松島編第19話 続く果てなきレース
――ツインブリッジ上空。
海風が、赤い86のルーフを撫でる。
若林
「……改めて確認します。腹切カナタ選手、
NAのトヨタ86前期で――コースレコード更新です」
一瞬の静寂。
そして、遅れて押し寄せるどよめき。
花「……うそでしょ……ッ?
NAだよ!? ターボもスーパーチャージャーも無しで!?」
伊藤「やっぱ……こいつは“そういう男”だよな……」
ピットの奥。
霧山は、モニターに映るタイム表示をじっと見つめていた。
霧山「ただ速いだけじゃない。
“全部を使い切る走り”か……これが紅い戦闘機の走りなのか......ッ!??」
ミルキークイーン
「あらあら……♡
これは……皆さん、少し甘く見ていたかもしれませんわね……?」
実況席。
フェルリアは、ほんのわずか目を伏せた。
フェルリア「…………」
若林「フェルリアさん? どうしました?」
フェルリア
「……いえ。 少し、昔を思い出しただけです」
フェルリアは過去を思い出した......。
そして、クロスが畳み掛けられるように地面に転がされて追いやられた。
『うわァァァァァァ!!』
『どうだ?これが我ら七賢者の力!好まま、隕石が落ちて残骸しか残ってないルークスを世界もろともー』
そうフェルリアが言っている間に再びクロスが自身のためにもみんなのためにも立ち上がった。
『俺がお前なんかにーやられるわけねぇだろ!ーそれに、ルークスは渡さねェ!』
だがその前にはフェルリアがいる!それにこのままでは何度立ち上がってもさっきの左蹴りでやられてしまう。それに俺は今alt.1 ーそうか!あれだ!
そうして、クロスが編み出した覚醒技が瞬時に作られた。さらなるalt.の応用でフェルリアを圧倒的に倒せるほど強くなりたい!そう思って編み出せたのが"alt.1.lv.4"だ。
炎属性としてさらなる威圧を感じさせたクロス。しかし、まだまだフェルリアのピンク色の威圧には届きそうになかった。フェルリアがどのようにしてああやって威圧が強いのかそして範囲も広いのかそれはクロスにも分からないままだった。
そして、覚醒したクロスは、そのままフェルリアに飛び込むかのように"ルビーの剣"で差し掛かった。それがクロスとしての初めての先手必勝だった。しかし、フェルリアは急に強くビシビシと衝撃波が周りに走っているのにも関わらず大きな切り札をくりだそうとしていた。その技がー
『スイートランサースマーッシュ!!!』
その体温が足から冷えるか、頭から冷えるか、などの相によって、生前の善悪を知り、死後に行く世界を判断走馬灯で判断してしまっていた。もうここでは何もできない...あの練習はなんだったのだろう?自分が嫌になってしょうがない。クロスはそう思った。
神様、ありがとう...短い人生をありがとう。力になれなくて本当にごめんなさい。そう思ってこの世からいなくなってしまうんだ。お願いします神様。僕にさらなる力をお貸しください。そして体がふわりと浮かんで目も閉じってしまっていった。
そして、クロスは息絶えてしまった......。
モニターに映る、最終コーナーのリプレイ。
縁石の“内”も“外”も、限界まで使い切るライン。
フェルリア
「……彼は、コーナーを“曲がって”いません。
“抱きしめて”います」
若林
「抱きしめて……?」
フェルリア
「ええ。恐れず、急がず、拒まず……
路面の全部をすべて抱きしめて...受け入れて、前へ進むのですわ......ッ」
ピット。
美保は、無意識に自分の胸元を押さえていた。
美保「……これが……本物……」
花
「……カナタ……」
その名を呼ぶ声は、
祈りに近かった。
――そして表示される。
《暫定1位:腹切カナタ》
ツインブリッジの空気が、変わった。
これは“予選”ではない。
