第119話 パワーと軽さの共鳴
第119話 パワーと軽さの共鳴
夜の峠に、紅・青・黄の三色が軌跡を描いていた。
赤い86――腹切カナタ。
青いWRX――山吹花。
黄色のスイスポ――伊藤翔太。
エンジンの咆哮が重なり、月光すら飲み込むような熱を持っていた。
ギャアアアアアアアンッ!!!!
ドゴオオオオオオオンッ!!!!
ギュイイイイイイイインッ!!!!
三台はほぼ同時に高速右コーナーへ突入した。
カナタの86が最短距離を刻み、FR特有の軽やかなテールスライドを描きながら立ち上がる。
その真横に迫る花のWRX。四駆のトラクションが牙を剥き、青い閃光を散らしながら加速する。
さらに背後から伊藤のスイスポがインを狙い、軽量FFの強みを活かして車体をねじ込んでくる。
花「抜かせない……ッ!!」
ステアリングを押さえ込み、花はインを潰すようにラインを取る。
だが伊藤はアクセルを抜かない。
伊藤「チャンピオンイエローが……前に出るッ!!!」
小さなボディが火花を散らし、わずかな隙を縫って飛び込んでいく。
だがその瞬間――
カナタ「させるかよッ!!!!」
紅い86が外から被せるように加速した。
FRの軽さが生むコーナー出口の伸び。
まるで赤い戦闘機が離陸するかのように、一気に先頭を奪い返す。
花「クソッ……!!」
WRXが四輪を震わせ、再びテールに食らいつく。
青い電撃が夜の空気を震わせ、二台の間に稲妻のような緊張が走った。
伊藤「終わってねぇぞ……!!」
黄色の閃光がもう一度インを狙い、三台のマシンが再び横一線に並んだ。
次のコーナーが迫る。
誰もブレーキを踏まない。
夜の峠に、命を削るようなエンジン音だけが響き渡っていた――。
カナタの赤い86が、深夜の峠を切り裂くように先頭を走っていた。
エンジンは唸りを上げているが、その動きには焦りの色はない。
落ち着き払った軌跡。
まるで戦闘機のパイロットが空を支配するかのように、紅いボディはコーナーを制圧していく。
バックミラーの奥で、青と黄の閃光がぶつかり合っていた。
カナタ「すげぇな……伊藤もよくついてくるもんだ……。あのスイスポでWRXに張り付くとはな……。」
コーナーを抜けるたび、青いWRXが火花を散らし、黄色のスイスポがインを鋭く刺す。
まるで獲物を狙う二匹の獣のように、背後の二台は殺気を帯びた距離を保ちながら、激しく睨み合っていた。
青の狼、山吹花のWRXが四駆のトラクションで加速する。
そのすぐ内側を、軽量FFの伊藤スイスポが最短距離で食い破ろうとする。
ギャアアアアアアアンッ!!!!
ドゴオオオオオオオオンッ!!!!
夜の峠にエンジンの怒号がこだまする。
カナタは紅い86のステアリングを軽く握り直しながら、わずかに口元を緩めた。
カナタ「いいぞ……そのまま食い合え……。最後に前を奪い返すのは、この86だ……。」
紅い戦闘機は冷静に、しかし確かな殺気を帯びながら、後方の死闘を見守り続けていた。
暗闇の峠道。青い閃光のWRXが疾風のごとく駆け抜け、その直後、黄色の閃光が牙を剥いた。
伊藤翔太のスイフトスポーツだ。
たった1.4リッターの直噴ターボ。しかしその軽量なボディとECUチューンで引き出された爆発的トルクが、深夜の山道で獣のような叫びを上げる。
伊藤「山吹花ァァァ!!インを開ける気はねぇんだろ!?なら……こじ開けるだけだッッ!!!」
スイスポが牙を剥くようにインへ飛び込んでいく。
ターボが咆哮し、黄色の光跡が一瞬だけWRXの横腹をかすめた。
花「なめないでよッ!!!」
青いWRXが四駆のトラクションを最大限に活かし、コーナー出口で強引に加速していく。
タイヤがアスファルトを引っ掻き、焦げたような匂いが夜風に混じる。
ギャアアアアアアアアアアアアンッ!!!!
