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86伝説エーペックス  作者: さい
峠のバトル編
134/136

花と初期型PS3

お知らせ

来週9月28日からは週1投稿に変更します。

いきなりの話になりますがよろしくお願いいたします。

田村市の街道沿いにぽつんとそびえるSATY。冬の風が少し冷たく吹き抜ける中、ガラス張りの大きな自動ドアの向こうには、電飾に彩られたゲーム売り場が見えた。まだ背の小さい山吹花の瞳には、その光景はまるで宝石箱のように映った。


入口を抜けると、フードコートの匂いと子供たちの笑い声が混じり合い、賑やかな空気が三人を包み込んだ。


ちとせ「花〜、手離さないでね。今日はSATYに来たんだから、迷子にならないようにするんだよ〜」


少しのんびりした声で、ちとせは自分のコートの袖を花の手にそっと重ねる。白い息がふわりと空に溶け、冬の光の中で小さな雪のように揺れていた。


花「うん……!でも、あのピカピカのところ行きたい!」


 小さな指が指したのは、ゲーム売り場。そこにはポスターが貼られ、見慣れない黒い本体がガラスケースの中で光を浴びていた。初期型PS3。ツヤのある漆黒のフォルムは、4歳の花にとって、未知の世界への扉に見えた。


芽衣「あれがPS3だよ、花。お姉ちゃんたちが小さい頃はPS2が人気だったけど、これは新しいやつ。ブルーレイっていう映画も見られるんだって」


 芽衣の声にはどこか誇らしげな響きがあった。まだ学生服を着たままの芽衣は、妹と母の横に立ちながら、時折視線をゲーム売り場に向けていた。


 花はその言葉を聞きながら、ガラスケースの前にぺたんと膝をついた。目の前には、丸みを帯びたフォルムに艶やかに光るPS3。赤い小さなランプが控えめに点灯していて、まるで呼吸をしているみたいに見えた。


花「……かっこいい……」


 呟きは小さく、でも瞳は吸い込まれるように本体を見つめていた。


ちとせ「ほらほら〜、触れないよ。まだ買えるわけじゃないんだから」


 ちとせは笑いながら、花の頭を優しく撫でた。花の頬はほんのり赤く、冬の寒さと興奮で小さな手が少し震えていた。


芽衣「花、あのコントローラー見てみなよ。ワイヤレスなんだよ。コードがなくて、テレビから離れても遊べるんだって」


花「ワイヤレス……?」


 花の口から繰り返された言葉はまだ意味を理解していない。でもその響きは、まるで魔法みたいに彼女の耳に残った。


 店員がデモ用のPS3でゲームを起動すると、大きな液晶テレビにカラフルな映像が広がった。レースゲームのエンジン音がSATYのフロアに響き渡り、花は思わず一歩前に出た。


花「うわぁぁ……!!車が走ってる!!」


 その瞬間、花の心に火がついた。小さな身体の奥で、何かが強く刻まれた。これが、後に彼女の車への情熱と86伝説への道の始まりになるなんて、このとき誰も知らなかった。


ちとせ「さ、今日は見るだけだからね〜。でもいつか……花がもう少し大きくなったら、一緒に遊べるかもね」


 ちとせの言葉に、花は振り返って笑った。その笑顔は幼くて、でも確かに未来への光を映していた。


SATYのゲーム売り場。冬の外の寒さとは正反対に、店内は家族連れで賑わい、明るい蛍光灯とテレビの画面がきらきらと光を放っていた。初期型PS3を前にして、花はまだ目を輝かせながら立ち尽くしていた。


 そんな中、ちとせがポケットをごそごそと探り、ひょいと分厚い封筒を取り出した。


ちとせ「……とか言ったけどね〜、普段居ないお父さんからお金こんだけ貰ってきちゃってね〜……えへへ〜」


 封筒の口からのぞいた紙幣に、花の瞳が一瞬で丸くなる。


花「おとうちゃんから!?やったああああ!!じゃあ、Wiiと360も買おうかな〜!!」


 小さな体がぴょんっと跳ねる。ゲーム売り場のポスターに貼られた“PS3・Wii・Xbox360”の文字を指差しながら、花の声は店内に響きそうなほど弾んでいた。


芽衣「ちょっと花、気が早すぎ。どれも高いんだよ、知ってるの?」


 芽衣が笑いながら肩をすくめる。だがその横で、ちとせはお金の入った封筒を見下ろしながら、のんびりとした声で続けた。


ちとせ「おじさんにはこんだけないんだけどね〜……お父さんどこで拾ってきたんだろうね〜……」


 ちとせの言葉はまるで冗談みたいに軽く響いたが、花は一瞬きょとんとした後、すぐに笑顔を取り戻した。


花「じゃあきっと、おとうちゃんサンタさんと会ったんだよ!!」


 そう言って花は無邪気に笑い、再びPS3の方を振り向いた。テレビ画面の中では車のエンジン音が響き続け、未来への憧れみたいに彼女の胸を高鳴らせていた。


ゲーム売り場の一角。大きなテレビ画面にはPS3のデモ映像が流れ、映画のワンシーンみたいに鮮やかな光が花の頬を照らしていた。花はPS3の横に貼られた「ブルーレイ対応」というポスターの文字をじっと見つめ、首をかしげる。


花「ねぇねぇー、ブルーレイって???」


 幼い声に芽衣がすぐ反応した。花より二歳年上の芽衣は、まだ学生だけどどこか大人びたところがあり、賢さがその瞳に宿っていた。


芽衣「ブルーレイっていうのはね、映画とかをすごーくキレイな映像で見られるディスクのこと。DVDよりも画質が高くて、容量もいっぱいあるの」


花「じーでぃーぶい……?いっぱい……?

Oっぱい...??」


 花は首を傾げ、芽衣の顔を見上げた。芽衣は少しだけ笑って、指で空中に丸を描く。


芽衣「簡単に言うとね、今までよりもっと映画館みたいな映像が家で見られるってこと。PS3があると、そのブルーレイっていう新しいディスクも再生できるんだよ」


花「えええっ!!お家が映画館になるの!?やったぁぁぁぁ!!」


 花の声は売り場に響き、ちとせが思わず口元に手を当てて笑った。


ちとせ「花ったら……。でもまあ、そういうことだね〜。お父さんからもらったお金で……買えちゃうかもね〜……?」


 花はもう目をキラキラさせながら、ブルーレイという響きを頭の中で何度も繰り返していた。未来の光景を想像するように。


ゲーム売り場の片隅。

 店員がレジカウンターの奥から、大きな黒い箱を慎重に抱えてきた。艶やかな漆黒の本体が描かれたパッケージ。大きな「PLAYSTATION 3」の文字が光を反射している。


 花は目をまん丸にしながら、その箱がカウンターに置かれるのを息をのんで見守った。


花「わあああああ!!ほんとに買えるの!?これお家に来るの!?」


 小さな手が嬉しさのあまり上下に跳ねる。まるで夢をそのまま抱きしめるような顔だった。


ちとせ「……うん、まずはPS3初期型ね〜。お父さんがくれたお金、ここで使わせてもらうよ〜」


 ちとせはのんびりした口調のまま、財布からお札を一枚ずつ取り出していく。レジの機械がカタカタと音を立て、店員が丁寧にお釣りとレシートを差し出した。


芽衣「花、これでブルーレイも見られるし、ゲームも遊べるし……すごい時代になったよね」


 芽衣の声にはどこか大人びた響きがあった。まだ子供なのに、冷静に未来を見つめているような表情だ。


花「すごいすごい!!お家が映画館になるんだよね!?あと車のゲームも!!!!」


花の声が店内に響き、近くにいた別の親子が思わずこちらを振り返るほどだった。


ちとせ「はいはい〜、じゃあこの大きい箱、持つのはお母さんだからね〜。花が持ったら絶対転んじゃうから」


 ちとせはPS3の箱を抱え、三人はSATYの自動ドアの方へ向かって歩き出した。外の冬の空気が一気に流れ込み、花は小さな吐息を白く染めながら、箱を何度も振り返っては目を輝かせた。


花「早くお家帰ろうよ!!はやくはやくー!!」


芽衣「はいはい、でも帰ったらまずはテレビの前を片付けないとね。コードだらけになるから」


ちとせ「お父さんも帰ってきたらびっくりするだろうね〜。花のはしゃぎっぷり見たらきっと笑うよ〜」


夕暮れの光に包まれながら、三人の影がSATYの駐車場を長く伸びていく。

花の手の中にはレシートがぎゅっと握られていて、それはまるで未来の夢の切符みたいに見えた。


夕暮れの光が差し込む山吹家のリビング。

 PS3の大きな箱がテーブルの上にどんと置かれ、その光景だけで花の胸はもう高鳴っていた。


花「うええっ……なにこれ?コードとか分からないし……何この3本線……!?」


 花はPS3本体を箱から取り出し、背面に伸びる無数の端子を見つめて頭を抱えた。コンセント、HDMI、映像ケーブル――4歳の花にはどれも謎の機械の部品にしか見えない。


