松島編第10話 ターボのない2リッター
通算270話
若林「……ところで腹切カナタのあの赤い先頭切って――未だにNAなんですよね?」
フェルリア「ええ。どうやら“本当に”自然吸気のままのようですね。
ターボチャージャーの音も、スーパーチャージャーの過給音も……どれも聞こえません。」
若林「信じられませんね。
今回の第6戦、松島戦……。
四駆ターボ、三千cc級、五千cc級、そしてハイパーカーまで並ぶこのグリッドで……
たった200馬力の86前期型で挑んできているワケですが……」
フェルリアは沈黙したあと、静かに言葉を選ぶ。
フェルリア「……足回りだけは、かなり“変わってる”みたいですね。」
若林「変わってる?どういう意味でしょう?」
フェルリア「一般的な走り屋さんがやる“車高調で固める”とか“キャンバーを大きくつける”……
そういうセッティングとは違うんです。
腹切カナタくんの86は――」
モニターには、乱流の中でも一切ブレず
一定のラインで抜けていく赤い86の姿。
フェルリア「“路面を舐めるように走る”んです。」
若林「舐めるように……?」
フェルリア「サスペンションストロークの戻り方が独特です。
本来なら、あの速度帯とブレーキングではフロントが沈みすぎるはずなのに……
沈みきる手前で、スッ……と止まる。
まるで車体が進行方向へ滑らかに流れるように立て直している。」
若林「聞いたことない挙動ですね……」
フェルリア「普通はやらないですし……
“やっても成功しない”セッティングです。
あれは――車のポテンシャルではなく、
カナタくん自身が“車に合わせて身体を動かしている”。」
若林「なるほど……!」
フェルリア「ステアリングも、ブレーキも、アクセルも……全部“無理のない角度”で入力している。
それが、あのラインの滑らかさに繋がってるんですよ。」
若林「NAなのに、四駆やターボ勢と同じ場所に立てている理由が……そこにあるわけですね。」
フェルリア「ええ。そして――」
フェルリアは画面中央の赤い86をじっと見つめた。
フェルリア「彼……“限界”がまだ見えていません。」
若林「限界が……見えてない……」
フェルリア「普通のドライバーは、どこかで“これ以上踏めば死ぬ”ってラインがあるんですけど、
腹切カナタくんには……その手前の“恐怖”がない。
まるで生まれつきそこにいたようなドライビング……不思議ですね。」
若林「この19台の中で、一番“心だけが速い”……
それが腹切カナタかもしれませんね!」
カナタ「…………」
赤い戦闘機は、わずかに鼻先を揺らすだけで
巨獣たちの加速に食らいついていく。
その姿はまるで――
「弱い車だからこそ、強い意志が必要なんだ」と言っているかのようだった。
白い閃光が常磐道へ飛び込んだ。
初参戦のはずなのに――その線は、まるで何年も走り続けてきた者の軌跡。
若林「初参戦が猛追を始めているぞォォォ!!!!」
「白いシビックタイプR!!FL5型!!!
その名は――柊蒼真ぁぁぁ!!!」
観客席が一気に沸いた。
蒼真のFL5は、中盤集団をまるで水を裂くように突破していく。
伊藤翔太のスイフトスポーツZC33Sが視界に入り、
すぐその後ろで蒼真がラインを切り替えた。
若林「速い!!伊藤翔太より“明らかに速いペース”で来ている!!!」
「ペースが既に異常だぞーー!!!」
伊藤「うおっ……!速すぎだろお前ッ!!?」
蒼真の動きは無駄がなかった。
加速も、ブレーキも、ステアも、
全部“最速ライン”に吸い込まれる。
フェルリア「FFっていいですよね……。
昔、私もFD2乗ってました。
あの頃のシビックタイプR……前輪をねじ伏せるように回す楽しさ……。
でも、このFL5は……あれを“現代の怪物”に作り直した車なんです。」
白いFL5のターボ音が一段高くなる。
蒼真「Rには敵わない……それでも――」
蒼真はハンドルを握り、低くつぶやいた。
蒼真「“こいつは……そいつらに並びたがる”!!
行け……もっと行け……!
