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86伝説エーペックス[POWER!!!]  作者: SAI
POWER!!!松島編
333/364

松島編第41話-2 松島海岸

若林「山吹花のWRXから、生命反応が消えかけているッ!!

いや、生命を超越した『何か』に変わろうとしているのか!?

乳白色の立方体は、激しいトルネードの中で……今、最も美しく、最も残酷な輝きを放っているゥゥ!!」


松島街道の真昼の光が、三台のボディを一本の熱い閃光に変えようとしていた。

太平洋の水平線が揺れ、潮風が容赦なくフロントガラスを叩く。この崖上区間は、わずかなステアリングのミスが「死」に直結する、まさに極限のランウェイだ。


内藤セリナ「ふふっ☆いい位置にいるじゃん……でも……前に出るのは私の方だよね?」


レモン色のAudi R8 V10が、その低くワイドなミッドシップボディを躍動させ、赤い86の背後で虎視眈々と牙を研ぐ。5.2リッターのV10サウンドが、潮騒を切り裂く超高周波となって、カナタの鼓膜を執拗に攻め立てる。クワトロシステムが路面を鷲掴みにし、86の排圧を吸い込むほどの間近まで詰め寄った。


腹切カナタ「……まだ……読めてる……。次の左、こっちが先に踏む!!」


カナタは歯を食いしばり、非力なNAエンジンから絞り出せる最後の1滴までを路面に叩きつける。路面把握能力を極限まで研ぎ澄まし、海風による車体のわずかな横滑り(スライド)を、逆にコーナーへの旋回力へと変換していく。タイヤの断鳴が、松島の断崖に虚しく響くが、そのライン取りは一点の曇りもない。


若林「トップ争いも接戦ッ!! 松島の海沿いのストレートで、黒いエボとベージュのフェラーリが火花を散らしているッ!! ここは外したら終わりの……崖上区間だァァァ!!」


フェルリア「はい……この区間は“海風が斜めに当たる”んです。目に見えない空気の壁が車体を押し流し、グリップの限界を不規則に揺さぶります。特にフェラーリのような800馬力オーバーの怪物は……踏み方ひとつで一瞬にして外へ跳ね、崖下へ一直線です」


若林「それでも! 812スーパーファストが……黒川のエボに真横ォォッ!!」


小岩イオリ「……でも……ダウンヒルになったら……こっちが勝つ……」


イオリが静かにアクセルを床まで踏み抜く。812のV12エンジンが、神の咆哮にも似た絶唱を上げ、ベージュの巨体が潮風を力尽くで捩じ伏せた。黒川のエボに重圧をかけ、空力デバイスが悲鳴を上げながらも、その鼻先を強引に前へと突き出していく。


黒川海斗「外からいかすかよッ!! ……クッ、行かれたか……まぁいい!! 下りなら……俺がまだ勝負できる……!!」


一瞬、812が前に出た。しかし、黒川も負けてはいない。4G63ターボが真っ赤に焼け、圧倒的な四駆のトラクションでフェラーリの背後を離さない。暴走する重戦車のような加速力が、イオリの背中を虎の如き眼光で見据えていた。


若林「トップ争い、激化中!!! 松島街道は太平洋の海風に揺れて……レースは加速を止めないッ!!」


陽光に焼かれたアスファルトの上、三台の残像が一本の線に重なり、死線を超えた領域へと突き進んでいく。


先頭グループ。

松島街道の真昼の光が、三台のボディを一本の線にまとめようとしていた。


若林「先頭グループ!!!

1位は黒川海斗ッ!!黒のEVO IX MR!!

そのすぐ後ろッ!!

2位の小岩イオリの812スーパーファストが猛追!!

そしてさらに――

BMW M3 E46、古賀加奈子がピタリと張り付くゥゥゥ!!!」


黒川のエボが海沿いのセパレートを蹴り飛ばす。

重心が沈み、4G63が最も鋭い回転域に入る。


黒川「……来んなよッ……812でも……M3でも……食らい下がってくんな……!」


後方、812スーパーファスト。

太陽を吸い込んだようなビアンコベージュのボディが、一瞬だけきらりと跳ねる。


イオリ「……でも……まだ終わらない……

コーナー、次の下り……そこが本番……」


冷静だ。

声は細いのに、走りは鋼の意志を持っている。


そして、そのさらに後ろ。

赤いM3が“音楽のように”ラインを刻んでいた。


古賀「……テンポは……合っている……

前の二台……速い……でも……私が乱れなければ……このM3はまだ伸びる……!」


わずかな縦揺れ。

太平洋側から吹き上げる上昇風が、3台の車体をそっと押し上げる。


若林「これは近いッ!!近すぎるッ!!!

松島街道ッ!!

海沿いのガードレールと車幅の差がほとんどない区間で……

トップ3台が……まるで吸い寄せられるように隊列を組んでいるッ!!」


フェルリア

「はい……

この区間は“路面の水平が乱れる”んです。

海側が、わずかに沈む。

この傾きが、ドライバーのステアリング操作を狂わせます」


若林「それでも!!

