松島編第23話 仕掛けは
total283
若林「そしてここ!!」
「16位から18位の争い!!後方も激しいぞ!!」
フェルリア「この位置……焦ったら終わりです」
「でも、何もしなければ沈む」
画面が切り替わる。
多賀城市の市街地、路面の継ぎ目が連続する区画。
高村圭吾のフェアレディZ Z33が、やや外寄りのラインを取る。
加速は鋭くない。
だが――姿勢が崩れない。
高村「……街は、無理しない」
「Zは……踏み直せば、ちゃんと前に出る」
前には――
湯川サトルのS2000。
その後ろに、サテラのEVO VII。
若林「Z33、じわっと距離を詰める!!」
「派手じゃないが……確実だ!!」
フェルリア「FRの強みですね」
「一度“向き”が合えば、減速区間で離れません」
湯川「……来てるな」
S2000が、わずかにブレーキを早めた瞬間――
Z33のノーズが、半歩だけ前へ。
高村「……今だ」
アクセルを踏み足さない。
ただ、減速を我慢する。
若林「おおっと!!」
「高村、インに入った!!」
S2000の横に、Z33が並ぶ。
並走は一瞬。
次の継ぎ目で――
フェルリア「Z、強い」
「ここは“我慢の車”が勝つ区間です」
高村「……抜ける」
Z33が、前に出た。
順位入れ替わり。
若林「高村圭吾!!」
「Z33が湯川をかわして――17位へ!!」
だが、すぐ後ろ。
サテラ「……まだ、終わりじゃない」
EVO VIIが、すぐに距離を詰める。
四駆の立ち上がりが、Z33を追う。
高村「……来い」
「ここは……譲らない」
Z33は中央を守る。
無理にブロックしない。
**“抜かせない速度”**で、ただ走る。
若林「16〜18位!!」
「ここも一切、気が抜けない!!」
フェルリア「この争い……」
「最後まで続きますよ」
多賀城市。
後方の争いは、静かだ。
だが――
フェアレディZ Z33は今、
確実に“生き残る走り”を選んでいた。
若林「さあ来ました!!」
「6位グループ、ここで動いたァ!!」
多賀城市の路面が、わずかに波打つ。
信号跡の白線、舗装の継ぎ目、微妙な勾配。
それまで拮抗していた隊列に、ほんの一瞬の隙が生まれた。
美保「……今なら、行ける」
ミッドナイトブルーの R33 GT‑R Vスペック が、静かにラインを外す。
大きく切らない。
ほんの半歩分だけ。
RB26が低く唸り、トルクが一気に立ち上がる。
若林「相川美保!!」
「柊蒼真の横に並んだァ!!」
柊「……っ!」
FL5が反応するが、立ち上がりで半拍遅れる。
その差は小さい。
だが、この区間では致命的だった。
フェルリア「R33のトルクですね」
「無理に踏まないから、姿勢が崩れない」
美保「……ごめんね」
ほんの一瞬の並走。
次の瞬間、R33のノーズが前へ出る。
若林「抜いたァ!!」
「相川美保、6位へ浮上!!」
その直後――
赤いコルベットC8が、明確に音を変えた。
佐藤「……置いていかれるかよ」
抑えていた右足が解放され、C8が一気に距離を詰める。
狙いは、前に残った柊蒼真。
若林「佐藤!!」
「一気に距離を詰めた!!」
柊「くっ……!」
ブレーキングで粘るが、
直線の伸びで差が出る。
フェルリア「ここはC8の領域ですね」
佐藤「……今だ」
外側。
迷いはない。
若林「佐藤、外から行ったァ!!」
「柊をかわして順位変動!!」
隊列が一気に組み替わる。
先頭に相川美保。
その背後に佐藤。
そして柊と――
カナタ「……チッ」
「一気に動いたな……」
86の車内で、カナタは短く舌打ちする。
だが、無理には出ない。
ここで焦れば、さらに沈むと分かっている。
美保「……ふぅ」