FL5が“もっといけ”って言ってんだよ!!!」
ブオォォォォォン!!!
FL5がスイスポのアウト側に飛び込む。
伊藤翔太は即座にラインを守ろうとした。
伊藤「くっそ!!止めろ……止めてみろよ!!」
蒼真「止まる気はないッ!!」
FL5の強烈な旋回力が、コーナー出口の加速を完璧に生む。
白い閃光が黄色を打ち砕き――
若林「柊蒼真ァァ!!スイスポの伊藤翔太をオーバーテイク!!!
初参戦とは思えない!!完全に“勝ちに来てます!!!”」
伊藤「……マジで化けモンだろ、あいつ……!」
フェルリア「この子……技量もだけど……車が“従ってる”んですよね。
FL5って本来、こんな素直じゃないんですよ……。」
蒼真のFL5は、次の獲物――
サテラのエボ7 と イオリの812スーパーファスト をロックオンしている。
蒼真「まだだ……まだ前が空いてる……全部抜く……!」
白いシビックが、さらなる獣のように吠えた。
フェルリア「ここで現在の順位を振り返りましょう!」
モニターに、19台+追加参戦1台の順位が一気に表示される。
常磐道突入前後で大きく動いた結果――
最新の順位はこうだ。
第6戦松島戦
宮城県名取市市町村境チェックポイント
【レース序盤 現在の順位】
1位 黒川海斗(ランサーエボリューションIX MR)
2位 山吹花(WRX STI VAB)
3位 相川律(R35 GT-R)
4位 クレア(R35デビルスタイル)
5位 岡田大成(GRカローラ)
6位 佐藤大河(コルベットC8)
7位 腹切カナタ(トヨタ86 前期型)
8位 柊蒼真(シビックタイプR FL5)
9位 小岩イオリ(フェラーリ812スーパーファスト)
10位 サテラ(ランサーエボリューションVII MR)
11位 伊藤翔太(スイフトスポーツZC33S)
12位 山吹芽衣(ポルシェ911 カレラ)
13位 高村圭吾(フェアレディZ Z33)
14位 霧山トオル(ランボルギーニ ヴェネーノ)
15位 相川美保(R33 GT-R ミッドナイトブルー)
16位 内藤セリナ(アウディR8 V10)
17位 ミルキークイーン(レクサスLC500)
18位 湯川サトル(S2000)
19位 佐藤ジュン(RX-7 FD3S/紅色)
20位 川村修一(Kワークス/黄色)
若林「前後全部動きまくってますねぇ!!これは荒れるぞ!!」
フェルリア「特に八位の柊蒼真くん。
初参戦とは思えない安定度と鋭さですね……。
そして最後尾から伸び続ける佐藤大河くんや、Kワークスの川村さんも脅威です。」
花「絶対抜くからなぁぁぁ黒川ァァ!!!!」
黒川「後ろから吠えんな。前を見ろ。」
カナタ「……クソッ、まだ全然巻き返せる。」
レースは序盤にしてすでにカオス。
次の区間でまた順位が大きく変わる。
フェルリア「……あ、若林さん!一点だけ修正です!」
若林「え?どこです?」
フェルリア「十九位の **佐藤ジュン選手は“赤いコルベットC8”ではありません!
“赤いRX-7 FD3S タイプA”です!!」
若林「あっ……!!そうでした!!」
カナタ(心の声)「そうだ……あいつは……600馬力のFDだった……!」
ジュン「ご、ごめんね……!私……遅いけど頑張って走ってるから……!」
フェルリア「いえ、遅いなんてことありませんよ。
あのFDは軽量で、後半の高速域では必ず伸びてきますからね。」
佐藤大河「ジュン、気にすんな。そのマシンは速い。怖かったら前を見ろ。……それだけで十分だ。」
※佐藤大河と佐藤ジュンは別の家系です。
分かりにくくてすみません。
ジュン「う、うん……!」
カナタ「やっぱC8の立ち上がり速ぇな……!くっそ、食らいつく……!!」
伊藤「イオリもヤベぇぞ……あの812、絶対踏み抜いてきてる……!」
柊蒼真「このFL5……前が詰まっても、まだ上を狙える……!」
美保「絶対抜く……絶対上行く……海は私の味方なんだ……!」
煮えたぎるような20台の闘志。
阿武隈川へ向けて、海風がマシンのボディを押し始める……!!