誰もがそう感じていた。
これは――
物語が、次の段階へ進んだ瞬間だ。
【松島戦 現在の順位(残り20名)】
1位 黒川海斗(ランサーエボリューションIX MR)
2位 内藤セリナ(アウディ R8 V10/NA)
3位 古賀加奈子(BMW M3)
4位 小岩イオリ(フェラーリ 812スーパーファスト)
5位 山吹花(WRX STI VAB)
6位 柊蒼真(シビックタイプR FL5)
7位 岡田大成(GRカローラ)
8位 佐藤大河(コルベット C8)
9位 腹切カナタ(トヨタ86 前期型 NA)
10位 ミルキークイーン(レクサス LC500)
11位 サテラ(ランサーエボリューションVII MR)
12位 高村圭吾(フェアレディZ Z33)
13位 山吹芽衣(ポルシェ911 カレラ GTS)
14位 霧山トオル(ランボルギーニ ヴェネーノ)
15位 柳津雄介(BMW M4)
16位 湯川サトル(ホンダ S2000)
17位 佐藤ジュン(マツダ RX-7 FD3S)
18位 坂田五郎丸
19位 伊藤翔太(スイフトスポーツ ZC33S)
20位 川村修一(スズキ Kワークス)
リタイヤ:相川律(R35 GT-R NISMO)、
クレア(R35 デビルスタイル)
花
「……は?」
モニターを見上げたまま、花は言葉を失っていた。
花
「カナタ……9位……?」
伊藤
「……だな。
“速さ”だけで見たら、上は怪物だらけだ」
ピット奥。
腹切カナタは、ヘルメットを膝に置いたまま、
静かに順位表を見つめていた。
カナタ
「……いい。
むしろ、ちょうどいい位置だ」
花
「ちょうどいいって……!」
カナタ
「上には全部“化け物”がいる。
下には、まだ何も失ってない奴らがいる」
小さく、笑う。
カナタ
「――ここからだよ。
本当の松島戦は」
一方、P1表示の前。
黒川
「……結局、俺が一番か」
だが、その声には慢心がなかった。
むしろ、背中に感じる“視線”の多さを理解している声だった。
内藤セリナ
「ふふっ☆
前、後ろ、横……ぜーんぶ敵だね〜☆」
古賀
「……レースって、順位表が一番怖いのよ」
実況席。
フェルリア
「……このランキング。
表面だけ見れば、パワー順です」
若林
「ですが……?」
フェルリア
「9位にいる86。あれは一言で言えば“爆弾”です」
画面に映る、腹切カナタ。
フェルリア
「上位は、彼を“抜く側”になる。
でも――」
一瞬、間を置く。
フェルリア
「彼は、抜かれる覚悟がある人間です。
それが一番、厄介」
ツインブリッジに、風が吹いた。
――松島戦・決勝。
これは、順位を守る戦いではない。
“恐怖を押し付ける”戦いだ。
――――松島ツインブリッジ/決勝終盤――――
伊藤翔太(スイフトスポーツ ZC33S)
「オラァァァ!!!漆黒の魔王シロンなんかに負けられねェェ!!!!」
スイスポのターボが甲高い音を上げる。
直線では完全に不利。それでも伊藤はブレーキを“我慢”で詰め、
橋の入り口、わずかな減速区間で車体をねじ込んだ。
実況・若林
「おおっと伊藤!無謀とも言える突っ込みだァ!!」
フェルリア
「……いえ、無謀ではありません。
シロンは重量が重すぎる。この区間、減速と向き変えは伊藤くんに分があります」
――前方――
ブガッティ・シロン。
圧倒的パワーを誇る“漆黒の魔王”は、しかし橋の継ぎ目で一瞬だけ姿勢を乱す。
坂田五郎丸
「チッ……!」
その“半拍”を、伊藤は逃さない。
伊藤
「今だァァァ!!!」
イン側、コンクリートウォールすれすれ。
スイスポの右ミラーが震え、タイヤが悲鳴を上げる。
花
「伊藤!!壁近い!!近いって!!」
――――スパッ――――
シロンの巨体を、スイスポが“抜いた”。
実況・若林
「抜いたァァァ!!伊藤翔太!!
