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86伝説エーペックス[POWER!!!]  作者: SAI
芦ノ湖編
283/402

芦ノ湖編第47話 神奈川を発つ!

通算256話

バニラ「素晴らしい試合でしたね、、、、」

「正直、あのバイパーの動き……まるでスロットルの暴力、コーナーもラインを力で捻じ曲げてましたよ」

「でも、相川選手や柳津選手、高橋選手の動きも完璧だった……これぞハイレベルな争いです」


若林「いや〜!見ごたえありましたねぇ!!」

「これがエーペックスカップの真骨頂!!これが本物のストリートサーキットバトルですよ!!」

「芦ノ湖の景色すら吹き飛ばす火花の応酬!!感動です!!」

「次回は、ついに宮城・松島戦!どんなドラマが待っているのか……今から楽しみでなりません!!」


若林「ところで、、、松島ってどこですか?徳島?佐賀?」


バニラ「は、、、?」


バニラの左手が、ゆっくりと氷の獣の爪へと変わっていく

空気が一気に冷え込み、床に白い霜が走る


ガッ、、、!!


若林「ひぃ、、、!」


バニラ「そんなに分からないんですか、あなた、、、」

「凛さんやエアリさんから聞きましたよ、、、」

「あなたの地理知識、幼稚園以下だってェ、、、、!!!」


若林「ひぃぃぃ!!!やめてくださあああい!!」


バニラ「ダメです!!!」

「私の氷山で、、、しばらくくたばってなさいッッ!!!」


氷の壁が一気にせり上がり、若林の背後を塞ぐ

逃げ場を失った若林の足元から、氷が這い上がっていく


若林「ごめんなさあああい!!松島は宮城です!!宮城県ですゥゥゥ!!!」


バニラ「最初からそう言えばいいんです」

「まったく、、、」


氷の圧がふっと弱まり、爪が元の白い手へと戻る


バニラ「さて、、、」

「レーサーたちはもう神奈川を発ち、福島へ向かっています」


画面は切り替わり、早朝の東北道

レースマシンを積んだトランスポーターが連なり、北へと走っていく


相川「芦ノ湖は終わりだ、、、次は松島か」


柳津「海沿いとリッジ地形、、、芦ノ湖とは真逆だな」


高橋「はっ、、、また面白くなりそうじゃねぇか」


花「次も全力で行くから」

「今度こそ、最後まで前で走ってやる」


赤い戦闘機のテールランプが、福島の夜に溶けていく。


次なる戦場は、松島

その前哨戦として、彼らは一度、故郷へと戻る


戦いは終わっていない

むしろ、ここからが本番だった


夜の福島、街灯がまばらな道の脇で、4人は車を並べていた。

肌寒い風が通り過ぎ、月だけが静かに照らしている。


カナタ「福島だな、、、」

伊藤「ああ、、、もう地元って感じしないけどよ」


駐車場の片隅、WRXの前に腕を組んで立つ花が、ふっと笑って背中を伸ばす。


花「ふん。ここの風も、ちょっとだけ懐かしい気がしてきたよ」


ちとせは黙って座っていた。RZ34のボンネットに腰かけて、足をぶらつかせながら、空を見ている。


伊藤「……にしても、カナタ。あれだけやって、9位ってのは悔しくないのか?」

カナタ「悔しいさ。だけど――あの瞬間のすべてをぶつけて、それでも届かなかったんなら、まだ足りないってだけだ」


花「足りない……か。あんたのその『負けを糧にする』姿勢は相変わらずだな」

カナタ「勝った奴らはみんな化け物みたいな連中だった。けど、俺は負けるためにここまで走ってきたわけじゃない」

ちとせ「……じゃあ、また走るの?」


その言葉に、一瞬だけ空気が止まった。

そしてカナタは、真っ直ぐにちとせを見る。


カナタ「ああ、何度でも」


ちとせの唇が、ゆっくりとほころぶ。

ちとせ「ふふ、、、、おじさん、それなら応援してあげる」


伊藤「でも、さすがに今回は命削ったな……」

花「黒川のことか?」


伊藤はうなずく。