高村圭吾のZ33が、まるで獲物に気付いた山猫みたいに山吹芽衣へ喰らいついていた。
ブレーキランプの赤が一瞬走り、すぐ消える。
圭吾は迷っていない。
ただ一つ――この白髪の少女を前に出させない、と決めている。
高村圭吾「芽衣ィ……!そこだろ……ッ!お前、花ちゃんの妹だからって舐めねぇぞ……!」
Z33が左へ寄せる。
芽衣のポルシェの後ろ姿が跳ねる。
だが――乱れない。
むしろ芽衣はほんの“数ミリ”のステアで、圭吾のパスラインを最初から潰しに来ていた。
山吹芽衣「ごめんなさい……あなたは……前に行かせられません……」
声は小さい、震えもない。
ただ淡々と、用意された結論を口にするみたいに優しい。
それでいて、その手は絶対に弱くない。
ステアの握り方も、アクセルの踏み方も、16歳とは思えぬ精度で研ぎ澄まされていた。
Z33が横へ飛びかける。
芽衣はブレーキの初期で止める。
真っ白な髪が車内で揺れ、ポルシェのリアが色気なくも美しい弧を描く。
若林「山吹芽衣のブロックが……速いッ!!いやこれは速いだけじゃない、読みが鋭い!!」
フェルリアが微笑んだ。
その瞳は、ただの分析ではない“懐かしさ”が滲むようだった。
フェルリア「実は……私ね、昔……共に戦っていた妹がいたんですよ」
若林「妹さん……ですか?」
フェルリア「ええ。賢くて……冷静で……周りをよく見て。
芽衣ちゃんの走り、ちょっとその子に……似てるんです。
ライン取りの癖とか……あの“譲らない静けさ”…ですかね」
彼女の声は優しく落ちていく。
海風の中で泡みたいに散って、だけど芯は残る。
フェルリア「……守ってますよね、前方を。
あれは攻めているんじゃない。
“抜かせない理由”がある子のラインです……」
Z33が再度飛ぶ。
ポルシェの芽衣が、ブレーキポイントの奥で一瞬だけリズムをずらす。
そのズレが圭吾の鼻先を完全に失わせた。
高村圭吾「くそッ……っだよこの子……!!速ぇし堅ぇ……!!」
フェルリアの声は落ち着いているのに、その奥に“震えるほどの既視感”があった。
フェルリア「しかも……あのブロックからの“計算通り”なライン取り……」
「まさに……昔の私の妹みたいなんですよ……」
海辺の風が実況席のマイクを揺らす。
フェルリアは視線をモニターから外さないまま、静かに続けた。
フェルリア「読みが速い。判断が冷たいほど正確。
そして……“譲らない理由”がある子の、あの独特のライン取り……」
芽衣のポルシェが、Z33の圭吾を完全に封じて走る。
無駄がない。焦りもない。
自分のスペースを完璧に設計して守り切る少女の走り。
フェルリア「相当、賢いと思います」
「ただ速いだけじゃありません……“この位置で勝つための方程式”が頭の中にできてる子ですよ……」
若林「なるほど……!」
フェルリア「実戦で鍛えられている動きです。
花ちゃんの妹さん……強いですよ、あの子は」
モニターの中で芽衣はほんの少しアクセルを踏み増した。
Z33がまた近づく。
だが芽衣は動揺しない。
次のコーナーで圭吾が動くタイミングさえ、すべて先に読んでいるかのようだった。
フェルリア「“守る”という走りをあんな静かにこなせる子は……そういません」
潮風の音とともに、実況席に淡い緊張が広がる。
芽衣――この戦場で、確かに何かを開花させていた。
ストレートの海風が、まるで一斉に牙を剥いたように道路を切り裂く。
その風の中――中団前半が“固まり”ではなく“弾丸の束”になって突き進んでいった。
若林「中団グループ前半!!腹切カナタ!!!C8佐藤!!!
