松島編第46話 クランクから飛び出したのは...
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若林「クランクから飛び出したのは、、、赤い戦闘機ィィィ!!!!」「R8やWRXにさらにR33を交わして5位へ!!!」-----松島のタイトなクランクを抜けた瞬間、若林の視界を灼き尽くすような真紅の閃光が突き抜けた。
それはまるで、空戦機が超低空で滑走路をかすめるように、路面スレスレを疾走する赤いスポーツカー。その鮮やかな赤は、夕暮れのアスファルトを血のようになぞり、轟音と風圧だけを残して若林の隣を掠め去った。
「なっ…!!」若林の喉が詰まる。
わずかコンマ数秒の間に、その赤い車体は先行する三台の猛者、アウディR8、スバルWRX、そして日産スカイラインR33の車群に突入。
R8の豪奢な曲線美も、WRXの武骨な四駆の塊も、R33の旧世代の獰猛さも、すべてがまるで静止しているかのようだ。
赤い戦闘機は、その異様なまでの加速力と、ラインを寸分も違えない精密なコーナリング技術で、一瞬の躊躇もなく三台の懐に入り込んだ。
タイヤが路面を鷲掴みにする甲高い悲鳴と、排気管から噴き出す爆発的な破裂音が響き渡る。
R8のドライバーが驚愕に目を見開く暇もなく、WRXのリアバンパーが視界から消える前に、
赤い機体はすでに三台を置き去りにしていた。
若林「交わしたァ!一気に三台だァ!まるで路面の戦闘機だ!これで堂々の5位に浮上だァ!!!」
若林の実況に、観客席の興奮はピークに達した。赤い閃光は、まるで路面に描かれた一本の赤い線のように、後続車との距離を広げていく。
そのテールランプの残像だけが、この瞬間の狂騒的な速度を物語っていた。残るは、頂点を争うわずか四台のシルエットを追うのみ。サーキットに、新たな血の色が刻まれた瞬間だった。
若林「赤い戦闘機が凄まじい勢いで加速し始めて行くゥゥゥゥ!!!」
若林「さっきの三台抜きは序章に過ぎなかったのかァ!?
まだこの先もこの調子で行くのか、赤い戦闘機ィィィ!!!」
エンジン音は、すでに咆哮というより、路面を震わせる「破壊音」の域に達していた。
四速、五速、そして六速へ。シフトアップの度に、車体の真紅は圧縮された弾丸のように凝縮され、アスファルトの上を滑空していく。
赤いテールランプは、一瞬の残像すら残さず、あっという間に前の集団との間合いを詰める。視界の端で、若林のR32のスピードメーターの針が唸りを上げていたが、この赤い閃光が叩き出す速度の前では、まるで静止しているかのように錯覚する。
「速い!速すぎるぞッ!!」若林の叫びが、興奮で掠れる。「路面を這う、紅の超音速機ィィ!前を行く四台のシルエットが、みるみるうちに巨大化してくるゥゥゥ!!!」
それは、追いつくというより、ターゲットを射程圏内に捉えるハンターの挙動。次のコーナーまでまだ距離がある。この直線で、赤い戦闘機はどこまで順位を上げるつもりなのか。観客席の熱狂が、一瞬の静寂を打ち破り、再び狂騒的なボルテージに達した!
フェルリア「やはり、赤い戦闘機はNAでも本性を出してきましたか、、、、、ッ!!」
その瞬間、それまで路面を震わせていた「破壊音」は、質感を一変させた。
爆発的な排気音の隙間を縫って、甲高く、純粋な、金属質の「咆哮」がサーキットの空気を切り裂く。それはまるで、磨き上げられた刀が風を斬るような、澄み切った高音域のハーモニー。ターボエンジンのドロドロとした力任せの加速とは一線を画す、どこまでも滑らかで、それでいて凄まじい「伸び」だった。
NA(自然吸気)エンジン特有の、低回転域でのわずかなもたつきを完全に振り払い、レブリミット目掛けてリニアに、狂ったように回転数を上げていく。若林の目に映る赤い戦闘機のテールランプは、もはや単なる残像ではない。それは路面に刻まれた「純粋な速度」の軌跡だ。
フェルリア「この回転域でのレスポンス、このトルクの張り...やはり、あの音は高回転型のNAですね......!」
観客席の一角で、その車体の秘密を知る者が歓喜にも似た驚愕の声を上げた。
一瞬の油断も許されない超高速バトルの中、その赤い車体だけが、まるで精密機械が組み込まれたかのように、一切のブレなく、路面の僅かなギャップすら無視して突き進む。