黒川のエボは揺れない!!

イオリの812も折れない!!

古賀加奈子のM3は一歩も引かない!!!

三つ巴の首位争いが……松島の海を背景に炸裂しているッ!!!!!!」


エボが、わずかに前。812が、それを射程圏で追う。M3が、呼吸を揃えて迫る。


太平洋の光が、3台の影を細く長く伸ばしていった。


古賀「逃げないでよ、花ちゃん……

まだレースは……ここからが本番なんだから……ッ!!」


松島街道。

トップ3のすぐ後方、4位グループの乱流。

そこへ食い込むように、赤いM3の声が花へ飛んでいった。


WRXのステアリングを握る花は、一瞬まばたきを止める。

心臓の奥に、古賀の声が真っ直ぐ刺さった。


花「先生……ここで……負けるつもりなんて……

最初からないよ……!」


潮の匂い。 風の向き。 桜色の呼気が胸からふっとこぼれる。


花「でもね……先生が言う“本番”って……私にとっては……カナタくんと……前を行く人たち……全員なんだよ……ッ!!」


アクセルを踏む音が重なる。

花のWRXと、前方グループのM3の間に、火花が弾けた。


フェルリア

「古賀さん……あの落ち着いた走りの裏に、燃える芯があります。

花ちゃんに向けて言った“逃げないでよ”……

あれは挑発ではなく、期待と……走り屋としての敬意ですね」


若林「音楽教師が生徒に投げる“勝負の言葉”ッ!!!赤いボディのM3 E46!!!!

松島の海沿いで……

新しい火花が上がったァァァ!!!!!」


黒川「チッ……にしても、あのクソGT-R……ッ

俺たち抜いたと思ったら……また水へオーバーランかよ……ッ!!」


黒川の声には、呆れと怒りが半々に溶けていた。

海沿いのガードレールはまだ濡れている。

そこへ突っ込んで消えたR35ニスモ――相川律の残した“爪痕”が、路面にまだ生々しく残っていた。


イオリ「……相川さん……また……?」


古賀「……リズム、乗れてなかった……

あの速度でズレたら……止まれない……」


海風が一瞬横に流れる。

黒川のエボが、それを切り裂くようにフロントをわずかに傾けた。


黒川「タイヤ減ってんのにアクセル踏み倒すからだよ……走りの“センス”がねェんだ……ッ!!

ったく……海にダイブして何回目だアイツ……!」


若林「黒川くん、ものすごい剣幕!!

相川律ー!!仙台港に続き、またしても松島湾へ消えていった!!

これはもう……伝説というより……事件!!」


フェルリア

「相川律くん……あの子はアクセルワークが荒いんです。

ああいう海沿いの坂では、タイヤが耐えきれません。滑り出したら……もう止まりませんからね……」


黒川「チッ!勝手にやってろ……俺は前だけ見てりゃいい……ッ!!

イオリも古賀も……全員まとめてちぎるだけだ……!!」


その言葉と同時に――

4G63が怒鳴り声のように回転を跳ねさせた。


松島街道を、暴走期のエボがさらにえぐる。

海の青が、その黒い影を追いかけきれないほどに。


若林「ん……ッ!?そんな馬鹿な……!!!」


エンジン音が重なる一瞬。

その渦の中を、黒と青の閃光が縫うようにすり抜けていった。


若林

「先程まで“下の方”にいたはずのBMW M4!!!

柳津雄介が…… 10位にいるゥゥゥゥ!!!!!!

この狭い松島街道で……!!

まさかの8台一気にオーバーテイクッ!!!!!!」


フェルリア

「いや……あれは……

普通じゃありませんね。

下りのセパレートで……あの速度、あの重さで……M4 DTMをあそこまで安定させるなんて……

柳津くん、完全に“覚醒モード”ですね……」


映像が追いつかない。

重いはずのM4が、軽量マシンのようにヒラリとラインを飛び移る。

VAB、C8、FL5、GTS……

誰もが対応できない“異常な加速G”がそこにあった。


柳津「……フッ……この道で怖がってるようじゃ……前は取れねぇよ……!!」


M4が一振りの刃のようにしなる。

重力を押しつぶしたようなライン取り――

まるで路面の傾斜を“吸い込む”ような挙動。


若林

「柳津雄介ァァァァ!!!!

BMW M4 DTM……完全に牙を剥いたァァァ!!!

松島街道の海沿いで……なんと8台をごぼう抜きィィィ!!!!これは反則級の走りとしか見えませんッ!!!!!素晴らしいオーバーテイクの完成だアアアアアア!!!!!!」


フェルリア「……ただし。この後に“タイヤの反動”が来る可能性もある。彼の走りは強烈……そのぶん、消耗も激しいはずです」


だが柳津は笑っていた。

海風を切り裂きながら、さらに前を狙う目で。



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