松島編第8話 スタートの狼煙
ついにレースが!
通算268話
佐藤「よお……!」
その声は、赤いC8の前から悠々と響いた。
ゆらりと現れたのは、サングラスを外しながら不敵に笑う男――佐藤大河。
カナタ「佐藤……!」
ジュン「き、君は……?」
佐藤大河はC8のドアにもたれかかり、軽く手を上げた。
佐藤「佐藤大河。この赤いC8で戦う男さ。腹切カナタの幼なじみで――ライバルだ。まぁ、俺たち高校2年生だけどな。」
伊藤「……あ!そうか、5月だから俺たち今、高2か……!」
カナタ「そんな実感わかねぇけどな……。」
佐藤はニッと笑い、C8のフロントフェンダーを軽く叩いた。
佐藤「俺も最後尾から出ることになった。予選は見逃してやったけど……決勝は遠慮しねぇ。よろしくな。」
花「は!?!?!?!???」
花の首がほぼ180度回転する勢いで振り向く。
花「アンタ最後尾ぉ!?なにそれぇ!?どの口が“決勝は遠慮しねぇ”なんて言ってんのよ!?あぁ!?何様よ!?!?」
佐藤「何様でもねぇよ。俺は俺だ。カナタの幼なじみで、赤い戦闘機に追いつきてぇバカだよ。」
カナタ「いや誰が戦闘機だよ」
佐藤「お前だよ。」
ジュン「(……なんか強そうな人きた……)」
内藤セリナ「えへへ☆赤いのってだけで強そう〜!」
相川律「最後尾スタート?へぇ……いいじゃん、上等じゃねぇか。」
クレア「ふはは!最後尾から我を食えるかのう!!」
芽衣「……深呼吸してください、お姉ちゃん……」
花「深呼吸してる暇なんかねぇよ!!なんでこんな奴増えてんだよおおお!!」
サテラ「カナタって意外と友達多いねぇ〜?」
カナタ「やめろ……お前ら一斉に近づいてくんな恥ずかしい……!」
佐藤はそんな騒ぎを背に、C8に優しく触れながらぼそっとつぶやいた。
佐藤「……カナタ。お前が速くなったの、ちゃんと知ってる。でもな――」
ゆっくりカナタの横に立つ。
佐藤「俺も負けねぇからな。」
カナタ「……そんなの、最初からわかってる。」
風が吹いた。
松島の海の匂い。
18台のマシンと18人のドラマが、いま交差しようとしていた。
高村「てことは……十九人が走るのか……?」
Z33にもたれながら、どこか現実味のない顔でつぶやく高村。
視線はグリッドに並んだマシンたちへ。そして最後尾でエンジンを静かに震わせるC8へ。
伊藤「人数、多くね……?相馬戦より増えてんだろ。」
花「黒川みたいなバカもいるし、霧山みたいな狂犬もいるし……もうやだあああ!!」
サテラ「ふふ、これだけ揃えば海沿いの大乱戦だねぇ……ド派手に散るやつも出るかもね〜?」
カナタ「やめろ不吉なこと言うな……」
相川律「十九台か……ブレーキポイント、ぜってぇカオスになるな。特に一コーナー。」
美保「おにぃちゃん!海が守ってくれるよ!……多分!」
相川律「多分って言うな!!」
ミルキークイーン「十九という数字……美しいですわ〜……(意味深)」
花「アンタが言うと怖いんだよ!!!」
その横で、佐藤大河と佐藤ジュンが並んで立っていた。
ジュン「十九って……なんか、すごい……。私、巻き込まれたりしないかな……」
佐藤「大丈夫だ。お前はお前の走りをすればいい。怖かったら抜くな。止まれ。生き残れ。……いいな?」
ジュン「……う、うん」
小岩イオリが無言でフロントガラスを見つめ、息を吐く。
イオリ「十九人もいて……私、みんなより遅かったら……恥ずかしい……」
芽衣「イオリさんは速いです。落ち着いて……深呼吸してください……」
イオリ「……う、うん……芽衣ちゃん……」
そして、ふと高村がカナタに向き直る。
高村「でも十九人ってさ……すげぇよな。」
カナタ「……ああ。」
高村「カナタ。お前、こんなバケモノだらけの中で……それでも勝つつもりなんだろ?」
カナタは静かに86の屋根に手を置き、深く目を閉じた。
カナタ「……当たり前だ。」
風が吹いた。
松島ツインブリッジの上で十九台、十九人。
そして、十九通りの覚悟が、ゆっくりと熱を帯びていく。
若林「まもなくレース開始十分前!!
コースは宮城県岩沼市――阿武隈川を渡る手前からスタートして、貸切の常磐道へ!!