シビックタイプRの柊蒼真!!!さらに812スーパーファストの小岩イオリ!!!
団子状態でストレートを駆け抜けていきます!!!!」
腹切カナタの赤い86が風壁を割る。
そのすぐ横に、赤いC8・佐藤大河が鼻面を並べる。
佐藤大河「オラァァァ……!お前のNAじゃ、ここで置いてくぞカナタァ!!」
カナタ「まだだッ……!こっからが86の勝負なんだよ……!!」
後方では――
白いシビックが、ブレーキを一瞬だけ弾いて、まるで線で描いたような直進姿勢で追い上げる。
柊蒼真「前の二台、バケモノだな……!けど……FL5は、もっと行けって吠えてる……!」
さらにその背後、ビアンコの光を反射しながら――
812スーパーファストが風をねじ伏せる音を立てる。
小岩イオリ「芽衣ちゃん……ごめんね……ッ!私はここで負けられない……!」
4台のエンジン音がまるで高速の太鼓のように重なり、共鳴していく。
赤、赤、白、白の4本の光が連なって、潮風のストレートを裂きながら一直線に並ぶ。
若林「前へ出るのは誰だァァァ!?中団なのにトップグループ並みのスピード!!!!」
フェルリア「これは……良いですね。
誰も引かないライン、譲らないアクセル……若いって素晴らしい……」
中団前半――
まるで戦場の中心がここにあるような、重たい空気がうねっていく。
若林がモニターを覗き込みながら、ぽつりと口にした。
若林「そういえば……エーペックスカップって、確か“800馬力未満”までのレギュレーションでしたよね……?
なのに812スーパーファストとかC8とか……絶対オーバーしてません?」
フェルリアは肩を揺らして微笑む。
まるで“また説明することになったか”みたいな、少し大人の余裕。
フェルリア「パワーリストラクターを使っているのでしょうね」
若林「……なにそれ?おいしいの?」
会場の空気が一瞬だけ静止し、フェルリアが露骨に目を丸くした。
フェルリア「食べ物じゃありませんよ若林さん……!エンジン出力のリミッター……つまり馬力制限の装置です。
本来のパワーを意図的に抑えることで、800馬力以下に合わせてるんです」
若林「へぇ……そんなの付けられるんですか?」
フェルリア「ええ。
特に大排気量勢――812やC8やR35系は“そのまま”だと900前後、場合によっては1000近く出る車もいます。
だからリストラクターで吸気量を抑えて、馬力を800以下に固定しているんですよ」
若林「なるほど……!
じゃあ今走ってる812スーパーファストとかC8とかも、素の馬力じゃないんですね?」
フェルリア「そうです。
でも……それでも“強い”。そこが怖いところなんですよ」
モニターには、赤いC8が86を追い、白い812がストレートを縫うように動く映像。
海沿いの風を切り裂く音が観客席にまで響く。
フェルリア「車の素性が良い子たちは、馬力を落としても……速いんです。
そのうえ……ドライバーの腕が良ければ、なおのことね」
若林「……完全に理解しました!」
フェルリア「本当ですか?」
若林「……半分くらい!」
フェルリア「半分……まあ、よしとしましょう」
潮風の中、実況席が少しだけ和む。
だがレースは一切緩まない。
中団の4台の咆哮が、会場すべてを震わせていた。
花の怒声が、通信機越しに“海沿いの空気そのもの”を震わせた。
花(通信)「オラァァァァ!!
若林ィィィ!!!!」
「アンタ!!知らないにも程があるでしょォォォ!!!!」
実況席のガラスがビリつく。
若林は椅子ごと揺れて、思わず背筋を伸ばした。
若林「ひっ……花ちゃん、聞こえてたんですね!?」
花(通信)「当たり前だろォォ!!走りながら全部聞こえてんだよ!!」
「パワーリストラクター知らねぇって……どんな実況だよ!!!」
若林「ちょ、ちょっと待って!?実況も勉強してる最中で……!」
海風の中で、フェルリアが肩を震わせる。
笑っているのか、呆れているのか、その境界みたいな顔。
フェルリア「花ちゃん、落ち着いて……あなた
今レース中ですからね……?」
花(通信)「うるせぇェェェ!!!
