松島編第30話 白いレクサスの最後の足掻き
ドオォォォォォォンッ!!!!!!
濃紺のLC500がブレーキランプを点滅させた次の瞬間、チャンピオンイエローのスイフトスポーツが鋭く飛び込んできた!!!
伊藤「見えたぜ……この一瞬ッ!!」
伊藤翔太のZC33S、軽さと立ち上がり加速を武器にミルキークイーンのLC500に襲いかかる!!!
直線ではパワー差がある。しかし――この松島のコーナーリング、特に下りのS字セクションは、軽量ハッチの舞台!!!
ミルキークイーン「ん〜?…あらあら、来たのねぇ〜……」
スイスポが右に膨らむLCのインをえぐるッ!!!
若林「来たああああ!!!伊藤翔太のスイフトスポーツ!!!LC500の内側ァァァァ!!!コーナーの入りで一気に詰め寄ったァァァ!!!」
フェルリア「このS字……軽さが効いてきましたね……!LC500もレクサスの中では走り志向ですが、やはり車重があります……!」
伊藤「もらったァァァァァァァ!!!!」
ギャアアアアアアアアアアンンン!!!!
車体を右へ右へと振りながら、ミルキークイーンのラインのさらに内側へとスイスポが飛び込む!!!
ミルキークイーン「んふふっ、やるじゃない〜……でも、油断したら……ぎゅって捕まえちゃうんだから♪」
若林「完全に抜いたァァァァ!!!14位だった伊藤翔太がここで13位浮上!!!!しかも前には岡田のGRカローラが見えてきたぞォォォ!!!」
フェルリア「さあ、ZC33Sが次に狙うのは……12位圏内。軽さのスイフトが、パワーの暴力に挑みます。」
伊藤「へっ、そんなトロいLCで俺を止められると思ってんのかよ……!」
ミルキークイーン「まあ……お口が悪いですわ〜……」
その瞬間、スイフトスポーツのリアタイヤが一瞬路面を蹴るように滑った。
だが、それすらも伊藤の計算のうち。
カウンター気味に車体をねじ込みながら――LC500のラインを食う!!!
ミルキークイーン「ふふっ……でも、わたくしのレクサス……ただ重いだけではございませんのよ?」
再加速、V8の豪快な咆哮があたりに響き渡る。
ブレーキングの差で詰められていた距離が、直線でわずかに縮まる……!
ミルキークイーン「伊藤さん……このまま抜けるかどうか、試してごらんなさいませ……?」
伊藤「言われなくても、もうとっくに試してんだよ!!」
若林「うおおおおおっとォォォ!!!ミルキークイーン!!!引いてない!!!これは真っ向勝負だァァァァ!!!」
フェルリア「レクサスLC500……確かに重量級ですが、リアのトラクション性能は極めて高い……。下りのストレートにかけて、差は一気に詰まり始めています!」
ミルキークイーン「甘く見ると……きっと凍っちゃいますわよ、伊藤さん♡」
伊藤「へっ……だったら、俺はその氷をぶち破るだけだッ!!!」
二台が絡み合うように、次のカーブへ――
後方からは芽衣の911も迫りつつあるッ!!!
そして前方、12位・GRカローラ岡田のブレーキランプが遠くに見え始めた――!
ミルキークイーン「ミルク氷、タイヤにつけて差し上げますわ〜……ほら〜……♡」
彼女の声が、まるで静かな雪解けのように甘く――しかし底知れぬ冷気を含んでいた。
LC500のテールランプが妖しく赤く輝き、その巨大なリアフェンダーの内側で……まるで氷柱のようにタイヤから白く冷えたスモークが立ち昇る。
ミルキークイーン「伊藤さん……♡あなたのタイヤ、少し温まりすぎではなくて……?」
その言葉と同時に、彼女はステアリングを微細に切り込み、わずかにアウトへとスライドする。
LC500の車体は重たいはずなのに――滑るように、しなやかに。
スノードリフトのような冷たい滑りが、後輪から路面を覆い始める……!