伊藤「最後のあのダイブ、アイツの執念……きっと、まだ諦めちゃいねぇ」

カナタ「……あいつも、走り続けるさ」


ちとせは、手のひらに小さく雪を浮かべた。

それが夜の風に乗って、淡く舞い、消えていく。


ちとせ「みんな、凍らないように気をつけて……ね」

伊藤「お、おう……」

花「寒くしてるのはアンタだろ!!」


4人の笑い声が、静かな夜の駐車場に響いた。


福島の風が、また走りを呼んでいた――。


【場所】ヤマブキモーターズ(表:コンビニ/裏:ガレージ)

【時間】夜/福島


──駐車場には既に、白のGRスープラ(イヨ)と、草色のポルシェ992GTS(芽衣)の姿があった。


花「……あ、帰ってたんだ」


カナタ「もう遅いし、寝てるよ……」


花「イヨちゃん、押し入れに潜ってすぐ寝るタイプだし、そうかもね……」


──そのまま店内に入ると、裏のガレージからのんびりした声が聞こえた。


ちとせ「おかえり〜……もう真っ暗だったでしょ〜……☆」


カナタ「ちとせさん……もう閉店間際ですよ」


ちとせ「うん〜、でもまだエンジン冷ましきってない子がいるから〜……ね〜、芽衣〜?」


芽衣「はいっ!こっちのオイル温度、あとちょっとだけ冷ましまーす!」


花「……ほんとに、この姉妹は遅くまでやってるんだから……」


ちとせ「だってさ〜、がんばってる子には……ちゃんとあったかい居場所が必要って思うんだよ〜……ふふっ」


──その手には小さなランタン型のLEDライトと、クーラーバッグが。まるで、子供の夜更かしに付き合う母親のような、けれどどこまでも女子高生らしい、のんびりとした佇まい。


花「……なんか、あんたってマジで昼も夜もマイペースだよね……」


ちとせ「えへへ〜、そうかなぁ……じゃあ、みんなで夜食にしよ〜……冷蔵庫の中におでん入ってるよ〜☆」


伊藤「……あ、俺それいいっすね……」


──イヨの姿は見当たらない。が、押し入れからかすかに寝息が聞こえていた。


芽衣「イヨちゃん、もう寝ちゃったっぽいです......」


カナタ「そっか……じゃあ静かにしないとな……」


──ガレージの夜は、静かであたたかい風が流れていた。


【場所】伊藤自動車(福島・船引)

【時間】翌朝/晴れ


──ガレージの奥で、伊藤翔太は真剣な顔で工具を手にしていた。

──黄色いスイフトスポーツの前バンパーが外され、作業途中のまま車体が浮かせられている。


花「……何してんの?」


──入口からひょっこり顔を出したのは、山吹花。

──彼女はいつも通り、ゆるめのパーカーにラフな格好で歩いてきた。


伊藤「……エアロ、付けるんだ」


花「へぇ……」


伊藤「このままじゃダメだと思ってさ……」


──スイフトの前にしゃがみこんだ伊藤は、手にしたサイドリップをじっと見つめている。

──その目はいつになく真剣で、どこか迷いを振り切ったようだった。


花「ダメって、何が?」


伊藤「……走り。速くなるためのこと、もっとちゃんとやんないと、って……昨日の夜、改めて思った」


──ボルトを締め直す音が、ガレージに静かに響く。


花「ふーん……なんか、ちょっとカッコつけてる?」


伊藤「ちがっ……いや、そう見えたなら……まぁ、いいけど」


──花はすぐ横でしゃがみこむと、スイフトのボディを指で軽くなぞった。


花「この子も……アンタと一緒に、また走る準備してるみたい」


伊藤「……うん。だから、もっとちゃんと向き合ってやらないと」


──しばらく無言。

──2人の間に流れる静けさは、冷たくも暑くもなく、心地よかった。


花「じゃ、終わったら教えて」


伊藤「え?」


花「試走、付き合ってあげるよ。……どうせヒマだし」


──そう言って立ち上がると、彼女はパーカーのフードを被りながら歩いていった。

──伊藤は、照れくさそうに頭をかきながら、再び作業に戻った。


伊藤「……ありがとな」


【場所】郡山サーキット(福島県)