ドゴオオオオオオオオオオオオンッ!!!!
深夜の山奥に響く、野獣の咆哮のような三台のエキゾーストノート。
前を走る赤い86、カナタはバックミラー越しに後方の攻防を冷静に見据えていた。
カナタ「……二台とも、獣みてぇだな。けど前に出るのは、簡単じゃねぇぞ……。」
赤い戦闘機と呼ばれるカナタの86が、わずかにアクセルを踏み増す。
NA特有の鋭いレスポンスが夜空を切り裂き、紅い残光を伸ばしていく。
しかし、後方の青と黄も引かない。
花「私のEJ20は……まだ本気を出してないッ!!!」
伊藤「軽さこそ正義だってことを……このスイスポが証明してやるッ!!!」
WRXが咆哮し、スイスポが牙を剥き、峠の闇が一瞬ごとに光と音で引き裂かれていく。
タイヤのグリップ限界を攻めるたび、火花が散り、視界の端でガードレールが流れ弾のようにかすめていった。
三台のマシンはもはやただの車ではなかった。
赤い閃光、青い稲妻、黄色の獣――その全てが魂を持ったかのように、峠の闇を切り裂き続けていた。
花のWRXが、夜の闇を切り裂くように吠えた。
その瞳の奥には確固たる自信が宿っていた。
花「EJ20は最高傑作の証よッ……!!この電撃のオーラ漂う青い戦闘機に……どこまでついてこられるッ!!?」
アクセルが深く踏み込まれた瞬間、EJ20特有のボクサーサウンドが夜の森全体を震わせる。
ドドドドドドドドドドッ!!!
ドゴオオオオオオオオオオンッ!!!!
青い閃光が闇を裂き、WRXの四輪が大地を強烈に掴む。重低音の咆哮とともに、青い戦闘機はまるで稲妻のようにコーナー出口から射出される。
カナタの赤い86が前方で光の尾を引き、その後方を黄色の閃光――伊藤翔太のスイフトスポーツが食らいつく。
だが今、三台の中で最も凶暴な光を放っていたのは間違いなく山吹花のWRXだった。
花「抜く……!!このコーナーで必ず……!!」
青い閃光が、赤い戦闘機の背中へ突き刺さる。
カナタの86が冷静にカウンターを当て、テールをわずかに流しながらも最短距離を死守する。
カナタ「甘ぇな……この86を簡単に抜けると思うなよ……!!」
横に並びかける青と赤――だがすぐに後方から黄色の獣が牙を剥いた。
伊藤「ハッ……面白れぇ……!青も赤もまとめて喰ってやるよォォォ!!!」
スイスポのタービンが甲高い悲鳴を上げ、黄色の閃光が一気に加速する。
ギャアアアアアアアアアアアアンッ!!!!
ドギャアアアアアアアアアアアアンッ!!!!
三台のマシンが同時にフルブーストで夜を切り裂き、タイヤがアスファルトを焦がす匂いが峠に漂う。
赤、青、黄――三色の光が絡み合い、峠の闇を昼間のように照らし出していた。
伊藤「山吹花ァ……ッ!甘く見るなよ……!
140馬力だとッ!?それがどうしたッ!!!」
ギャオオオオオオオオオン!!!!
黄色いスイスポのタービンが過給の悲鳴を上げ、加速が弾丸のように伸びていく。
伊藤「このスイスポはただの140じゃねえ……!!
ECUを叩き込み、レスポンスを極限まで尖らせたシロモノだッ!!!軽さと瞬発力――
それこそが俺の全てェェッ!!!!」
青と黄の閃光が重なった。インから飛び込んできたのは伊藤翔太のチャンピオンイエローのスイフトスポーツ。最短距離を突き刺すその走りは、まるで峠そのものの重力を無視したかのような鋭さで、花のWRXが切り拓いていたラインを一瞬で奪い取った。
花「——ッ!? そんな、後ろにいたはずのインを取られるなんて……ッ!!」
瞬間、青い光と黄色の光が視界の中で弾け飛び、火花が散った。花のWRXは重量とパワーを頼りにインを締め上げるようにして、伊藤のスイスポを押さえ込もうとした。しかし軽量ボディを武器にしたスイスポは、たった一瞬の切り返しでその動きを無効化していく。峠の下りで培われた伊藤の勘と度胸が、花のWRXの重さを嘲笑うかのように加速していた。
伊藤「ハッ……! お前の四駆の重さじゃ、この最短距離は追いつけねぇ!!」
雄叫びのようなエンジン音が闇に響き渡り、スイスポの加速が爆発した。
ゴオオオオオオオオッ!!!!