NAエンジンだからこそ実現できる、アクセルに対する寸分の遅れもないレスポンスと、タイヤの限界を完全に把握しきったドライバーの神業的なペダルワーク。それは、この直線での加速を、単なるパワーの勝負ではなく、「人車一体」の芸術的なパフォーマンスへと昇華させていた。
カナタの86が、サテラのエボVIIと古賀加奈子のM3の間に割って入る。
サテラ「わわっ! ちょっとカナタ、急にボクのインに飛び込んでこないでよ! ぶつかったらどうすんのさ!」
サテラは慌ててステアリングを微調整しながら、無線でも聞こえるような大声で叫ぶ。
サテラ「……もう、しょうがないなぁ。ほら、そこ空けてあげるから! 別にカナタを応援してるわけじゃないんだからね! ボクが走りづらかっただけなんだから!」
そう言いながらも、サテラはカナタが古賀加奈子の懐に飛び込めるよう、絶妙にラインを外して「道」を作った。
カナタ「……助かるよ、サテラ!」
サテラ「お礼なんていいってば! それより、そのボロい……じゃなかった、大事な86で、前を走る古賀さんをきっちり抜いてよ。ボクを抜いたんだから、負けたら許さないんだからね!」
サテラの激励(?)を背に受け、カナタは加速する。
前方には、ドイツの至宝・BMW M3を完璧に操る古賀加奈子の背中。
古賀「サテラ君、ずいぶんと甘いのね。でも、私のM3はそう簡単には通さないわよ、カナタ君」
加奈子はバックミラー越しに不敵な笑みを浮かべる。
松島のタイトなコーナーが続く中、3位争いはパワーとテクニックがぶつかり合う極限の状態へと突入した。
カナタ「……ここで決める。サテラがくれたチャンス、無駄にはしない!」
赤い戦闘機が、ついにBMWのリアを捉えた。
フェルリア「もう腹切カナタが5位ですか、、、、ッ!!! さっきまで後方にいたはずなのに、信じられないスピードです!」
若林「そうなんですよ!!! 先程のダウンヒルやその直後のクランクを、まるで重力がないかのような速度で駆け抜けてきたんですッ!!!!」
実況席の興奮をよそに、カナタの86はさらに加速する。
5位に浮上した直後、ターゲットはすでに前方のサテラ、そして古賀加奈子へと絞られていた。
カナタ「……まだだ。まだ熱が足りない」
カナタはシフトを叩き込み、レブリミット限界までエンジンを回す。
背後には相川美保のR33が猛追しているが、カナタの視線は一度もバックミラーを見ない。
サテラ「ちょっとちょっと! 若林さんの声がここまで聞こえてきそうだよ! カナタ、ボクのすぐ後ろまで来てるじゃないか!」
サテラはバックミラーに映る「赤い戦闘機」の気迫に、思わず背筋が凍るのを感じた。
サテラ「……ふんっ、いいよ。そこまでやる気なら、ボクが3位の古賀さんを突っつくから、その隙に飛び込んでこいよな! 別に協力してあげるわけじゃないけど、ボクも前が詰まっててイライラしてたんだ!」
若林「おおおっと!! 4位のサテラがラインを変えた! これはカナタを誘い込んでいるのか!? それとも……!」
フェルリア「ツンデレ全開ですねサテラ選手! でも、その隙間を見逃す腹切カナタではありません!!」
赤い86が、サテラのエボVIIのサイドを掠めるようにして一気に並びかける。
松島の潮風を切り裂き、物語はついにトップ3を飲み込む大嵐へと変わっていく。
若林「おっと! カナタが3位に上がったところで、松島町を抜ける高速セクションが見えてきました! しかし皆さん、忘れないでください! このレースのゴールは、遥か北……気仙沼市ですッ!!」
フェルリア「そうです! 松島はまだ通過点に過ぎません! ここからの三陸沿岸道路、そして一般道のワインディング……本当の地獄はこれからです!!」
トップの黒川は、ミラー越しに3位へ浮上したカナタを睨みつける。
黒川「ケッ……松島で仕留め損ねたか。だがよ、気仙沼までの道は長い。ガードレールのねえ崖っぷちも山ほどあるんだ……そこで大人しく棺桶に入りな、カナタ!」
黒川のエボIXが加速し、松島の中心街を抜けていく。
2位の小岩イオリは、余裕の笑みを崩さずフェラーリのV12を奏でる。
イオリ「黒川君も熱くなっているね。カナタ君、君がどこまでついてこられるか、気仙沼までのロングランで試させてもらうよ」
カナタは二人の背後で、マシンの状態を冷静に分析していた。
カナタ「……タイヤもブレーキも、まだ持つ。
松島は抜けたけど、本当の勝負はこれからだ」
カナタは一瞬だけ、遠く北の空を見つめる。
その視界の端には、4位に後退したサテラが必死に食らいつく姿があった。