伊藤「なんだと!? タイヤが……冷えてやがる……!」
スイフトスポーツの足まわりが、わずかに硬直。
温まったはずのタイヤグリップが、一瞬、氷の膜を貼ったかのように反応を遅らせる。
ミルキークイーンの“ミルク氷”――それは、ただの比喩ではない。
ミルキークイーン「このミルクのように優しい氷のベールで……ふふふ、少しだけ、足止めですわ♡」
伊藤「クソッ……!ふざけんなッ……!!
あのレクサス……!!」
若林「おっとおおおお!!!
スイスポの挙動が乱れたァァァ!!!」
フェルリア「冷却効果……いえ、これは意図的なトルクコントロールによる幻惑ですね……ミルキークイーン、ただの優雅なお嬢様ではありません……!」
再び立て直すスイスポ。だが、ほんの数秒のロスが明暗を分ける。
その隙に、ミルキークイーンはふわりと笑みを浮かべたまま、コーナーを滑るように抜けていく――
ミルキークイーン「焦らずに、ゆっくり……わたくしのミルク氷、味わってくださいまし♡」
ミルキークイーン「もっと冷やして差し上げますわ〜……」
「私、なんでもマイナス一無量大数度まで冷やせますので〜……うふふ……」
その囁きと同時に、LC500の周囲の空気が変質した。
温度が下がる、というより――時間そのものが遅くなる。
排気の白煙が霧ではなく、結晶の粒となって砕け、路面に触れる前に凍り付く。
伊藤「……は?」
次の瞬間、スイフトスポーツのフロントが“吸われた”。
グリップが消えたわけじゃない。奪われた。
タイヤの表面温度が一気に引き剥がされ、ゴムが路面を掴む“意思”を失う。
ミルキークイーン「大丈夫ですわ」
「すぐに滑るわけではございませんの」
「ただ……反応が一拍、遅れるだけ」
LC500は優雅にアウトへ。
重い車体が沈み、サスが縮み、リアが“静かに”仕事を始める。
踏み増していない。切り足してもいない。
冷えた空気の層に、車体を預けている。
若林「う、動きが……違う!!」
「LC500が……路面の上じゃない!!空気の上を走ってるみたいだァァ!!」
フェルリア「冷却ではありません」
「位相のずらしです」
「タイヤ、路面、空気――三者の反応速度を意図的に変え、相手の入力を“空振り”させている」
伊藤「くそっ……ハンドルが……遅い……!」
切った分だけ返ってこない。
踏んだ分だけ前に出ない。
自分の操作が、半歩後ろに置いていかれる。
ミルキークイーン「急がなくてよろしいですわ」
「冷えたミルクは……焦ると、分離してしまいますから」
彼女は笑う。その笑みは柔らかく、そして冷たい。
LC500のリアから伸びる白い帯が、まるで霜のカーテンのようにスイスポの進路を覆う。
若林「伊藤、耐え切れるかァァァ!!???
次の切り返しが迫るウウウウウウウ!!!!!!」
伊藤「……耐えるさ」
「でもな……割れる前に、叩き割る」
スイスポが一瞬、アクセルを抜いた。
次の瞬間、熱を入れ直す。
ブレーキで、タイヤで、意地で。
冷やされた分だけ、燃やし返す。
ミルキークイーン「……まあ」
「まだ、折れていませんのね」
LC500のテールが揺れる。
だが距離は、まだ一台分。
凍結は続く。攻防は続く。
氷の女王と、熱を信じる小さな獣――その勝負は、まだ終わらない。
ミルキークイーン「もっと冷やして差し上げますわ〜……」
「わたくし、なんでもマイナス1無量大数度まで冷やせますので〜……うふふふ……♡」
柔らかく響くその声とは裏腹に、LC500が放つ旋回は一切の容赦がない。
白いスモークに混じって立ち上る淡い冷気――ミルキークイーン特有の“優雅なる冷却支配”。
そのたびに、伊藤翔太の視界を覆うのは、まるで舞い落ちるミルクの結晶だった。
ミルキークイーン「ほらほら……前を走っていますけど……ブレーキングはどうしましたの……?」
その言葉に――ほんの一瞬、伊藤の集中が途切れた。
ギャアアアアアアッ!!!
