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86伝説エーペックス  作者: さい
第2シリーズ 86伝説再び!!!!相馬編
119/137

第108話 降り注ぐゴールへの雨足

2025年8月29日第108話からは___!

毎週金、土、日曜日夜19時の公開に変更!!!!

※遅くなる時は21時に投稿していきます。

ゴールまで残り1.2キロ!!!!

熾烈なダンスタイムが続くゥゥゥーー!!!!


腹切カナタの前に黒川のエボ9MRが

来たぞ!黒い影もラインを譲らないッ!!!!!

ここで黒い影と紅い戦闘機にチャンピオンイエローのスイスポが並んでいくのかァァァッ!??


ギィィィィィィィィィィッ!!!!

白煙が立ち上る。

三台のマシンが、わずか数メートル間隔で爆走していた。


残り1.2キロ。

ゴールは目前。だが、この距離が最も遠い。


エンジン音が地を這う。

アクセルの開け方一つで、勝敗が変わる。

ライン取り、トラクション、グリップ……。

すべての判断が限界領域に差し掛かっていた。


――先頭を走るのは、紅い戦闘機。

「腹切」カナタのトヨタ86前期型。

ボンネットの奥でNAの咆哮が響き、目の奥に狂気の光を宿して走っていた。


だが――そこへ、黒い影が滑り込む。

黒川海斗のEVO9 MRが、その巨体をねじ込むようにしながらラインを塞ぎに来た。


実況「キターーーーッ!!!!!

黒川の黒いEVOがッ!!カナタの前に立ち塞がるゥゥゥッ!!!!!」


ドバァァァァァァッ!!!!

雨が降っている。

湿った路面を四駆が蹴るたびに水煙が舞い上がり、タイヤが白線を跨ぐたびに神経が削られる。


黒川「カナタ……止まってくれよなァァァッ!!!」

黒川「ここは通せねぇ!!! 黒川様のお通りだぁあああ!!!!」

EVOのフロントがブレーキで沈み込み、86の真横まで割り込む。


カナタ「……ッ!! どけェェェッ!!!

黒川海斗ォォォォォォォォッ!!!!」

ブレーキングを遅らせてアウトから回すが、EVOの横幅が邪魔をする。

どのラインにも逃げ道がない。


そこへ、さらにもう一台。

鮮やかなチャンピオンイエローが、すり抜けるように現れる。

軽やかに、だが確実に牙を剥いていた。


伊藤「カナタァァァァァッ!!!!

今度こそ逃がさねぇぞォォォッ!!!!」

ギアをひとつ落とし、スイスポが吹け上がる。

ハイテンションNAの咆哮。FRでもない、四駆でもない。

だが、だからこそ、この区間に最適解だった。


実況「なんということだァァァァァ!!!

紅い戦闘機、黒い悪魔、そして黄色の稲妻!!

3台が完全並走ォォォォッ!!!!」


カナタ「……ッ!!!」

汗が目に入る。

手が震える。

ブレーキが踏めない。

ペダルの感触が消える。


伊藤「今こそ、終わらせるッ!!」

右に流れたスイスポが、86のリアへ重なるように食らいつく。

タイヤが雨を裂く音。バチバチと火花が散るような接触未遂の距離。


黒川「チッ……!ちょこまかしやがって!!」

EVOが無理やりカウンターで踏みとどまり、ラインを締める。


カナタ「くそ……っ、どっちも……ッ!」

前も横も塞がれる。

まるで袋小路。

だが――それでも、抜け出す術を探していた。

「逃げない。だってこれは……“挑戦”なんだろう?

...だったら最後まで諦めてたまるかッ!!!!」


ギアを入れる。

回転数を合わせ、半クラをギリギリで保つ。

トラクションが抜ける限界で、右足だけが、吼える。


カナタ「......ッ!上等だよッ!!!!伊藤ッッッッ!!!!!」


スイスポがアウトから仕掛ける。

EVOがインを絞る。86は……真ん中だ。

3台が、まるで羽の生えた獣のようにコースを貪る。


グギャァァァァァッ!!!