価格差何千万!?いや何億!?関係ない!!意地のオーバーテイク!!」
ミルキークイーン
「あらまぁ……♡ こういうの、嫌いじゃありませんわ〜」
――後方――
腹切カナタ(86 NA)は、その光景をバックミラー越しに見ていた。
カナタ
「……伊藤さん……」
フェルリア
「速さだけがレースではありません。
“負けたくない”という感情を、ここまで操作に落とし込める……
伊藤翔太、立派なレーサーですよ」
――最終ラップ――
前方では黒川と内藤の一騎打ち。
しかし中団でも、それぞれの“物語”が確かに走っていた。
――――――――――
――――松島戦・決勝/中盤――――
若林
「まだレースは折り返しにも入っていません!
現在地点は――仙台港北!!
ゴールは気仙沼市・大谷海岸沿い!!」
フェルリア
「……ここからが、本当の意味での“耐久区間”ですね」
海沿いの直線。
コンテナヤードを抜ける潮風が、車体を横から叩く。
路面は乾いているが、微妙に塩を含み、グリップが読めない。
――先頭集団――
黒川海斗(EVO IX MR)
「……まだだ。
ここで飛ばすと、後半が死ぬ」
内藤セリナ(R8 V10)
「えへへ☆
黒川くん、我慢してる顔してる〜☆」
V10の咆哮が、港に反響する。
だが内藤は、あえて全開にしない。
“余裕”を、見せつける走り。
――中団――
伊藤翔太
「ハァ……ハァ……
まだ半分……!?」
前方には、GRカローラとC8。
後方には、LC500と86。
伊藤「クソ……!港区間は重い車が強ぇ……!」
――さらに後ろ――
腹切カナタ(86 NA)
「……仙台港北。
ここは“我慢の区間”」
アクセルを踏みすぎない。
ブレーキも、必要最低限。
86は静かに、しかし確実に前との距離を詰めていく。
フェルリア
「……彼は、ここで順位を上げません。
“失わない”ことを選んでいる」
若林「まだ9位のまま!
ですが腹切、動かない!!」
花「……いいんだよ、、、、それでいい……ッ」
花はハンドルを握りながら、前を睨む。
山吹花自身も、この区間では無理をしない。
花「港を抜けた先……あそこからが、勝負だから」
――空が、少しずつ赤くなる。
潮の匂いが濃くなり、
遠くに、気仙沼方面の山影が見え始める。
若林
「選手たち、まもなく港湾部を抜けます!!
ここから先は――海岸線区間!!
風・勾配・視界……すべてが変わる!!」
フェルリア
「……そして、覚悟が問われます。
“最後まで踏み切れる者”だけが、
大谷海岸へ辿り着ける」
――まだ、半分。
だが、ここから先は“帰れない区間”だ。
――――松島戦・決勝/海岸線突入――――
伊藤翔太(スイフトスポーツ ZC33S)
「……見えた。
前、詰まってる……!」
港を抜けた瞬間、視界が一気に開ける。
右は海。左は岩壁。
逃げ場のない、細くうねる海岸線。
――前方――
P15 柳津(M4)
P14 霧山
P13 芽衣(911)
伊藤
「上等だ……
ここは“軽さ”の道だろォ!!」
タービンが甲高く悲鳴を上げる。
伊藤はアクセルを一段、深く踏み込んだ。
若林
「来たァァ!!