こんなストレートで一番忙しい時に!! “おいしいの?”とか言ってんじゃねぇよ若林ィッ!!」
若林「ギャァァァ!!!すみません!!!」
フェルリア「まあ……彼も頑張ってますので。ほどほどに」
花(通信)「フェルリアさんは許す!若林は許さない!!」
若林「なぜだァァァ!!??」
海を渡る風が笑っているように流れていく。
だがその直後、花のVABが前方の黒川エボに噛みつくように迫っていった。
怒りも、ドライビングの燃料。
花は、速い。
若林がメモ帳をめくりながら、また妙なことを言い始めた。
若林「にしても花さんのその……故障してるエンジンの車は……」
その瞬間、通信越しの空気が爆ぜた。
花の叫びは海沿いのスタンドを揺らし、実況席のマイク感度を振り切った。
花「故障じゃねェェェ!!!
水平対向エンジンだわァァァ!!!
いい加減覚えれェェェ若林ィィィ!!!!」
若林「ひっ!!???」
VABの排気音が怒りと一緒に吹き荒れる。
レブが跳ね上がるたびに、花の怒気まで路面に叩きつけられていく。
フェルリアは、というと……
こっそり口元を手で覆い、声にならない笑みを浮かべていた。
フェルリア「若林さん……それ、絶対言っちゃいけないやつですよ……」
若林「だ、だってエンジン音がガラガラしてて……壊れてるのかなって……」
花(通信)「ガラガラじゃなくてボクサーだ!!
揺れんだよ!!振動多いのが味なんだよ!!
水平対向ッ!!二回言ったから覚えろォ!!」
若林「ごめんなさいィィィ!!!」
フェルリア「花ちゃんも穏便に。
あなた追い越し区間ですよ……?」
花(通信)「まずは若林の脳味噌を直すのが先なんだよ!!」
若林「脳味噌は直さないで!!お願い!!」
実況席も海風も全部振り回す勢いで――
花のVABは怒りのまま、なお加速していく。
怒気ごとドリフトしていくような走り。
まさに、海岸線の烈風 WRXだった。
潮風を裂く画面が切り替わった瞬間――
モニターに映ったのは、レモン色の閃光だった。
内藤セリナ。
フミッパ女王のR8 V10ターボ。
V10が、まるで海底から浮上した怪獣みたいに吠え散らす。
排気の波がカメラを揺らすほど凶暴だ。
若林「出たァァァ!!フミッパ女王!!!内藤セリナ!!!」
フェルリア「ターボの入り方が……おかしいですね。
普通じゃない……踏んでるんです、あれは“全域”で」
画面の奥、R8は鋼鉄の海流のように路面へ吸いつき――
一歩、また一歩と前車を呑んでいく。
内藤セリナ「いっくよ〜〜☆
フミッパスライダーぁぁぁ!!!」
ターボが鳴く。
V10が悲鳴を上げる。
むしろ**車の方がセリナに“押し込まれている”**ような加速だ。
その様子を見た他のドライバーたちの焦りが、通信に滲む。
佐藤大河「やばいぞカナタ!!!後ろから爆弾飛んできてんぞ!!」
柊蒼真「FL5が……食われる……!?そんな馬鹿な……!」
サテラ「おい内藤……!フミッパで突っ込むな!死ぬぞ!!」
伊藤翔太「待て待て待て待て!!あのラインで来るのは反則だってッ!!」
山吹芽衣「……来ます……あれ……止まらない……」
そして――花の声が一番ヤバかった。
花「ちょッ……近寄んなァァァ!!!!
内藤!!お前だけはイヤだァァァッ!!!」
実況席では若林が青ざめ、フェルリアは目を細めた。
フェルリア「R8……あれは反則レベル。
スピードを“捻じ曲げてる”走りですね……さすがセリナちゃん。
あの子は、踏むのをやめませんから」
V10ターボが再び吠える。
レモン色の閃光が中団に突撃を開始した。
海岸線の風が一気に荒れ模様となる――
内藤セリナ、ついに覚醒の兆し。
柳津の背筋が、まるで氷を当てられたみたいにゾクリと震えた。
バックミラーに映る“あのレモン色”――相馬戦で地獄を見た張本人だ。
柳津「……マジかよ……!!!
