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86伝説エーペックス  作者: さい
第2シリーズ 86伝説再び!!!!相馬編
103/136

第96話  低重量VS高重量/柳津の妹の哀しき過去

注意

この回には東日本大震災を思わせるシーンがあります。

避けたい方は、ブラウザバックをお願いします。

…雄介の耳に、エンジン音の合間からかすかに混じる少女の泣き声。

それは、あの日と同じ声だった。


――花梨。

柳津花梨。

優等生で、成績も学年トップ。いつもきっちりとハーフアップにまとめた髪が陽を透かしてきらめき、背筋を伸ばし、ロングスカートに身を包む姿は大人びて見えた。

それでも、まだ12歳。雄介とは8年の年の差。だが血の繋がりは誰が見ても明らかで、彼女の笑顔や怒った顔、全部が家族の中の"妹"だった。


花梨は、宮城県石巻市の大河小学校に通っていた......。

すぐ裏に大きな山の高台がある。

間違ってなければ......あれからその直後に柳津は、頭いっぱいになった。

今日は、本来なら小学校の卒業式――。

春先の風が校舎を包み、体育館の飾り付けも済んでいた。だが、それは突然、ざわめきと怒号に変わる。


教室の窓に、信じられない光景が映っていた。

白く濁った水が、ゆっくりではなく、まるで生き物のように街を呑み込んでいく。

花壇も、道路も、さっきまであった通学路の横断歩道さえ、もう輪郭がない。


鼻を突く生臭さと、どこか焦げたような匂いが入り混じる。

机の脚が震え、蛍光灯がカタカタと揺れて微かな光を投げる。

外からは、風に混じって誰かの悲鳴や、何かが割れる鋭い音が断続的に響く。


「全員、静かにしろ!!」

先生の怒鳴り声が、パニックでざわめく空気を切り裂いた。

だが、その声にも焦りが滲んでいる。

手に持った出席簿が小刻みに揺れ、ページの端がばらばらと音を立てる。


花梨の胸は痛いほど早鐘を打ち、呼吸が浅くなる。

耳の奥で、遠く離れた場所にいるはずの兄――雄介の笑顔がよぎった。

卒業式の日は必ず花束と笑顔を持って迎えに来ると言っていた兄。

その約束が、今や遠く儚い。


「うるさい!!!ここにいろ!!!」

先生の声が、机を叩く鈍い音と一緒に響く。


花梨は泣きながら立ち上がった。

「なんで……なんでここにいないといけないのッ!?

死んじゃうよ!!みんな……死んじゃうよッッ!!!」

声が裏返り、喉が痛む。涙が頬をつたって制服のリボンに染み込んでいく。


「黙れ!とにかく川の方に逃げるぞ……!」

「え……ッ?」

先生の手が、冷たく汗ばんだ指で花梨の手首を掴んだ。


廊下の窓から見えた川は、もう川ではなかった。

茶色く濁った水が校庭の端をかすめ、電柱を揺らし、流木や看板を押し流している。

水面からは重く湿った空気が立ち上り、息を吸うだけで肺が軋むようだ。


足元の床が微かに震える。

それは地面からではなく、水の塊が校舎を押す圧力のように感じられた。


花梨は振り返り、誰もいないはずの方向を見つめる。そこに兄の姿はないのに、心の中で必死に語りかける。


――雄介……。

胸の奥から、押し殺した声が零れた。

「……ごめんね……雄介……ッ!」


その言葉は、廊下の湿った空気に溶けて消えた。

しかし、今も雄介の心臓には焼き付いて離れない。

ハンドルを握る彼の指が、無意識に強く締まる――。

「俺は...せっかくみんなから託されたんだ。

この思い、絶対無駄にしたくないんだーーッ!」


グオオオオオオオッ!!!!!

シュパパアアアアアアン!!!


ごめんなー花梨。

お兄ちゃん、お前のことをすっかり忘れていたようだった......。絶対、負けないからな......。


柳津がエーペックスカップのチラシを通した時こう書いてあった。

「15年前の災害復興企画!」

それに対して柳津は、ギュッとチラシを胸へと片手で握りしめた。花梨の思うようにことに。


柳津「花梨......やおかあのためにも俺は、、、

俺は、、、、、!」


ハンドルを握る柳津雄介の指先が、白くなるほど力を込める。

ブレーキペダルに添えていた左足が、ほんの一瞬震えた。

あの日の湿った廊下の空気、花梨の涙、川の匂い――全部が一気に蘇る。


「……花梨……」

かすれた声が、ヘルメットの中で消えた瞬間、

視界に赤く火を灯すようにGRカローラのテールランプが迫ってくる。


「行かせるかぁあああああッ!!!!!」

怒号と同時に、M4の直6が唸りを上げ、ギアが噛み合う音が鋭く響く。

ターボの圧縮音とともに、雄介のM4が路面に爪を立てるように加速!


