松島編第13話 助けて
通算273話
内藤「えへへ☆」
若林「ところでフェルリアさん……スリップストリームとは……?」
黒川(通信)「頭大丈夫?病院行く???」
高村「はッ!?なんだこの音……!!?」
芽衣「……後ろ……来ています……!」
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エーペックスカップ
【第6戦松島戦 現在の順位】
1位 黒川海斗(ランサーエボリューションIX MR)
2位 相川律(R35 GT-R NISMO)
3位 山吹花(WRX STI VAB)
4位 クレア(R35 “デビルスタイル”)
5位 岡田大成(GRカローラ)
6位 佐藤大河(コルベットC8)
7位 柊蒼真(シビックタイプR FL5)
8位 小岩イオリ(フェラーリ 812スーパーファスト)
9位 坂田五郎丸(ブガッティ・シロン “漆黒の魔王”)
10位 腹切カナタ(トヨタ86 前期 NA)
11位 柳津雄介(BMW M4)
12位 内藤セリナ(アウディR8 V10 NA)
13位 サテラ(ランサーエボリューションVII MR)
14位 伊藤翔太(スイフトスポーツ ZC33S)
15位 山吹芽衣(ポルシェ911 カレラ)
16位 高村圭吾(フェアレディZ Z33)
17位 霧山トオル(ランボルギーニ ヴェネーノ)
18位 相川美保(R33 GT-R ミッドナイトブルー)
19位 ミルキークイーン(レクサスLC500)
20位 佐藤ジュン(RX-7 FD3S/紅)
21位 湯川サトル(S2000)
22位 川村修一(Kワークス/黄色)
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サテラの挑発が路面よりも滑らかに刺さった瞬間、
内藤セリナの声が一瞬だけ電気を孕んだみたいに震えた。
サテラ「あれ〜?内藤くん、さっきまでの“おほほ☆フミッパ女王モード”どこいったのさ〜?」
「ほらほら、黒川くんも前でイキってるけど、もうすぐで相川律のR35ニスモに追いつかれそうだよ〜?差は五秒切ったよ〜?聞こえてる〜?」
内藤「えへへ☆」
そこまではいつも通りだった。
しかし、その次の声が……違った。
内藤(暗く低い声)「サテラ……アンタね……私を煽るのだけは……やめときなァァァ……?」
「今このR8、まだ本気のフミッパスライダー出してないだけなんだよ……☆」
サテラ「はいはい、出せるもんなら出してみなよ〜?ほら、後ろ詰まってるよ〜?」
内藤「言ったねぇ……?」
「じゃあ……見せてあげるよサテラくん……」
「内藤セリナ式……NA“地獄のフミッパ”モード☆」
R8が吠えた。
アクセルを踏む音じゃない。
獣が檻破る音みたいに。
黒いエボ9MRの影を追う。
M4柳津の気配が迫る。
クレアのデビルR35が唸る。
だがその全てを蹴り飛ばすように
内藤のR8が立ち上がり始める。
サテラ「あっ……これ普通にヤバいかも〜?」
「ねぇセリナくん、ちょっと勢い上げすぎじゃない〜?」
内藤(高い声に戻る)「うふふ☆サテラくんのせいだよぉ〜?」
「煽られたら……全力で答えなきゃでしょ???」
黒川の怒鳴り声が、常磐道を裂く。
その刹那、サテラは振り返り、あの水色エボ7MRごと“悪戯っぽい笑み”を漂わせた。
黒川「テメェ……サテラァァァ!!!何イキって煽ってんだァァァ!!!!」
「内藤まで暴走させやがって、前の俺がどれだけキケンか分かってんのかァァァ!!?」
サテラ「はいはい、黒川くん……」
「そんな怒鳴らなくても〜?」
「だって、キミ……さっきのコースレコード出したくらいで、調子乗ってるじゃん?」
黒川「はァァ!?てめ……!」
サテラ「“俺が最強”ってデカール貼ってレギュ違反で飛ばされて〜?」
「しかもその後でレコード出してドヤるとか……」
「黒川くん、それ……」
「中学生の“俺つえー期”そのまま来てる感じだよ〜?」
黒川「ぶっ殺すぞテメェェェェ!!!!」
サテラ「出た〜黒川くんの語彙力ゼロパンチ〜。」
「ほらほら走りなよ、前詰まってるよ〜?相川律来るよ〜?」
「“最強”って言うなら見せて?言葉じゃなくてね〜?」
黒川「てめ……絶対ぶっ潰す……!俺のエボの前でそんな口叩くんじゃねぇぞォォ!!」
サテラ「うんうん、怖〜い怖〜い。」
「じゃ、後でね“黒川くん”?」
「ほら……内藤くんのNAフミッパ、もう後ろすぐソコだよ〜?」
黒川「……ッッ!!???」
サテラの挑発は暴風。
黒川のエボはその風を受けて一気に荒ぶり始める。
ギュアアアアアアアア!!!!