ちとせ「花〜、ちょっと落ち着いて。お母さんも分かんないから……ほら、芽衣、分かる?」


 ソファに腰かけていた芽衣は、少しだけ肩をすくめて立ち上がった。目元は涼しげで、口数は少ない。


芽衣「……これ、HDMI一本でいけるから」


 短くそう言って、芽衣はPS3本体とテレビの背面を冷静に確認し、何も迷わずコードを差し込んでいく。手の動きは滑らかで、まるで最初から分かっていたかのようだった。


花「えっ……もう終わったの……?さっきの3本線は?」


芽衣「昔のやつ。いらない」


芽衣はそれだけ言って、再びソファに戻った。小さなリモコンを手にして、花に向けて無言で電源ボタンを押すように顎で示す。


花「……お、おおおおおっ!!ついた!!!」


画面に浮かんだPS3の起動画面。黒い背景に白い波線が静かに流れ、未来の扉が開いたような音がリビングに響いた。


ちとせ「おお〜……なんか映画館みたいだね〜」


芽衣は無言のままリモコンを操作し、初期設定の画面を淡々と進めていく。花はその横で、目を丸くしながらただただ画面の変化に見入っていた。


花「芽衣ちゃん……なんかかっこいい……」

芽衣は何も答えず、ただ小さく肩をすくめただけだった。


リビングの中央に鎮座する初期型PS3。

艶やかな黒いボディが夕暮れの光を受けてわずかに輝き、まるで生き物のように静かにそこにあった。


花は正面をじっと見つめ、眉をひそめる。


花「あれー?ボタンが……無いよ? え、なにこの電源マーク……」


小さな指先がそっと本体の前面をなぞる。昔のビデオデッキみたいなボタンを想像していた花にとって、そのつるんとした表面はただの飾りにしか見えなかった。


ちとせ「花〜、それはね……」

ちとせが何か言おうとした瞬間。


芽衣「……押すんじゃなくて、触れるだけ」


ソファに座ったまま、芽衣がクールな声で短く言った。


花は一瞬きょとんとしたが、おそるおそる小さな指で電源マークに触れた。


ピッ……

静かな電子音が鳴り、前面のランプが赤から緑へと変わる。低い駆動音とともに、PS3がゆっくりと目を覚ました。


花「うわああああああっ!!!ついたあああ!!!」

テレビ画面には黒い背景に白い波紋が広がり、未来的な起動画面の音が部屋を包み込んだ。


ちとせ「おお〜……なんかかっこいいね〜。お母さんの時代にはなかったよ〜こんなの」


芽衣は無言のまま、リモコンを手に取って初期設定の画面を淡々と進める。横で花は、ただただ目を輝かせてその光景を見守っていた。


花「すごい……本当に未来の機械みたい……」

指先にまだ残る、あの静かな“ピッ”の感触を確かめるように、花は何度も電源マークを見つめていた。


起動画面の波紋が消え、テレビには真っ黒なメニュー画面が現れた。

花は手にしたゲームソフトのケースをぎゅっと抱きしめ、首をかしげる。


花「あれー?ゲームソフトってディスクなの?しかもこれ……本体からどう入れるの?穴あるけど……」


 PS3初期型の前面には、確かに細いスリットのような“穴”があった。しかし花の小さな頭の中には、昔のビデオデッキみたいにガチャッと開くトレーのイメージしかない。


ちとせ「うーん……昔はカチャって開いたけどね〜……これは何だろうね〜?」


ちとせが首をかしげながらも、

特に説明しようとしない。


芽衣「……差し込むだけ」


ソファから立ち上がった芽衣が、静かな声で答えた。まるで当然のようにディスクを取り出し、PS3の前に立つと迷わずスロットへ差し込む。


すぅ……。


機械がディスクを吸い込むように取り込み、低い回転音が静かに部屋に響く。


花「えっ……勝手に入った!?すごいすごいすごい!!」


花は目をまん丸にして、芽衣の手元を食い入るように見つめた。


ちとせ「おお〜……今の機械ってこうなのね〜。お母さん初めて見たよ〜」


テレビ画面にゲームのタイトルロゴが現れ、軽やかなBGMが流れ始める。


芽衣「……これで遊べる」


芽衣はそれだけ言い、再びソファに腰を下ろした。花は大興奮でコントローラーを握りしめ、初めてのPS3の世界へと飛び込んでいった。


ゲームソフトが静かに回転を始めると、画面に鮮やかなタイトルロゴが現れた。まるで映画の冒頭のような音楽とともに、3Dで描かれたキャラクターが花の目の前に広がっていく。


花「わあああああ!!なにこれ!動いてる!すごいすごいすごい!!」


 花はコントローラーを握りしめ、ボタンをめちゃくちゃに押してキャラクターをジャンプさせたり、変な方向に走らせたりしている。その姿はまるでおもちゃを初めて手にした子猫のようで、見ている方が微笑ましくなるほどだった。


 ちとせはソファの端に腰をかけ、少し懐かしそうにPS3の画面を見つめていた。


ちとせ「お母さんの頃はね〜、PS2だったんだよ〜。ディスク入れるときはカチャってトレーが出てきて……それでパカッと開けてディスク置いて……って感じだったの」


花「カチャって?トレー?何それ!」


 花はボタンを押す手を止めて、興味津々にちとせの方を振り返る。


ちとせ「うんうん。今みたいに勝手に吸い込まれなかったの。開けて、置いて、閉じて……っていう昔ながらのやり方だったんだよ〜。だから、このスーッて吸い込まれるのはちょっと未来って感じだね〜」


芽衣「……効率的になっただけ」


 芽衣は短く答え、再びゲーム画面に視線を戻した。冷静なその表情はまるで技術者のようで、花とちとせの賑やかさとは正反対だった。


花「未来だよ!!だってお家が映画館みたいで、勝手にディスクが入って、こんなにキレイな絵が動くんだもん!!」


花の声は弾み、キャラクターがゲームの中で走り出す。コントローラーの振動が彼女の小さな手の中でびりびりと響き、その感触に思わず目を輝かせた。


ちとせ「お母さんのPS2はさ、ロードが長くてね〜。次の画面に行くのにじーっと待たなきゃいけなかったんだよ〜。ほら、今はもうすぐ動くじゃない?」


ちとせは懐かしそうに笑いながら、花の興奮を横で見守る。


芽衣「……グラフィックも比べ物にならない」


芽衣のクールな一言に、花は「グラフィックってなに?」と首をかしげたが、すぐにゲームの世界へと夢中で戻っていった。


画面の中でキャラクターがダッシュし、ジャンプし、敵にぶつかって大きく弾き飛ばされる。その瞬間――


ブルブルブルッ!!


 花の小さな手に握られたコントローラーが突然震え出した。


花「うわあああああっ!?なにこれなにこれなにこれえええ!!」


 花はびっくりしてソファの上でぴょんっと跳ねた。まるで本当に自分がゲームの中に飛び込んだような感覚に、目をまん丸にしてコントローラーを凝視する。


ちとせ「あ〜!振動機能だね〜!お母さんのPS2の頃にもあったけど、こんなにリアルじゃなかったなぁ〜……」


 ちとせは懐かしそうに笑いながら、PS2時代の記憶を思い返す。あの頃はまだ画面も少しカクカクしていて、振動も「ブブッ」と短く震えるだけだった。


ちとせ「PS2の時は、ゲームが始まる前にロード画面っていうのが長くてさ〜。すっごく待たされたんだよ〜。今みたいにスムーズに動かなかったし、画面も今より全然荒かったの」


 ちとせはそう言いながら、PS3の滑らかな映像を見て目を細めた。


芽衣「……これが普通になってく」


芽衣は短くつぶやき、ゲームの操作説明を画面で確認しながら冷静にコントローラーを受け取ると、ほんの数分でキャラクターを華麗に動かしてみせた。


花「芽衣ちゃんずるい!!あたしまだジャンプしかできないのに!!」


芽衣「……練習すればいい」


 クールな声に、花は少しむきになって再びコントローラーを握り直す。だが目は楽しそうにきらきら輝いていて、その姿をちとせは笑みを浮かべて見守っていた。


ちとせ「いや〜……ほんとに時代変わったね〜。お母さんが初めてPS2やった時なんて、セーブするのにメモリーカードってのが必要だったんだよ〜」


花「めもりーかーど?」


ちとせ「うん、ゲームの記録を入れる小さいカード。今はもう本体に全部入るから、いらないんだよ〜。すごい時代になったね〜」


花は「未来だ……」と小さな声でつぶやきながら、再びゲームの世界に没頭していった。


PS3の画面でゲームが進んでいく中、ちとせはふと立ち上がり、階段の方へとゆっくり歩いていった。


花「えっ、どこ行くの!?」


 花が不思議そうに声を上げる。ちとせはしばらくして、小さな四角いプラスチックのカードを手に戻ってきた。薄いグレーのそのカードには、懐かしい「PlayStation 2」のロゴが刻まれている。


ちとせ「はい〜……おじさんの頃はみんなこのメモリーカード使ってたんだ〜」


 そう言いながら、ちとせは花の手にそのカードをそっと渡した。


花「へ〜!すごいすごいー!」


 花は両手でそのカードを大事そうに受け取り、まるで宝物のようにじっと見つめる。小さな指でロゴの文字をなぞりながら、目を丸くしていた。


ちとせ「PS2はね、このカードがないとゲームの続きを遊べなかったんだよ〜。セーブって言ってね、ゲームの記録をここに入れてたの。だからみんなこのカードを持ち歩いてたんだ〜」


花「えっ!?ゲームって持ち歩くの!?これだけで!?」


花の声には純粋な驚きがこもっていた。


ちとせ「うんうん。友達の家に行くときはね、ソフトとこのカード持っていけば、自分の続きから遊べたの〜。今は本体の中に全部入っちゃうから、こういうの必要ないんだよね〜」