岡田「なにっ……!? まだ来るかッ!!?」

GRカローラのリアがわずかにスライド、岡田がステアリングを切り返して踏みとどまる!


次の低速右バンクに向けて、両者が同時にブレーキランプを閃光のように点す――!

減速Gが車内を押し潰す。ヘルメットが首に食い込み、視界の端が揺れる。


路面はわずかに下り勾配、イン側の縁石が光を反射する。

岡田はインを死守する構え、しかし雄介のM4はアウトからでも食らいつく!

カーボンミラーがかすかに震え、両者の距離は指一本分まで詰まった!


「……まだだ。この先はパワーセクション……絶対に、追いついてみせるッ!!!」

雄介の声は低く、しかし熱い。

花梨との約束も、守れなかったあの日も――すべてこの加速に込める!!


エンジン音が二重に重なり、観客席のスピーカーが悲鳴のような高音を吐く。

戦いは、まだ終わらない――ッ!!!


さぁ、レースは、ついに4周目へ!!!!

後方から唐突に白いGR86が帰ってきたアアアアアアア!!!!!

濱さんのGR86が帰還してきましたアアアアアアア!!!!!!

視聴者1「なんか、黒い86とか書いてなかった!?表記違い!?」

諸般の事情ですが、白ですw


黒いパドルシフトスイッチを思い切り手の甲をハンドルで握りしめて叩いていく。地面と水平対向エンジンの力強さが白いGR86から伝わってくる。


濱「しょうがねぇな....見せてやるよ!俺の最後の力を振り絞ってーー」

岡田「なんだと、、、!!?

お前、さっきバーストとかってーー

何が起こった!?自分で直したのか!!?」


第4戦 シーサイドPK

福島県相馬市松川浦

レース4周目後半差し切り区間

岡田大成 GRカローラ

VS

古田のりあき BMW Z4

VS

濱さん「復活!」GR86


――グォォォォォォンッ!!!!

  地鳴りのような低音がアスファルトを這い、観客の胸骨を震わせる。

――キュィィィィィィィンッ!!

  タービンが悲鳴を上げ、ブースト計の針が限界を突き抜ける!!

――ドギュンッ!!ドギュンッッ!!

  シフトアップの度にフロントがわずかに浮き、サスペンションが唸る!!


ガチャン!!!

シャン!!!ガチャンッ!!!

バフォー...ガコンッ!!


3台の加速はまるで矢が放たれた瞬間のよう――後方へ景色が弾かれ、

コース脇の観客の表情すらブレて判別できない速度域へ突入!


金属同士が擦れ合うシフト音「カコカコ」に、

クラッチが噛み合う瞬間のドンッという衝撃が座面を通じて背骨に直撃!

マシン全体が暴れるのを、ドライバーは両腕と腰でねじ伏せている!!


GRカローラとZ4が完全に並走!

サイドミラー同士が数センチを切る距離で並び、

その真後ろに白いGR86がスリップストリームに吸い込まれる!

タイヤの接地音が路面に食い込み、

それはまるで逃げ場のない袋のネズミを追う猛獣たちの足音だ!!


狭い高速ベッドを、外壁スレスレで3台が横並びのまま突っ込む!

ガードレールが風圧でビリビリと共鳴し、広告看板の布地がバタバタと千切れそうに揺れる!


狭い高速ベッドをギリギリで3台並走しながら低速バンクエリアへ入っていくーーー!!!

Z4古田が今にでも岡田の紅い戦国のGRカローラを捉えようとしてきているぞ!!!!

岡田、持ち堪えられるのかァァァ!!??


岡田「どうだッ!!??!

これが俺のGRカローラだァァ!!!!

GRパワー全開でいかせてもらうぜッッ!!

舐めんなァァァァァ!!」


さらにその後方から凄い勢いでホワイトパール再接近ーーーー!!!!

GR86RC型の86足立ナンバーの濱さんがここにきてまさかの登場だああああ!!!

ホワイトパールのGR86!!!

濱さんが復帰だァァァァァ!!!!!!


ホワイトパールのGR86が再び戦闘機のような加速音を響かせ、

排気の爆ぜる衝撃波が後続のマシンのフロントガラスを叩く!


――グォォォォォンッ!!