コーナーが一つ終わるたび、順位が目まぐるしく入れ替わる。

スイスポがアウトで出る。

EVOが立ち上がりで抜き返す。

86はブレーキで突っ込む。


観客席、モニターの前、SNS。

どこもが叫び声に包まれる。

「やばい」「狂ってる」「これが86伝説かよ」


実況「これはもう……伝説だァァァァ!!!!

ゴールまで、残り900メートル!!!!!

トップは誰だァァァァァァァァッ!!!!」


雨がさらに強まる。

路面がさらに薄く滑る。

だが、誰もブレーキを早めない。

誰も減速しない。

すべてを、賭けているからだ。


伊藤「絶対に負けねぇ!!!カナタァァァァァ!!!」

カナタ「来いよ……!! 全部受け止めてやる……!!!」

黒川「邪魔だァァァァァァァ!!!!!!」

グワッ!!!!


そこに入ってきたのが黒い影。

赤い戦闘機とチャンピオンイエローの間に

割り込んでくる。

2人が間のラインを見る時にはもう遅かった。

黒川が並んで3台並走状態へと最終区間の決戦は、進展していく。


伊藤「カナタァァァ!!!

今度こそ逃がさねェぞ!!!」

カナタ「.....ッ!

上等だよッ!!!伊藤ッ!!!!!」

黒川「どけぇぇぇ!!!!邪魔だァァァ!!!!

黒川様のお通りだァァァ!!!!!!」

ガンッ!!!!


腹切カナタの紅い86が大ピンチ! !!!

黒川の黒いボディに吹き飛ばされて外側へと膨らんでいく......!!!

しかし、急ハンドルで咄嗟の判断だけで速度が落ちないように荷重移動を利用してカバーしていく!!!!


シュコンッッ!!!

ズドォォォォンッ!!!


このシーン――ッ!

**腹切カナタの紅い86(前期型NA)**が2速に叩き込み、

エンジンを爆発的に吹かせて、伊藤のスイスポ&黒川のEVO9MRに反撃開始する

"大反撃・加速の瞬間"!!


アクセルオフ。

クラッチが切れる音が、鼓膜の奥で「チャッ」と小さく響く。


一瞬の静寂。

まるで心臓が止まったかのような無音の時間。

その一拍の後――


ガチャンッ!!!!!!

2速へとシフトが叩き込まれる。

その瞬間、世界が爆ぜた。


ズドォォォォォォォオンッッッ!!!!!!!!

カナタ「……ここだ。2速で……叩き込む!!」


シートの背中を蹴るような力が、腰にズンと突き上げてくる。

エンジンが咆哮する。

ギア比が変わったことで、回転数が跳ね上がり、

吸気音とともにボンネットの奥から怒涛のエネルギーが噴き上がる!


ギュゥゥゥゥゥゥゥゥッッ!!!!!!!!

バァアアアアアアアアンッッッ!!!!!!!


タイヤが瞬間的にキィッと鳴いた。

ほんのわずかに空転しながらも、アスファルトを噛む。

ペダルが暴れる。

まるで、足が吹き飛ばされるような力で踏み戻される。


紅い戦闘機――86前期。

軽いシャーシと自然吸気の反応性、そしてストレートを意識したファイナルギア。

すべてが、この瞬間の加速に備えられていた。


実況「な、ななななななんだ今のォォォォ!!!!

腹切カナタァァァァァァッ!!!!

2速加速でトルク全開!!! まるで戦闘機だァァァァ!!!!!!」


ギュオオオオオオンンッ!!!!

バララッ!!!!!!!

ヴォォォォォオンッ!!!!!!


