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86伝説エーペックス[POWER!!!]  作者: SAI
POWER!!!松島編
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松島編第35話 龍の如き桜

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花の声が、風に乗って響く。

海から吹き上げる潮風の中に、ふっと甘い桜の香りが混ざる。

スバルブルーのWRXが、コーナー出口で深く膝を屈めるように沈み込み、タイヤが路面を押し潰す。

花「私の桜風でも……浴びる?」

その瞬間、彼女のWRXがスライド気味に立ち上がる。

タイヤが撒き散らす水しぶきが、ピンク色の霞にすら見えた。

カナタ「……っ!!」

突如、前方に広がる視界が――甘い風に覆い隠される。

ほんの僅かな一瞬。されど、レースでは致命的な視界不良。

花「私は……ここで止まらない」

「私だけの風で……松島に桜を咲かせるんだからッッッ!!」

エンジンの咆哮が、海沿いのストレートに木霊した。

花の“桜狼”が牙を剥く――カナタの“赤い戦闘機”に対して。

白昼の松島サーキット。海のきらめきと戦いの熱気が交錯するなか、花のWRXが吠えた。


サイドに刻まれた【ゼッケン68】――

それは、彼女が選んだ“想い”の数字。


花「カナタくんのゼッケンは86だけど……私は68……」

「無限の数の指数……!私は……いつだって無限に希望があるって、信じてるから……ッ!!」


その言葉と共に、EJ20ターボが牙を剥いた。


ギャアアアアァァァン!!!!!


水平対向エンジン特有の野太い爆音が、大地を這うように響きわたる。

ブーストはすでにピーク。4輪が吠える。スバルの魂が震える。


花「行くよッ……“桜狼”!!私たちの風で……

追い風を起こすんだ!!」


渾身のシフトアップ。タイヤが一瞬だけ空転し、すぐに咬み直す。

その一撃が、前方のフェラーリ812とカナタの86を貫く。


EJ20――20年の歴史を背負った伝説の心臓が、花と共に、無限の未来へと唸りを上げた。


内藤「なんだよ……その風……」

「こっち来んな……ッ!!」


オープンのR8のキャビンに、強烈な“風圧”が叩きつける。まるで顔面を薙ぐような桜色の暴風。


その風には、熱も冷気もない。ただ、意志があった。


内藤「うっそでしょ……!?パワーだけじゃねぇのかよ……あのWRX……ッ!?」


花のWRXがすぐ後ろ。ボディの表面から微細な桜の粒子が舞い、風と共に押し寄せていた。まるでスバルという名の狼が、花の心をエンジンに変えて叫んでいるかのように。


花「……この風はね、私の希望の風なの……!」

「あなたのエンジン音を……かき消してあげるッ!!」


ギュウゥゥゥン!!!


スバル特有の水平対向エンジンが、フェラーリの爆音でもアウディの咆哮でもない“独自の音”で、内藤の心に突き刺さる。


内藤「ちょ……まっ、待てって……冗談じゃねェェ!!」


だが、花の桜風は止まらない。内藤セリナのR8に並ぶ、いや……抜きにかかる。


風が、勝利を運んでくる――。


内藤「えへへ☆ こっちのフミッパスライダーの方が負けてないからねー……!」

「女子高生アイドルがここでくたばる訳にはいかないでしょ……?」


余裕の笑顔――だが、その瞳にはギラリとした闘志が宿っていた。アクセルペダルを半分まで戻し、フロントをぐっと沈ませてから、一気に再加速。


内藤「こっちはねぇ!リアが暴れてからが本番なの!!」


リアタイヤが小さくスキール音をあげ、R8のテールがわずかにアウトに振られる。だがそれを制したまま、R8はコーナーの中腹で姿勢を切り返した。


花のWRXに並ぶ――


内藤「それがァ……フミッパスライダーの踏みしめ加速よッ!!!!」

「ちょっとやそっとの風くらい、アイドルのキラキラで吹き飛ばしてあげるんだからッ!!」

「..ウオオオオオアアアアアオオオオオッッ!!!!」


鋭く吠えるV10サウンド。ハンドルを切りながらも、内藤セリナの両足は一切の迷いを見せなかった。


花「この風はそんな軽いもんじゃないよ……!」

「私の魂ごと、ぶつけてるんだからッ!!」


二台のマシンが、次のS字セクションに突入する――

激突寸前の車間、魂の叫びが路面を焦がす。


花「私の桜風は、、、誰かを倒すためのものじゃないよ、、、」

「優しさと強さを混ぜた風……誰かの心に、ちゃんと届くようにって……」


「痛みや悲しみすら、包み込めるような……そんな風に……なりたかったの……」


ブローオォォォォォォォ……ッ!!!!!!


