表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
86伝説エーペックス  作者: さい
峠のバトル編
128/136

第117話 高速コーナー続き

86伝説エーペックス

9月28日「日」再開。

2025年9月28日から週1話投稿に変更

9月28日は第118話のフルを公開します。

夏の夜。

R349のアスファルトが熱を帯び、月明かりに鈍い光を返していた。

街灯はまばらで、右には電化製品店の暗がり、左には住宅街の影。

その奥を流れる川のせせらぎが、かすかに耳に届く。

自然と人工物が交錯する峠道に、三台のマシンが一斉に飛び込んでいく。


「ギャアアアアアアアアンッッ!!!」

「ゴオオオオオオオオッッ!!!」

「ギュイイイイイイインンンッ!!!」


紅、青、黄――三つの閃光が、闇を切り裂きながら立ち上がる。

先頭を行くのは腹切カナタの赤い86GT前期。

その真後ろに山吹花のWRX STI VAB。

さらに後方から牙を剥くのは、伊藤翔太の黄色いスイフトスポーツZC33Sだ。


エンジンが咆哮するたび、三者三様の特性が露わになる。


86――FRらしいシャープな切れ味。

コーナー出口でリアを微かに振りながらも、カナタの手によって一分の隙もなく矯正される。

戦闘機のような赤いボディは、わずかな乱れすら「操縦」として昇華していた。


WRX――タービンの過給が炸裂し、四輪を蹴り飛ばすように加速する。

花が握るステアリングは、獣の咆哮を受け止めるかのように微動だにしない。

重いはずのボディが、まるで狼の俊敏さを得たかのように食らいついていく。


スイスポ――小排気量ターボの唸りが、軽い車体を鞭打つ。

FFの利点を最大限に生かし、わずかなイン側のラインを探って忍び寄る。

その姿は、小さな獲物ではなく、軽やかに舞う狩人そのものだった。


花はフロントガラス越しに86のテールを射抜くように見つめていた。

「……速いッ! この狼ちゃんでも抑え込めないなんて……!?」

青い瞳に悔しさと闘志が宿る。


花「スイスポでそんなに速いなんて……!!!

少し予想外だけど――ずっとこの狼ちゃんに食らいついていけるかしらッ!!?」


彼女にとってWRXはただのマシンではない。

まるで自分と一体化した存在。

その“泣き顔”を誰にも見せたくはなかった。

だからこそ――負けられない。


後方の伊藤は、歯を食いしばりながらシフトを叩き込む。

「ガコンッ!!!」

スイスポがギュルルルルッと甲高い悲鳴を上げる。


伊藤「……こっちだって伊達じゃねぇッ!!」


脳裏に蘇るのは、Apex Cup FFカテゴリーでの三連覇の栄光。

小さなスイスポで、大排気量の化け物たちを何度も喰ってきた誇り。


伊藤「見せてやる……! うちがどれだけコイツと鼓動を合わせてきたかをなッ!!!」


彼にとってスイスポは「自分の限界」を映す鏡。

決して見劣りする存在ではない。

黄色い閃光は、青と紅の影を追い続ける。


夜の熱風がフロントガラスを叩き、排気の匂いが鼻を突く。

タイヤがアスファルトを噛み締める音が、星空の下に響き渡る。


三台の間隔はわずか数メートル。

バックミラー越しに、カナタは迫るWRXとスイスポを捉えた。


カナタ「(来いよ……。俺と86は、誰にも負けねぇッ!!)」


クラッチを蹴り、再びアクセルを踏み抜く。

FR特有の切れ味が赤い閃光を押し出す。


花「……ッ! 譲らないのね、カナタ……!!」

伊藤「まだ……まだここからだッ!!!」


右側には電化製品店の看板が闇に浮かび、左には眠る住宅街の窓明かりがちらつく。

奥からは川のせせらぎが、まるでバトルを見守る観客の拍手のように聞こえていた。


三台は、その境界線を突き抜けるように突進していく。


「グワァァァァァァンッッ!!!!!」

「ドゴゴゴゴゴゴゴオオオッッ!!!!!」

「キュイイイイイイイイインンッッ!!!!!」


峠の夜が、三台の交響曲で震えた。


青と紅が火花を散らし、黄が背後から忍び寄る。

次の瞬間、R349の闇を切り裂く三台の影は、さらに加速を増して消えていった――。


夏の夜のR349。

湿った熱風が路面を這い、街灯の下でアスファルトがかすかに照り返していた。

その熱を切り裂くように、紅、青、黄――三色の閃光が連なり、闇の峠を駆け抜けていく。


「ギャアアアアアアアンッッ!!!」

「ゴオオオオオオオッッ!!!」

「ギュイイイイイイイインッ!!!」


三台の咆哮が重なり、谷間を轟音が揺るがす。


先頭は腹切カナタの赤い86。

FR特有の軽やかさでコーナーを切り裂き、戦闘機のごとき旋回を見せる。

その真後ろには、山吹花のWRX STI。

重量級のボディを四輪駆動がねじ伏せ、まるで狼が獲物を追うようにテールに食らいつく。

さらにその背後から、伊藤翔太のスイフトスポーツ。

軽量なFFマシンが小柄な体をしならせ、まるで野生の狐のように隙を狙っていた。


カナタ「最初の高速コーナーなのに長いッ!!

