松島編第9話 火花の雨の咆哮
スタート直後。
常磐道へ向けて解き放たれた十九台は、轟音とうねりを残して加速していく。
岡田「きたァァ!!!始まった!!!!」
エンジンの咆哮とタイヤスモークが一斉に混ざり、最初の加速区間で早くも隊列は乱れ始める。
黒川海斗が先頭で牙のように踏み抜き、花のWRXが真後ろに食らいつく。
相川律のR35がすぐ横に並び、三台が最前列で火花を散らした。
だがその直後。
腹切カナタの86の背後で――
赤い閃光が飛び込んできた。
佐藤大河「カナタァァァ!!!行くぞッ!!!」
カナタ「はやッ……!!」
最後尾スタートからの一気の飛び込み。
コルベットC8の咆哮が、まるで獣が嚙みつくようにカナタの86を飲み込む。
C8のV8サウンドが背後にへばりつき、一瞬のギャップで一気に横へ出た。
佐藤大河「抜かせてもらう!!」
カナタ「くっそ!!」
赤いC8が真横からかぶせ、加速でねじ伏せるように86をオーバーテイク。
わずか数百メートルでカナタは五位から六位へ落ちた。
カナタ「まだ始まったばっかだぞ……佐藤……!」
その少し先ではさらに荒れた攻防が起きていた。
サテラ「っとと……イオリちゃん来るねぇ……!」
小岩イオリの812スーパーファストが、重低音とともにサテラのエボ7MRを強引にかわす。
大排気量V12の圧倒的パワーが直線で牙を剥いた。
イオリ「ごめん……でも、前に出る……!」
サテラ「へぇ……いいねぇ、その気迫。」
そしてさらにその前では――
伊藤「うおっ!?蒼真!!?」
柊蒼真「翔太さん、行かせてもらう!」
白いFL5が、伊藤の黄色いスイフトスポーツの懐へ飛び込み、イン側のクリップを一撃で奪う。
荷重移動を極限まで抑えたコーナーアプローチ。
蒼真のFL5がずるりと伊藤の前へ躍り出る。
伊藤「はえぇぇ……!クソ、でも負けねぇぞ!!」
蒼真「まだ行くよ!」
順位の変動が次々とモニターを刷新していく。
レース序盤順位の更新
1 黒川海斗
2 山吹花
3 相川律
4 クレア
5 岡田大成
6 佐藤大河
7 腹切カナタ
8 柊蒼真
9 小岩イオリ
10 サテラ
11 伊藤翔太
12 山吹芽衣
13 高村圭吾
14 霧山トオル
15 相川美保
16 内藤セリナ
17 ミルキークイーン
18 湯川サトル
19 佐藤ジュン
花「前も後ろも騒がしいわねぇぇええ!!!」
黒川「ついて来れるかよ、山吹……!」
相川律「前の二台……速ぇな……!」
カナタ「まだ終わってねぇ……ここからだ。」
常磐道へのアプローチ、十九台が一列になりきれず揺れながら突っ込んでいく。
レースは、まだ始まったばかりだった。
フェルリア「さて、始まったばかりですが……ここで、一度それぞれの車について“性能面”から触れていきましょうか。」
若林「フェルリアさん!お願いします!!」
フェルリアはモニターを鋭い眼差しで追いながら、まるで楽譜を読むように19台を解析し始めた。
フェルリア「まず先頭の黒川海斗くん――エボ9MR。」
黒川のエボ9MRが常磐道の入り口で3台を引き離すように踏み切る。
フェルリア「これは……文句なしに今回トップクラスの“加速特化の四駆”ですね。
エボ7よりもさらに研ぎ澄まされたシャシー剛性、レスポンスのいいターボ……軽い車体で四輪を引っ張る。
あれは正直……手がつけられません。」
若林「トップスピードもかなり伸びてますね!」
フェルリア「ええ。そして二番手――」
モニターには青いWRXが、黒川を捕らえようと牙をむく姿が映っていた。