若林「伊藤翔太ァァァァァァ!!!ブレーキングが遅れてしまったァァァ!!!!!」
「このままだと……このままだと場外に出てクラッシュしてしまうぞおおおお!!!!!!」
カナタ(通信)
「伊藤……!!大丈夫か……ッ!!?」
花(通信)
「......伊藤くんッ!!」
タイヤが悲鳴を上げる。
スイスポは、ギリギリのグリップを掴んだまま、曲がりきれないはずのコーナーへと飛び込んでいった。
しかし。
伊藤「……行け……っ!!曲がれええええッ!!!」
一か八か――ハンドルを切り込み、姿勢を横に投げた。
まるで、後ろから突き飛ばされたように、スイスポのリアが流れる。
クォーターパネルがギリギリ縁石をかすめ――白煙とともに、高速ドリフト状態へ。
スイスポが、走った。
伊藤「……あぶね……ラッキーだった……っ!!」
「一か八か、ハンドル切ったら曲がった……!!」
「九死に一生を得てしまった……っ!!!」
ミルキークイーンの冷気そのものが原因ではなかった。
だが――視線、意識、感情。全てを囚われたのは彼自身だった。
フェルリア「まさに……氷姫の幻惑ですね……あの優雅なライン取り、優しげな言葉……それに飲まれて、実際のブレーキポイントが見えなくなるんです……」
若林「伊藤翔太ァァァァァァァ!!!持ち直したァァァァァ!!!
スイスポ、ドリフトしながら高速コーナーをクリアしたァァァァァ!!!!」
実況席が揺れる。
観客席が沸く。
――それでも、ミルキークイーンは後方ミラーに目を向けることなく、微笑んだまま次のセクションへ消えていった。
ミルキークイーン「まだまだ冷やし足りませんわ~……♡」
ミルキークイーン「そろそろ……本気であのスイスポのタイヤをぷるんぷるんにして差し上げますわ〜……♡」
「もちろん、その後にボディも……車内も……エンジンも……そして……ドライバーも……うふふ☆」
その声はまるで、冷たい雨粒が頬を滑るような、凍てつく甘さ。
白銀のLC500が、コーナー出口から淡く霧のような冷気を残しながら加速していく。
後方、そこに迫るはZC33S――スイフトスポーツ。
伊藤「そうはいくかよォォォォ!!!!!!!!!」
「......ッ!!????」
ぎゅ……ぎゅぎゅ……
わずかな路面の変化。
前輪が捉えたそれは、普通の水でも、オイルでもない――柔らかく、粘りのある異質な“冷気”。
それがタイヤと路面の隙間に染み込み、トレッドを揺らす。
ぷる……ぷるぷる……
伊藤「うわっ……また滑った……!これって……マジでタイヤが……!」
わずかに揺れるステア。グリップはある。けれど、安定感が消えていた。
まるでタイヤがゴム風船のように、跳ねる、うねる、揺れる。
フェルリア「“ミルク氷”ですね……車体の周囲に微細な冷気の粒子を残し、それが空気と混じり路面に薄い粘着層を作るんです……」
「しかもこの冷気は、熱を吸収する特性を持っていて、タイヤの温度を強制的に“冷やして”しまう……」
若林「ぷるんぷるんってそういう意味かよォォォ!!!!スイスポのタイヤがまともに踏ん張れなくなってるゥゥ!!!」
伊藤「冷気だけじゃない……あの女……路面そのものを、武器にしてるってのか……!」
ミルキークイーンの車体から漂う冷気は、まるで氷の吐息。
それが後続へと残り、追いつこうとする相手を、あたかも“冷たく甘い罠”のように絡め取る。
ミルキークイーン「このままタイヤだけで済むと思わないでくださいね……?」
「そろそろ、エンジンも冷やし切って……動かなくして差し上げますわ〜……♪」