3台のうち、紅が抜けた。

EVO9MRの横腹に並び、チャンピオンイエローのスイスポの鼻先と揃った瞬間――

カナタ「上から、踏み潰す……ッッ!!!!」


ステアをわずかに開放する。

マシンの挙動がわずかに外側へ出る。

だが、コントロールされた“開放”。

リヤが滑るのではなく、“前に押し出すための動作”。


伊藤「オイオイ……マジかよッ!!

これ、抜かれるぞ……!?」


ギャアッ!!!!

ギュッ!!!!

クキィィィィィンッ!!!!


EVOのタイヤが空転し、四輪駆動のトルク配分が狂う。

ウェット路面では、軽量FRの一瞬の爆発力が勝る。


実況「行ったァァァァァァァ!!!!

紅い戦闘機ッ!!! 腹切カナタァァァァァ!!!

EVOとスイスポの間を突き破っていくゥゥゥゥッ!!!!」


観客席がどよめく。

オンラインで観ている連中も、全員が叫んだ。

「これが、86だ」「うそだろ?」「バケモンかよ」


伊藤「くっそぉぉぉぉぉッ!!!

カナタァァァァ!!!

お前……なんでそんな踏めるんだよォォォッ!!!」


カナタ「見えたんだよ……!

この、2速でしか作れない“突破口”が!!」


黒川「どけええええええええええええええッ!!!!!!!」

だが黒川もアクセルを抜かない。

EVOの4G63が怒り狂うように咆哮し、再びトルクを蹴り出す!


ギュオオオオオオッ!!!!!!

タイヤがまた悲鳴を上げる!!!!


――が、それでも追いつけない。

腹切カナタの86は、ただ直線で速いのではない。

コーナーの「出口で吹き飛ぶ準備」が、すべて狂おしく整っていた。


踏み込む。踏み込みながら、ステアを開ける。

回転を合わせ、ブレーキを残しつつ、2速で全部を支配する。


伊藤「カナタァァァァァァァァッ!!!!」

黒川「てめぇだけは抜かせねぇぇぇぇぇぇッッ!!!!」


――その声さえも、カナタには届いていない。


カナタ「このまま――前だけを見る!!!!」


雨が強くなる。

ワイパーが追いつかないほどの粒が視界を乱す。

だが、ハンドルから伝わるタイヤのグリップ感覚、

シートに沈み込む加速G、

エンジンのバイブレーション。

すべてが今、カナタに“前へ行け”と語りかけていた。


実況「さぁ残り800メートル!!

抜いたァァァァァァッ!!!!

腹切カナタァァァァッ!!!!

完全な抜き去りィィィィィィッ!!!!」


そして――


伊藤「くっそ……!!また……!!

でも、次のヘアピン、絶対に抜く……!!」

黒川「まだ終わってねぇぞオイ!!!!

雨の中の四駆の本領見せてやらァァァァァッ!!!!」


――バトルは、まだ終わらない。

これは、加速だけの話。

次はまた、ブレーキ、コーナー、知恵と勇気と狂気のぶつかり合い。


カナタの2速加速で、戦いは新たなフェーズへ突入する。


その瞬間、紅い戦闘機がシフトを2速に

切り替える。クラッチが切られ、シフトがカチッ!と鳴る。


ズドォォオォォオオンッ!!!!!! 

カナタ「......ここだ。2速で叩き込むッ!」


ギュウウウウウウウゥゥ!!!!バァァァアアァァアァンッッ!!!!


紅い戦闘機!86のエンジン回転数が一気に上がる。

タイヤが短くキィキィ鳴いてまるで自分の足がペダルに蹴り飛ばされるように

前へと突き進むーーーッ!!!!


ギュゥゥゥゥンッッ!!!!!

バララッ!!!!!

ヴォォォォンッ!!!!!!


さらにそれに続くかのようにZ4古田が黒川、伊藤の間を捩じ込もうとしているぞッ!!?????

岡田、内藤、柳津、東條も迫ってきているゥゥゥ!!!!