インを突いた伊藤翔太のスイスポが、青い閃光を押しのけて前に躍り出る。花のWRXはわずかにアウトへ弾かれ、その間に黄色い閃光が前方へと射出された。紅い86を追いかけるポジションへ——ついに伊藤翔太が食い込んできたのだ。
花「……そんな……!! 私のWRXが、インを守り切れなかった……!?でも……ッ!!
絶対にここで諦めない……!!!!」
花の瞳が鋭さを増した。彼女の右足がさらに深くアクセルを踏み込み、WRXのボクサーサウンドが怒りを込めて咆哮した。
バシュウウウウウウウウン!!!!
青い稲妻が夜空を裂いた。四輪駆動が生み出す怒涛のトラクションが路面を叩き割り、WRXが再び前方へ食らいついていく。
一方、先頭を走るカナタの赤い86が、そのテールランプを真紅に染め上げていた。まるで後続の二台に挑発するかのように、ひときわ強い光を放ちながら次のコーナーへ突入していく。
カナタ「……後ろが騒がしいな。青と黄……両方まとめて来いってか……!」
赤い戦闘機がコーナーを抜けるたびにテールがわずかに流れ、火花が散る。NAエンジン特有の高音が夜を切り裂き、その姿はまさに峠に棲む獣のようだった。
伊藤「カナタァァァ!!
このまま前まで届いてやる!!!」
黄色いスイスポが、コーナー出口で獲物を狙う肉食獣のように加速していく。ターボが悲鳴を上げ、ライトの光がカナタの86の影を射抜いた。
だが、その背後で花のWRXが黙っていなかった。
花「二台まとめて抜き去る……!!
EJ20の力、見せてあげるわッ!!!!」
怒涛のトルクが四輪を蹴り飛ばし、WRXが路面を鷲掴みにして加速する。重低音のうねりが夜空を震わせ、青い閃光が黄色と赤の背中へ襲いかかっていった。
ゴウウウウウウウウウッ!!!!
次の瞬間、三台のマシンがコーナーへ同時に飛び込んだ。赤い86が最短距離を死守し、黄色いスイスポがインを狙い、青いWRXがアウトから全開で被せていく。三色の光が交錯し、タイヤが悲鳴を上げ、火花が闇の中で弾け飛んだ。
カナタ「来いよ……!!この86が簡単に抜けると思うなッ!!」
伊藤「抜くさ……!!このスイスポでなぁッ!!」
花「二台まとめて沈めるッ!!!」
三台のエキゾーストノートが重なり、峠全体がまるで爆撃を受けたかのような轟音に包まれた。アスファルトを焼き焦がすタイヤの匂いと、ブレーキローターの焼け付く匂いが夜の冷気に溶け込み、視界の先には次のヘアピンが口を開けて待ち構えていた。
赤、青、黄。三色の光が次の瞬間には誰が先頭になるのか、誰にも予想できなかった。
紅、青、黄――。
三色の閃光が再び交錯する。夜のR349は、
ただの道路ではなかった。魂と魂が
ぶつかり合う、命懸けの戦場と化していた。
ドドドドドドドドドドドッ!!!!!!
ドゴオオォォォォォォォン!!!!!!!
夜の山奥、R349。
星空を切り裂くのは三色の閃光。紅、青、そして黄色。
三者三様の轟音が響き渡り、峠全体が咆哮する獣たちの檻と化していた。
先頭を駆けるのは腹切カナタの紅い86。
その直後、青き稲妻を纏う山吹花のWRXが猛追。
だが、そこに牙を剥き出しにして食らいついたのが――チャンピオンイエローの小さな獣、伊藤翔太のスイフトスポーツだった。
――ドドドドドドドドドッ!!!
――ドゴオオオオオオオオオオンッ!!!!