伊藤「させるかよ……ッ!!俺のスイスポは、こんなもんで止まらねぇ……!!!」
だがその刹那――車内の窓が曇り始めた。
伊藤「……なっ……!? うそだろ……車内まで冷気が……」
ミルキークイーン「うふふ……エアコンの設定はそのままでしたのね……♡」
「外気導入にしていると、わたくしの吐息……そのまま入ってきてしまうんですのよ……?」
車内の温度が急降下。
シフトノブが冷たくなり、ダッシュボードの端に、うっすらと霜がつき始める。
伊藤「ふざけんな……!クーラーなんて切ってるはずだろッ……!」
フェルリア「無駄です……あの子の冷気は、車両の通気ルートや隙間すら利用して侵入してきます……もはや魔法ですね……」
若林「伊藤翔太ァァァ!!!一気に車内温度が下がっていくゥゥ!!あの甘い氷姫、マジで一人で地形と空気を支配しているゥゥゥゥ!!!!」
――スイスポが、揺れる。
その姿は、ひたすらに戦っている一匹の小獣のようだった。
そして前を走る白銀のLC500は、なおも美しく、なおも優雅に、凍てつく魔法をまき散らしながら、笑っていた。
ミルキークイーン「まだまだぷるんぷるんにして差し上げますわ〜……♡」
ミルキークイーン「もっと……ぷるんぷるんにして差し上げますわ〜……♡」
甘く艶やかな声が、LC500のマフラー音に溶けていく。
その瞬間、路面の一部が――揺れた。
ブシュゥゥゥ……
エキゾーストの熱に反応するように、タイヤの真下から立ちのぼる、薄い蒸気の膜。
それは冷気によって一度“凍りかけた”水分が、再びわずかに温まって気化し、表面に“粘り”と“滑り”を与えるミルキークイーンの絶技――
ミルキークイーン「もっともっと……スイスポちゃんをぷるんぷるんのゼリーみたいにしてあげますわ〜……」
「タイヤが弾けて……足回りが震えて……エンジン音が震え出して……最後はドライバーの鼓動までも……」
ぎゅう……ぎゅぐぐぐぐ……
見えない何かが、伊藤のスイフトを締め付ける。
フロントタイヤが波打ち、リヤサスがギシギシと音を立てて軋む。
車体がわずかに左右に揺れ、まるで“車ごと震えている”ような異常挙動。
伊藤「くっ……なんだよこれ……まっすぐ走れねぇ……!!!」
ミルキークイーン「もう少しでタイヤの内側の空気までぷるんぷるんにできますわ〜♡」
「その時は……パンッ☆って……全部割れちゃいますわよ?」
伊藤「ふざけんなッ!!! こっちは軽で、FRじゃないんだぞ……!!!」
「……絶対に負けねぇ……こっちにはこっちの走りがあるんだよッ!!」
タイヤがスキール音を鳴らしながら、伊藤は無理やりステアリングをこじる。
滑りかけたリアをカウンターで押さえつけ、限界ギリギリのラインでコーナーを脱出する。
若林「伊藤翔太ァァァ!!!またしても耐えたァァァ!!!」
「だがLC500の冷気攻撃はまだ止まらないぞおおお!!???」
フェルリア「次で決まりますね……もし伊藤くんが次のS字でバランスを崩したら……おそらく終わりです……」
ミルキークイーン「ふふ……ふふふふ……」
「あなたのスイフト……もう、ぷるぷると震えてるのが見えますわ〜……♡」
「次で……ぷちゅんって……全部凍らせて差し上げますわ〜……」
伊藤「かかってこいよ……LC!!!」
「このスイスポの魂……テメェのアイスじゃ、凍らせられねぇってことを……教えてやるッ!!!」
その後方――
蒼い風が、トンネルの奥から突風のように駆け抜けてきた。
若林「きたああああああ!!!15位からポルシェ911カレラGTSォォ!!!
