暴れることで生じるわずかな隙間を、カナタが使えないように絶妙な位置取りで「蓋」をしていた。
サテラ(……あはは、海斗さんが怒っちゃった。カナタ、悪いけどここから先は『連合』の領域だよ。ボクを通さない限り、君にチャンスはないからね)
前方は狂犬、後方は静かな捕食者。
「東北爆走連合」の挟み撃ちに、赤い86が飲み込まれようとしていた。
若林「フェラーリがそれでもと言わんばかりに、エボIX MRに襲いかかるゥゥゥゥ!!!! 逃げる黒川、追う小岩イオリ!!」
黒川「……ッ! しつけぇんだよ、お嬢ちゃんがよォ!!」
黒川は、ジャラジャラと鳴る吊り革を掴み直すと、ステアリングを急激に右へ。
黒いエボのボディが、ビアンコベージュに輝く812スーパーファストの美しいサイドに、わざと、確実に、殺意を持ってスライドしていく!
「ガギィィィィィンッ!!」
金属同士が削れる悲鳴が、昼の松島に響き渡る。
しかし、フェラーリのステアリングを握る小岩イオリは、眉一つ動かさない。
彼女の心は、まるで氷の力を持つ岩のように、どこまでも静かで揺るぎなかった。
イオリ「……いいよ、黒川君。その荒々しさ、嫌いじゃない。でも……氷を割るには、君の熱量は少し足りないかな」
イオリの瞳には、冷徹な計算と、その奥に潜む「光」のような純粋な速さへの渇望が宿っている。
接触の衝撃を最小限のカウンターで相殺し、彼女はあえて黒いボディを「壁」にしてコーナーを曲がっていく。
フェルリア「当たっています!! 完全に当たっています!! それなのにイオリ選手、氷のような正確さでラインを一切外さない!!」
若林「なんという精神力! まさに氷の令嬢! 黒川の暴挙を受け流し、光り輝く刃のようにエボのインサイドを抉り続けるぅぅ!!」
カナタ「……イオリ。あんな状況でも、車の挙動を完璧に支配してる……」
カナタは二人の凄まじい攻防を、特等席で見つめていた。
黒川の「黒」と、イオリの「白」。
二つの色が激しく火花を散らすその中心に、カナタは唯一の勝路を見出す。
サテラ(……あーあ。イオリさんを怒らせちゃったね。海斗さん、あの子は一度火がつくと、氷の城を築いて誰も通さなくなるんだよ?)
サテラは後方で「水鮫」の如くカナタを牽制しつつも、先行する二人の激突にニヤリと笑う。
カナタ「……今だ。二人が競り合って、ラインが僅かに膨らんだ!」
赤い戦闘機のタコメーターが、今日一番の跳ね上がりを見せた。
黒川のエボIXが、タイヤを焼く猛烈な煙を撒き散らしながら、カーブのインサイドを無理やりこじ開ける!
ライン取り? バランス? そんなの知ったこっちゃねェ。
黒川にとって走りとは「喧嘩上等」そのもの。
ガードレールが迫ろうが、タイヤがバースト寸前だろうが、相手をねじ伏せ、道の真ん中を独占することこそが彼の正義であった。
黒川「ガタガタ抜かしてんじゃねえぞォッ!! 速い奴が一番偉ぇんだよッ!!」
若林「うわぁぁぁ!! 黒川、インサイドの縁石を完全に乗り越えた! 車体を跳ね上げながら、強引にドリフトでねじ込んでいくッ!!」
フェルリア「無茶苦茶です! でも、あの白煙で後方の視界が完全に遮られました! まるで煙幕を張った戦場です!!」
イオリ「……っ、前が見えない……」
氷岩の令嬢・イオリの視界が、真っ白なタイヤスモークに覆い尽くされる。
冷静な彼女でも、この「物理法則を無視した喧嘩」には一瞬のたじろぎを見せた。
だが、その時。
白煙の向こう側から、真っ赤なテールランプが「光の道標」のようにイオリの前に現れた。
カナタ「……黒川の煙は、右に流れる。なら、左の隙間は空いているはずだ!」
カナタは視界ゼロの煙の中に、迷わず86を突っ込ませた。
目に見える情報ではなく、風の流れと、黒川が撒き散らす「殺気」の方向を読み取った一撃。
サテラ(……あちゃー。海斗さん、煙を出しすぎだよ。それじゃあ、カナタみたいな『鼻の利く』奴には、逆に最短ルートを教えちゃうようなもんだよ……?)