吸気音が唸りを上げ、排気が怒りの咆哮を放つ。
黄色の機体が、青い狼の懐に潜り込むようにインへと滑り込んでいく。
軽量ボディを最大限に活かし、まるで針の穴を通すような最短距離のラインを突く。
花「なッ……!? 嘘でしょ……!!」
ハンドルを握る山吹花の額に、初めて冷や汗が浮かぶ。
「スイスポは……140馬力じゃなかったのッ!? なんでここまで……!!?」
その問いに答えるかのように、伊藤の声が夜に響き渡った。
伊藤「このスイスポを甘く見るなよォォォォッ!!!!
140馬力……?それは“ノーマル”の話だ……!!
俺のマシンは、ECUチューンで生まれ変わったシロモノだァァァッ!!!!」
――ギャオオオオオオオオオンッ!!!!
ターボが咆哮し、排気が閃光を散らす。
WRXの四駆の重量に飲まれそうになりながらも、黄色の機体は決して怯まない。
むしろ、その軽さを最大の武器として鋭く切り込んでいく。
伊藤の心が、スイスポの鼓動と一体化していく。
ECUチューンで底上げされたパワートルクが、ハンドル越しに直接語りかけてくるようだ。
(……ああ、これだ……!
今まで俺の手に微かな違和感を残していたハンドルが……今は素直に答えてくれている……!
タイヤの一転がりさえも、俺の鼓動とリンクして伝わってくる……!)
軽量FFの切れ味は、峠の高速コーナーでこそ輝く。
花のWRXが四駆の力で踏ん張るその横を、わずかなブレーキングの遅れを突いて黄色の獣が突き破る。
カナタ「……来たな、伊藤……!!
本気を出したスイスポってのは、ここまで獰猛なのかよッ……!!!」
紅い戦闘機のテールランプ越しに、カナタが冷静に後方を見据える。
彼の視界に映るのは、花のWRXを押しのけ、まっすぐ自分を射抜く黄色の光。
花「ふざけないでよッ……!!
インを取らせるつもりなんてなかった……!!
私のWRXの……EJ20の咆哮を舐めないでェェェッ!!!!」
――ドドドドドドドドドッ!!!
――バシュウウウウウンッ!!!!
青い稲妻が再び弾ける。
花はアクセルを踏み切り、四輪駆動の重厚な加速を炸裂させた。
だが、それでも伊藤のスイスポは離れない。
伊藤「ハァァァァッ!!!!軽さは武器だッ!!少ない馬力を、無駄なく路面に伝える――
それがこのスイスポの真の姿だァァァァッ!!!!」
ゴオオオオオオオオオオンッ!!!!
黄色の機体が、青い狼をわずかにかわし、ついに前へ躍り出る。
花「くッ……!!!」
歯を食いしばる音がコクピットに響く。
彼女のWRXはまだ戦える。だが、確かにいま一瞬、スイスポにインを奪われた。
それは、彼女の心に初めて“焦燥”を芽生えさせた瞬間だった。
伊藤(……行ける……!
この感覚は、間違いなく俺とスイスポがひとつになっている証拠……!
行くぞ、花ッ! そして、カナタッ!!
お前らを追い抜き、俺がこの夜の先頭を――!!!!)
スイスポの小さな車体が、紅と青の狭間を切り裂いていく。
軽さと鋭さ、その全てが魂と共鳴し、夜空に響き渡る。
――ゴオオオオオオッ!!!!
――ギュアアアアアアアアアアンッ!!!!
紅、青、黄。
三色の閃光が交差するその瞬間、ただのレースではなく――魂と魂が激突する戦場が、確かにそこにあった。
張り詰めた深夜の峠。
山奥のR349は、月明かりすら届かぬほどの闇に包まれていた。風が止み、虫の声も消え、まるで世界そのものが固唾を飲んでこの瞬間を見守っているかのようだった。
そして、そこに三台のマシンがいた。
先頭は紅い戦闘機――腹切カナタの86。
そのテールランプが挑発するかのように赤く脈を打ち、後続の二台を導く。
二番手は青い稲妻――山吹花のWRX STi。
EJ20が低く唸りを上げ、青い狼のような疾走感を漂わせながら、いつでも前に出ると告げるようにギラギラと光っていた。
三番手はチャンピオンイエローの獣――伊藤翔太のスイフトスポーツ。
1.4リッター直噴ターボの心臓が鋭く吠え、軽量ボディの強みを活かして二台を喰らい尽くさんとする獣の気配を漂わせていた。
その三台が、深夜の峠を切り裂く。
――ギュオオオオオオオオオンッ!!!