芽衣「……時代が進んだだけ」


芽衣がいつものクールな声で短く言い、ソファに腰かけたままPS3の設定画面を進めていく。


花「ふえぇぇ……未来ってすごい……!」


花はメモリーカードを大事そうに両手で抱えながら、PS3の黒い本体と交互に見比べ、過去と未来を手の中で確かめるようにしていた。


PS3の起動画面が静かに流れるリビング。

 花がメモリーカードを両手で大事そうに抱えていると、ちとせがふと思い出したように立ち上がった。


ちとせ「ねーねー、おじさんが持ってたこれも遊べるらしいよー?」


 ちとせの手には、少し擦り切れた紙ケースに入ったPS2のゲームソフトがあった。表面のイラストは少し色褪せていて、古いけれど懐かしさの詰まった一本。


花「えええ!?それってPS2のゲームでしょ!?なんでPS3で遊べるの!?」


 花の瞳がさらに大きくなり、PS3の黒い本体とちとせの手の中のソフトを交互に見比べる。


ちとせ「初期型のPS3はね〜、PS2のソフトも動くって聞いたんだよ〜。お母さんの頃はこれが一番の宝物だったんだよ〜」


 ちとせはゆっくりとケースを開き、銀色に光るディスクを取り出した。その仕草にはまるで古いレコードを扱うような慎重さがあった。


 花は息をのんで見守り、芽衣は無言でテレビの入力画面を確認しながら、ほんの少しだけ興味深そうに視線を向ける。


花「……本当に入れるの……?」


 ちとせはにっこり笑い、PS3の前面スロットにディスクを差し込んだ。


 すぅ……。


 機械が静かにディスクを吸い込み、かすかな回転音がリビングに広がる。PS3の画面が一瞬暗転し、見慣れないロゴと共に懐かしい音楽が流れ出した。


花「うわああああああっ!!本当に動いたああああ!!」


 花はソファの上で飛び跳ね、手にしていたメモリーカードをぎゅっと抱きしめる。


ちとせ「すごいね〜。お母さんが昔遊んでたゲームが、こうやって新しい機械でもう一度見られるなんてさ〜……ちょっと感動するなぁ〜」


ちとせは目を細め、画面に映る懐かしいオープニングムービーに見入っていた。


芽衣「……互換性ってやつ」


 芽衣は相変わらずクールに一言だけ呟き、花は意味が分からないままコントローラーを握りしめる。


花「未来すごすぎるよおおおおお!!!」


古いゲームのBGMが流れる中、リビングの空気は一気にタイムスリップしたかのように温かく、そしてどこかノスタルジックな雰囲気に包まれていった。


PS3初期型のスロットに飲み込まれた古いディスクが静かに回転し、テレビの画面に懐かしいタイトルロゴが現れた。鮮やかなムービーとともに、どこかノスタルジックなBGMがリビングの空気を優しく震わせる。


 ソファに腰をかけたちとせは、まるで子供の頃に戻ったかのような笑顔で画面を見つめた。


ちとせ「いいね〜、無法少女やファンタジアにKHも入れてたのしも〜♪」


 その口調はどこか弾んでいて、普段ののんびりしたちとせには珍しいほど嬉しそうだった。


芽衣「KHって……キングダムハー……」


 芽衣が涼しい顔のまま口を開きかけた瞬間、ちとせは指先をぴしっと立てて芽衣の言葉を遮った。


ちとせ「あ〜、それ以上の表現はなしだよ?芽衣ちゃん……みんなで一緒に遊ぶんだから、ネタバレ禁止〜。じゃあはじめよっか〜」


 そう言って、ちとせはコントローラーを花に手渡す。


 花は少し緊張した面持ちでそれを受け取り、テレビに映る鮮やかなオープニングに目を奪われた。見たことのないキャラクターたちが光の粒に包まれ、空や海を駆け抜ける映像に、まるで絵本の中へ吸い込まれていくような気分になる。


花「わぁぁぁ……なにこれ……すごい……」


 小さな指がボタンを押すと、ゲームの世界が静かに動き始めた。キャラクターが走り出し、剣を構え、光のエフェクトが画面いっぱいに広がる。


ちとせ「お母さんね〜、このゲームほんとに大好きだったんだよ〜。夜遅くまで遊んじゃって、おじさんに怒られたこともあったっけね〜」


芽衣「……相変わらずだね」


 芽衣はクールな口調でそう言いながらも、画面に映るファンタジックな世界をじっと見つめていた。無関心そうに見えて、その瞳にはわずかな興味の光が宿っている。


花「剣がキラキラしてる!ジャンプもできる!これ全部お母さんが昔遊んでたの!?」


ちとせ「そうそう〜。無法少女も、ファンタジアも、FFXに〜みんゴル!...あとKHも〜……お母さんの青春だったんだよ〜。もへ〜...」


ちとせはそう言って、ソファの背もたれに体を預け、まるで昔の思い出を宝箱からひとつひとつ取り出すみたいに微笑んだ。


リビングの中で、古いゲームと新しいハードが出会い、家族三人の時間がゆっくりと流れ始めていく。


無法少女のタイトル画面が消え、オープニングムービーが始まる。荒野に沈む夕日、疾走する白馬、二丁拳銃を構える白いハットの少女ムーンストーン。画面いっぱいに広がるその姿に、花の瞳は釘付けになった。


花「わぁぁぁぁ!!かっこいいーーー!!!」


 花の小さな手がコントローラーをぎゅっと握り、画面に映るムーンストーンが初めて動き出す。左スティックを倒すと少女が馬で駆け抜け、ボタンを押せば銃声が響き、敵が派手に吹き飛ぶ。


花「すごいすごいすごい!!走った!撃った!飛んだーーー!!」


 リビングに花の歓声とゲームの効果音が重なり合い、ちとせはソファに座ったままその様子を見てにっこり笑った。


ちとせ「お母さんも昔ここで感動したんだよ〜。最初のボス戦でさ、ムーンストーンが『あなたの正義は私が守る!』って言うのがかっこよくてね〜」


 ちとせは懐かしそうに語りながら、画面の展開を食い入るように見つめる。


芽衣「……セリフまで覚えてるんだ」


 芽衣はクールにそう言いながらも、ムーンストーンが宙返りして敵を撃ち抜くシーンにはほんの少しだけ目を見開いていた。


 突然――

ブルルルルッ!!!


 コントローラーが激しく震え、花は「きゃああああ!!」とソファの上で飛び上がる。画面の中ではボスキャラが大きな剣を振り下ろし、ムーンストーンが派手に吹き飛ばされていた。


花「なにこれ!!ほんとにぶつかったみたいに震えるーーー!!」


ちとせ「それが振動機能ってやつだね〜。PS2の頃もあったけど、今のはもっとリアルだね〜」


 ちとせは嬉しそうに微笑み、花の小さな指が必死にボタンを連打するのを見守る。


芽衣「……落ち着いて操作すれば勝てる」


芽衣は冷静にアドバイスし、花は「よし!!」と叫びながら再びムーンストーンを立ち上がらせた。画面の中で少女が二丁拳銃を構え、夕日の中をまっすぐ駆け抜けていく――まるで花自身がその世界に入り込んだように。


無法少女のボスを倒し、花がソファの上でぴょんぴょん跳ねながら大喜びしていると、ちとせがケースをひとつ手に取った。銀色に輝くディスクの表面には、ファンタジックなイラストが描かれている。


ちとせ「じゃあ次はKHでも〜」


 その声はどこかワクワクした響きを含んでいて、普段ののんびりしたちとせとは少し違っていた。


花「けーえいち?なになになにそれーーー!!」


 花は目をまん丸にして、PS3の黒い本体とちとせの手元を交互に見つめる。


芽衣「……ファンタジーのやつ」


 芽衣が冷静に短く答えると、ちとせはにやりと笑って指先をぴしっと立てた。


ちとせ「あ〜、芽衣ちゃん。それ以上の表現はなしだよ?ネタバレ禁止だからね〜」


 そう言いながらちとせはディスクをPS3のスロットに差し込む。すぅ……と静かに飲み込まれ、起動画面が暗転する。


 数秒後、テレビにファンタジックなオープニングムービーが流れ出した。空に浮かぶ島、青い海、そして光の粒子がゆっくりと舞い落ちる――。


花「わぁぁぁ……なにこれ……きれい……」


 花の小さな声が、リビングの空気に溶けていく。さっきまで無法少女の世界で大はしゃぎしていた彼女が、今は完全にその幻想的な映像に飲み込まれていた。


ちとせ「このゲームね〜、お母さん昔すっごいハマったんだよ〜。夜中までやってて、次の日寝不足になったりしてさ〜……うへへ〜」


芽衣「……相変わらずだね」


 芽衣がクールに一言つぶやく。だがその視線はテレビの画面に釘付けで、オープニングの美しさに見入っているのが隠しきれなかった。


花「これ、あたしが動かしていいの!?