タコメーターの針が一気にレッドゾーンへ駆け上がり、

クラッチを切る一瞬の間に、タイヤは白煙を撒き散らす!!


濱の視界には、赤く塗られたGRカローラとZ4が前方で火花を散らしながら横並び!

そのテールランプが点滅するたびに、まるで獲物の鼓動が聞こえるかのような錯覚を覚える。


Z4古田のハンドル操作は荒々しく、ラインを譲らない蛇のような動き。

一方、岡田のGRカローラはアウトからの侵入でスピードを殺さず突っ込む――

両者の間の空間は、紙一枚分にも満たない!


そこへ、濱のGR86がスリップストリームを使って一気に接近!

フロントバンパーがZ4のリアディフューザーをかすめるほどの距離まで詰め寄る!!


濱「待っていたぜこの時をなァーー!!

やっとタイヤ付け替えたぜ......!!!」



ライブコメントからは悲鳴混じりの声援!

視聴者1「入るぞ!! これ入るぞおおおお!!!!」

視聴者2「ヤベぇ……あの速度で並びに行くのか!?」


岡田「来るなら来いよォォォ!!!

こっちは全開だあああああ!!!」

古田「……クソッ! 後ろの白いの、完全に獲物を狙う目だ……!」


濱は口元をわずかに吊り上げ、シフトノブを一気に押し込む!

ギアが噛み合う「ガチャン!」という音と同時に、GR86が獣の咆哮のようなサウンドで前へ飛び出した!!!


タイヤが路面を削る高音のスキール、

風圧で旗が裂けそうにバタつくコーナー入口――

次の瞬間、3台の間隔は完全にゼロ!!


低速ヘアピンが目前に迫る――

アスファルトの表面がギラリと光り、タイヤラバーの黒い筋が不気味に続いている。

ブレーキングポイントまで残りわずか。

観客の視線も実況の声も、今はただその一点に釘付けだ。


――キュギャァァァァァァ!!!

岡田のGRカローラがフルブレーキング! ローターが真っ赤に焼け上がり、白煙がホイールハウスから吹き上がる!

古田のZ4も負けじと食らいつくが、リアがわずかに振り出され、挙動が乱れる!


その隙を逃さず――

濱のGR86が右フットブレーキと同時に、ハンドルを鋭く切り込む!!

フロントタイヤが悲鳴を上げ、イン側の路面に縦溝の跡を刻みながら滑り込む!!!


岡田「なッ……!? インを刺す気かァァァ!?」


濱「悪いな……ここは貰う!!」


Z4古田の目の前で、ホワイトパールの86が弾丸のように割って入る!

サイドミラーに映るのは、今にも牙を剥きそうな岡田の紅いGRカローラ!


ギュルルルルルル!!!

フルカウンター気味にテールを振り、86が立ち上がり加速!

低速コーナー出口で車体が完全に前に出る!!!


キターーーーーーー!!!! 濱の86が低速ヘアピンで一気に前に出たァァァァ!!!

この動き、完全に読まれていない!!! 

岡田も古田も反応が遅れたァァァ!!!


他グループからもエンジンの怒号の狼煙が迫ろうとしていた。

黒川のEVO9MR、柳津のM4、さらにそのさらに先頭グループの奥では――

紅い戦闘機のTOYOTA86に闇色のブガッティ・シロンが静かに、だが確実に距離を詰めてきていた。


解説員の声が無線越しに少し驚き混じりで響く。

ベルギー「先程まであの人、タイヤパンクしてたのにーー」


濱「タイヤ...?パンク?

バカバカしい......そんなのとっくの昔に直っているんだよーー。」

まるで何事もなかったかのように、シフトノブを軽やかに叩き込み、再び加速の波を呼び込む。

白いボディが日差しを反射し、次の瞬間には背後の景色を一気に引き離していった。


一方、さらに上のグループたちは、、、

黒川海斗「はぁぁ!!??なんでアイツ生き返ってんだよおお!!!」

怒声と同時にアクセルを踏み増し、タービンが鋭い金切り音を放つ。


そして、その視界の先に――

黒い影のような車体。

MRタカが操る漆黒のブガッティ・シロンが、路面の全てを支配するかのように存在していた。

MRタカ「おっ、、、いいな。俺のシロンには敵わないさーー。

「......だが、なぜ紅い86が張り付いていられるーー!??頭おかしいのかッ!!!?」


その紅い86は、まるで獲物を追う獣。

MRタカの1500馬力の怪物と真っ向勝負を挑む姿は、明らかに常識外れだった。

タイヤが火花を散らし、爆ぜるような排気音が夜空を裂く。


17歳とウワサされている1500馬力の野獣を操り絶対王者の前に出てしまったMRタカ!!!!