黒いエボ9MRが悲鳴を撒き散らしながら噴射するッ!!!
黒川「ヤベェ!!ホントに来やがったァァァ!!!!」
その瞬間。
右から赤黒の閃光。相川律のR35 NISMOが牙を剥く。
左からレモン色の刃。内藤セリナのR8が鬼神のようにフミッパ全開で迫る。
三台が横一線。
常磐道のアスファルトが火花で白くなる。
空気が悲鳴をあげる。
黒川「クソッ!左右から来るんじゃねェェ!!!
押すな押すな!!」
相川「押してねぇよ!てめぇが遅いんだろ黒川ァァ!!」
内藤「はいはい〜☆シケイン来るよ〜☆ブレーキどっちが遅らせる〜?ねぇ誰〜???」
仙台空港前、コース最恐難所。
“高速領域のクランクシケイン”が目の前に迫りくる。
ここで躊躇すれば即終わり。
だがブレーキ遅らせれば3台まとめて海へダイブ。
黒川「クッ……!!?待てッ、これまずい!!ライン無ぇ!!!」
相川「譲らねぇよ黒川ァ!てめぇのエボなんざ関係ねぇ!!」
内藤「よーし☆2人とも……覚悟してねぇ?」
ガァァァァァン!!!!
三台のブレーキランプが地獄みたいに赤く染まる。
タイヤが白煙を上げ、車体が左右にぶれ、火花が縦一直線に散り走る。
黒川「ウオオオオオオ!!!止まれぇぇぇ!!!」
相川「曲がれぇぇ!!!舵!!死ぬ気で切れぇ!!!」
内藤「フミッパスライダァァァァァ!!!!☆」
黒川「うるせェェェ!!!!!!!」
黄色いR8が一瞬だけ浮いたように見えた。
フロントタイヤがアスファルトを滑り込む。
相川のR35が重い車重で地面を叩きつけ角を抉り取る。
黒川のエボが車体を投げ込み“無理やりのねじ込み旋回”へ。
視界が一瞬だけ白く飛び、
観客席もライブ視聴者も息を飲んだ。
死線のシケイン。
三台は……まるで猛獣同士が互いの喉笛に食らいついたまま突っ込むみたいに
ギリギリのラインをえぐり走り抜けた。
フェルリア「このままじゃ……今回からピットクルーを増やして安全強化したはずなのに、逆に死傷者が出るリスクが跳ね上がっています……」
フェルリア「もし誰かが大破して死傷者が出てコース上で止まったら……エーペックスカップそのものが終わりになるでしょうね。」
若林「助けてェェェ!!!!」
フェルリア「......落ち着いてください若林さん。
まだ“終わり”じゃありません。ただ――最悪のケースが見え始めているだけです。」
若林「それ落ち着ける要素ゼロなんですけど!?」
そして映像は、あの“5台地獄バトル”へ切り替わる。
仙台空港前のクランクに、怒号のようなエキゾーストが跳ね返る。
黒川海斗、相川律、内藤セリナ、柳津雄介、クレア。
バケモノ5台が空港前で牙を剥き始めていた。
黒川「前は譲らねぇ!!寄るんじゃねぇぇ!!!」
相川「お前が遅えから寄ってんだろがァァァ!!!」
内藤「はいはい〜☆喧嘩しないでー☆曲がれなくなるよ〜☆?」
柳津「やべぇ……なんで前全部ヤバイやつなんだよ……行くしかねぇ!!」
クレア「邪魔なのじゃァァ!!そこをどけェェ!妾が全部踏み固めてやるのじゃ!!」
5台が同時に突っ込んだ瞬間、コース全体が震える。
路面が引き千切れんばかりの白煙。
視界を裂く横G。
誰か1人でもミスすれば、即全員巻き込みの多重クラッシュ確定。
フェルリア「……あれですね。あれは“レース”ではありません。“均衡の壊れかけた戦場”です。」
若林「どこが!?どこが均衡なんですか!?もう崩壊寸前ですよね!?!?」
黒川のエボ9MRが暴れる。
そこに相川のR35NISMOがカウンターで押し返す。
内藤セリナのR8はライン無視でフミッパ加速。
M4柳津がその横に鼻先を送り込み、
R35デビルスタイルのクレアが後ろからまとめて殴りつけるように接近。
黒川「曲がれぇぇ!!!死ぬ気で切れええええ!!!」
相川「落ち着け黒川!!前潰すぞ!!」
黒川「させねェェ!!!」
内藤「そっち行くよ〜☆危ないよ〜☆でも行くよ〜☆?」
柳津「うおおおッ!!ラインねぇ!!