このきらきらの世界でー!?」


ちとせ「もちろん〜。さぁ、冒険の始まりだよ〜」


 花の小さな手がコントローラーを握りしめる。メニュー画面が表示され、ゆっくりと冒険が幕を開けようとしていた。


青い空、きらめく海、光が降り注ぐ浜辺。

 ゲームの画面はまるで絵本の世界をそのまま動かしたかのように美しく、花はすでに目をまん丸にしたままコントローラーを握りしめていた。


花「うわぁぁぁぁ!!なにここ、めっちゃきれいーー!!!」


 小さなキャラクターが砂浜を駆け抜け、海を跳ね、まるで本当に生きているかのように動き回る。


ちとせ「いいでしょ〜?お母さんこのゲームの世界大好きだったんだよ〜。ストーリーも音楽も最高でさ〜……」


 ちとせはソファに座りながら、遠い昔の自分を見ているかのように微笑んでいた。


芽衣「……戦闘始まるよ」


 芽衣の冷静な一言とともに、画面の中に奇妙な影の敵が現れる。音楽が一転し、緊張感のあるメロディが流れた。


花「えっ!?なにあれ!?こわっ!!」


 花は慌ててボタンを押し、キャラクターが小さな剣を構える。スティックを動かすたびに敵を切り裂く光が画面を走り、コントローラーがブルルルッと震えた。


花「うわわわわわわ!!!なんか振動してるしーー!!!」


 ソファの上で花が大騒ぎする横で、芽衣は腕を組んだまま淡々と画面を見つめていた。


芽衣「……ジャンプしながら攻撃、落ち着いて」


 短いアドバイスに、花は「うんっ!!」と返事し、必死にボタンを押す。キャラクターが空中に舞い上がり、光の軌跡を残しながら敵に斬りかかる。


ちとせ「あ〜懐かしいな〜この最初のバトル……。お母さんここで負けまくったんだよね〜」


花「よーし、あたしは勝つ!!」

「いっけええええ!ソラァァァ!!!」

※キャラ名言ったらまずいって!w


 小さな声に決意がこもる。敵が消え、画面に勝利のエフェクトが弾けると、花はソファの上でぴょんっと跳ねて大歓声を上げた。


花「かったぁぁぁぁぁ!!やったぁぁぁぁ!!!」


 ちとせは思わず拍手しながら、芽衣は小さくうなずくだけで、けれどその口元はわずかに緩んでいた。


ゲームの中で夕暮れの海岸を進んでいくと、突然画面に黒いタイツのような影が立ちはだかった。長い武器を肩に担ぎ、冷たい視線で主人公を見下ろしている。


花「ん?なんかタイツいる……」


ちとせ「お〜……そいつ強いよ〜?勝てるかな〜?」


 BGMが重くなり、緊張感が部屋の空気まで包み込んだ。

 敵が主人公に向かって一歩踏み出すと、画面いっぱいにセリフが表示される。


「心?そんなもんなんの役に立つ?そんな脆いものはいらねぇ」

※笑うなwタイツの癖にww


 低い素敵な笑い声が響き、敵の手に黒いオーラがまとわりつく。

「ああ、お前にとっては脆いかもな。」

「繋がる心が、、、俺の力になるんだ!!覚悟しろよ!!」


 主人公の叫びが、まるでプレイヤーに直接届くように強く響いた。


花「かっこいいー!!!」


 花はコントローラーを握りしめながら目を輝かせ、ソファの上で小さく飛び跳ねる。


ちとせ「このシーンいいんだよね〜、もへ〜……」


 ちとせは頬杖をつきながら、まるで昔の自分の感情がそのまま蘇ったかのように画面を見つめていた。

 芽衣は黙ったまま、けれど目の奥にわずかな光を宿してその展開を見守っていた。



強敵とのバトルが終わると、PS3のメニュー画面に戻った。ちとせは手元の寿司パックをテーブルに並べながら、次のゲームソフトをケースから取り出した。


ちとせ「今度はGT4やろうか〜。お寿司もあるし、食べながらやろうね〜」


 醤油の小皿、わさび、寿司の匂いがリビングに広がり、画面の中ではすでに“Gran Turismo 4”のロゴが現れていた。


花「わぁぁぁ!!あたし、インプレッサー!!青いのがいい!!」


 花は寿司を一貫口に入れながら、コントローラーを握って選択画面を操作する。スバルブルーのインプレッサが画面に映し出され、彼女の目がきらきら輝いた。


芽衣「……私はフィットRSで追いついてみせる」


 芽衣は落ち着いた声でそう言い、手元のサーモン寿司を一口で食べきると、ゆっくりコントローラーを手に取った。


ちとせ「え〜フィットRS!?相変わらず渋いね芽衣ちゃん……。じゃあお母さんはランエボにしよっかな〜。昔よくこれで遊んでたんだよ〜」


 ちとせはマグロ寿司をつまみながら、赤いランサーエボリューションを選択した。


 レースが始まると、テレビの中でエンジン音が一斉に響き渡り、花のインプレッサがスタートダッシュを決める。


花「うわぁぁぁぁ!!速い速い速いーーー!!」

芽衣「……まだ慌てる時間じゃない」


 芽衣のフィットRSがカーブを正確に抜け、ランエボとインプレッサの背後に迫る。


ちとせ「うひゃ〜!やっぱGT4の挙動懐かしいな〜……!これ昔、何時間もやってたなぁ〜」


 寿司を食べながらのレースは笑い声とエンジン音が混じり合い、リビングは小さなゲームセンターのような熱気に包まれていった。


GT4のレースが一段落し、寿司をつまみながら花と芽衣が次のコースを選んでいると、ちとせがふと遠くを見るような目つきになった。


ちとせ「にしてもサテラくんのエボ7いいよね〜。おじさんと吉田さんの親友だからね〜、うへ〜……」


 そう言った瞬間、ちとせの瞳の奥にほんのりと懐かしさの色が宿った。


 ――あの頃。

 まだ花も芽衣もいなかった時代、首都高の深夜。オレンジ色の街灯が流れるアスファルトの上を、ちとせのS30Zが吠えるような直列6気筒のサウンドを響かせながら駆け抜けていた。


 隣には、真っ黒なNSXを駆る吉田。そして水色のエボ7を操るサテラ。


 深夜2時を回った首都高は、トラックのテールランプが遠くに瞬くだけで、ほぼ貸し切りのサーキットと化していた。


 風を切る音、タービンの甲高い笛、そしてS30Zのキャブレターが吸い込む空気の唸り。


「――行くぞ、ちとせッ!!」

「負けないよ吉田さん……サテラくんも来てるしねぇ〜!」


 ルームミラーに映るエボ7のヘッドライトが、首都高のカーブで獲物を狙う狼のように近づいてくる。


 サテラのエボ7はまるで獣のように鋭いラインでコーナーを突き抜け、その後方から吉田のNSXがミッドシップの安定感を活かしてスロットル全開で追い上げる。


 ちとせのS30Zは古い車ながらも直線での加速は凄まじく、タコメーターが真紅の領域に触れるたび、体をシートに押し付ける重力が襲いかかってきた。


 3台のヘッドライトが闇の首都高を一直線に駆け抜ける光の矢となり、街灯のオレンジがそのスピードをさらに強調していた。


ちとせ「あの時はね〜、トップ争いでおじさんも必死だったんだよ〜。吉田さんのNSXもサテラくんのエボ7も速くてさ〜……でもS30Zだって負けてなかったんだからね〜」


 ちとせは寿司をひとつ口に運び、少し照れたように笑った。


花「えええええ!!お母さん昔そんなに速かったの!?すごいーー!!!」


芽衣「……首都高の伝説ってやつだね」


 芽衣が冷静に言うと、ちとせは肩をすくめながら「うへ〜」と笑い、再びコントローラーを手に取った。


寿司のパックを片付けながら、ちとせはPS3のコントローラーをテーブルに置き、ほんの少しだけ昔を思い出すように目を細めた。


ちとせ「いや〜、おじさんエボ好きなのはね〜、昔苦戦したライバルが面白くてね〜。サカエっていう女の人なんだけどね。男らしくておじさん気に入っちゃったのよ〜、もへへ〜」


 花と芽衣が同時に首をかしげる。


花「さかえ?女の人なのに男らしいの!?」


ちとせ「そうそう〜。エボ6に乗っててさ〜、あの頃は首都高の女王って呼ばれてたんだよ〜。スピードも度胸もすごくてね、直線だけじゃなくてコーナーも抜群に速い。おじさんのS30Zでも全然追いつけなかった時があったんだよ〜」


※ちなみにフルネームでは黒川サカエと言います。


 ちとせは少し遠くを見ながら、あの夜の光景を語り始めた。


 ――深夜の首都高。

 サカエのエボ6は夜の闇の中、タービンの高鳴りとともに一筋の光跡を残し、オレンジ色の街灯の下を鋭く駆け抜けていった。


 その後方で必死に追うちとせのS30Z。だが直線で食らいついても、コーナーに差し掛かるたび、サカエのエボ6はまるで路面に吸い付くように消えていく。


「――サカエ……速すぎる……!」


 ステアリングを握るちとせの額には汗がにじみ、しかし口元には笑みが浮かんでいた。


 その夜は結局、サカエが首都高を制し、ちとせも吉田もサテラも後塵を拝する形となった。


ちとせ「男らしくてね〜、勝っても負けてもさっぱりしてるんだよ〜。おじさんも『負けたー!』って笑えるぐらい気持ちいい相手だったの。あの人がいたからおじさんもエボが好きになったんだよね〜」


花「へぇぇぇぇぇ!!めっちゃかっこいいじゃん!!」


芽衣「……強い人ってそういう雰囲気あるよね」


 芽衣は落ち着いた声でそう言いながらも、ほんの少し興味深そうに耳を傾けていた。


ちとせ「また会ってみたいなぁ〜、サカエさん。今どこで走ってるんだろうね〜」

※黒川サカエ...もう誰の関係者なのか分かりましたね???