【時間】朝/薄曇り


──エンジン音は止み、広いサーキットには静けさだけが残っていた。

──黄色いスイフトスポーツはゆっくりとピットロードに戻ってきた。


──ピット脇。

──山吹花は黙ってその姿を見守っていた。


伊藤「……ふぅ」


──ヘルメットを外し、汗をぬぐう伊藤翔太。

──彼の顔には疲労と満足が同居していた。


花「……随分、いい感じだね……伊藤くん……」


──彼女は静かに言った。

──いつもの調子ではない、どこか控えめで、やわらかい声音だった。


伊藤「ああ……バランスも、ラインも……前より格段に走りやすくなったよ」


──花は数歩だけ近づき、スイフトのボンネットにそっと手を添えた。

──その表情は、真剣というよりも、優しげだった。


花「……なんか、安心した……」


伊藤「……え?」


花「昨日、工場で作業してたでしょ……?

  あの時の顔……なんか、すっごく悩んでるように見えたから……」


──視線を落とし、ふわりと微笑んだ花。

──肩を少しすぼめるようにして、そっと続ける。


花「うまくいかなかったらどうしようって、すごく思ってた……」

「でも……今の走り、ぜんぜん違ってた」


伊藤「……そっか」


──彼は少しだけ、彼女の方へ顔を向ける。


伊藤「……見ててくれたんだな」


花「うん……ずっと、見てたよ……」


──風が少し吹き、花の髪が静かに揺れる。

──ふたりの間には、会話以上の言葉が流れていた。


花「……私ね、走ってる人の目とか、車の音で……いろんなこと感じちゃうの」

「今日のスイフトの音……伊藤くんの音だった。……すごく、いい音だったよ……」


──そう言って、花は少しだけ俯いたまま、ボソリとつぶやいた。


花「……ねえ、伊藤くん……」


伊藤「……ん?」


花「今度、もっと遠くまで……走りに行かない?」


──その声はかすかに震えていた。

──けれど、真っ直ぐだった。


──伊藤翔太は、一瞬だけ驚いたように目を見開き、

──そして、小さく頷いた。


伊藤「……ああ、いいよ」


──朝の光が、サーキットのコンクリートに柔らかく射し込んでいた。


花「どうするの、この先……伊藤くんのスイスポ……」


──彼女はスイフトのフロントバンパーに手を添え、心配そうに見つめている。


伊藤「……ブースト圧、変えてみようかなって……」


──曇った空を見上げるように、伊藤はつぶやいた。


伊藤「いまは0.9だけど……あと0.1〜0.15ぐらい……上げてみてもいいかも」


花「それって……エンジンに負担、かかるんじゃないの……?」


──花の声は、しおらしくも少し不安げ。

──そのまま、フードの袖をぎゅっと握っていた。


伊藤「もちろん、その分燃調と冷却系もいじるよ。インタークーラーも少し大きいのに交換する予定だし……」

「でも、まだギリギリまで出しきれてない感じがするんだ。スイスポも、オレ自身も……」


──花は少し目を伏せると、ぽつりとつぶやいた。


花「……無理は、しないでね……」


伊藤「……うん」


──伊藤は優しく笑った。

──そして、彼女の視線の先、黄色いスイフトを見つめながら口を開く。


伊藤「……こいつと、もう少し先まで行ってみたいんだ。あとちょっとだけ、速くなれる気がするんだよ」


花「……あとちょっとが、きっと大事なんだね……」


──スイフトのボンネットに映る、ふたりの姿。

──その輪郭は、朝の光の中でそっと溶けていった。

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