けど.....抜くぞ!!!」
クレア「妾に道を譲れェェェ!!!!」
まるで道路そのものが5台の怒りに耐えきれず悲鳴をあげているかのようだ。
空港前の壁が迫る。
限界ギリギリの幅。
5台並走では到底入りきらない。
フェルリア「死にますねあれ。」
若林「やっぱりそうなんですねええぇぇぇ!!!!!」
ここから誰が脱落し、誰が生き残る??
5台まとめてクラッシュ寸前のまま、次の死のコーナーへ突入しようとしていた……。
中団グループ。
そこにも火花が散っていた。
山吹芽衣のポルシェ911カレラGTSが、
Z33高村圭吾と完全に噛み合った瞬間だ。
高村「芽衣ーーッ!!来るぞ!!!」
芽衣「はい……!行きます!!!」
ふだん静かな芽衣とは思えない。
アクセルを絞り、ブレーキポイントを極限まで引き延ばし、
Z33の鼻先をピタリと封じ込める。
高村「やるじゃねぇかァ!!けどなぁ!!!」
高村のZ33も譲らない。
古いシャシーなのに、車体がしなるたびにトラクションが路面へ吸い付いていく。
その動きはまさに、
“才能の無駄遣い”と呼びたくなる完成度。
芽衣「私は負けません……ッッ!」
911カレラGTSが後輪を蹴り、
高村のZ33を外側からじわじわ圧し込む。
高村もラインを変え、同時に抜き返しの構えを作る。
若林「ここで中団グループ!!!
ポルシェ911とZ33が完全にドッグファイト状態だッッ!!!」
フェルリア「あの二人……初参戦なのにライン取りが大人ですね。
芽衣ちゃんは綺麗。高村くんは大胆。
どちらが前に出てもおかしくありません。」
Z33と911。
二台のエキゾーストが絡み合い、
ストレート出口で火花の尾を引く。
高村「させるかァァァ!!!」
芽衣「まだ……いけます……!!」
互いのサイドミラーに相手の瞳が映る距離。
ぶつかれば即アウト。
だが退く気配はゼロ。
まるで、
“初参戦の二人が、ここで自分の存在証明を刻みにきている”そんな気迫があった。
若林「ポルシェが行ったァァァ!!!!!」
「山吹芽衣ァァァ!!!空気を読んだ……いや、空気そのものを“味方”にして飛び出したッ!!!」
Z33の鼻先を一瞬でスパッと切り裂くような加速。
草色のポルシェが、ストレートの“風”を掴んだ瞬間だった。
高村「スリップストリームかよッ!?
やべぇ……読みが早すぎんだろ……!
あの草色のポルシェのドライバー……頭いいな……!!」
まるで呟くように、でも確かな悔しさが混じる声。
高村圭吾のZ33が、ポルシェの抜け跡に巻き上がる風を食らって揺れた。
芽衣「……行かせて貰います……!」
その声は静か。
なのに、マシンの伸びは激烈。
911カレラGTSが、草原の丘を跳ねる風みたいに
軽く、鋭く、高村のZ33の前へ躍り出る。
若林「山吹芽衣ァッッ!!初参戦とは思えない判断力!!
タイミング、角度、空気抵抗……全部完璧でした!!!」
フェルリア「ええ……あれは“偶然の風”じゃありません。
芽衣ちゃんは自分の速度域で空気の抜け方を理解してます。
スリップの出口に入る“瞬間”を、完璧に掴んでいましたね。」
高村「……マジかよ。
才能の暴力じゃん、あれ……!」
Z33がうなりを上げる。
追いつく気まんまんのアクセル踏みつけだ。
だが芽衣の911はすでに、
“自分のレース”へと風を変えていた。
芽衣(心)
「まだ……まだいけます……」
若林「ところでフェルリアさん……スリップストリームとは……?」
フェルリアは一瞬だけ沈黙し、
次の瞬間、肩を震わせながら笑い出した。
フェルリア「そんなことも分からないんですか……!?