 ちとせはそう呟きながら、ソファの背にもたれてゆっくりと目を閉じた。首都高を駆け抜けた夜の風の匂いが、今もまだ鼻の奥に残っているかのように。


寿司を食べ終えてひと息ついたところで、ちとせが急に手をぽんっと叩いた。


ちとせ「あ!そうそう〜、GT5も買ったんだ〜」


 その言葉に花の目が一瞬で輝く。


花「えええええ!?また新しいの!?すごいすごいすごいーーー!!!」


 ちとせはソファの横に置いてあった袋から新品のケースを取り出した。ピカピカのパッケージにはリアルに描かれたGT-Rの姿があり、花は思わず顔を近づけてじっと見つめる。


芽衣「……GT4より車多いんだよね」


 芽衣が静かな声でつぶやくと、ちとせはにこにこしながらケースを開け、PS3のスロットにディスクを差し込んだ。


 すぅ……。


 静かな駆動音のあと、テレビに美しいオープニングムービーが流れ始める。精巧なグラフィックの車たちがサーキットを駆け抜け、雨に濡れた路面に光が反射する。


ちとせ「うわぁ〜……やっぱGT5のグラフィックすごいね〜。おじさんの時代とは全然違うよ〜」


花「あたし!あたしインプレッサー!!また青いやつ!!」


 花はもうコントローラーを握ってスタートボタンを連打している。


芽衣「……じゃあ私はシビックType R」


 芽衣は相変わらず落ち着いた声で車を選び、コースセレクトの画面が映し出される。


ちとせ「じゃあお母さんはエボXでいこ〜っと。やっぱりエボは外せないよね〜」


 3台のマシンがスタートラインに並び、カウントダウンが始まる。


花「よーし!今度こそ1位とる!!!」


 スタートの合図とともにエンジン音が轟き、リビングは再びゲームの熱気に包まれていった。


カウントダウンがゼロになった瞬間、三台のマシンが一斉にスタートを切った。


 青いインプレッサが先頭に飛び出し、後方からシビックType RとエボXが鋭く迫る。テレビの中でエンジン音が唸りを上げ、リビングの空気まで震わせるようだった。


花「やったー!!今度こそ1位だーーー!!」


 花はコントローラーを握る手に力を込め、コーナーをインから駆け抜ける。画面の中でインプレッサがわずかにドリフトし、タイヤが白い煙を上げた。


芽衣「……外から抜く」


 芽衣のシビックが落ち着いたライン取りで次のカーブを大きく回り込み、インプレッサの横に並びかける。


花「えええええ!?はやいはやいはやいーーー!!」


ちとせ「お母さんも混ざるよ〜!」


 ちとせのエボXが加速し、二台の背後から迫り、次の直線で一気にスリップストリームに入る。


 ――ゴオオオオッ!!!


 テレビの中で三台のマシンが一直線に並び、わずかな差で順位が入れ替わっていく。


芽衣「……ここで前に出る」


 芽衣のシビックがコーナーの入口で鋭くブレーキを踏み、イン側に食い込むようにしてインプレッサを抜き去った。


花「あああああああ!!!抜かれたーーー!!!」


ちとせ「お母さんも行くよ〜!!」


 エボXが次の直線で一気にアクセルを踏み込み、インプレッサとシビックの間をすり抜ける。三台の順位は目まぐるしく入れ替わり、花の悲鳴とちとせの笑い声、そして芽衣の無言の集中がリビングを支配していた。


 最後のカーブを抜け、ゴールの直線が迫る――


花「うわああああああああ!!!」


芽衣「……まだ終わってない」


ちとせ「ふふ〜ん、トップはもらったよ〜!」


 三台のマシンがゴールラインを同時に駆け抜け、画面にはコンマ数秒差のリザルトが表示される。


花「えええええ!?誰が勝ったの!?!?」

芽衣「……私」

ちとせ「お母さん三位かぁ〜、でも楽しかったからいいや〜」


 リビングにはゲームの興奮と寿司の香り、そして三人の笑い声がいつまでも響いていた。


3人「二戦目開始!北ニュル!!」


 テレビのコースセレクト画面に「Nordschleife」の文字が現れた瞬間、リビングの空気が一気に熱を帯びた。


 ――北ニュル。

 通称“緑の地獄”と呼ばれるこのコースは、全長20キロを超える超ロングコース。超高速セクションと連続コーナーが次々と襲いかかり、一瞬の油断が大きなタイムロスに繋がる、まさに究極の戦いの舞台だった。


花「あたしまたインプレッサ!絶対1位になるんだから!!」


 花はすでにコントローラーを握りしめ、青いインプレッサを選択して画面に映し出した。


芽衣「……私はS2000。軽さで勝負する」


 芽衣の声は冷静そのもので、だが指先は一切迷わずに車をセレクトしていた。


ちとせ「お母さんはやっぱりエボX〜。このコースなら四駆が強いんだからね〜」


 車種が決まると、スタートカウントが始まり、三台のマシンが北ニュルの長い直線に並ぶ。


 5……4……3……2……1……


 スタート!!


 青いインプレッサが飛び出し、S2000がすぐ背後に迫り、エボXが四駆のトラクションを活かして追撃する。


花「うわわわわわ!カーブ多いーーー!!」


芽衣「……スピード落とせ」


ちとせ「ひゃ〜!やっぱ北ニュルは慣れないとキツいね〜!」


 高速セクションから連続コーナー、そして急なアップダウン。北ニュルの過酷なレイアウトが、三人のマシンを容赦なく試す。


 長い直線に出ると、エンジン音が一斉に高まり、速度計が一気に300km/h近くまで跳ね上がった。


花「やばいやばいやばい!!めっちゃ速いーーー!!!」

芽衣「……まだ先は長い」

ちとせ「ゴールまであと半分だよ〜!集中集中〜!」


 三台のマシンが北ニュルの森の中を突き抜け、夕暮れの光を浴びながら、ゴールに向けて全開で駆け抜けていった。


北ニュルの森を抜ける冷たい風が、画面の中で三台のマシンを包み込む。緑の地獄――全長20.8キロ。スタートからすでに10分以上が経過し、ドライバーたちの集中力は極限に達していた。