フェルリア「山吹花さんのWRX STI VAB。
これは“中速域の安定性”がエボとは一味違います。
スバル特有の水平対向エンジンで低重心、四駆で無駄なく路面を掴む……。
特に花さんは“加速後のステアの抜きと戻し”が異常に上手い。」
若林「まるで生まれつき……その車の癖を知っているかのようですね!」
花「当たり前だろ!!!黙ってろ若林!!!!」
若林「は、はい!!!」
フェルリアは気にせず続ける。
フェルリア「三番手は相川律くん。R35 GT-R。
これはもう……“重量級ロケット”ですね。
電子制御の塊、人間を補助するためのマシン。
トラクションは桁違いで、アクセルを踏めば踏むほど矢のように進む。」
相川律「重いだけじゃねぇんだよ……見せてやるよ、R35の仕事をな!」
若林「そして四番手……腹切カナタ選手!!」
フェルリア「異常です。」
若林「い、異常!?!?」
フェルリア「NA、後輪駆動、200馬力台のトヨタ86前期。
本来、この常磐道の世界で四駆や大排気量に勝てる性能ではありません。
ですが――」
カナタの86が乱流の中で安定し、ラインが一切ブレない。
フェルリア「彼は車の限界ラインを“曲げている”。
外側のラインを極限まで広げて、旋回を完成させている。
普通のドライバーができない芸当ですね。」
若林「腹切カナタのコーナーがもう一度見れるとは……!」
フェルリア「そして五番手のクレアさん――ポルシェ911 カレラGTS。
これは……ただの化け物です。」
若林「え、解説が雑!!?」
フェルリア「いえ、性能が化け物なんですよ。
後ろにエンジンを積んだRR、そして全域で効くブレーキ、立ち上がりで一気に前に出る加速……。
しかも運転しているのは“闇の少女”とか言われる謎の11歳……。
正直、大人でも勝てませんよ。」
クレア「我が悪いか!!?」
若林「悪くないです!!落ち着いてください!!」
フェルリアは次々と解説を進める。
フェルリア「そして六番手、岡田大成のGRカローラ。
三気筒ターボですが、あれはエボとWRXに近い四駆性能があります。」
岡田「来いよォォォ!!!ここから伸びるぞぉぉぉ!!!」
フェルリア「七番手の伊藤翔太くんのスイスポZC33S。
軽くて挙動が素直。素早いハンドリングで中盤から伸びますね。」
伊藤「絶対追いつくからな!!」
フェルリア「八番手、サテラのエボ7MR。
技術の鬼ですね。ポテンシャルは9には及ばないけれど、サテラくんの操作で補っている。」
サテラ「まぁねぇ……?」
若林「九番手の蒼真選手は?」
フェルリア「FL5はタイヤの熱入りが早く、中盤から一気に来る車。
そして蒼真くん自身が“鬼”ですね。」
蒼真「……へぇ、褒められるのは悪くない。」
フェルリア「十番手、小岩イオリの812スーパーファスト。
圧倒的パワー。
ただし重量級なのでコントロールは難しい。
でも……あの子は才能があります。」
イオリ「……前、行く……!」
そして――五番手。
フェルリア「五番手、クレア選手の……“デビルR35”。」
若林「きました!!」
フェルリア「あのR35は普通ではありません。
加速・制動・立ち上がり……全て“人間が扱えるはずのない反応速度”で動いてます。
しかもドライバーは十一歳の少女。
あれは……車もドライバーも、規格外です。」
クレア「ふはは!褒めても何も出んぞ若林!」
若林「褒めてないです褒めてないです!!!」
フェルリア「六番手は岡田大成くんのGRカローラ。
小排気量の三気筒ですが、四駆のロスが少なく中盤で伸びます。」