岡田「AWD最後まで舐めてもらっては

困るな......ッ!!

AWDは最高の哲学なんだよーーッ。」


ヴァアアアアアアアアアアアアンッ!!!

パゴンッ!!!

ヒュゥゥゥンッッ!!!!


バシィィィンッ!!!!

リアが一瞬跳ねた。

水たまりに突っ込んだ音が低く、車体を伝ってフロアへ響く。

だが、その直後に路面を捉える4輪駆動の力強さが、岡田大成の背中を押した。


19歳、首席卒業。

だが今この瞬間、彼の肩書きに意味などない。

必要なのは、速さ。

それだけだ。


フロントを沈めるようにして突っ込んだGRカローラが、

Z4の背後へ食らいついていく。

ターンインの一瞬、シルバーのボディが軽く揺れる。

FRの特性が路面の水を拾ってしまった。

その“わずかな遊び”を――岡田は見逃さない。


岡田「こいつだ……切り替えの“狭間”、このわずかな重心移動……!」


ターボが吹き上がる。

ステアを1mmだけ修正する。

ほんのわずか、イン側へ寄せる。

トラクションコントロールを切らないまま、アクセルを全開にする。


前にいる古田のZ4は、もはや直線での速度を出しているはずだった。

だが、その瞬間――


ググッ!!


GRカローラの四輪が同時にグリップを取り戻し、

重いボディを強引にねじ伏せるように立ち上がる。


加速。

それはまるで、地面を蹴って飛ぶようだった。

四輪に均等に伝えられる駆動が、

濡れたアスファルトの上で摩擦の限界を一斉に越えていく。


ザッ!!!

スプラッシュ音。

後輪が跳ねた水が霧状になり、リアフェンダーを白く包む。

岡田「もらったぜ、古田ァ!!」


左前方――

Z4のリアがほんのわずかに内に入る。

そこへ、GRカローラが割り込む。

狙った通りの角度、狙った通りのタイミング。


実況「なっ、なんだこのトルクの伸びはッ!?

GRカローラがZ4のアウト側を巻いていくッ!!

まるで“濡れた氷”の上を走っているかのようだぁぁぁぁ!!!!」


ククゥゥゥンンッ!!!!

細かい制御音。制動の入りかけ、だけど踏み続ける。

右足は一度も抜かない。

古田「くっ……! カウンターの反応速度……このタイミング、岡田……!!」


Z4のターボは確かに応えていた。

だがウェットでは“技術”の上に“性質”が乗る。

FRとAWD――

雨の中、残酷なまでに差が出る。


ドアミラーに、白と銀の光が交錯する。

そして――

岡田のGRカローラが、完全に前に出た。


実況「いったああああああああああッ!!!!!

岡田ッ!!岡田大成ッ!!

Z4古田をッ!!!真横から強引に仕掛けてぇぇぇぇ……前に出たぁぁぁぁぁ!!!!」


岡田「軽くて速いクルマには……限界があるんだよ」

「オレのGRは非力だ。でも、だからこそ出来ることがある――!」


濡れた路面、踏めないポイント。

他車がブレーキを早める中で、岡田だけはアクセルを残す。


「小さくても確実に“残ってる”グリップを感じるんだ……

俺には見えてるんだよ、全部なァァッッ!!!!」


3気筒1.6L。

数値的にはコンパクトカーに毛が生えた程度。

だが、その制御、車体剛性、電子制御のレスポンス。

TCS、LSD、電子スロットル、すべてがこの雨に“味方”している。


ヴァアアアアアアアアアアアンッッ!!!!!!

パシュッ!!パシュンッ!!!


ブローオフが小さく響く。

ミラーに映ったZ4のフロントが、濁って後ろへ流れていく。


古田「やられた……!!!」

冷静な彼の表情が、わずかに歪む。

“理詰め”の男が、“勢い”で破られた。


岡田「これが、オレの雨のチョイスだ!!