サテラ「ちょっと! ボクを置いていかないでよ! まだ気仙沼まで半分も終わってないんだから、ボクだって巻き返してやるんだからね!!」
一人称を「ボク」に変えたサテラの叫びが、潮風に乗って消えていく。
一行は松島を後にし、さらに過酷な北上ルートへと突入した。
ジュン「はぁ、はぁ……ま、待って……。みんな速すぎるよぉ……。でも、狼は……獲物を最後まで……諦めない……!」
後方では、白髪のポニーテールを揺らす佐藤ジュンが、瞳に鋭い光を宿して加速する。
気仙沼への道、それは脱落者続出のサバイバルレースへと変貌していく。
昼の松島に、エボIX MRの乾いた排気音が鋭くこだました。
トップをひた走る黒川海斗は、バックミラーに映るフェラーリ、そして赤い86の影を忌々しそうに睨みつける。
黒川「おいおい、、、まだ先かよ、、、、。まぁいい、、、、気仙沼までたっぷり遊んでやるぜ」
ステアリングを握る黒川の手に力がこもる。タービンが過給音を上げ、黒いボディが陽光を弾いて加速した。
黒川「だが、群れるのは嫌いだ、、、。馴れ合いで走ってるんじゃねえんだよ。ただ、誰よりも速くあればいいんだ、、、、、、ッ!!」
黒川の走りが、それまでの「ブロック」から、純粋な「逃げ」へと変化する。
ライン取りはさらに攻撃的になり、コーナーの出口ごとに後続を引き離しにかかる。
黒川「この黒いボディのエボを舐めさせてもらっちゃ困るぜ、、、、ッ!!!!」
若林「おおおっと!! 首位の黒川海斗、ここでさらにペースアップ! 松島の観光客も驚くような、凄まじい加速だ!!」
フェルリア「今のは……威嚇ではありませんね。自分自身の速さを証明しようとする、純粋な『暴走』です! カナタ選手、ついていけるか!?」
カナタ「……速い。黒川の走りが変わった」
カナタは黒いエボから放たれる圧倒的な殺気を感じ取り、ギアを一段落とす。
サテラ「ちょっとちょっと! ボクを置いていかないでよ! 黒川さん、急に飛ばしすぎじゃない!?」
サテラのエボVIIも食らいつくが、黒川の気迫はそれすらも寄せ付けない。
昼間の美しい景勝地・松島を舞台に、黒いエボIXが黒い旋風となって道を支配していく。
しかし、カナタの瞳に迷いはない。
カナタ「速いだけじゃ、気仙沼までは辿り着けない。アンタの限界、ボク……俺が引きずり出してやる」
一瞬、サテラの口調が移りそうになったカナタだが、すぐに自分を取り戻し、赤い戦闘機を黒い影へと突き立てた。
黒いランエボの助手席ミラーには、かつての抗争の象徴か、大量の吊り革がジャラジャラと音を立てて揺れている。
ダッシュボードの中央には、鈍く光る金の仏像が鎮座し、その横には不気味な般若のステッカーが貼られていた。
そして、リアウィンドウに刻まれた、見る者を射貫くような文字。
『夜露死苦ッ!!東北爆走連合2代目黒川海斗』
ーーーそう、黒川海斗はかつての族を伝説として背負ったまま、現代の走り屋として具現化し、蘇らせていたのであった。
黒川「……族だの走り屋だの、そんな枠にボクを……いや、俺をはめてんじゃねえぞ」
黒川は、ジャラリと揺れる吊り革を横目で一瞥し、不敵な笑みを浮かべる。
黒川「俺が走れば、そこが特攻の最前線だッ!! 邪魔な四輪は、全部道を開けやがれッ!!」
若林「見ろ!! 黒川のエボのリアウィンドウ! あの文字は……かつて東北の街道を恐怖に陥れた伝説のチームではありませんかッ!!」
フェルリア「まさか……あの時代の熱狂を、この最新のレースシーンに持ち込んでくるとは!
黒川海斗、単なる暴走族ではありません!
彼は『伝説』を背負って走っているんです!!」
カナタ「……あれが、黒川の背負っているもの」
カナタの視界に、激しく揺れる吊り革と「夜露死苦」の文字が焼き付く。
暴力的なまでの加速、そして一切の妥協を許さないブロック。
それは、かつての族たちが命を懸けて守ってきた「ナワバリ」を主張する走りに他ならなかった。
サテラ「うわぁ……あの人、マジでヤバいグループの人だったんだ……。ボク、あんまり近寄りたくないんだけど……でも、あんなにカッコいいエボ、見たことないよ……!」
サテラが恐怖と憧れの入り混じった声を上げる中、黒川のエボIXは松島の境界線を越え、さらに速度を増していく。
黒川「気仙沼まで……俺のテールランプを拝める奴が、果たして何人残るかなァッ!!」
エボの乾いた排気音が、松島の海面を震わせ、
かつての暴走族たちの亡霊を呼び覚ますかのように響き渡った。