こんな長いコーナーのある公道もあるのか……!」


息を呑むような長さのコーナー。

三台はほぼ同時にドリフトへ移行し、路面に白煙を撒き散らした。


三台ドリフト。

まるで夜の闇に炎が踊るように、三色の尾を引いて駆ける。

タイヤが絶叫を上げ、スパークが飛び散る。


伊藤「……ッ! ここだ……!」


スイスポがインを狙った。

小排気量の軽快さを武器に、黄色の閃光がWRXの内側へと滑り込む。

インを差せば、一気に前へ――。

だが、それを許さぬ存在があった。


ハンドルを切る花。

インのスペースを潰すように、青いWRXを深く押し込む。


山吹花「インには……通らせないんだからァァァァッ!!!」


WRXが鋭いブレーキングを放つ。

ブレーキローターが赤く灼け、火花が飛び散る。

その減速は、伊藤のスイスポをまるで“ためらわせる”ように封じ込めた。

黄色の光は押し戻され、インを奪えない。


伊藤「ぐッ……!? 前に出られねぇ……ッ!」


それでも先頭の86からは離されない。

紅の戦闘機もまた、必死に速度を刻み続けていた。


花の胸中に渦巻くもの。


山吹花(……もし、簡単にインを譲ってしまったら。

私の疾風、私の稲妻を浴びることすらできなくなる。

そんなの、レースじゃない……!

私が望むのは――全力で、魂を燃やす走り!!

だからッ……!)


ハンドルを握る両手に、電撃のような痺れが走る。

WRXのボディからは蒼い閃光が迸り、まるで空気が震えているかのように見えた。


花「好きなだけ――このレースを味わいたいのよッ!!!!」


その瞬間。

青いWRXが、電撃を纏った。


バチバチバチバチィィィィンッッ!!!!


ボディ全体に蒼白い稲妻が走り、空気を裂いて弾ける。

さらにピンク色の疾風が絡み合い、二色のオーラが夜の闇に咲き乱れた。


観客のいない峠道。

だが、そこに立ち会う者がいたならば、きっと息を呑んでいただろう。

それは、ただのマシンではなかった。

まるで「青の電撃の桜狼」が実体化したかのような姿だった。


伊藤「なッ……!? こ、これは……!」


後方のスイスポの中で、伊藤の額から冷や汗が流れる。

ハンドルを握る手がわずかに震える。


伊藤(このオーラ……この感覚……ッ!!

今までのどんな強敵とも違う。

比べ物にならないほど、圧倒的に強い……ッ!

まるで世界最高レベルの走りを前にしているような……!

このWRXは……負けるかもしれないッッ!!)


スイスポの心臓部が必死に叫ぶ。

それでも追いつこうとするが、体の奥で警鐘が鳴り響いていた。


伊藤「ぐぅ……ッ……!

ヤベェぞこれは……ッ!!」


花のWRX。

そのオーラは夜を蒼と桃に染めながら、先頭の赤い戦闘機に迫る。

青い稲妻が道を焼き、疾風が後方に桜吹雪のような軌跡を残す。


カナタの背中に、強烈な圧が迫った。

ミラー越しに見える蒼と桃の輝き。


カナタ「……来やがったか……ッ!!!」


86が吠える。

紅と蒼――ふたつの力が、次のコーナーで衝突するのは必至だった。


タイヤの悲鳴。ブレーキの閃光。

夜のR349はまるで戦場のように揺れ動いていた。


紅、青、黄――。

それぞれが己の誇りを背負い、譲らぬ心で駆け抜ける。


その中心にあったのは、花の咆哮だった。

山吹花「絶対に――譲らないッッッ!!!!」


夜を震わせる声が、稲妻と疾風に重なった。

峠の空気が切り裂かれ、三台の運命は次の瞬間へと突き進んでいった――。


……本当にヤバい奴らが現れたモンだなーー。

しかも、ここをよく走っているのかライン取りが.....いや、普通に走ってたらそこまで強引に利かせていくようなライン取りはできないはずだろ......!!?


稲妻が走った。

山吹花のWRXが、青い閃光を纏ったまま加速する。

後輪が路面を噛みちぎるように回転し、空気を切り裂く。


山吹花「……させないッ....,.!