岡田「もっと行くぞおお!!」
フェルリア「七番手、伊藤翔太くんのスイフトスポーツZC33S。
軽くて曲がる……“格闘戦向け”の小さな怪物ですね。」
伊藤「抜き返すからなァァ!!」
フェルリア「八番手はサテラくんのエボ7MR。
古いモデルとはいえ、軽さと鋭さはエボ9にも劣りません。」
サテラ「まぁ?俺の腕で補うけどねぇ?」
フェルリア「九番手、柊蒼真くんのシビック typeR FL5。
熱入りが早く、旋回性能が高い。
彼の反応速度と噛み合えば……後半、暴れますよ。」
蒼真「当然。」
フェルリア「十番手、小岩イオリ選手のフェラーリ812スーパーファスト。
最大の武器は“パワー”。
ただし扱いは至難。
あの年齢であれをここまで動かせるのは……天性ですね。」
イオリ「負けない……。」
若林「後続も激戦ですよ!!」
フェルリア「十九台全て……性能も性格も扱いが違う。
始まったばかりでこの密度。
これは“怪物たちの衝突”です。」
若林「常磐道に……入るぞ!!!」
視聴者コメント
「黒川はえぇぇぇ」
「花ちゃんのWRX追ってる!!」
「相川律のR35ロケット!!」
「クレアのデビルR35来た!!!」
「クレア、データ一時911になってたぞw」
「蒼真刺さってきた!!」
「イオリちゃんの812がサテラ抜いた!!」
「カナタが佐藤C8に抜かれた!?やば!!」
「このレース密度おかしいだろ!!」
観客もネットも沸騰し、
誰もが画面の前で固唾を飲んだ。
十九台が、常磐道の入口へ流れ込む――!
花「始まった、、、、、!行くぞ!!!!」
青いWRXが地面を蹴り飛ばすように前へ弾ける。
排気が地鳴りになって常磐道の路面を震わせた。
ドゴオオオン!!!
風が千切れる。
空気が叫ぶ。
花の青いマシンはスタート直後から最初の魔獣みたいに前へ突進した。
黒川「……チッ。やっと来やがったな、花ァ……!」
黒いエボ9MRのテールから火花が散る。踏みつけたアクセルに反応して、黒川のエボが獣じみた咆哮を上げる。
サイドミラーに青の稲妻が映る。
花「オラァ!!アタシがトップで入るんだよォォォ!!!」
怒号の勢いそのままに、2番グリッドから加速の山を一つ飛び越え、一気に黒川の横へ並ぶ。
伊藤「うお!?始まって5秒でこれ!?プロかよ二人とも!!」
伊藤のスイスポも負けじとギアを叩き込み、軽さを武器に弾丸のように前へ飛ぶ。
相川律「クソッ……!置いてかれてたまるかよ!!!」
R35が地平線へ突き抜けるような加速。
タービンが唸りを上げ、重さをねじ伏せる怒涛の蹴り出しで三位の位置を守りに行く。
そのすぐ後ろ――
カナタ「はぁっ……はぁっ……!よし、いく……!!」
赤い86前期が一瞬だけ沈みこみ、そして跳ぶ。
NAとは思えない吠え方で、クレアの悪魔R35の背中へ襲いかかった。
佐藤大河「追いつけよカナタァァァ!!!最後尾だろうが何だろうが……止まる気ねぇからなァァァ!!!!」
C8が踏みつけた瞬間、空間が裂けて空気が悲鳴を上げる。
19位からの反逆がいきなり始まった。
ミルキークイーン「まあ〜、皆さま元気ですわね〜……わたくしも行きますわ〜……」
LC500の低い重低音。優雅な車体からは想像できないほど、路面を押し潰すようなトルクが溢れる。
イオリ「芽衣ちゃん……見ててね……!!!」
812スーパーファストのV12が海風を震わせる。
白い岩の息吹みたいに冷たい残響だけを残し、前のマシンを飲み込みに行く。
芽衣「負けないです……!深呼吸……!」
ポルシェ911のリヤがうねり、風とともに花の背中を追う。