後ろから内藤が……来てんのかよッ!!」
R8のV10ターボが、直線を破る“悲鳴”をあげながら迫る。
普通ならアクセルを緩める区間でも、内藤は一切踏むのをやめない。
その狂気じみた接近に、通信越しにあの声が降りてくる。
内藤セリナ「ねぇねぇ〜柳津くん〜?
また~~私の“フミッパスライダー”にやられたいの〜?
おほほほほほ☆」
若林「お、奥さまァ!?なんかおかしな笑い方してません!??」
フェルリア「そういうキャラなんですよ若林さん。
“走り出すと人格がめちゃくちゃになる子”って言うんですかね……」
その瞬間――
ギュワアアアアアアアアアア!!!!
レモン色のR8が、まるで風洞を乱暴にねじ切るみたいな音を響かせて急接近した。
R8は路面のうねりさえ“無視”した姿勢で、柳津のM4に真っすぐ飛び込む。
柳津の喉が乾いた悲鳴を飲み込む。
柳津「う……うおおおッ!!
来るなよ内藤!!あの時みたいに吹っ飛ばす気かッ!!?」
内藤セリナ「んふふ〜☆どーかなぁ〜?
でもぉ……また転がすかもしれないよぉ〜???」
柳津「やめろォォォ!!!」
若林「柳津ィィィ!!相馬戦のリベンジなるかァァァ!!???」
フェルリア「R8の“横Gの付き方”が異常ですね……。
コーナーに入る前の姿勢作りが……まるで怖がらない。
むしろ、柳津くんのラインを“餌”だと思ってますね……」
M4の排気が吠える。
R8のターボが悲鳴を返す。
相馬戦で吹っ飛ばされた男 vs フミッパ女王のR8。
再戦の火花がいま、海沿いのコースで弾ける!!
レースの混線と海風のざわめきの中、
“あの声”だけは場の空気をふっと柔らかくねじ曲げた。
ミルキークイーン「あらあら〜?
内藤ちゃ〜ん……私のことも忘れないでくださいまし〜……?」
実況席が一瞬静まる。
通信の向こうで、内藤セリナが“来た…”という顔になるのが分かった。
内藤「えっ……ミルキークイーン……?なんでそこに……?」
ミルキークイーン「だって〜……あなたがあまりにも暴れておられたので……
少し“冷やし”て差し上げようかと思いまして〜……」
R8のレモン色が海沿いで揺れる。
そのすぐ後ろ、白く巨大なLC500がまるで“優雅な雪崩”みたいに滑ってくる。
若林「後方で新たな危険が発生してます!!」
「内藤セリナの後ろにミルキークイーンだぁ!!?」
フェルリアは目元を押さえながら呟く。
フェルリア「……あの子たちが同じ位置で走ると本当に危ないんですよね……
性格が……真逆なのに……妙に噛み合うというか……」
ミルキークイーン「ねぇ〜内藤ちゃぁん……
さっきの“フミッパスライダー”……可愛らしかったですわ〜……」
「今度は〜私にも見せてくださらない……?」
内藤セリナ「やっ……やだよ!!なんでミルキークイーン来るの!?
てか怖いってぇ!!なんかいつもより喋り方濃いよ!!」
ミルキークイーン「そんなことありませんわ〜……
レースは楽しまないと……ネ……?」
LC500がふわりと近づく。
R8のリアランプに、その白い影が少しずつ重なっていく。
柳津「うわぁぁぁ!!俺の後ろ、地獄しかいねぇ!!