――ドゴオオオオオオオオオンッ!!!!
耳をつんざく加速音が、夜の山々に反響する。テールランプの残光が闇を切り裂き、まるで閃光が縦横無尽に駆け抜けていくようだった。
伊藤翔太のスイスポが仕掛けた。
「とことん突っ走るぜ……ッ!!どこまでついてこられるッ!!?」
黄色い残光が一気に輝きを増す。小柄な車体が地を這うようにインへと切り込み、まるで操り人形のように正確無比なラインを描く。
――ギャアアアアアアアアアンッ!!!
タイヤが悲鳴を上げる。しかし伊藤は迷わない。ターボが絞り出す過給圧を最大限に活かし、加速の全てを路面へ叩きつけていく。
花「……ッ、伊藤翔太……!!!」
山吹花のWRXが牙を剥いた。
青い狼が低く唸り、タービンの回転音が空気を震わせる。
だが、その重さと四輪駆動の力が逆に裏目に出る。インに飛び込むにはわずかに重い。黄色い閃光は、まるで重力を無視するかのように軽々と切り込んでいく。
花の脳裏をかすめたのは“恐れ”という言葉。
認めたくはない。だが確かに、今のスイスポには危機感すら抱かざるを得なかった。
「……面白ぇ……こいつ、本気で俺たち二人を喰うつもりだ……ッ!!!」
先頭の赤い86を駆るカナタが、ルームミラー越しに後続を見やる。
紅い戦闘機はまだ牙を剥かない。
だが確かに、86の心臓が熱を帯び始めているのをカナタは感じ取っていた。
この走り。この緊張感。この瞬間。
何かが大きく変わろうとしている。そんな予感が彼の胸に重くのしかかる。
黄色と青が並んだ。
青いWRXがパワーで押さえ込もうとする。だが軽さという絶対的な武器を持つスイスポが、その動きを切り返しで無効化していく。
――ゴオオオオオオオオオッ!!!!
伊藤のスイスポがついにインを突いた。
火花が散り、視界が一瞬白く弾ける。
「ハッ……! お前の四駆の重さじゃ、この最短距離は追いつけねぇッ!!!」
伊藤の瞳が獣のように光る。
WRXが牙を剥くが、黄色の閃光は止まらない。
最短距離を貫き、花のWRXを横から抜き去っていく。
「……そんな……!!私のWRXが……インを守り切れなかった……!?」
花の叫びが夜に散った。
だが彼女の目はまだ死んでいない。むしろその奥底で燃え盛る炎がさらに強さを増していく。
「……でも……!絶対にここで諦めないッ!!!」
青い狼が再び咆哮を上げる。
――バシュウウウウウウウウンッ!!!!
タービンが空気を裂き、WRXが地面を蹴り飛ばす。
再び前方の黄色を狙い、青い稲妻が牙を剥いた。
だがそのさらに先を走る赤い86が、ルームミラー越しにわずかに笑みを浮かべる。
紅い戦闘機のテールランプが、まるで挑発するかのように赤く脈打っていた。
――あれを追い抜かなければ、自分の存在を証明できない。
黄色のスイスポがギアを噛み合わせ、青いWRXが追いすがり、赤い86が牙を研ぎ澄ます。
三台の鼓動が、峠全体を震わせていた。
伊藤が歯を食いしばる。
「このまま突っ走るぜェェェ!!!!