「でも、ここからだよ」
フェルリア「6位グループ……」
「完全に“勝負の隊列”に入りました」
多賀城市の街の真ん中で、
ミッドナイトブルーのR33が流れを作り、
赤いC8がそれを追い、
柊とカナタが離されまいと必死に耐える。
この瞬間、6位グループは――
明確な“戦場”へと姿を変えた。
若林「隊列が完全に割れました!!」
「6位グループ、先頭は相川美保!!」
R33のテールランプが、街路樹の影の中で揺れる。
多賀城市の直線は長いが、決して単調ではない。
微妙なうねり、交差点跡の段差、路面の荒れ。
美保「……この区間、好き」
ハンドルに伝わる情報量が多い。
それは恐怖ではなく、支配感だった。
佐藤「……余裕そうだな」
コルベットC8は距離を保つ。
無理に詰めない。
相手のリズムを読むための“間”。
フェルリア「佐藤選手、完全に我慢ですね」
「美保選手の走りを観察しています」
そのさらに後ろ。
FL5と86は、必死に食らいつく。
柊「……っ、離されるな……!」
カナタ「落ち着け」
「まだ直線は終わってない」
アクセルを踏み切らない。
ブレーキを一瞬だけ遅らせ、
立ち上がりで速度を殺さないラインを選ぶ。
若林「腹切カナタ!!」
「ここで距離を詰めたァ!!」
カナタ「……よし」
86の鼻先が、FL5のリアに近づく。
だが――
柊「させるか……!」
FL5が一段ギアを落とし、
回転を維持したまま再加速する。
フェルリア「この二人、完全に同じ判断ですね」
前方では、
美保と佐藤の間隔が、じわじわと変化していた。
美保「……来る」
ミラーに映る赤。
さっきより、確実に大きい。
佐藤「次のブレーキングだ」
直線の終わり。
交差点跡の減速区間。
若林「ここでブレーキ勝負!!」
R33が先に減速する。
だが深すぎない。
佐藤「……っ!」
C8が詰める。
しかし完全には並ばない。
フェルリア「佐藤選手、仕掛けません」
「まだ“その時”じゃないですね」
美保「……ふぅ」
一瞬だけ、胸の奥がざわつく。
だが――すぐに抑え込む。
美保「焦らない」
その背後で。
カナタ「……ここだ」
86がわずかにラインを変える。
FL5の死角。
柊「……っ!?」
若林「腹切カナタ!!」
「柊蒼真のインに入ったァ!!」
次の瞬間、
順位が、また一つ動こうとしていた。
6位グループは、まだ終わらない。
この街の中で、
彼らは何度でも噛み合い、
何度でも順位を入れ替える。
そして――
この先で、本当の勝負が始まる。
カナタ「……ここだ」
蒼真「来る気か……!」
多賀城の直線が緩やかに終わり、路面の継ぎ目が増える区間。
FL5のブレーキングポイントより、半拍だけ遅らせたカナタの86が、内側の白線ぎりぎりに鼻先をねじ込む。
蒼真「っ……!」
一瞬、柊のアクセルが緩む。
その“ためらい”を、カナタは逃さなかった。
カナタ「今だ……!」
減速から旋回への移行。
86は無理に前へ出ない。横に並び、出口を奪う。
蒼真「外に振れない……!」
FL5のトルクが立ち上がる前に、86がコーナーの脱出ラインを完全に塞ぐ。
次の瞬間、軽い車体が先に前へ転がり出た。
若林「入ったァァァ!!!腹切カナタ!柊蒼真の前に出たぁ!!!」
フェルリア「綺麗ですね……焦らせて、迷わせて、最後は出口を奪いました」
蒼真「……やられた」
カナタ「ありがと、いい走りだった」
短い直線で、86は半車身、そして一車身と差を広げる。
バックミラーの中で、FL5が静かに後退していった。
若林「これで順位変動!カナタが8位浮上!柊蒼真は9位へ!」
レースは、そのまま次の区間へ流れ込んでいく。
若林「そして7位!!」