今までどうやって実況してきたんですか若林さん!??」
若林「ひ……ひどい!!!」
フェルリアはモニターを指差しながら、
レースオタク特有の“止まらない語り口”に突入した。
フェルリア「スリップストリームっていうのはですね……
前を走る車の“後ろにできる空気の真空地帯”のことなんです。」
「車って走ると空気を押しのけて進みますよね?
その空気を押しのけた“後ろ”には、
抵抗がほとんど無い帯が生まれるんです。」
若林「真空……みたいなゾーン……?」
フェルリア「そうです。
そこに入ると空気抵抗がごっそり無くなりますから、
後ろの車はアクセルを踏まなくても勝手に前へ吸い寄せられる。」
「つまり……」
フェルリア、少し身を乗り出す。
フェルリア「“相手の風を利用して一気に前へ飛び出す技術”
それがスリップストリームなんですよ。」
若林「おお……!
ってコトは、さっき芽衣さんが高村くんを抜いたあの飛び出しは……!?」
フェルリア「完璧でしたね。
Z33の後ろに入って、空気を吸わせてもらい、
加速のタイミングだけ自分で決めた。
……あれが本当に上手いドライバーがやる抜き方です。」
若林「すげぇ……!なんか今日一番勉強になった気がします……!」
フェルリア「今学ぶんですか!?
第六戦なんですよ!??」
若林「すみません!!!」
若林「しかも……あの黒いZ33とかって資料に書いてありますが……
高村くんの“Z33のZ”って……結局なんなんです……?」
フェルリア、頭を抱える。
実況席に“絶望のため息”が落ちた。
フェルリア「……そこからッ!!?
若林さん……あなた……本当に六戦も実況してきたんですよね……?」
若林「な、なんですかその目は!?」
フェルリア「“Z”は……“フェアレディZ”のZです。」
若林「え?なにそれ?おいしいの?」
フェルリア、机に突っ伏す。
観客席からもため息が上がる。
フェルリア「若林さん……食べ物じゃありません……
フェアレディZとは日産が作ったスポーツカーなんです。
240Zから始まって、Z32、Z33、Z34……
そして現行のRZ34まで繋がっている、日本の象徴的スポーツカーですよ。」
若林「ほうほう……!で、そのZってのは?」
フェルリア「“Z=究極・最後・到達点”
という意味合いを持たせて名付けられたと言われます。」
「1969年の初代S30フェアレディZは、
“世界と戦える日本のスポーツカーを作る”
という夢を背負って登場したんですよ。」
若林「へぇぇ……!
……じゃあ、Zは強いんですね?」
フェルリア「強いかどうかは“腕”です。」
「車は優秀ですが……ドライバー次第で化けます。」
若林「なるほど〜……!」
そこへ、黒川の通信が割り込む。
黒川(通信)「頭大丈夫?病院行く???」
若林「黒川くん!?ひどい!!」
黒川(通信)「Zも知らねぇのに実況すんなよ。
次のピットで診断してこいよ。
……あ、てめぇらシケイン来るぞ退けぇぇぇ!!!」
フェルリア「ほらね、黒川くんの方が詳しいでしょう?」
若林「うるさーーい!!!」
ストレートの終盤。
草色の911と黒いZ33のバトルに割って入るように――
低く、太く、まるで夜の海の底から湧き上がるような重低音が轟いた。
若林「ん???おおおおおおおい!!!
オーバーテイクを決めた山吹芽衣と、その真後ろに張り付いてる高村圭吾のZ33に……
ミッドナイトブルーのR33が来ているぞォォォォ!!!!!」
高村「はッ!?なんだこの音……!!?」
芽衣「……後ろ……来ています……!」
青黒く光る影。
夜潮をまとうようなR33 GT-R。
相川美保、その姿が吸い込むような加速で迫ってくる。
フェルリア「R33がここで来ますか……。
あの子、立ち上がりのライン取りが異常に綺麗ですからね。」
若林「そうなんですよ!!!
相川美保がストレート区間を……
一気に終盤付近までクリアしてきましたァァァ!!!!!」
美保のR33が、まるで“風圧”で道をこじ開けるように前方へと迫る。
直6RB26の咆哮は、他の車の排気を飲み込むほど鋭く伸びる。
美保(通信)「おにいちゃん……待ってて……!