この子は、私の狼なんだからァァァッ!!!」


バチバチバチィィン!!!

電撃が空気を裂き、青白い閃光が紅の86を飲み込もうと迫る。


カナタはミラー越しにそれを捉え、口元を引き結ぶ。

カナタ「来るか……!!いかせてたまるかッ!!」


クラッチを一瞬だけ抜き、再び踏み込む。

FR特有の切れ味がボディを振り、リアが火花を散らしながら出口へ飛び出す。

赤い戦闘機は、電撃をも跳ね返すかのように、なおも前を譲らない。


86の咆哮が山奥を震わせた。


だが、そこに割って入る影があった。

伊藤「今だ……ッ!!」


スイスポが牙を剥く。

青と紅の激突の隙間――わずかに生まれた空間を、黄色の閃光が鋭く突いた。

まるで狐が二匹の狼の間をすり抜けるかのように。


伊藤「FFを舐めんなよッ!!」


小さなボディがインへ滑り込む。

タイヤが悲鳴を上げるが、伊藤は躊躇わない。

全身を預けて突き出した。


花「ッ!? インから……!!」

カナタ「伊藤……ッ!?」


一瞬の隙が戦況を変える。

紅、青、黄――三色の閃光が交差し、峠の夜を切り裂く。


「ギャアアアアアアアンッッ!!!!」

「ゴオオオオオオオッッ!!!!!」

「キュイイイイイイインッッ!!!!!」


タイヤが同時に火花を散らし、夜空に三重奏が響いた。


花は歯を食いしばる。

山吹花「……インは、渡さないって...

言ってるでしょォォォッ!!」


再びハンドルを切り込み、稲妻を迸らせながらWRXを押し込む。

その電撃は、隣に迫る黄色の影を一瞬たじろがせた。


伊藤「うおッ……!? クソ……でも……!」


それでも伊藤は足を緩めない。

エンジンが悲鳴を上げても、彼は叫び続けた。


伊藤「負けてたまるかァァァッ!!!」


先頭のカナタは、ふたりの気配を背中で感じながら、なおもアクセルを踏み抜く。


カナタ「(これが……三つ巴の走り……ッ!

俺は……負けられねぇ!!

この86と……最後までッ!!)」


紅の閃光が夜を裂き、青と黄が牙を剥く。

峠の闇を揺るがす三色の戦闘機は、次のコーナーへ――怒涛の突入を果たそうとしていた。


カナタ「……後ろからWRXがッ……!!!」


バックミラーいっぱいに広がる青白い閃光。

それはただのヘッドライトではない。

青い電撃と疾風を纏い、桜狼の咆哮と共に迫る山吹花のWRXだ。

稲妻が夜空を裂き、まるで闇そのものを引き裂いて突き進んでくる。


山吹花「つらぬけェェェェェッッッ!!!!!」


アクセルが床を叩きつけるように踏み抜かれた。

タービンが悲鳴を上げ、四輪駆動が地を掴み、WRXは弾丸のように赤い戦闘機へ襲いかかる。


ギャアアアアアアンッ!!!

青と紅の閃光が重なり、空気が震えた。


カナタ「クソッ……ッ!! 食いつかれたッ!!」


86のリアがわずかに揺さぶられる。

背後から突き刺さるWRXの圧力に、FRの軽量ボディが悲鳴を上げる。

だが――譲らない。


カナタ「いかせてたまるかァァァッ!!!」


クラッチを素早く繋ぎ、ギアを叩き込む。

紅の86が稲妻を振り払うように再加速し、わずかな隙間を必死に守る。


だが、その攻防を見逃す者はひとりもいなかった。後方、黄色の閃光。


伊藤「……チャンスは必ずある……ッ!!」


スイスポが牙を剥く。

紅と青の死闘でわずかに生じる乱れを、黄色が狙っていた。

軽量FFの小さな車体は、インを舐めるように滑り込み、まるで狐のように隙を突こうとする。


山吹花「抜ける……ッ!!この狼が……!

桜の稲妻が……ッ!!!」


稲妻の尾を引きながら、WRXがさらに一歩踏み込む。

青い電撃が紅のリアを照らし、夜の闇に一瞬だけ昼のような輝きを生み出した。


カナタ「……来いよ、花ッ!!

だがッ……抜かれる気はねぇッ!!!!」


三台の轟音が重なる。

紅、青、黄――三つの閃光が、夜のR349を切り裂きながら、次の中速コーナーへと同時に突入していく。


峠の空気が震えた。

誰もが息を呑むであろう、その瞬間。

まさしく、勝負の幕は、まだ上がったばかりだった。


ーーゴールまであと18キロ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