山吹芽衣だァァァァァ!!!!」
スバルブルーに近い、少しだけ紫がかった特注カラーの911カレラGTSが、鼻先を低く構えながら、LC500とスイフトスポーツの戦場に割り込む。
ギュアアアアアア!!!
重低音の水平対向エンジンが吠えた。
後方から噴き出すフラット6サウンドの咆哮は、冷気すら切り裂く薫風のよう。
伊藤「えっ……!? この音……ポルシェ……?」
ミルキークイーンの冷気によって“震え始めていた”空間に、一陣の温風が流れ込んだ。
芽衣「伊藤くんに……手出しはさせない……」
「この区間で冷やすなんて、あんた……ちょっとお行儀が悪いんじゃないの……?」
ギュギュギュギュンッ!!!
タイヤが路面をつかみながら、911がするりとLC500の右側へ割り込む。
タイトなコーナーで信じられない速度。
それでも芽衣のポルシェは一切のスライドすら見せない。
ミルキークイーン「まぁ〜……どちらさまかと思えば……山吹芽衣さんじゃありませんか〜……♡」
「ええ、もちろんあなたのことは知っておりますわ〜……でも……わたくしの氷に太陽が敵うと思いまして……?」
芽衣「太陽じゃない……あたしのは“風”だよ……」
「そのぷるぷるした氷の膜を……根こそぎ吹き飛ばすだけ」
ポルシェの横っ腹から、微かに震える“空気の渦”が見える。
コーナーのたびに巻き起こる乱流が、まるで吸い込むようにLC500の冷気を後方に追いやっていく。
ミルキークイーン「……ふふっ……ふふふ……」
「良いですわ〜……“温風”という名のカレラちゃん……ぷるんぷるんにして差し上げますわ〜♡」
芽衣「……好きに言ってなよ。
でも一つだけ教えておく」
彼女の瞳に、ひときわ強い光が差した。
芽衣「冷気ってのはね、風に弱いんだよ」
ググググググ……!!!
そして、ついにポルシェの鼻先が、LC500のバンパーに並びかけた――。
若林「うおおおおおおお!!!!!きたああああああ!!!
ポルシェ911カレラGTSが冷気の結界を突破していくぅぅぅぅぅ!!!!!」
フェルリア「これは……面白くなってきましたね……ミルキークイーンの冷気に……風の芽衣が突っ込んでいく……“温度”と“流れ”のぶつかり合いです……!!」
伊藤「……助かった……芽衣ちゃん……!」
花(通信)
「芽衣いいいいいいいいい!!!あとは任せたよぉぉぉぉ!!!!」
カナタ(通信)
「お前が来てくれると、やっぱり心強いな……!」
その時だった――
無線のチャンネルが一斉に震えた。
独特の電子音とともに、メインコントロールからの通信が流れ込む。
若林「……えっ……!? これは……!!」
若林の声がいつになく震えた。
若林「本部から下した連絡があります!!!