絶対追いつくから……!!!」
高村「うそだろ……!?Z33の加速帯なのに、
あんなに来んのか……!!」
芽衣「……行かせません……!」
911が再び姿勢を整え、
Z33がサイドからプレッシャーをかけ、
そこにR33が突き刺さる。
若林「ここ!!中団で三台が縦一列!!!!
ポルシェ911!!フェアレディZ33!!
R33 GT-R!!!
全部違うコンセプトの車なのに、速度がまったく落ちません!!」
フェルリア「おそらく美保ちゃん……前にいる“誰か”に追いつきたいのでしょうね。
あの集中の仕方は……ちょっと普通じゃありませんよ。」
ミッドナイトブルーのR33が、草色のポルシェのリアを捕らえる寸前。
美保「次のクランク……誰にも譲らないから……!!!」
中団の空気が、一瞬で“戦場”に変わる。
仙台空港前のクランク。
ここは速さだけじゃダメ。
読み・覚悟・度胸が試される“運命の分岐点”だ。
そこへ――
GRカローラの咆哮と、アメ車V8の爆発音が重なり合った。
岡田の赤いGRカローラが、
路面に噛みつくように突っ込んでいく。
同時に、
佐藤大河の真紅のコルベットC8が横に躍り出る!
若林「そしてここで!!
五位の岡田大成!六位の佐藤大河!!
バトルが勃発したァァァ!!!
中団グループが!!仙台空港前クランクに!!突入だァァァ!!!!!」
C8の排気が“爆発音”に近い吠え方で空気を裂く。
GRカローラはキレ味の良い咆哮で応戦。
どちらも譲る気ゼロ。
佐藤「岡田大成……貴様と戦うのは初めてだな……!」
C8のダッシュが、地面の砂利を跳ね上げる。
その速度は完全にトップクラスの領域。
佐藤「遠慮はしないぞ……!
このC8は――俺の牙だッ!!!」
岡田「上等だ……!
GRカローラ、今日は全開で行く!!
佐藤!テメェ!!簡単には行かせねぇ!!!」
二台の距離は数十センチ。
横に並べれば即クラッシュ。
だが並ばずともクラッシュしそうな速度域。
若林「速い!!!
二台ともクランクのブレーキングポイント、
常識より20メートル先だァァ!!!
どうやって止めるんだあの速度!!!!」
フェルリア「C8のダッシュ力は規格外ですが……
岡田くん、ラインを閉じるのが本当に上手いですね。
この子、前回より“強く”なっています。」
佐藤「チッ……塞ぐか……!!
面白れぇ……!!!」
岡田「来いよ佐藤……!!
中団は、ここから地獄だ!!!!」
GRカローラとC8が、
火花と黒煙を巻き上げながらクランクへ飛び込む。
後ろからは、
柊蒼真の白いFL5、
小岩イオリの812、
そして坂田五郎丸の漆黒のシロンが迫り――
まさに“地獄の隊列”が形成されていく……!
若林「坂田五郎丸の……漆黒のブガッティ・シロン……!
クランクで……ア、アンダー気味ぃぃぃ!!!
さっきは黒川海斗のエボ9MRと“並ぶ”という頭のおかしい領域にいましたが……
現在は……腹切カナタの赤い戦闘機86と、小岩イオリの812スーパーファストの“間”に収まっていますね……!!!」
映像には、コーナー進入で鼻先を外に逃がしたシロンの姿。
W16の鼓動は地鳴りそのものだが――その重さが邪魔していた。
フェルリア「そりゃそうです……。
ハイパワー車特有の“曲がらなさ”ですね。」
若林「曲がらなさ……?」
フェルリア「シロンは……特殊なんです。
W16、800馬力規制下でも化け物。
でも……あの重量級ボディと、あのトルクが……
“タイトなクランクでは敵”になるんですよ。」
フェルリアはモニターを軽く叩く。
フェルリア「アクセルを少し踏みすぎただけで前輪が仕事拒否します。
つまり……アンダーステアが簡単に出る。」
若林「なるほど……!」
フェルリア「それに……」
少し口元をゆがめる。
フェルリア「前にいるのは腹切カナタの軽量86。
後ろは小岩イオリの812スーパーファスト……。
この中に挟まれたら……シロンは“機動力負け”しますよ。」
坂田五郎丸(通信)「……チッ……!
北斗に言われた通りブレーキ早めにしたのに……!
なんで曲がんねぇんだよこの魔王……!」
カナタ(通信)「はっ……そりゃそうだ。
そんな化け物クラス、クランクで踏んだら死ぬぞ……!」
イオリ(通信)「ごめんね……五郎丸くん……!