咆哮するEJ20ターボ。

トルクが巻き上げたのは、風ではない――桜そのものだった。

吹き荒れる風の粒は、舞い落ちる桜の花びらに姿を変え、

その一枚一枚が、まるで誰かの心に届けと願うように流れていく。


花「だから……カナタくん……」

「あなたにだって……この桜風、届いてるって信じてるよ……」


花「お遊びはこれまでだ内藤セリナァァァァ!!!!!」

WRXが牙を剥くようにインを突く。その動きは、まるで獣が風に乗って獲物を追い詰めるかのようだった。


内藤「あ?、、、なんつった?そのボディ今すぐ潰してやっから、、、」

Audi R8のV10が唸る。フミッパスライダー発動の兆しに、周囲の空気が緊張する。


花「桜風の抱擁は、風越の魂……あなたの傲慢な走り、全部包んで吹き飛ばしてあげる……!」


ギュオォォォォォンッッ!!!


内藤「ざっけんなよ桜女ァァァァァ!!!!

女子高生のトップはこのあたしなんだよォォォ!!!!」


両者、真昼の松島――海岸線を裂く風の中、まっすぐに交差する!

咆哮と衝撃、そして互いの鼓動がぶつかる音が、海に響いた。


花「アンタには、、、、強烈な桜風の舞食らわせてやらァァァァ!!!!!!」

スバルブルーのWRXが、ターボチャージの咆哮とともに加速する。EJ20が唸りを上げ、ブーストメーターが針を振り切った。

その瞬間、路面の花びらが舞い上がるように見えた。だがそれは幻ではない。桜風おうふう——山吹花の本気だった。

内藤「っざけんなよ!!誰が食らうかそんな桜味の必殺技ィィィ!!!」

R8が鋭く切り返す。フミッパスライダーの切れ味、再び。

花「舞って、咲いて、ぶつかるまでだよ……!」

ギャワアアアアアアアアアアアア!!!!!!

松島のS字。海に張り出す崖沿いのコーナーで、二台は火花を散らすような距離で併走した。

R8のリアが一瞬滑り出す。花の風が、走行ラインを乱したのだ。

内藤「チッ……またその風か……けどな!!!」

「こっちの方が上なんだよッ!!R8のグリップ舐めんなァァァァ!!」

だが、花の目は逸らさない。――攻めるのは今しかない。

花「桜の風はね……春にだけ咲くんじゃないんだよォォォォッ!!!!」

「季節も、道も、気温も!全て吹き飛ばして進むの!!!!」

内藤「くっ……こんなっ……あたしが……押されてんの!?」

バチンッ!!!

タイヤとアスファルトが奏でる暴風の舞踏。

龍の如き桜が、白熱のアイドルランナーをのみ込もうとしていた。

内藤「押されてる……だと!?この私がァァァ!?」


咆哮。

赤いR8が下りのカーブでテールを滑らせながらも、執念でステアをねじ込む。滑らかさの中に宿るのは、女子高生らしからぬ獣のごとき闘争心。


内藤「負けねぇ……絶対に負けねぇ!!」

「こんなとこで沈んだら、アイドル失格なんだよッ!!!!」


その横。

桜色のタービュランスを纏ったWRXが、ピッチングに合わせてわずかに姿勢を低くする。

EJ20の鼓動が鼓膜を打つたびに、桜の幻影が巻き上がる。風は視界すら歪ませ、車体の周囲に霞がかったオーラを生む。


花「セリナ……今のアンタ、まるで……夢を追う自分に酔ってるだけだよ」

「でもね、本当に届かせたいものがあるなら……迷ってちゃダメなんだよッ!!!!」


ブレーキの火花が散った!

二台が同時にフルブレーキング!


鋭角の下り左コーナー。インを突いたのは花。WRXの鼻先が赤いR8にかすかに割り込む!


内藤「来させるかァァァ!!!!!」

「このフミッパスライダーで、桜もろとも沈めてやらァァァ!!!!」


赤い閃光が路面を切り裂いた。

フロント荷重で生まれる瞬間的な横G。テールがわずかにスライドし、白煙が尾を引く!


けれど花は叫んだ——


花「その軌道、全部読んでるよ……!あたしはずっと、あんたの走りを見てたッ!!」


ギャワアアアァァァ!!!


ターボが吠えた!


スバルの四輪駆動が路面を捉え、内藤のわずかなスリップを見逃さず、外からの加速でねじ込む!

シビれる瞬間だった。わずか数センチ、いやミリ単位の差でWRXが前に出る!


内藤「ふざけんなァァァ!!!