パワーじゃねぇ、装備でもねぇ。

“効くところで効かせる”……これが俺の全部だぁぁぁッッ!!!」


実況「今ッ!!GRカローラがトップグループにぃぃぃッ!!!

Z4を抜いたことで、追走の角度が変わるゥゥゥッ!!!」

「さぁ!!!雨の最終決戦!!!岡田の進撃はここで終わるのかッ!?

それともさらに前へ行くのかッ!?!?」


ヴォォォォォンンッッッ!!!

雨粒が、熱されたボディに弾ける。

岡田の視界はもう、次の獲物を捉えていた。


「紅の86……お前か……」

「じゃあ、次は――お前だ」


岡田が古田を抜いたァァァ!!!!!!

19歳の首席卒業生が進撃を始めているぞッ!!!!!!

古田のシルバーZ4!!!

これに追いつけませんッ!!!!!


こんなこと誰が予想していたッ!!???

1.6リッター3気筒272馬力しかない

この非力なGRカローラで凄まじいオーバーテイクのカットがーー

ゲリラ豪雨の終盤のレースで快進撃をしているぞォォォォ!!???


ヴォォォォンッ!!

パァァァァンッッ!!!!


岡田「非力だからこそのチョイスだーーッ。

TCSもなければ雨なんて圧倒的だよ......ッ!!!」


実況「岡田ッ!!岡田がZ4古田をアウトから抜き去ったァァァッ!!!」

実況「非力なGRカローラでこの大雨の中、なんというオーバーテイクかッ!?

ミルキークイーンさん、どうご覧になりますかッ!!?」


ミルキークイーン「ここからはわたくしが解説いたしますわ〜。ええ、まったく……この雨は、とてもとても美味でございますのね……。」


実況「……えっ?」


ミルキークイーン「この大粒の雨――気温、路面温度、湿度、タイヤコンパウンド……

全てが“繊細な選択”を迫る、まるで上質なミルクの泡立てに似ておりますの。

岡田さんのGRカローラ、その制御はまるで“ホイップの練り込み”……芯に“力”が通っておりますわ。」


実況「ほ、ホイップ……」


ミルキークイーン「つまり、あのカローラ。パワーがないぶん、動きが柔らかくてしなやか。

雨という“濡れたクロス”の上を滑らず、ちゃんと“踏める”設計……そこを活かす判断、出来る方って、意外と少なくってよ?」


実況「……確かに、後輪駆動のZ4とは対照的でしたが……!」


ミルキークイーン「Z4様は、速くて剛健ですけれど、雨の日は

少し“滑りやすいシルクドレス”のようなものですのよ。

つややかで美しいけれど、しっかり足元を押さえていないと、すぐに崩れてしまう……。

そういう繊細さが、今の場面では災いしてしまったのかもしれませんわね。」

実況「なるほど……!」


ミルキークイーン「そして岡田さん。

彼、ちゃんと雨の一滴一滴を“読んで”いますの。

この“グリップ感”は、ただの知識じゃ生まれませんのよ?

経験と、“非力だからこそ培った知恵”が、今ここで光っておりますわ。」

実況「ミルキークイーンさん、ありがとうございます!!」


ミルキークイーン「ええ、まだまだ面白くなりますわよ〜。

さぁ、この次に待ち受けるのは――

あの赤い戦闘機、腹切カナタさんですもの。」

実況「ここからさらに、混戦になるのかァァァァッ!!!!」


ミルキークイーン「――あ、そういえば。

アイスミルクの飲み物……飲みます?ふふ……飲むと、さっぱりしますわよ〜。」

実況「えっ……!?……あ、ど、ども……」

(カチャリ)


実況の手元に、いつの間にか差し出されていた小さな白磁のカップ。

ふちにうっすら霧が張りつき、

中には――まるで淡雪のように淡く白く、気泡がしっとりと浮かぶ液体が注がれていた。

実況「……えっ……。これが……アイスミルク……?」


(とろりっ......)