現在走行中のLC500、ミルキークイーンさん――直ちに道路脇に寄せて停車してくださいとの指示が入りました……!!!」
ざわめきが広がる。実況席、現場、そして配信画面の視聴者までも。
若林「これ……これは、間違いなく……レッドカード!!!!」
ミルキークイーン「まぁ……?」
「……あらあら〜……わたくし、なにか悪いことでもいたしまして?」
スッ――とハンドルを切るミルキークイーン。
だが、彼女の表情には焦りの色一つない。
むしろ、どこか楽しんでいるような……妖艶な笑みすら浮かべていた。
フェルリア「……ミルキークイーン……まさか、あの冷気が“タイヤの機能”や“コース妨害”と取られた……!? 本部の判断は絶対です……!」
カナタ(通信)「……マジかよ……」
花(通信)「そんな……」
伊藤「助かった……けど……ちょっと複雑だな」
ミルキークイーン「レースはルール……それもまた美しき制約でございますわ〜……」
「……では、お先に失礼いたします……また、氷のように冷たい別れを、ね……♡」
ギュアアアア……
LC500が減速し、コース脇のスペースに静かに寄せられていく。
その姿はあまりに優雅で――それでも、はっきりと「リタイヤ」の印を刻んでいた。
若林「LC500――“ミルク氷”の女王ミルキークイーン、ここでリタイヤです!!!!」
フェルリア「これで順位がまた大きく変わります……!」
■現在の順位(ミルキークイーン脱落後)
1位 黒川海斗(EVO IX MR)
2位 内藤セリナ(Audi R8 V10)
3位 古賀加奈子(BMW M3 E46)
4位 小岩イオリ(Ferrari 812 Superfast)
5位 相川美保(R33 GT-R V-spec)
6位 山吹花(Subaru WRX STI VAB)
7位 腹切カナタ(TOYOTA 86 NA)
8位 柊 蒼真(Civic Type R FL5)
9位 佐藤大河(Corvette C8)
10位 佐藤ジュン(RX-7 FD3S)
11位 霧山トオル(Lamborghini Veneno)
12位 岡田大成(GRカローラ)
13位 伊藤翔太(Swift Sport ZC33S) ↑
14位 山吹芽衣(Porsche 911 Carrera GTS) ↑
15位 柳津雄介(BMW M4 DTM) ↑
16位 湯川サトル(Honda S2000) ↑
17位 高村圭吾(Fairlady Z Z33) ↑
18位 サテラ(EVO VII MR) ↑
19位 川村修一(Kワークス) ↑
リタイヤ
相川律、クレア、坂田五郎丸
ミルキークイーンの4人
フェルリア「……あー、はい、分かりましたよ……なんでレッドカードなのか、、、、」
「さっきのカナタくんのときは、ミルキークイーンさんが後ろにいました。でも今回は、、、」
「伊藤くんが前。そして、ミルキークイーンが後ろだったんです、、、」
「つまり……今回のは追い越し妨害の判定ですね、、、、」
「後方の車が、前の車を意図的に追い詰めて、進路を塞ぐような動きをした場合、、、それは競技妨害と見なされるんです、、、」
「伊藤くんを先に行かせなかった……その時点で、フラグメント・ブレーキング判定(断片的妨害行為)が発生したというわけですね、、、」
「――つまり、フェアプレー精神に反する行為だと判断された、、、」
「ええ、、、速さも、テクニックも、圧倒的だったんですけどね、、、ただ、ルールはルールですから、、、、」
「彼女の“ミルク氷”が魅せた世界は……ここまで、ということになります」
フェルリアは呆れたように、それでいてどこか楽しげに口元を引きつらせる。
フェルリア「まぁ、、、、さっきの坂田五郎丸とか相川くんとかクレアちゃんのは、、、あれは、、、、アホのやることですけどね、、、、」
肩をすくめて、実況席のシートに身を預けながら続けた。
フェルリア「そのままオーバーランして海に直行とか、、、、」
「相川くんの360度スピンからの、、、正真正銘のダイブとか、、、あれ、狙ってやってるなら逆に尊敬しますよ、ホントに、、、」
ほんのり笑いを含んだ口調――けれど、その目には走りの危険性を知る者ならではの冷静な視線が宿っていた。
そして、その口調に、視聴者コメント欄はザワつく。
視聴者「いや草」「五郎丸ほんと伝説すぎる」「クレアのあれCGかと思ったもん」「相川くん、スピンしながら手振ってたぞ」「実況席が楽しそうでなにより」
フェルリア「……でも、レースに必要なのは“芸術的なクラッシュ”よりも“勝ち方”ですからね、、、」
「誰がこの混戦を勝ち上がるか、引き続き見ていきましょう」