伊藤翔太、海岸線で全開だ!!」
――第1高速S字――
M4が外へ膨らむ。
ヴェネーノは異様な安定感で中央を占拠。
911が、その後ろで一瞬ためらった。
伊藤「……そこだッ!!」
――――ズバッ――――
イン側。ガードレールすれすれ。
スイスポが、M4と911の“間”を切り裂く。
芽衣「っ……!?」
柳津「な、軽ッ……!?」
順位表示が跳ねる。
【P17 → P15】
フェルリア
「……判断が速い。
迷った瞬間を、全部持っていきましたね」
――次のコーナー――
霧山トオル(ヴェネーノ)
「…………」
ヴェネーノが、初めて“動く”。
重いはずの車体が、
信じられない角度で向きを変える。
伊藤
「……チッ!こいつ……別格かよ……!」
だが伊藤は引かない。
伊藤
「それでもだァァ!!
置いてかれる気はねェ!!」
ブレーキング勝負。
伊藤は一瞬、ブレーキを遅らせた。
タイヤが鳴く。
ABSが震える。
だが――止まった。
若林
「止めたァァ!!
伊藤、止めてねじ込んだァ!!」
ヴェネーノの横に、スイスポが並ぶ。
霧山「……ふふ。面白いね」
――――並走――――
海が、すぐそこにある。
一歩間違えれば終わり。
伊藤「……行くぞォ!!」
出口で、伊藤が一歩前に出る。
【P15 → P14】
花(前方・VAB)
「……来てる。伊藤、完全に波に乗ってる……!」
若林
「伊藤翔太!!
怒涛の追い上げ!!
港での勢いは、まだ死んでいません!!」
――視界の先――
P12 高村(Z33)
P11 サテラ(EVO VII)
伊藤
「……まだだ。俺はまだ行ける……!!」
スイスポは、まだ吠えている。
――伊藤の追い上げは、止まらない。
――――松島戦・決勝/海岸線・断崖セクション――――
霧山トオル(ランボルギーニ・ヴェネーノ)
「伊藤ォ……!
お前、俺のペットのくせに――
うろちょろしてんじゃねェェェ!!!!!」
ヴェネーノのエンジンが唸りを上げる。
空気を切り裂くような加速。
まるで“怒り”そのものが速度に変わったかのようだった。
若林「出たァ!!
霧山トオル、初めて明確に牙を剥いたァ!!」
伊藤翔太
「……はっ」
伊藤は、笑った。
伊藤「誰が……ペットだって?」
ステアリングを握る手に、迷いはない。
ブレーキも、アクセルも――“感情”じゃなく“意思”で踏む。
伊藤「勘違いすんなよ、霧山ァァッ!!」
――次の左高速コーナー――
ヴェネーノがアウトから被せてくる。
圧倒的な車格。
圧迫感だけで、心を折りに来る走り。
フェルリア
「……心理戦です。
彼は“恐怖”を武器にしている」
だが。
伊藤「怖ぇのは……」
――――ギリィッ!!――――
伊藤は引かない。
むしろ、さらにインへ。
ガードレールすれすれ。
タイヤが悲鳴を上げる。
伊藤
「――首輪つけられて、
黙ってた頃の俺だァァ!!」
若林「伊藤、引かない!!
霧山に真っ向から喧嘩を売ったァ!!」
並走。
海が、真横にある。
一瞬のミスが終わりを意味する距離。
霧山「……ほう?」
ヴェネーノが、さらに踏む。
だが――
伊藤「今の俺は――」
ブレーキ。
一瞬だけ、霧山より“深く”。
車体が沈む。
スイスポが、前に出る。
伊藤
「――誰のペットでもねェ!!」
――――スパッ――――
順位表示が切り替わる。
【P14 → P13 伊藤翔太】
花(前方)「……ッ!!伊藤くん……!!」
霧山「……ふん、いいよ」
ヴェネーノのエンジン音が、低く変わる。
霧山「じゃあ、躾け直してあげる」
フェルリア「……まずいですね。
霧山が“遊び”をやめました」
伊藤「……上等だ。
今度は――俺が吠える番だァ!!」
――海岸線に、二匹の獣が並んだ。