 青いインプレッサのエンジンが高鳴り、花の指先がコントローラーを汗で濡らす。


花「あああああああ!!カーブ多すぎるよーーー!!!」


 目の前に次々と現れるブラインドコーナーとアップダウン。インプレッサのサスペンションがうなり、四輪が地面にかろうじて張り付いている感覚が伝わってくる。


 そのすぐ後ろ、赤いS2000が軽快なハンドリングでコーナーを抜け、花のインプレッサのテールを狙う。


芽衣「……次のヘアピンで抜く」


 芽衣の声は相変わらず冷静で、呼吸ひとつ乱れていない。だが画面の中では、赤いボディがギリギリまでインに切り込み、タイヤが悲鳴をあげていた。


ちとせ「ひゃ〜!やっぱ北ニュルは慣れてないとキツいね〜!お母さんも必死だよ〜!!」


 エボXが直線で一気に加速し、四駆のトラクションを活かしてS2000とインプレッサの背後にぴたりと食らいつく。


 ――ブレーキ、そして全開加速。


 コーナーとストレートが休む間もなく切り替わる北ニュルで、三台のマシンはわずか数メートル差で順位を入れ替え続けた。


花「やばいやばいやばい!!抜かせないからねーーー!!」


 花のインプレッサがコーナーの出口でわずかにラインを外し、その瞬間を逃さず芽衣のS2000が外側から並びかける。


芽衣「……ここだ」


 赤いボディが一気に前へ躍り出て、画面に並走する二台の姿が大写しになる。


ちとせ「お母さんも行っちゃうよ〜!!」


 エボXが後方から強引にスリップストリームを使い、ストレートで加速。三台が同時に並んだまま最後の高速セクションへ突入する。


 速度計が260、280、300km/h……針が跳ね上がり、画面の森が緑の残像と化して後方へ飛び去っていく。


花「ひゃああああああああ!!!速すぎるってばーーー!!」


 観客もピットもない静寂の森の中、エンジン音だけが轟き、ゴールまであと数百メートル。


 インプレッサがイン側、S2000がアウト側、エボXが真ん中から並びかけ――


芽衣「……最後まで気を抜かない」

ちとせ「まだまだいけるよ〜!」

花「負けないからーーー!!!」


 三台が同時にゴールラインを駆け抜け、リザルト画面が表示されると同時にリビングは大歓声に包まれた。


リザルトが出た瞬間、三人は息を整える暇もなく次のレースを選択した。北ニュル二周目。

 夕暮れに包まれた森のコースに再びエンジン音が響き渡る。


花「今度こそあたしが1位ーーー!!」


 青いインプレッサがスタートラインから飛び出し、後方から赤いS2000と銀のエボXが迫る。

 森の奥から吹き抜ける風と、タイヤがアスファルトを噛む音がリビングのスピーカーから溢れ出した。


芽衣「……焦ると負ける」


 S2000が滑らかなライン取りでインプレッサに接近し、長いコーナーの立ち上がりでじわじわと差を詰める。

 その背後、エボXは四駆の強みを活かしてわずかなグリップの差でコーナーを最速で抜け、ストレートで一気にトップスピードへ。


ちとせ「お母さんまだ諦めないよ〜!!」


 森の中の連続コーナー。

 木々の影が路面に落ち、夕日の残光がフロントガラスにきらめきを与える。

 タイヤが縁石をかすめ、マシンが一瞬浮いたかと思えば着地の衝撃がステアリングを通して伝わってくる。


花「うわわわわ!!このコース難しいーーー!!」


 インプレッサがヘアピンで少し膨らんだその瞬間、S2000が鋭いブレーキングで内側に差し込んだ。


芽衣「……ここで前に出る」


 赤いS2000が軽やかに先頭に立ち、ストレートで一気に加速していく。


ちとせ「お母さんも行っちゃうよ〜!」


 エボXが後方からスリップストリームに入り、直線でS2000に並びかける。

 三台のマシンが夕暮れの北ニュルを並走し、まるで本物の首都高バトルのような熱気がリビングを包んだ。


花「待って待ってーーー!!抜かさせないからーーー!!」


 最後の高速セクション。

 速度計が280を超え、森が残像となって横に流れ、タイヤのきしむ音とタービンの高鳴りが同時に重なり合う。


芽衣「……まだ終わってない」


 ゴールラインが目前に迫る中、三台はわずか数メートルの差で並び続け――


ちとせ「みんな全開だよ〜!!」


花「いっけぇぇぇぇぇぇぇ!!!」


 爆音とともにゴールを駆け抜け、リザルト画面が表示されるまで誰が勝ったのか分からないほどの大接戦だった。


PS3のファンの音が静かに回るリビング。GT5のメニュー画面が青い光を放ち、三人のレースが終わったばかりのコントローラーの熱がまだ残っている。


 そんな中、ちとせがふと思い出したようにソファの背もたれから顔をのぞかせ、窓の外を見上げた。


ちとせ「雪ちゃん1人出てきて〜……一緒にGT5やろうね〜」


 その声が響いた瞬間、リビングの空気がふわりと冷えた。

 カーテンの隙間から白い粒子のような光が舞い込み、空気の中でゆっくりと形を作っていく。


 やがて――


 ぷるぷる、と小さく震える雪の塊のような存在が現れた。足元には淡い霧のような雪煙をまとっている。


 雪ちゃんは言葉を話さない。ただ、ぷるぷると震えながら周囲に小さな雪の粒を漂わせるだけだ。まるで冬の夜にだけ現れる、小さな雪の精霊のように。


花「わぁぁぁぁ!!かわいいーーー!!」


 花が駆け寄ると、雪ちゃんはぷるぷると震えながら、ちいさな氷の粒を彼女の指先にそっと落とした。ひんやりと冷たいが、不思議と心地よい感触だった。


芽衣「……喋らないんだ」


 芽衣がじっと見つめると、雪ちゃんはコントローラーの前までぷるぷると移動し、体を小さく震わせた。まるで「わたしもやる」と言っているように見える。


ちとせ「うへ〜……かわいいなぁ〜。昔から雪ちゃん、ずっとこうなんだよね〜。声はないけど、ちゃんと気持ちは伝わってくるんだよ〜」


 雪ちゃんはテレビ画面を見上げ、青いインプレッサや赤いS2000が映るたびに、ぷるぷると揺れて嬉しそうにしていた。


花「雪ちゃんも車乗るの!?どれにする!?」


 雪ちゃんは答えない。ただ、ぷるぷると一度大きく震え、画面に映る白いR35を指先――いや、小さな氷の突起でちょんっと指した。


ちとせ「おお〜、やっぱり雪ちゃんは白い車選ぶんだね〜。似合ってる〜」


 やがて、4台目のマシンがグリッドに並び、冷たい風が一瞬だけリビングを吹き抜けたような気がした。雪ちゃんは相変わらず言葉を発しない。ただ静かに、ぷるぷると震えながらスタートを待っていた。


リビングの空気が再び緊張に包まれた。GT5のコースセレクト画面で「首都高」が選ばれ、夜の街のネオンが映し出される。青白い街灯とオレンジ色のトンネルの光が画面いっぱいに広がり、まるで現実とゲームの境界が溶けていくようだった。


ちとせ「行きますか、、、」


 ちとせの声が静かに響く。まるで昔、首都高を駆け抜けていた頃の血が再び騒いでいるような、そんな口調だった。


花「3戦目!首都高!」


 花のインプレッサが青いボディをライトに光らせ、芽衣のS2000が後方に静かに並ぶ。そして――


 雪ちゃんが選んだのは白いR35。

 ぷるぷると震えながら、まるで自分の分身を選ぶかのように迷いなくその車を選択した。


 グリッドに4台が並び、夜の首都高コースにエンジン音が響き渡る。


芽衣「……静かに速く走る」


 芽衣は冷静にコントローラーを握り、花は興奮で手が震えている。


花「絶対負けないんだからねーーー!!!」


ちとせ「お母さんだってまだまだ負けないよ〜」


 雪ちゃんは何も言わない。ただぷるぷると小さく震え、白いR35のライトが一瞬きらりと光った。


 5……4……3……2……1……


 ――スタート!!


 4台のマシンが同時に飛び出し、夜の首都高を一斉に駆け抜けた。


 オレンジ色のトンネルに響くエンジン音。ネオンの看板が猛スピードで後方に流れ、アスファルトに光が滑る。


花「うわあああああああ!!!夜の首都高めっちゃかっこいいーーー!!!」


 花のインプレッサが先頭に出るが、そのすぐ後ろで白いR35がトラクションを効かせて猛然と加速し、インに切れ込んできた。


ちとせ「うわっ!?雪ちゃん速い〜!!」


 雪ちゃんのR35はコーナーでほとんど失速せず、まるで氷の上を滑るようなスムーズな動きで花のインプレッサを追い抜いていく。


芽衣「……やるね」


 S2000が冷静にラインを選び、エボXとインプレッサを外側から抜きにかかる。


 夜の首都高に4台のライトが並び、トンネルの中で爆音が反響し、リビングの中の全員が息をのむ。


首都高の夜――オレンジのトンネルを抜け、4台のマシンが闇に包まれた高速道路へ飛び出した。


 先頭は白いR35。ハザードも点けず、ただ黙って一直線に加速するその姿は、まるで氷の精霊が夜空を切り裂いているかのようだった。


 雪ちゃんは相変わらず言葉ひとつ発しない。ただ、ぷるぷると小さく震えながらコントローラーを握っている。その無音の集中が、かえって異様な緊張感を生んでいた。


花「なにこれなにこれなにこれーーー!!雪ちゃんめっちゃ速いんだけどぉぉぉ!!!」


 花の青いインプレッサが必死に食らいつこうとするが、R35はコーナーの立ち上がりでも減速をほとんど感じさせない。まるで路面とタイヤの摩擦の法則を無視しているように、ラインが完璧だった。


ちとせ「うわぁ〜……おじさんも昔は首都高走ってたけど、これはちょっと次元が違うよ〜……」


 ちとせのエボXがトンネルの明かりに照らされ、その後方から赤いS2000が外側に並びかける。


芽衣「……無駄がない」


 芽衣のS2000は冷静に雪ちゃんの走りを分析しているように見えたが、すでに差は広がり始めていた。


 R35のテールランプが闇に赤い残光を残し、直線の度にその光がどんどん小さくなっていく。


花「ちょっ……待ってよおおおおお!!!」


 インプレッサが必死にシフトチェンジを繰り返すが、トップスピードの伸びではR35に敵わない。


ちとせ「いや〜雪ちゃん、本気出したら誰も勝てないんじゃないかな〜」


 トンネルを抜け、長い直線に入った瞬間、R35がまるで弾丸のように加速し、スピードメーターの針が300km/hに迫る。


 後続の3台は必死にスリップストリームを使って差を詰めるが、雪ちゃんは振り返ることなく、ぷるぷると震えながら黙々とコーナーを駆け抜けていく。


芽衣「……このままじゃ勝てない」


花「うわあああああああああああああああああ!!!」


 首都高の夜空に、4台のエンジン音とタイヤの悲鳴がこだまし、レースは終盤へと差し掛かっていった。


首都高の夜――オレンジ色のトンネルを抜けた瞬間、白いR35のテールランプが闇の彼方へ消えかけていた。


花「待ってってばあああああ!!雪ちゃん速すぎるよぉぉぉぉぉ!!!」


 花の青いインプレッサが必死にギアを叩き込み、後ろからちとせのエボXが鼻先を並べる。


ちとせ「花ちゃん、次の高速コーナーで並んで抜こうね〜!お母さんも協力するよ〜!」


芽衣「……私が前に出る。2台でブロックする」


 芽衣の赤いS2000が一気に加速し、インプレッサとエボXの前に飛び出す。その小さなボディは軽快にラインを変え、最短距離でコーナーを攻め続ける。


 そして――三台は一列になり、まるで列車のようにスリップストリームで速度を上げ、前方の白いR35を追いかけ始めた。


 首都高の標識が一瞬で後ろに流れ、街灯の明かりが途切れ途切れにマシンのボディを照らす。


花「いけるいけるいけるいける!!!」


芽衣「……次の左コーナー、イン側は私が抑える」


 S2000がコーナーのインに飛び込み、エボXがアウトを固め、インプレッサが真ん中から加速する。三台が完全に連携し、白いR35の退路を塞ぐ形になった。


 ――だが。


 ぷるぷる、と雪ちゃんのR35が一瞬だけ震えた。


 その直後、R35は外側ギリギリのラインに車体を滑らせ、まるで氷の上を走るかのように減速せずにコーナーを抜けた。


ちとせ「なにそれぇぇぇぇぇぇ!?おじさんの時代でも見たことない動きだよぉぉぉぉ!!」


 再びR35が加速し、三台の前に飛び出す。直線に入ると、300km/h近いスピードで闇の中を駆け抜けていった。


花「ああああああああ!!抜かれたぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


首都高の夜風がスピーカーから吹き抜ける音を鳴らし、レースはついに最終区間へ――。



首都高の最終ストレート。白いR35が先頭を走り、後方からインプレッサ、S2000、エボXが一斉に加速して追い上げる。エンジン音がリビングのスピーカーを震わせ、勝敗を決める最後の直線が目前に迫った――その瞬間だった。


 ――バチッ……!