「赤い戦闘機――佐藤大河、コルベットC8!!」
多賀城市の街並みが、少しずつ開けていく。
建物の間隔が広がり、潮の匂いを含んだ風が流れ込む。
国道45号、海岸線へ向かう単独区間が近い。
佐藤「……来るな」
C8のエンジン音が、低く構えたまま一定を保つ。
踏みたい衝動を、意識的に抑え込む。
佐藤「海岸に向けたR45の単独区間……」
「まもなく、だ……」
前を走るのは、
ミッドナイトブルーの R33 GT‑R Vスペック。
美保「……風、変わった」
R33のボディに当たる空気が、少し軽くなる。
街の圧が抜け、速度域が一段上がる予兆。
佐藤「その瞬間――」
「33は、一度失速する」
フェルリア「佐藤選手……」
「完全に“場所”を見ていますね」
若林「なるほど!!」
「R33は街で無類の強さを見せているが――」
佐藤「切り替わりだ……」
「街から、海へ」
C8が、ほんのわずかに右へラインを取る。
それは仕掛けではない。
仕掛けるための準備。
佐藤「そのインから……」
「33を、ねじ込んでやる……ッ!!」
アクセルにかかる力が、強まる。
だが、まだ踏まない。
美保「……後ろ、静かすぎる」
ミラーに映る赤。
近づいているのに、圧がない。
フェルリア「これは怖いですよ……」
「“来ない”相手ほど、来る」
若林「佐藤大河!!」
「完全に勝負所を絞っている!!」
国道45号。
街の終わりと、海の始まり。
その境目で――
赤い戦闘機は、R33の背後に牙を立てようとしていた。
佐藤「腹切……」
「貴様、こんなモンじゃないだろ……?」
赤いコルベットC8の車内で、佐藤は前を見据えたまま低く呟く。
ミラー越しに映るのは、6位を走るR33と、そのさらに後ろ――86。
佐藤「そろそろ来いよ…………」
「腹切カナタァ…………ッ!!!」
その声は無線でも、叫びでもない。
ただの独り言。
だが、その言葉は確かに、後方へ向けて放たれていた。
カナタ「……っ」
86のコクピットで、カナタは一瞬だけ歯を食いしばる。
胸の奥に、熱が灯る。
カナタ「……佐藤には……」
「……美保ちゃんにも……」
「……花にも、負けない…………ッ!!!」
アクセルに込める力が、ほんのわずかに増す。
踏みすぎない。
だが、もう抑えない。
若林「おっと……!」
「腹切カナタ、さっきまでと走りが違う!!」
フェルリア「ええ……」
「覚悟が決まりましたね」
「“追う側”から、“奪いに行く側”の目になっています」
86は、前を走る柊の背中ではなく、
さらにその先――佐藤と美保を見据えている。
カナタ「……行く」
小さく、だがはっきりと。
街の終わりが近づき、
空気が変わる。
潮の匂い。
路面の色。
国道45号、
次の区間は、全員が本気になる場所。
佐藤のC8が、わずかに加速し、
美保のR33が、その変化を察知する。
美保「……来るね」
そのさらに後ろで、
86が静かに、しかし確実に距離を詰めていく。
若林「6位グループ!!」
「ここからは――ただの順位争いじゃない!!」
それぞれの言葉、
それぞれの意地、
それぞれの“負けられない理由”。
それらすべてが重なり合い、
次の区間で――
一気に噴き出そうとしていた。
海が近い。
勝負は、もっと近い。
若林「そしてここ!!」
「12位争いだァァァァ!!!」
多賀城市の外れ、視界が一瞬だけ開ける区間。
カメラが切り替わり、画面に映り込んだのは――
スイフトスポーツ、ランボルギーニ・ヴェネーノ、そして。
若林「草色のポルシェ911カレラが――!!」
「ここで、カメラに捉えられましたァァァァ!!!!」
フェルリア「……芽衣ちゃんですね」