その液体は、見た目以上に冷たくない。

氷もない。むしろ“ぬるい”とさえ感じる温度なのに――

喉を通った瞬間、


実況「……ん、なんだこれ……!?

さっぱりしてるのに……やけに……身体の芯に……くるッ……」

ミルキークイーン「うふふふ……それは、“ミルクの中庸温”でございますわ。

冷たくもなく、熱くもなく。

でも、身体の奥にじんわりと届く……。

さながら“氷になる一歩手前”の体温調整液ってところかしら?」


実況「ひぇ……ッ、だ、だんだん……」

自分の指先が――白く、柔らかく。

まるでミルクプリンのような感触に変わり始めている。

実況「ちょっ……ちょっとミルキークイーンさん!?これって……!?」


ミルキークイーン「飲まれた方は、数分間“半固体ミルク態”になりますわ〜。

でも大丈夫、安心してくださいまし。

頭はすっきり冴えて、実況に集中できますわよ?」

実況「いやッ……ッ、たしかに実況はしやすいけどッ!?このままじゃ、身体がミルクに……!」


ミルキークイーン「ふふふ。

ミルクの体、ミルクの声帯、ミルクの視界――

“液体に還る一歩手前”って、意外と快適でしょ?」

実況「なんだこれええええ!!!!

実況席がミルクの香りに包まれてるゥゥゥッッ!!!!」


(スタジオ内の空気が、ほんのりと甘い香りに満ちる)

(座席はふわふわ、肌にふれるマイクすらミルクのしっとり感)

(実況席そのものが、まるで“牛乳風呂”の表層部のように変わっていた)


ミルキークイーン「レースの展開も、実況席も。

どちらも“とろける寸前”が一番美味しゅうございますのよ〜。」

実況「……ミルキークイーンさん、あなた……ただの解説じゃないですね!?

もしかして……この実況席自体を……コントロールしてる!?」


ミルキークイーン「うふふふふ。

この雨とレースの混沌、そして実況席のミルク化――全部が溶け合った先に、

“真の滑走感”があるんですのよ。」

実況「そ、そんな世界あるかぁぁあああああ!!!」

(ギュゥゥゥンッッ!!!)

レースの中継映像が切り替わり、腹切カナタと黒川、伊藤、古田が激突寸前で並ぶ――!


実況「ッッッ!!さぁァァああああああああああ!!!!

こんなことしてる場合じゃなぁあああああああああい!!!!

前方ッ!!腹切カナタが再び前に出るゥゥゥゥゥウウウ!!!!」

ミルキークイーン「ふふ……良い実況になりましたわね。

ミルクアイスのボディは、意外と……滑舌もよくなるのですわ〜。」


実況「なにィィィィィィィィィィッ!!!!?」

ああああああ!!???

….後方でとんでもないことが起こっています!!

これがエーペックスカップッ!!!!!

白い86GT!夢野ユナァァァァァ!!!!!

まさかのここにきて追い上げしてきましたァァァァ!!!!!!


前回のレースでもダウンヒルで急襲を見せたユナ!!!

上位に食い込めるのかァァァァ!!???

ユナ「まだ...負けてないッ!!!最後まで走って見せる___!!!」


刃はまだ隠すかのように白い86が後方集団を突き進んでいく。

そのコーナーのなびきはとてもふわふわとして芯が強いものだった。

カナタ「……まだだ……まだ俺の道は終わらねぇッ!!!」

セリナ「……さあ、追いついた!」

MRタカ「......ッ!!離せぇぇ!! いかせてくれェェェ!!」

岡田「させるかァァァァ!」

吉田「俺のフィニッシュは……ここだッ!!」

実況「きたあああああッ!!!!!NSX吉田!!

誰もが恐れる絶対王者!!ブガッティ・シロンに襲いかかるゥゥゥゥ!!!!」


次回第109話 チェッカーに募る雨の音

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