 画面が一瞬だけ暗転した。


花「……えっ、、、?」


 青いインプレッサが映っていたはずの画面が一瞬黒くなり、次の瞬間にはまた映像が戻る。だが街灯の光がチカチカと点滅し、映像が不安定に揺れ始めた。


芽衣「……」


 芽衣の手が一瞬止まった。S2000のハンドルが切られる音も、エンジン音も、まるで遠くで鳴っているかのように微かになり、リビングの空気が重くなる。


ちとせ「えっ、なになになに!?おじさんの時代でもこんなのなかったよぉぉぉぉ!!」


 トンネルの明かりが点滅し、車のボディが途切れ途切れにしか見えない。まるでレースの世界そのものが揺らいでいるようだった。


 ぷるぷる、と雪ちゃんが震えた。白いR35は減速せず、ただ無言のまま闇の中を突き進んでいく。


花「なんで……?これバグ……なの……?」


 声は震えていた。ゴールはもう目前なのに、画面は時折真っ暗になり、マシンの姿が消えたり現れたりを繰り返す。


 まるで――現実とゲームの境界が崩れ始めているかのように。


首都高の最終ストレート。ゴール目前。

 だが画面は再びチカッ、チカッと断続的に光り、闇に飲まれたり戻ったりを繰り返していた。


芽衣「……はい、完全に黒くはなりませんがチカチカしてますね、画面」


 芽衣の声はいつも通り落ち着いていたが、その瞳だけはじっとテレビを見つめている。


花「やだやだやだやだ!!ゴール見えないよーーー!!!」


 青いインプレッサが真っ暗な画面に一瞬消え、次のフレームでまた現れる。速度計は300km/hを指しているはずなのに、その速ささえもチカチカとした光に飲み込まれ、不安定に揺れていた。


ちとせ「いやぁぁぁぁぁ!!おじさんこういうの苦手だよぉぉぉぉ!!!」


 エボXのボディがネオンに照らされて一瞬だけ光り、次の瞬間にはまるで真夜中の首都高に取り残されたかのように映像が途切れる。


 雪ちゃんの白いR35だけが、ぷるぷると震えるような静けさの中で前を走っていた。


 画面が黒くなっても、その白いボディだけはかすかに残像のように映り続け、まるで異世界から来たマシンのようにゴールへ向かっていた。


芽衣「……映像処理か、それともバグですかね」


芽衣の冷静な声が逆に不気味さを増幅させる。

トンネルの照明が一瞬全て消え、次の瞬間またパッと点き、ゴールはすぐ目の前だ。


首都高の最終ストレート。

 オレンジ色のトンネルの光がまたチカチカと瞬き、夜のコースが途切れ途切れにしか見えなくなっていた。


花「これじゃあ遊べないよおおお、!!」


 青いインプレッサが映ったり消えたりしながら直線を走り抜ける。だが誰がどこにいるのか、もうほとんど分からない。ゴールはすぐそこなのに、画面のチラつきはむしろ強くなっていった。


ちとせ「メニューに戻ろう、、、……チカチカしてるの止まらない、、、、」


 ちとせの声にはいつもののんびりした調子がなかった。コントローラーを握る手がわずかに震え、スタートボタンを押すと画面が一瞬真っ暗になり、次に表示されたのはGT5のメインメニューだった。


芽衣「……やっぱり不具合ですかね。再起動した方がいいです」


 芽衣が落ち着いた声で言い、ちとせは深く息を吐いてPS3本体の電源をそっと切った。


 ブーン……というファンの音が止み、部屋が急に静まり返る。

 さっきまで首都高のエンジン音とネオンに包まれていたリビングが、まるで現実に引き戻されたみたいに寒々しく感じられた。


花「せっかく楽しかったのに……」


 花はコントローラーをぎゅっと握ったまま、真っ暗なテレビ画面を名残惜しそうに見つめていた。


ちとせ「ま、また今度やろうね〜。雪ちゃんも、次はちゃんと最後まで走ろうね〜」


 雪ちゃんは言葉もなく、ぷるぷると小さく震えるだけだった。だがその小さな体はどこか寂しそうに見えた。


PS3の電源が再び入る。

 起動画面のあの静かな波紋のアニメーションが表示され、リビングの空気が少しだけ明るさを取り戻した。


ちとせ「よーし、今度はGT5じゃなくて別のソフトにしよ〜。ほら、花ちゃん好きそうなのあるよ〜」


 ちとせが持ってきたのはカラフルなアクションゲーム。花はすぐにコントローラーを握りしめ、再び笑顔を取り戻した。


花「やったぁぁぁ!!もうチカチカしないでねーー!!」


 芽衣は無言でソファに座り、雪ちゃんはぷるぷると震えながらも、再びゲームの世界に入り込む準備をしていた。


――最初のうちは問題なかった。

キャラクターが動き回り、花が楽しそうに叫び、ちとせがのんびり笑い、芽衣が淡々とサポートする。


だが、開始から10分ほど経ったころだった。


チカッ……


画面の端が一瞬暗くなり、すぐに戻った。


花「……え?」


チカ、チカッ……


暗転する時間が少しずつ長くなり、ゲームのBGMがどこか遠くに聞こえるように歪んでいく。


芽衣「……また始まりましたね。完全に同じ現象です」


ちとせ「えええぇぇぇぇ!?ソフト変えたのにぃぃぃぃ!!」


トンネルのネオンが点滅していた首都高の光景が頭にちらつく。あの時と同じ、不気味なリズムで、映像が明滅していた。


 ぷるぷる……


雪ちゃんは黙ったまま、画面を見上げて小さく震えている。白い体が蛍光灯の光に照らされ、一瞬だけ影のように揺れた。


花「これ……ほんとにバグ……なの……?」


もう笑い声は消え、リビングは再び沈黙に包まれていった。


リビングの空気がすでに重たく沈んでいた。

 テレビの画面はさっきから断続的にチカチカと明滅し、さっきのアクションゲームのキャラクターは断片的にしか映らない。


ちとせ「HDMIケーブル変えるね〜……」


 ちとせは立ち上がり、テレビとPS3の後ろに回り込んで配線を抜き、新しいケーブルを差し込んだ。新品のケーブル。これなら大丈夫だろうと、花も芽衣も少しだけほっとした表情を見せた。


花「これで……もう平気だよね?」


芽衣「……理屈の上では直るはずです」


 PS3の電源が再び入る。青い光がランプにともり、ゲームのメニュー画面が静かに映し出された。


一瞬だけ、安心がリビングを満たした――だが。


チカッ……


再び画面が瞬いた。

そして間隔を置いて、もう一度。


チカッ……チカチカッ……

花「え……なんで……?」


映像が途切れ、BGMがわずかに歪み始める。新しいHDMIケーブルのはずなのに、まるでテレビの中に何かが入り込んだみたいにノイズが走っていた。


ちとせ「えぇぇぇぇぇ!?ケーブル新しいのにぃぃぃぃ!?」


ちとせの声に花が小さく震え、芽衣は黙ったまま画面を見つめている。


芽衣「……機械の問題じゃなさそうですね」


雪ちゃんはぷるぷると小さく震え、テレビの前から動かない。

白い体が青白い光に照らされ、まるで何かを警告しているかのように見えた。


チカチカチカッ……


明滅は止まらず、まるで不気味な脈動のように規則的になっていった。


チカチカチカチカ――

画面の明滅がさらに早くなり、まるで誰かがテレビの向こうからこちらを見ているかのような錯覚を覚えさせた。


花「うわあああああ!!また暗くなったああああ!!」


インプレッサの青いボディが映っては消え、画面の隅に何か黒い影のようなものがちらりと映り込んだ。最初は見間違いかと思ったが、チカチカするたびに少しずつ大きくなっている気がする。


芽衣「……人影?」


芽衣が低い声で呟いた。画面は相変わらず点滅し続け、黒い影は車たちの後方からゆっくりと近づいてくるように見える。


ちとせ「やだやだやだやだ!!おじさんこんなの知らないよぉぉぉ!!PS2の時代にもこんなのなかったよぉぉぉ!!」


花はコントローラーを握ったまま、固まったようにテレビを見つめていた。雪ちゃんはぷるぷると震えながらも画面の前に立ち、まるで何かを守るように動かない。


芽衣「……止めますか」


芽衣の冷静な声がリビングに響いた。だが次の瞬間――


チカッ――


黒い影が一瞬、画面いっぱいに広がり、ネオンも道路も車も全てを覆い隠した。


花「きゃああああああああああ!!!!」


リビングの空気が凍りつき、まるで時間まで止まったかのような錯覚に陥る。


画面が一瞬真っ暗になり、やがて再び光を取り戻した。だが、その光はどこか不安定で、まるで蛍光灯が寿命を迎える前のチラつきのように不規則に瞬いていた。


ちとせ「……熱暴走かも」


ちとせはPS3本体の横にしゃがみ込み、手をかざしてみた。ファンの音がうなりを上げ、機械全体がじんわりと熱を持っているのが分かる。


花「え……ゲームの中からじゃなくて……本体が?」


芽衣「……確かに温度は高いです。でも熱暴走にしては挙動が妙ですね」


芽衣の言葉通り、画面のチカチカはファンの回転とは関係なく続き、さっきの黒い影のようなものが一瞬だけまた現れた気がした。


ちとせ「おじさん昔PS2でも夏はよくフリーズしたけど……こんなチカチカはなかったんだよね〜……」


花はコントローラーを握ったまま、じっと画面を見つめていた。雪ちゃんはぷるぷると震えながらもPS3の前に立ち続け、まるでそこから何かを追い出そうとしているかのように見える。