サテラが「水鮫」のように冷ややかに呟く。
白煙を突き抜け、最初に姿を現したのは——。
若林「白煙を切り裂いて飛び出してきたのは……誰だッ!? 赤い、赤いボディだぁぁ!! 腹切カナタ!! 黒川とイオリの隙間を縫って、一気に先頭へ躍り出るかァァァ!!」
黒川「なっ……テメェ、この煙の中を突っ込んできやがったのかよッ!?」
黒川の般若が驚愕に歪む。
松島から気仙沼へと続く長い道。喧嘩上等の黒いエボに対し、赤い戦闘機がその牙を剥いた。
若林「氷岩の令嬢が、、、、、打ち破れないのかァァァ!!!?? 無敵と思われたフェラーリの鉄壁が、今、瓦解しようとしています!!」
イオリ「クッ、、、! 動きを封じているはずなのに離されていく、、、、ッ!!!」
イオリは細い指でステアリングを強く握りしめる。
彼女の計算では、黒川の無茶なドリフトは自滅を招くはずだった。
しかし、その自滅を恐れぬ狂気(熱)が、彼女の氷の計算を上回り、物理的な「壁」となって彼女を押し流していく。
さらに、その混沌とした白煙を潜り抜けたカナタの86が、フェラーリのフロントノーズを鮮やかにかすめていった。
イオリ「……光が見えない。私の道が、あの二人に塗りつぶされていく……っ」
氷のように澄んでいたイオリの視界が、焦りと驚愕で濁り始める。
「光」を持つ彼女にとって、予測不能な黒川の暴力と、カナタの野生は、最も相性の悪い毒であった。
黒川「ヒャハハハ!! お嬢ちゃん、綺麗な車が傷つくのが怖えぇかッ!? だったらそこで指くわえて見てなァ!!」
黒川のエボIXが再び白煙を上げ、テールを振り回しながらイオリの進路を完全に塞ぐ。
それはもはやレースではない。格上のフェラーリを力ずくで「処刑」する、暴走族の封鎖だ!
若林「黒川、鬼の形相! 2位のイオリ選手を完全にロックアウト! その隙に……その隙に腹切カナタが、トップ黒川のテールランプに手をかけたぁぁ!!」
フェルリア「イオリ選手が止まって見えます! これが……これが東北爆走連合の『ナワバリ』
の作り方なんですか……!?」
サテラ(……ボクの言った通りでしょ、イオリさん。海斗さんは一度キレたら、相手が誰だろうと『道』ごと飲み込んじゃうんだ)
サテラは冷徹な「水鮫」の眼差しで、失速するフェラーリを尻目に加速する。
サテラ(さて、カナタ。海斗さんの怒涛の攻撃を抜けたのは褒めてあげる。でも、ボクを忘れてもらっちゃ困るなぁ……!)
先頭集団は松島を脱し、さらに険しい海岸線のアップダウンへと突入する。
氷を砕いた黒き咆哮と、それを追う赤い光。
気仙沼までのサバイバルは、ここからさらなる犠牲者を求めて加速していく。
黒いエボIXが、アスファルトを削り取るような凄まじい蹴り出しを見せる。
バックミラーの中で火花を散らすカナタとイオリを、黒川は猛獣のような眼差しで一蹴した。
黒川「群れるのは嫌いだ、、、、ッ! だがな、、、テッペンは譲らねェ、、、、、ッ!!」
その咆哮は、無線を通じて、そして並走するライバルたちの鼓膜を震わせるほどに鋭かった。
連合の仲間であるサテラの援護さえも突き放すかのように、黒川はアクセルを底まで踏み抜く。
黒川「俺が誰よりも速ければ、それでいいんだよォォォォォ!!!!!」
若林「うおおおぉぉ!! 黒川海斗、加速!! 2位のカナタ、3位のイオリを引き離しにかかった!! 群れることを拒絶し、ただ一人の王として君臨しようというのかぁぁ!!」
フェルリア「何という孤独な……そして圧倒的な走り! 松島の海沿い、三陸の入り口が、黒いエボの咆哮に支配されていきます!!」
カナタ「……っ、引き離される……。黒川、まだあんなパワーを隠してたのか!」
カナタの86も限界までエンジンを回すが、一瞬の直感で道を開いた代償として、直線でのパワー差がじりじりと開き始める。
サテラ(……あはは、海斗さんらしいや。ボクのブロックなんて必要ないってことだね。いいよ、だったらボクはボクのやり方で、テッペンを目指す人を『仕分け』させてもらうからさ……!)