サテラ「水鮫はここからだ……喰い破るぞォ……!」
水色のエボ7MRが路面を噛む音だけで前走車の心臓を締めつける。
蒼真「抜くぞ……伊藤ォ!!」
FL5が無駄のない動きで、スイスポにスッと鼻先をかけに行く。
美保「兄ちゃん……負けねぇから……!」
青のR33が影のように走る。波の色を背負って、静かに速い。
古賀「みんな……気をつけてね……!!!」
白いM3が音楽教師の優しい手つきとは違う、正確なレーサーの動きでコースに入る。
若林「開始30秒でクラスターのような攻防が巻き起こっている!!!」
フェルリア「興味深いですね……開幕からここまで全員が全力なんて……これは長いレースになりそうですよ」
先頭では黒川と花がぶつかり合う。
二台の間に火花が散り、風が裂け、怒号が響く。
花「黒川!!道開けなァァァ!!」
黒川「開けねぇよォ!!トップは俺のもんだッッ!!」
若林「あれ?……選手、まだいるはずでしたね?
十八台……違う、十九台……いや――二十……?」
フェルリアがモニターを凝視して目を細めた。
フェルリア「……ああ!!走ってます!!!
黄色のKワークス!!!!」
観客「えッ!?」「誰!?」「追加参戦か!?」
フェルリア「川村修一が……最後尾を走っています……!!
参加申請が“ギリギリ”で届いたため、今表示されました!!!」
若林「うおおおおお!!!ここでまさかの20台目です!!」
カナタ「は……!?20人……!?増えすぎじゃねぇか……!」
相川律「ちょっと待て!!常磐道でKワークスって正気かよ!!?」
ミルキークイーン「可愛らしい車ですわ〜……でも速いのかしら〜……?」
黒川「……面白ぇ。踏めるもんなら来いよKカーが……」
そのとき――
レース中盤で中位集団を走っていた伊藤翔太が、ミラーの奥に映る黄色を見て眉を上げた。
伊藤「……スズキが……もうひとり来やがったか……!!」
「しかもKワークス!?完全に予想外だぞオイ!!!」
そして最後尾――
黄色のKワークス。
車体は、他の化け物車両たちに比べれば小さく、軽く、可愛らしい。
しかし――
そのハンドルを握る男は、スーツのネクタイを車内で外していた。
川村修一「……ふぅ……」
「歳下なんかに……不足はない……!」
眼鏡を軽く押し上げ、
普段は平凡なサラリーマンの彼が――
静かにアクセルを踏んだ。
川村修一「――いくぞ。」
次の瞬間。
キィィィィィィン!!!!!!
Kワークスのターボが、まるで爆発するかのように回転数を叩き出した。
フェルリア「ちょっ……!?」
「Kワークスが……加速している!?
あれ……軽自動車の域じゃありませんよ!!!?」
若林「なんだこの伸びはァァァ!!!?」
川村修一「残業も……理不尽な客も……全部乗り越えてきた……
だったら……若い子たちのスピードくらい……!」
ギュボォォォォ!!!
小さなボディが縫うように加速し、横を走る湯川サトルのS2000が驚いてラインをずらす。
湯川「お、おいッ!?なんだ今の……!!?」
川村修一「――追える……まだ追える……!」
イオリ、ジュン、ミルキークイーンの集団へ突っ込む勢いで伸びていく。
フェルリア「し、信じられません……!
これは……本当にサラリーマンの運転なんですか……!!?」
若林「松島編……ついに二十台ッ!!!
ここでとんでもない番狂わせが生まれるのかああああ!!!?」
カナタ「……!」
「面白くなってきたじゃねぇか!!!!!」
エーペックスカップ松島戦――
常識を壊す“黄色い稲妻”が、今走り出した。