チカッ……チカチカッ……


画面の明滅は止まらない。ネオン街のシーンが映ったかと思えば、次の瞬間には何もない黒い画面に切り替わり、また突然コースの一部だけが表示される。


芽衣「……これは単なる熱暴走じゃないかもしれません」


ちとせの表情が少しずつ強張っていき、リビングの空気は不気味な沈黙に包まれていった。


チカチカと明滅し続ける画面を前に、ちとせはとうとう電話を取り出した。受話口に向かって、どこか困り果てたような声を漏らす。


ちとせ「もしもし、サカエさん……あの色々あってー」


電話の向こうからはエンジン音と風の音がわずかに混じった。相変わらず走っているらしい。その中でサカエの低く落ち着いた声が返ってくる。


サカエ「あーね……それ初期型じゃなくて中期型買った方がいいかも」


ちとせ「中期型……?でも今うちのって初期型でPS2遊べるやつなんだよ……?」


サカエは一拍置いて、まるで淡々と告げるかのように続けた。


サカエ「でも、中期型だとPS2が遊べない……つまり、遊べたことをなかったことにするしかないのよ」


ちとせ「え、、、、、っ?」


言葉を失ったちとせの耳に、受話口から聞こえるエンジンの轟音だけが重苦しく響いた。


花「なにそれ……そんなの嫌だよ……!せっかくPS2のゲーム遊べたのに!!」


芽衣「……なるほど。安定性と互換性の二択、ですか」


芽衣は冷静に分析するようにつぶやき、雪ちゃんはぷるぷると小さく震えながら、相変わらず画面の前に立ち続けていた。


ちとせ「でもなかったことにするって……そんなの……」


彼女の言葉は、まるで過去の思い出をすべて切り捨てるかのような響きを持っていた。


リビングの空気は重たく沈んでいた。

画面は相変わらずチカチカと明滅し、まるで何かが壊れる寸前のような不安定さを放っていた。


芽衣「どうします……?」


芽衣の声は落ち着いていたが、その瞳の奥にはわずかな苛立ちと諦めが入り混じっているように見えた。


花「こんなんだったらこんなのいらないよッ!!!」


花の声は涙声に近かった。あんなに楽しんでいたゲームの時間が、一瞬で壊されていく――その事実に小さな拳が震えていた。


ちとせ「……」


ちとせは黙ってPS3本体の方に目を向けた。黒く艶のあるボディは今もじんわりと熱を帯び、ファンが苦しそうに回り続けている。サカエの言葉が頭の中をよぎった。


――中期型を買えば、このチカチカはなくなるかもしれない。

――でも、その代わりPS2はこの初期型PS3ではもう遊べない。


ちとせの胸に、かつてサテラや吉田と夜の首都高を走った記憶がよみがえる。PS2の画面の向こうで、ムーンストーンやKHの世界を駆け抜けた日々の記憶が。


ちとせ「……ねぇ花ちゃん、芽衣ちゃん。おじさん、どうするべきなんだろうねぇ……」


ちとせの声はかすかに震えていた。まるでゲーム機ひとつで過去と未来の選択を迫られているような、そんな気がしていた。


雪ちゃんは何も言わない。ただ、ぷるぷると震えながらPS3の前で小さな氷の粒を落とし続けていた。


数年後――。


 ヤマブキモーターズの奥。かつて家族が集まって遊んでいたリビングは、今では山吹花の部屋になっていた。14歳になった花が過ごすその部屋には、かつての時間の名残と、新しい時代の匂いが入り混じっていた。


 窓際の棚の一角に、ひときわ存在感を放つ黒い初期型PS3が鎮座している。あのチカチカと明滅していた時代を思い出させるが、今は静かに電源を切ったまま。まるで過去の思い出をそのまま閉じ込めた記念碑のようだった。


 その横の段には、かつてちとせが中古で手に入れたXbox360が収まり、さらに別の棚には薄型のPS3が置かれている。初期型よりも熱暴走に強く、PS2互換こそなかったが、今や安定して動作する信頼のマシンだ。


 部屋の中央には大きな机。その上には光沢のあるゲーミングPCが構えられ、モニターにはKHシリーズのウィンドウがちらりと見えていた。高解像度で描かれるキャラクターたちが昔と同じ台詞を口にし、BGMが小さく流れている。


 花は椅子に腰かけ、手元のキーボードに指を置いたままモニターを見つめた。


花「……なんか、いろんな時代がここにあるなぁ」


 初期型PS3、Xbox360、薄型PS3、そして最新のゲーミングPC。

 どれも彼女の成長とともに集まり、ここに並んでいる。


 かつて家族と一緒に遊んだ首都高バトル、ムーンストーンやKHの世界。

 あの夜のチカチカも、雪ちゃんの白いR35も、今ではすべて思い出としてこの部屋の空気に溶け込んでいた。


夕方の光がヤマブキモーターズの奥に差し込み、花の部屋をオレンジ色に染めていた。机の上にはゲーミングPCが微かにファンの音を立て、モニターにはまだKHシリーズのウィンドウが小さく開いている。棚には黒々とした初期型PS3、白いXbox360、薄型PS3が並び、時代の流れをそのまま形にしたような光景だった。


 そんな部屋のドアが軽くノックされ、ひょいっと入ってきたのは黒川海斗だった。

 彼はいつもの無造作な髪型のまま、ちょっと面倒くさそうな顔をしていたが、その瞳には遊びの匂いを感じ取った時だけに見せる子供のような光が宿っていた。


黒川「花ー。何してあそぶ?」


 花は椅子からくるりと振り向き、机の下の引き出しをスッと開けた。そこから取り出したのは小さな黒いドックに差し込まれたSwitch。


花「じゃ、遊ぼうか。」


 その言葉に黒川がニヤリと笑いかける。だが次の瞬間、ドアがもう一度開き、数人の影がぞろぞろと部屋に入ってきた。


カナタ「あ、もう来てたんだ。」


 カナタが肩にスポーツバッグをかけたまま入ってくると、その後ろから伊藤が元気いっぱいの声を響かせた。


伊藤「よし!やるか!スマブラ!」


 花の部屋に一気に活気が流れ込む。相川はドアのところで腕を組み、口元に自信ありげな笑みを浮かべながら入ってきた。


相川「俺、世界大会勝ってるんだからな?」


 その言葉に伊藤が「はいはい」と肩をすくめ、黒川は「うさんくせぇ」と笑いをこらえる。


 芽衣は静かに入ってきて、花の横の席に腰を下ろし、Switchのコントローラーを無言で手に取った。


芽衣「……負けない。」


 彼女の低い声は、部屋の空気に一瞬だけ緊張を走らせたが、それが逆にみんなの闘志を燃やした。


 机の中央にSwitchがドックごと接続され、テレビの画面がパッと明るく光り、スマブラのタイトルが派手に表示される。


伊藤「よーし、俺はキャップ・ファルコンな!」


カナタ「じゃ俺はリンクで行く。」


相川「俺はもちろん、世界大会優勝者のノリオだ。」


黒川「ノリオとかつまんねーだろ。俺スネークな。」


花「あたしはカービーでいくもん。」


 芽衣は無言でワンスーツ・サムスを選び、その横顔には一切の感情が浮かんでいなかった。


芽衣「......負けない。」


 コントローラーを持つ手が固く握られ、開始のカウントダウンが始まる。


 ――3……2……1……GO!!


 部屋中にスマブラの効果音と歓声が飛び交い、伊藤が「うわあああ!!落ちた!!」と叫び、黒川が「てめぇカナタ!俺に爆弾投げただろ!!」と怒鳴り、花が「やったー!吹っ飛ばした!!」と笑い、芽衣は無言のままコンボを決め続けた。


その賑やかな空気の中で、机の隅に置かれた初期型PS3だけが、黒いボディを静かに光らせながら眠っていた。あのチカチカと明滅していた頃を知る唯一の機械は、今ではただ黙って次の時代の笑い声を聞いているだけだった。


夜が更け、スマブラの賑やかな音もやがて止み、花の部屋に静けさが戻った。

Switchのコントローラーが机に並び、みんなの笑い声の余韻だけが壁にほんのり残っている。


そして、机の隅。


初期型PS3は、黒いボディにわずかな埃をまといながら、静かに眠り続けていた。

かつてチカチカと明滅し、熱暴走に悩まされ、みんなの時間を揺らし続けた機械。

今ではもう誰も電源を入れないが、それでも確かにあの頃を見守り続けた証人だった。


花の成長も、芽衣やカナタ、伊藤、相川の笑い声も、そして雪ちゃんのぷるぷるとした沈黙も――

全部、この小さな部屋の空気とともに、初期型PS3だけが知っていた。


黒いボディはただそこにあり、何も語らず、ただ過去の時間を抱きしめるように眠り続けるのだった。


おしまい。

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