「この位置まで、確実に上がってきています」
霧山「へぇ……」
「コイツは……使えるな……」
ヴェネーノの鋭いノーズが、わずかにラインを外す。
それは追い抜きではない。
間に割って入るための角度。
伊藤「……チッ」
スイフトのステアリングを握る伊藤翔太の目が、鋭くなる。
伊藤「コイツじゃねェよ……」
「芽衣ちゃんはなァ……」
「花の、大事な妹だからなァ……ッ!!」
ブレーキを、ほんの一瞬だけ遅らせる。
それだけで、スイフトはポルシェの進路を塞ぐ位置へ滑り込む。
若林「伊藤!!」
「霧山と芽衣の間に割って入ったァ!!」
フェルリア「守りに入りましたね」
「“使わせない”判断です」
芽衣「……見つけた」
草色の911の中で、芽衣は前を見る。
視線の先には、異様なシルエット。
「……ヴェネーノ……」
「あれが……?」
霧山「はは……」
「見てる場合かよ、お嬢ちゃん」
ヴェネーノが、ほんの少しだけ距離を詰める。
圧をかけるように。
だが――
伊藤「させねぇよ」
スイフトはラインを譲らない。
速さでは敵わない。
それでも、位置だけは渡さない。
フェルリア「伊藤翔太……」
「完全に“盾”になっています」
芽衣「……ありがとう」
小さな声。
だが、その一言で十分だった。
若林「12位争い!!」
「ここも三つ巴!!」
前ではヴェネーノが機を伺い、
中央でスイフトが踏ん張り、
その背後で、草色の911が静かに牙を研ぐ。
多賀城市。
この順位、この位置。
速さだけじゃない“感情”が、
確かに、レースを動かしていた。
そしてこの三台もまた――
次の区間で、必ずぶつかる。
霧山「伊藤くん……」
「実は君に、大事なことを言いたくてね……」
ヴェネーノの低い音が、わずかに変わる。
街の喧騒の中で、その車だけが異質な空気をまとっていた。
霧山「ボクの“ペット”にならない?」
「従ってれば、案外楽しいよ……?」
「ほら、すぐ後ろのポルシェも……」
「ツインテールで、猫耳みたいな髪の色の女の子も……候補なんだ」
一瞬、時間が止まったように感じられた。
伊藤「……芽衣ちゃんを……」
ハンドルを握る手に、力がこもる。
言葉が、喉で詰まる。
「……ふざけ――」
霧山「やれやれ……」
ヴェネーノが、ほんのわずかに距離を詰める。
圧ではない。
侮辱そのものだった。
霧山「わめくんじゃないよ」
「君は今、自分の立場が分かってない」
その瞬間。
伊藤「……黙れ」
声は低い。
だが、はっきりと通る。
伊藤「芽衣ちゃんは……」
「誰かの“所有物”じゃねぇ」
「まして、お前みたいなヤツの……道具でもない」
スイフトのエンジン音が、一段太くなる。
無理に踏まない。
だが――覚悟が入った音。
フェルリア「……空気が変わりましたね」
「伊藤翔太、完全に怒っています」
若林「これは……!」
「ただの12位争いじゃない!!」
芽衣「……」
草色の911の中で、芽衣は前を見る。
伊藤のスイフトと、霧山のヴェネーノ。
芽衣「……逃げない」
声は小さい。
けれど、迷いはなかった。
霧山「へぇ……」
「面白いね」
だが、その笑みは長く続かない。
伊藤「……ここから先は」
「レースだ」
「言葉じゃなく……」
「走りで、黙らせてやる」
三台が、わずかに距離を詰め合う。
多賀城市の外れ。
次の区間は、見通しが悪く、逃げ場が少ない。
若林「12位争い!!」
「完全に火が点いたァ!!」
速さだけじゃない。
意地だけでもない。
守るものがある者と、
他人を踏みにじる者。
その違いが、
次の数百メートルで――
はっきりと示されようとしていた。
86伝説エーペックス松島編
4月再開予定!!!!!!!