前はセリナで後ろはミルキークイーン!?なんで俺がサンドイッチだよ!」
サテラ「柳津、祈っとけ……!そこはもはや“霊界レーン”だ……!」
――そして。
ミルキークイーン「内藤ちゃ〜ん……
た〜くさん……走ってくださいませねぇ……?」
内藤「ひぃッ!!やめて追ってこないでぇぇぇ!!」
若林「地獄の女王とフミッパの暴走姫が同じレーンにいるッ!!」
「ここから後方は……とんでもないことになりそうだぁぁ!!」
フェルリア「この二人が揃うと……レースが荒れますね……本当に……」
松島の海が強く吹きつけた。
後方戦線――いよいよ混沌の最終形態に突入。
1位 黒川海斗(ランサーエボリューションIX MR)
2位 山吹花(WRX STI VAB)
3位 相川律(R35 GT-R)
4位 クレア(R35デビルスタイル)
5位 岡田大成(GRカローラ)
6位 佐藤大河(コルベットC8)
7位 腹切カナタ(トヨタ86 前期型)
8位 柊蒼真(シビックタイプR FL5)
9位 小岩イオリ(フェラーリ812スーパーファスト)
10位 サテラ(ランサーエボリューションVII MR)
11位 伊藤翔太(スイフトスポーツ ZC33S)
12位 山吹芽衣(ポルシェ911 カレラ)
13位 高村圭吾(フェアレディZ Z33)
14位 霧山トオル(ランボルギーニ ヴェネーノ)
15位 相川美保(R33 GT-R ミッドナイトブルー)
16位 柳津雄介(BMW M4)
17位 内藤セリナ(アウディR8 V10)
18位 ミルキークイーン(レクサスLC500)
19位 湯川サトル(S2000)
20位 佐藤ジュン(RX-7 FD3S 紅)
21位 川村修一(Kワークス・黄色)
若林がモニターと手元のメモ帳を交互に見ながら、
またしても“地雷”を踏んだ。
若林「にしても内藤さんのR8って……TCでしたっけ?」
その瞬間、
通信機の向こうで“空気が落ちた”のが、誰にでも分かった。
普段のレモン色ボイスが、
急激に夜の海底みたいな低温へ沈む。
内藤(暗い声)「…………うるさいわねェェェ…………」
実況席の照明すら一段暗くなったような錯覚が走る。
若林が震えながらマイクを握る。
若林「……な、内藤さん……?」
内藤(暗い声)「NAなのわかんないの!!??
いつも言ってるでしょォォォ!!!!
いい加減知っとけよオラァァァ!!!!」
ガァァァァァンッ!!!
通信越しに、R8のエンジン音が爆発した。
マイクが割れ、実況席のガラスが震えた。
若林「ぎゃあああああああああ!!!???」
フェルリアは、椅子から少し浮くほどビックリして、
そのあと天を仰いだ。
フェルリア「……若林さん……それは……
絶対言っちゃいけない質問です……」
若林「だって……だってなんか音がガァァァって……」
内藤(暗い声)「ガァァァじゃないの!!!
NAで吠えてんのよォ!!
わかれぇぇぇぇぇ!!!!」
R8が次の瞬間、
柳津のM4へ向けて“ロケットみたいに”噛みつき始めた。
柳津「ぅおッッ!?
ちょっ……なんで怒りMAXの状態で来てんだよォォ!?
やめろォォォ!!」
内藤(暗い声)「うるさい……うるさい……!!
あんたも若林もまとめて踏みつぶすわよォォォ!!!」
若林「すみませぇぇぇぇん!!!!!」
フェルリア「……もう無理です、若林さん……
あとは、避難してください……」
怒気の渦だったさっきまでの“地獄の内藤”が、
突然――スイッチを切ったみたいに声色を変えた。
内藤「えへへ☆
なんでもないよ〜若林さ〜ん!!
頑張っちゃうね〜☆」
若林「えっ!?えっ!?
い、今の暗いやつどこ行きました!?!?」
フェルリアは額に手を当てた。
完全に“悟った人”の表情。
フェルリア「……若林さん。
内藤ちゃんは、さっきので完全にテンション上がっちゃいました。
ここから……さらに危険ですよ」
次の瞬間。
グオオオオオオオオ!!!!!!
レモン色のR8 NAが、
怒りの黒い影を脱ぎ捨てた“本性”で吠えた。
それはターボじゃない。
純粋なNA V10が限界まで回された悲鳴。
柳津「うおおおおッ!?