まだ……まだっ!!!!!」


だが、風は強かった。

桜色の風は、まだ咲き誇ろうとしていた。


花「さよなら、セリナ……」

「次はもっと強くなって、あたしの前に立ってよ……!」


内藤「ウオオオオオ!!!前になどいかせるかアアアアア!!!!!」


後方ミラーに映る赤いR8が、どこまでも遠ざかっていく。

風が吹いた。


それは、勝者だけが感じる——強さという名の余韻だった。


──次のターゲットは、黒川海斗。

赤いエボ9、そしてその先の栄光の頂。


桜風が再び唸りを上げる。


花「次は……あんたよ、黒川……!」


ガアアアアン!!!!!!!!


乾いた衝撃音が山肌に響き渡った。

突如として響いた鋼の軋みとガラスの粉砕音。

峠のカーブ——その内側で、レモン色のR8が激しく跳ねていた。


内藤「えへへ☆負けちゃった……」

ハンドルを握る手は震えている。

「じゃあさ、フェイントバージョンで——もう一回だけ……見せ場、作っちゃおっかなぁ〜……!」


悪びれない声色。しかしその瞬間、彼女の視界に入り込んだのは……真横から迫る桜の一閃。


ギュルルルッッ!!!


花のWRX——スバルブルーの車体が、流れるようなカウンターを繰り出しながら、異常なまでの加速で飛び込んでくる。


花「させない、、、、、、」


その声には、微笑みも情けもなかった。

——まるで龍が空を裂くような、清らかでいて強烈な風。

それが花の走りだった。


EJ20が吠える。爆発的なブースト。

ピッチングを制御したままイン側のラインへ身体ごとねじ込むWRX。


ブレーキランプが一瞬だけ灯る。

**バチン!**と火花が飛んだ。サイドミラーが擦れ、R8がはじかれるようにラインを外れた!


内藤「なにっ!?!?」


ステアを切る暇すらなかった。

わずかに浮いたタイヤが空転し、アスファルトに爪痕を残す。


R8は跳ね、バンパーを縁石に擦りながら**ガアアアアン!!**と音を立てて横滑り。

ラインを外れた。加速も失った。


——そこには、圧倒的な“気迫”があった。


花「その車体、遊び半分で振っていいレベルじゃない……!!!」

「わたしの走りはね……浸透する力。桜風ってのは、ただ優しいだけじゃないんだよ、、、、ッ!!」


風が吹いた。

夜の海風とは違う、峠を登る桜色の突風。


その風に乗って、WRXが駆け抜けていく。


内藤は、立ち尽くすようにハンドルを握りしめたまま、ゆっくりと息を吐いた。


内藤「……やっぱ強いわ、アンタ……」

「桜風ってさ……優しいだけじゃなくて、強いってことなんだね」


レモン色のR8は小さくなっていった。

その向こう。空に咲き誇るかのように、スバルブルーのWRXが夜を切り裂いていた。


山吹花のWRX STI VABは、タービンの過給音をキーンと響かせながら、ブースト圧を鋭く維持していた。

すでに黒カラスの影が目前に迫っている……が、今はまだ攻めきらない。


花「でも、、、ちゃんと抑えてる、、、、」

「いけるよね?WRX、、、、ッ!」


ステアリングを握るその指先に、微かな緊張と高揚が走る。

心拍と回転数がシンクロしていくような感覚。


バンパーに入るエアフロー、冷却されたEJ20が静かに火を灯す。


その視線の先には、暴走する黒川のEVO IX MR。

まるで影を纏ったかのように、路面を這うような鋭い動き。

だが、花のWRXは風と共にある。


花「……カナタくんも来てる、、、セリナは沈んだ、、、なら私が先頭を引きずり出す……!」


風の中に、微かな桜の匂いが満ちていく。

それはもう、ただの排気音やタイヤスキールではない。

戦場に咲き乱れる、疾風の桜――


WRXが、一段上のゾーンへ踏み込んでいく。


ダウンヒルのS字。

勾配の変化がラインを乱す中、赤い86が鋭く切り込んできた。


カナタ「……ここだ!」


ギィィィィィンッ!!!!


突如、86のエンジンが高回転で咆哮をあげる。

シフトダウン――あまりにも鋭すぎるギア操作。

エンブレが効く瞬間、後輪がわずかに跳ねる。

それでも車体は暴れない。カナタの両手が、限界のその先で86を制していた。


花(来た……カナタくん……)


スバルブルーのWRX STIのリアに、赤い影が忍び寄る。

ただのNAじゃない。あれは――意思を宿した鋼の獣。


花「行かせないよ、カナタくん……」


クラッチミートと同時に、花のWRXがギャップから跳ねた。

だが、彼女は怯まない。


アクセルは全開。

EJ20ターボがブーストを溜め、路面に吸い付くように加速する。


後方の86もそれを追う。


カナタ「……ここで見せる!俺の全てを!」


花(でもね、私は負けない……!)


それは、風と風の交差。

桜と赤い戦闘機――二つの風が火花を散らすようにコーナーを抜けていった。


次の瞬間、彼らのマシンが完全に並んだ――!





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