どこまでついてこられるッ!!?」
ハンドルを握る手が熱を帯びる。
シフトチェンジのたびに、黄色い獣が咆哮し、路面を引き裂く。
花が後方で叫ぶ。
花「まだよ……!!私のWRXは……
EJ20はここからよッ!!!!」
青い稲妻が再び立ち上がる。
カナタが紅い戦闘機の中で静かに呟く。
「面白ぇ……来いよ、伊藤……花……!!!」
夜の闇を切り裂き、三台の獣が限界を超えた速度で突き進む。
赤い閃光。青い稲妻。黄色の残光。
それぞれの魂が、それぞれのマシンと重なり合い――
峠は、まるで戦場のような轟音に包まれていった。
三者三様の音が、夜空に交響する。
まるで星々の下で鳴り響く、三頭の獣の遠吠えのように。
伊藤「はぁぁッ……!!もっと速くッ……!!!」
彼の右腕はリズムを刻むようにシフトノブを操り、クラッチが一瞬ごとに命を吹き返す。
エンジンの鼓動が心臓と一体になり、魂がひとつの機械と化していた。
花「このまま引き離されて……たまるもんかァァァッ!!!!」
青い稲妻のオーラが再び弾ける。
彼女のWRXが牙を立てるようにグリップを食い、黄色の背中を追いすがる。
カナタ「……いいぞ、お前ら……!!」
紅の瞳が光り、86の魂が燃え上がる。
「だが――最後に笑うのは、この赤い戦闘機だ……ッ!!!」
――ゴオオオオオオッ!!!!
紅、青、黄――三色の閃光が交差し、峠を照らし続ける。
夜の山々がまるで観客のように震え、葉擦れの音すら彼らの走りに合わせて響いていた。
伊藤(突っ走る……!!
俺は止まらねぇ……!!
相手が誰であろうと、このスイスポとなら――!!)
ゴオオオオオオオッ!!!
ギュアアアアアアアアアッ!!!
パシュウウウウンッ!!!
ズドォォォォォンッ!!!
三台のマシンが夜を切り裂いた。
先頭を走る赤い閃光――腹切カナタの86が、峠の空気を震わせる。
ボクサーエンジンの重低音がまるで心臓の鼓動のように響き、加速のたびに赤いテールランプが闇の中で血のように輝いた。
カナタ「負けるはずがねぇよ……。
この86となら............、、」
カナタの瞳が燃えていた。
ハンドルを握る指先にまで、エンジンの振動が伝わる。
まるで自分の心臓がマシンそのものと直結しているような感覚。
この俺の86の繊細なところが、今はピシャリと一体化している。
ボクサーエンジンの鼓動が、まるで俺の呼吸と同じリズムで動いているみたいだな……。
86、お前はどうなんだ?
カナタの脳裏に問いが浮かぶ。
お前は、これからもっと何をしたい?
速さだけがすべてじゃない。
強くなれとは言わねぇ……。
楽しいFRとして生まれたお前に――
強くなれないけど……できることを見せてみろ。
その瞬間だった。
背後から青い閃光が迫る。
山吹花のWRXがついに赤い86のサイドに並んだ。
タービンが甲高い悲鳴をあげる。
EJ20が四輪を蹴り飛ばし、青い狼が牙を剥いた。
この先には、きついヘアピンが待ち構えている。
両車ともに減速のタイミングがわずかに遅れ、
ラインが膨らんでいく。
そのまま並んだまま、二台はまるで互いを食い殺す獣のように、闇の中のヘアピンへ突っ込んでいった。
花「負けられないんだからアアア!!!!」
カナタ「クッ!!!!」
伊藤「……マジか!!?」
背後の黄色い閃光――伊藤翔太のスイフトスポーツが、その光景に思わず息を呑む。
前方で赤と青の閃光が交錯し、タイヤのスキール音が耳を裂く。まるで地面が悲鳴を上げているかのような音だった。
――キュギャアアアアアアアアッ!!!
ブレーキングの火花が散る。
赤い戦闘機と青い狼が、互いに譲らぬまま、
ヘアピンのインを奪い合う。
カナタの86がわずかにテールを振った。
だが花のWRXも一歩も引かない。
カナタの奥歯が軋む。
カナタ「……クソッ……この狼……!!!」
花の目が燃えていた。
「絶対に前に出る……!!」
背後の伊藤が、息を呑みながらも加速のタイミングを見計らう。
ゴールまでは、まだ16キロも残っている。
この先、さらなるヘアピン、連続コーナー、
そして最後のストレートが待ち受けている。
三台のバトルは、まだまだ終わらない。
深夜の峠は、これからが本当の地獄なのだ。
ゴールまであと16キロ