サテラは不敵に微笑み、「水鮫」の如くカナタの背後に再びその影を潜ませた。
一方、屈辱に震える氷の令嬢・イオリ。
イオリ「……譲らない。私の光を、そんな黒い絶望で塗りつぶさせはしないわ……っ!」
気仙沼までの道は、もはやレースの枠を超えた。
己の信念を賭けた、意地と意地の衝突。
黒い咆哮が、昼の三陸路を真っ黒な戦場へと変えていく。
トップ集団の背後、第2集団でも異常なまでの熱戦が繰り広げられていた。
内藤「よーし、いっくよー! セリナの激走、みんなのハートにフミッパスライダーッ!!」
レモン色のAudi R8が、高回転のV10サウンドを弾けさせる。
ポニーテールを振り乱しながら、アイドルの笑顔でアクセルを床まで踏み抜くのは、ポジティブ女子高生・内藤セリナだ。
内藤「うふふ、加速最高! このまま100万ボルトの笑顔で全員ぶち抜いちゃうもんねー!」
若林「出たぁぁ!! 内藤セリナの必殺、フミッパスライダー! 減速を最小限に抑え、滑るようにコーナーを抜けていくッ!!」
しかし、そのレモン色のリアバンパーに、無骨なドイツの怪物が喰らいつく。
柳津「あー……。若い子は元気でいいなぁ。俺なんて、もう肩がバキバキだ。あー、レースが終わったら飯坂温泉の熱い湯に浸かりてぇ……」
柳津雄介、35歳。温泉をこよなく愛する男が、最新鋭のM4 DTM Editionを鼻歌混じりに操る。
柳津「でもよぉ、セリナちゃん。おじさんをあんまり待たせないでくれ。晩飯の時間が遅くなっちまうだろ?」
内藤「おじさん、温泉は勝ってから行ってね! セリナのR8は、おじさんのBMには捕まらないよっ!」
柳津「……おじさん、か。よし、ちょっとだけ本気出すか」
柳津がシフトを叩き落とすと、DTMマシンの巨大なリアウィングが空気を切り裂く。
温泉好きのおっさんとは思えない、冷徹なまでの最短ライン。
フェルリア「柳津選手、速い!! 温泉への執念か、それとも経験の差か! 7位のセリナ選手に猛烈なプレッシャーをかけています!」
内藤「きゃー! おじさん、そんなに詰め寄ったらファンになっちゃうよ!? でも、フミッパスライダーは止められないんだから!」
柳津「ははは、ファンサービスは後でいい。
今はそのレモン色の道を譲ってもらおうか……!」
ポジティブアイドルの光と、温泉おじさんの渋い牙。
気仙沼への道中、中盤戦も一秒たりとも目が離せない展開へと突入した。
フェルリア「この中では、柳津くんのM4が私のお気に入りですね、、、。あの無骨で、でも計算し尽くされた走りは……」
フェルリアの視線が、モニターに映る柳津のDTMマシンに固定される。
フェルリア「……まるで昔の私と妹を見ているかのようです、、、」
若林「えっ!? フェルリアさんって妹さんがいらっしゃるんですか?」
若林が驚きで実況のトーンを落とす。フェルリアは寂しげに、しかし遠くを見つめるような瞳で頷いた。
フェルリア「はい、、、彼女とは双子で同い年なんですよ、、、、。しかし、数年前……海外にある用事があるとだけ言い残して、私の前から去っていきました、、、、」
若林「海外に……。どんな妹さんなんですか?」
フェルリア「子供の頃から、普段は無言でクールでしたね。私とは正反対で、何を考えているのか分からない……でも、一度ハンドルを握れば、誰よりも鋭い牙を剥く。そんな子でした」
若林「……その妹さんが、いつかこのレースに現れることもあるんでしょうか。……おっと! フェルリアさんの昔話に聞き入っている間にも、コース上では柳津のM4が吠えていますッ!!」
柳津でも眼光は鋭く前方のレモン色を捉えている。
内藤「フェルリアさーん! セリナのことも見ててねー! おじさんのM4なんかに、アイドルの座は譲りませーん!」
内藤セリナは無線に向かってピースサイン(!)を送る余裕を見せるが、その背後では柳津のDTMマシンが、吸い付くようなダウンフォースでR8のスリップストリームへと完全に潜り込んでいた。
柳津「……悪いなセリナちゃん。おじさん、湯冷めしちまうんだわ。ここらで『上がり』にさせてもらうぜ!!!」
若林「柳津、動いたぁぁ!! フェルリアさんの言葉に呼応するかのように、M4 DTM Editionが猛烈なオーバーテイクを開始するッ!!嫌な匂いしかしないぞオオオオオオ!!!!!」