ここは……812が行くよ!!!」
若林「812スーパーファストがアウトからシロンに襲いかかる!!
赤い戦闘機と漆黒の魔王、そして白銀の羅刹の三つ巴!!!
仙台空港前クランクでとんでもないことになってます!!!!」
フェルリア「地獄の前哨戦……ですね。」
サテラの水色エボ7MRがクランクの進入で軽くテールを流した――
その一瞬の隙間に、
濃密な“白い影”が滑り込んできた。
LC500。
ミルキークイーン。
あの雪の抱擁みたいな空気をまとう女王が……
まさかの位置にいた。
若林「そしてッ!!?アアアアアアア!!!!
サテラのエボ7MRに――
ミルキークイーンのLC500がッ!!!
クランクで並んで来たァァァ!!!!!」
サテラ「おやぁ〜〜?君〜〜、後ろにいたんじゃなかったっけぇ〜〜?」
声はいつもの挑発なのに、
その目は一瞬だけ“怯え”を浮かべる。
LC500の存在感があまりにも異質だった。
フェルリア「そんな……ミルキークイーンは確かに後方にいたはずなのに……
どうやってここまで……?」
画面がズームすると、LC500の動きがはっきり分かる。
FF、4WD、MR、FR……
それぞれが姿勢を乱している中で――
LC500だけが、雪の上を滑るように自然な軌道で曲がっていた。
ミルキークイーン「まあ〜……レースって〜……
前に行きたい女の子の〜、
好きなように走るものですわ〜……?」
サテラ「その余裕……ムカつくんだけどォ〜?」
LC500のV8が甘く低く唸る。
水色のエボ7MRの真横。
クランク出口のラインを完全に被せる動き。
若林「うわあああ!!
並びました!!
エボ7MR!! LC500!!
どっちが前に出るッ!?
クランクの出口で完全に真横です!!!」
フェルリア「……LC500の重さを活かして、
出口で無理やり加重を乗せて抜けていますね。
“車の個性を理解している”走り方です……!」
サテラ「ちょっとぉ〜!
重いくせに加速すんじゃねぇぇぇぇ!!」
ミルキークイーン「うふふ……
あなたの挑発……
聞こえましてよ〜?」
サテラ「はあ!?」
ミルキークイーン「……だから前に行きますわ。
失礼〜……」
LC500がエボ7MRの前へねじ込む。
雪の妖精みたいな動きなのに――力強い。
若林「ミルキークイーンが前に出たァァァ!!!!
サテラを抜いたッ!!!
LC500が鬼気迫る追い上げです!!!」
フェルリア「とんでもない……。
この子……ただのゲストじゃありません……
“本物”ですね。」
若林「さらにさらにィィィ!!!!
柊蒼真ァァァ!!!白いFL5がっっ……
ごぼう抜きだあああああ!!!!」
モニターの奥、白い稲妻みたいな影が走り抜けた。
クレアのR35デビルスタイルを外からぶち抜き、
岡田大成のGRカローラをインで刺し、
佐藤大河のC8を出口で切り裂く――
それは“奇跡”じゃない。
“計算された破壊”だった。
柊蒼真「悪いな……!!!
俺の通るラインには……
見えないブリザードが宿っている……!!
止められるものなら……止めてみろッ!!!」
FL5のリアが風を巻き、
コーナー出口のアクセルオンで白いイメージが尾を引く。
まるで路面そのものが“凍りつく”錯覚に襲われる加速。
クレア「小僧ィィィ……!?今の速度、何じゃあれ……」
佐藤大河「チッ……さすがだな……!!
けどそれでも、俺は止まらねぇぞ蒼真ァァ!!!」
岡田「蒼真……!!
いいぞ……そうじゃなきゃ面白くねぇ!!
負けられない試合になってきたァァァ!!!!!」
岡田のGRカローラが吠える。
佐藤のC8が爪を立てて追う。
デビルスタイルのクレアが不気味に迫る。
だが――
白いFL5だけが“風の奥”を走っていた。
ラインは最短。
エイペックスを刺す角度も完璧。
吸い込まれるように前へ前へ。
フェルリア「……あれは……凄い。
蒼真くん……“車と風の対話”が出来ています。
……あれは才能。努力じゃ追いつけないレベルです。」
若林「蒼真が一気に中団トップ!!
前方のイオリ、カナタ、五郎丸の猛獣トレインに迫っています!!!どうなる……!!!!
松島戦、中団の地獄が崩れ始めているぞォォォ!!!!」