そのまま北上し、松島・南三陸・気仙沼方面へ抜ける長距離ハイスピード戦です!!」
フェルリア「その後……R45で気仙沼市ゴールですね。ですが――
ゴール手前は岩礁地帯が多く、海に接近する区間もあります。
コース幅はどんどん狭くなっていきますので……これは、相当テクニカルな最終区間になりますよ。」
会場全体がざわつく。
グリッド上でエンジン音が重低音を響かせ――
中でも一際、低く獰猛な音を鳴らしているマシンがあった。
黒いエボ9MR。
黒川海斗は、すでにフロントバンパーに手をあて、獲物を楽しむ獣のような表情をしていた。
黒川「……海沿いだろうが岩礁だろうが知ったこっちゃねぇ。
この区間……“死ぬ覚悟”がねぇと踏めねぇぞ。」
花「うっ……!?」
伊藤「おい……黒川……お前今日……なんか違くねぇか?」
黒川はゆっくりと振り向いた。
その瞳は、普段のふざけた態度とは別物の、鋭い暴走族だった。
黒川「相馬も、須賀川も、田村も……
全部の走りを見てきたがよ……
結局一番踏める奴が勝つ。それだけだ。」
カナタ「……本気で来るつもりなんだな。」
黒川「当たり前だ。
お前の86も、花のWRXも、相川の35も……
まとめて後ろに置いていく。
――このエボが、唯一無二だって証明してやる。」
フェルリア(……この子、走りのクセは粗いけど……“速さ”は本物ですね……)
サテラ「あーあ……こりゃ荒れるねぇ……」
花「来いよ黒川……!アンタだけには絶対負けねぇからな!!」
黒川「ほざけよ……。
海沿いで泣くのは――お前らだ。」
その瞬間、スターティンググリッドの空気が一気に張り詰めた。
黒川海斗のエボ9MRのエンジンが、野獣のような咆哮を響かせる。
若林「さあ!!!いよいよスタート10分前!!
ドライバーのみなさん、コックピットにお戻りくださーい!!」
それぞれが自分のマシンへ戻っていく。
海風が強くなり、観客席からどよめきが起こる。
そして――
19台のエンジンが、一斉に牙をむいた。
古賀加奈子は、自分のBMW M3 E92のドアに手をかけながら、深く息を吸った。
風に揺れる赤い髪、落ち着いた眼差し――
しかしその奥には、教壇に立つときとは違う「覚悟」が宿っていた。
古賀「私は……先生として守らなきゃいけないものもある……!」
花「古賀先生……?」
古賀はゆっくりと、カナタ・伊藤・花・芽衣――自分が教えてきた子どもたちの顔を見渡す。
古賀「学校での顔も……授業での顔も……全部大事。でも……」
ハンドルを握る手に力が入る。
古賀「レースに出るって決めたのは、ただ勝ちたいからじゃない。
あなたたちが危ない目に遭った時――
守れる大人が必要だから。
……だから、私が行くの。」
伊藤「古賀先生……」
カナタ「……先生、そういう理由で……」
古賀「腹切カナタくん。伊藤くん。花ちゃん。芽衣ちゃん。
あなたたちは誰より強い。でも……まだ、守られるべき子どもでもあるの。」
花「ちょっ……!子どもって言うなよ!!」
古賀は微笑んだ。
しかしその瞳には、教師として生徒を背負う強さがあった。
古賀「このコースは危険。常磐道に入ればスピードは上がる。
さらにR45の岩礁帯は、判断を一つ間違えれば終わりよ。
だから――必ず前に行くわ。あなたたちよりも前で、道を切り開くために。」
サテラ「先生……やる気満々じゃん……」
相川律「……大人って、やっぱ強ぇな。」
黒川はエボの中で鼻で笑う。
黒川「フ……。教師だろうが何だろうが容赦しねぇぞ。
前に来るなら、潰す気で来いよ。」
古賀は黒川を一瞥しただけで言い放つ。
古賀「あなたこそ、覚悟しておきなさい。
生徒を傷つける気なら――私が止める。」
黒川「……ッ!」
その言葉は、暴走族の黒川でさえ一瞬だけ言葉を失うほどの重みがあった。
若林「ドライバーの皆さん、残り7分でスタートです!!!」
古賀「……よし。先生も、“こちら側”に行くわよ。」
M3のエンジンが咆哮し、古賀加奈子はゆっくりとコックピットへ戻っていった。
生徒たちはしばらく、背中を見つめていた。
芽衣「……先生、かっこいい……」
カナタ「……ああ。いつだって、俺たちの前で走ってくれた人だ。」
スターティンググリッド後方――
赤いコルベットC8の前で、佐藤大河の妹・佐藤ハルカが腕を組んで怒鳴っていた。
ハルカ「ちょっとおにいちゃん!!予選終わったってのに、いきなり最後尾で“決勝のグリッド入れてください”なんて……なんで通ったのよ!!