さっきより速ぇ!!なんでだよ!!情緒不安定かよお前ぇぇ!!」
内藤「情緒?しらな〜い☆
前走る子は全部抜くだけだよ〜!!ふーみーっぱーー☆」
R8がコーナーへ飛び込む。
ブレーキ?
そんなものは存在しない。
ただ、踏む。
世界がどうなろうと踏む。
カナタ「やべぇ……!
あの“明るい声”の時が一番危険なんだ……!!」
伊藤「分かる。
あのテンション入るともう“遊んでるつもりで殺しにくる”タイプだ……!!」
サテラ「柳津、生きて帰ってこいよ……!もはや祈りの世界だ……!」
若林「なんか僕のせいで世界がひっくり返りそうなんですが!?!?!?」
フェルリア「大丈夫ですよ若林さん。
あなたのせいじゃないです。
……内藤ちゃんがヤバいだけです」
そして――
レモン色のR8が海沿いのカーブへ吸い込まれていく。
内藤セリナ
“天真爛漫フミッパモード”発動。
――――――――――――――
【レーサー達の反応】
腹切カナタ
「……やべぇぞ。アイツ“あの声”出したらもう終わりだ……」
伊藤翔太
「え、ちょっ……マジ?あれ内藤だよな?別人入ってない?」
サテラ
「おいおい……霊圧変わってたぞ今……なんか憑いてんのか?」
相川律
「アイツ……相馬の時より怖い……あの声は反則だろ……」
相川美保
「おにいちゃん、あれ怖い。怖いって!絶対あの子ヤバいよ……!」
柳津雄介
「……嫌だ……嫌だ……絶対また俺狙ってくるじゃん……!」
高村圭吾
「は?誰だよ今の声……背骨が冷えたんだけど……」
山吹芽衣
「震えが……止まらない……あの人、本気じゃない声でした……」
山吹花
「なんなんだあの声……!あれ速さじゃなくてホラーだろ!!」
霧山トオル
「……内藤セリナ。面白いね、あの邪悪さ。ボクの趣味じゃないけど」
クレア
「ほぉ……闇の声、嫌いじゃないのじゃ……!」
佐藤大河
「おいカナタ、あれマジで人間か……?返事しろカナタ!」
小岩イオリ
「……怖い……怖すぎる……あれだけは嫌……」
ミルキークイーン
「うふふ……あら、内藤ちゃん……久しぶりに“黒いわたくし”が出そうですわね……?」
※一人だけテンションが違う。
――――――――――――――
【観戦者(スタジアムの観客)の反応】
観客A
「今の……聞いた?やばくない?」
観客B
「声、完全に別人だったよな……」
観客C
「R8の子ってあんな怖かったっけ……?」
観客D
「なんか……レースというより怪談じゃん……」
観客E
「ねぇ……今の叫び、海風で響いてゾッとしたんだけど……」
観客F
「事故より内藤の声の方が怖いってどういうことだよ!」
観客G
「黒川より怖い女現る……」
観客H
「実況席のガラス揺れてたぞ……」
――――――――――――――
【ライブ配信コメント欄】
視聴者1
「え?え?今の声なに??」
視聴者2
「内藤セリナ、闇落ちしてて草」
視聴者3
「暗黒モード突入」
視聴者4
「ホラー映画かと思った」
視聴者5
「怖すぎて音量下げた」
視聴者6
「柳津終わったな……合掌」
視聴者7
「ここだけR8じゃなくて怨念が走ってる」
視聴者8
「フェルリアの顔、完全に“あっ終わった”の顔やん」
視聴者9
「内藤セリナ、人格3つくらいある説」
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そして、
内藤が明るい声に“戻った”瞬間の反応はこれだ。
視聴者10
「戻ったけど逆に怖い!!!」
視聴者11
「テンション高い内藤の方が事故る確率上がるの草」
視聴者12
「余計危険になってるの笑えない」
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レース中の全員が悟っていた。
さっきの“暗い声”は、 R8がホントに速くなる前兆だ。
そして今は、
その後の「テンション高いモード」に入ったことで
――一番危ないセリナが開幕した。