運営、頭おかしくない!?!?」
佐藤「うるせぇ、ハルカ。黙ってろ。
これは――男と男の意地なんだよ……!」
カナタ「くっ……!」
佐藤大河はゆっくりとC8の横から歩み出て、カナタの方を真っ直ぐ見た。
その目はいつもの飄々とした雰囲気とは違い、明らかに戦う男の顔だった。
佐藤「俺が最後尾からでも“前に来る”って言ったら……お前、楽しそうにしてたじゃねぇか。」
カナタ「してねぇよ……!」
佐藤「へぇ……じゃあ顔に出てたのか。」
カナタ「は!?出てねぇよ!!」
伊藤「出てたぞ、カナタ。」
花「うん、思いっきりニヤけてた。」
芽衣「ニコニコでした……」
カナタ「嘘つけぇぇぇ!!!」
佐藤は笑いながらも、ほんのわずかに寂しそうな声で言う。
佐藤「……お前が速くなったのは、本当に嬉しい。
だけどよ――
“追われる側の気持ち”も知れよ。」
カナタ「……ッ!!」
佐藤はC8のボンネットに触れ、低くつぶやいた。
佐藤「腹切カナタ。
お前は……俺の幼なじみで、
俺が唯一本気で勝ちてぇ相手だ。」
カナタ「……佐藤、お前汚いぞッ!!
予選出てねぇのに最後尾からねじ込んでくるなんて……!」
佐藤「汚ねぇよ?
でもな、男の世界じゃ“格好悪くても前に出る奴が勝つ”んだよ。」
カナタ「……くそっ……!」
サテラ「おーおー……青春だねぇ〜。男同士の“どっちが上か”みたいなやつ。」
相川律「理解できん……だが嫌いじゃねぇ。」
黒川(真剣な声)「ふん……後ろの方が荒れんだろ。死ぬ気で抜いてこいよ、佐藤。」
佐藤「当たり前だ。
後ろからでも――
“カナタを抜きに行くために”来たんだよ。」
ハルカ「……ほんとバカ兄妹よ、あんたたち。」
ジュン(不安そうに)「え……えっと……こ、こんなに熱いレースなの……?」
伊藤「お前もだぞジュン!気抜くなよ!」
ジュン「ひぇ……!」
そしてカナタは、強く拳を握った。
カナタ「佐藤……!
そんな強引なやり方で来るなら――
絶対に俺が前で待っててやるからな!!」
佐藤「上等だ……!」
海風が吹き、19台のエンジンが低く震えた。
運命の決勝――男たちの意地が、火を噴こうとしていた。
若林「さああああ!!!レース開始五分前!!!
常磐道貸切!!!R45気仙沼ゴール!!!
十九台がいよいよ火を噴きます!!!」
フェルリア「ここまで集まるとは……正直、予想外です。
でも……“この十九人”だからこそ見たいんです。
踏み抜かれるアクセル……削られるタイヤ……
そして、信念のぶつかり合い。」
海風が、重く、熱く流れ込む。
赤い戦闘機――腹切カナタの86前期が、
低く、腹の底で唸る。
カナタ「……来いよ……全部まとめて倒してやる。」
伊藤「よし来たあああ!!!カナタ!!!お前と走るレースが一番アガるんだよ!!!!」
花「燃えろォォォ!!!WRX!!海風に負けんじゃねぇぇぇ!!!」
相川律「今日こそ“本気”見せてやる……踏み抜くぞ35……!」
黒川海斗「全員後ろに沈める。誰ひとり前に行かせねぇ……!」
クレア「十九台……まとめて我が食らう!!!」
サテラ「よしよし……血が騒いできたねぇ……」
ミルキークイーン「わたくしも〜……踏んで差し上げますわ〜……」
内藤セリナ「えへへ☆飛ばしちゃおっかな〜!」
柊蒼真「車も俺も温まってる……前、全部抜きに行く。」
イオリ「……絶対……負けない……!」
芽衣「落ち着いて……走れば大丈夫……!」
高村「いっけぇぇぇZ33!!!今日だけは負けられねぇ……!」
霧山トオル「ふふ……人間ごとき……ボクが全部ペットにしちゃうよ……?」
相川美保「海沿いは……私のホームだよ!!!負けないっ!!!」
佐藤ジュン「ひゃぁぁ……でも走る……走るよ……!」
湯川サトル「S2000……行くぞ……!」
そして――
赤いC8、最後尾。
佐藤大河「カナタ……男と男の意地だ。
最後尾でも関係ねぇ……!
前にいる限り、お前を追うだけだ!!!」
カナタ「佐藤……来いよ!!!!」
伊藤「うおおおおおおお!!!!」
観客「行けェェェェェ!!!」「ぶち抜けぇぇ!!!」
風、海、エンジン、叫び。
ゼロ距離で溶け合う。
若林「シグナル準備!!!
三!!!」
赤ランプが点灯する。
フェルリア「全員息を止めていますね……」
若林「二!!!」
ランプが増える。
黒川「……ッ来いッ!」
カナタ「86……頼む……!!」
若林「一!!!」
花「ッッッ!!」
伊藤「踏み切れぇぇぇ!!」
ジュン「ひゃあああ!!」
佐藤「絶対前に行くぞォォォ!!!」
静寂――
赤ランプが、
消えた。
若林「スタートォォォォォ!!!!!」
十九台、同時に爆発した。
常磐道へ向けて、炎のように――
松島編、決勝戦がついに幕を開けた!!!!