このまま、逃げ切り絶対王者陥落なるかァァァ!!!??


黒いシロンのテールランプが闇に赤い軌跡を描く――

そのすぐ背後、まるで獲物の鼓動まで読み取るかのように、**腹切カナタの紅い戦闘機――ZN6型TOYOTA 86(前期)**が吸い付いて離れない。


「……逃がさねぇ」

低く吐き捨てた声と同時に、前期特有のシャープなヘッドライトが鋭く路面を切り裂く。

小気味よいFA20サウンドが高回転域で吠え、わずかに湿った夜の空気を切り裂く吸気音がインテークから響き渡る。


1500馬力の怪物シロンが全開加速に移っても、背後の紅は影のように形を変えずに追いすがる。

タコメーターの針は8,000rpm近くまで跳ね上がり、直結感の強い6速MTがまるで戦闘機の変速レバーのように操られる。

コーナーではブレーキランプをほとんど灯さず、前期86らしい軽さとシャープな鼻先が、シロンの巨体の死角を刺す。


カナタ「必ず……ここで仕留める」

ギアを一段落とす瞬間、FRのリアが微かにスライドし、ハイグリップタイヤがアスファルトに悲鳴を上げる。

前期専用の細身テールランプが闇に赤い閃光を刻み、夜気を一瞬だけ熱く染めた。


ライブのパブリックビューイングからは、どよめきと悲鳴が入り混じる。

「86だぞ!? それでシロンにベタ付けだッ!!?!」

「信じられねぇ……離れないなァ!!!」

「バケモンかよ、、、、!!ー!」


伊藤翔太「マジかよ!!あれで逝ったと思ったんだけどなー!!」


ホワイトパールが再び紅い戦闘機討伐を目標にアクセルを踏み込んでいきます!!!無事に辿り着けるか!???

白いGR86がZ4とGRカローラに接近してきましたァァ!!!!


古田「まさか...ここでGR86かよ、、、。

来るとは思いもしなかったなーーッ、!!」


…低重量と高重量のバトルになりそうですけどこの高速ベッドから低速バンクへの道であるここのセクターですが、何か追い抜きのポイントとかはありますか?


ベルギー「そうですねーー...一番分かるのは低速バンクでは圧倒的に高重量マシンの方が不利な展開に陥ると思います。」


ーーこのポイントでは小回りの効く濱さんのGR86が有利でしょう......。GR86は軽快なライトウェイトスポーツを位置付けてくれるモノですので。低重量のGR86は減加速が速く、コーナーに圧倒的にキレがあるんです......!


狭い低速バンクの進入――

3台のマシンがまるで獲物を狙う猛獣のように、互いのテールを掴み合いながら進む。

岡田のGRカローラが4WD特有の重厚なトラクションで先陣を切るが――


岡田のGRカローラが並び掛けるも電子制御によってうまくグリップできないーー!!


岡田「AWD舐めんなッ......!!!」

ズルッ!!!!!

ターボの爆発的なトルクが一瞬、リアのグリップを奪い、電子制御が過敏に反応!

TCSの介入で回転数が一瞬失われ、加速の流れが乱れる!

「......クッ!!TCSが邪魔をしてェェ......ッ!」

「先に出たいのに邪魔しないでくれ!!!!」


岡田の叫びが無線を突き破るように響く。


その横に、古田のBMW Z4が鋭いフロントで切り込み、ショートホイールベース特有の俊敏さでカローラのインを狙う!

「……やらせねぇ」岡田がステアを抑え込み、接触ギリギリでラインを死守!


だが――

アウト側、白い閃光が突き抜ける!

濱のGR86が、低速バンクの外周からスムーズな旋回で速度を殺さずに立ち上がり、2台の前に食い込んだ!


ギィィィィィィンッッ!!!!

FRならではの軽快なリアの振り出しを最小限に抑え、最速でトラクションを掛ける濱。


おおっと!!????

GRカローラがトラクションに苦しんでいるぞォォ!???

トルクの暴れっぷりが空回りして電子制御が効いてない!?!!!?


ターボの爆発的トルクが一瞬空転! 駆動輪が路面を空掻きし、電子制御が過敏に作動!

加速が途切れ、まるで猛獣の爪が空を切ったかのようなもどかしさが伝わるッ!!


ベルギー「そりゃあそうですよ......電子制御が強すぎる状態で、低速バンクで並び掛けられたら、もう終わってますねーー。完全にオーバーステアを切っていますね岡田くんは......ッ」

その声は落ち着いているが、口元は僅かに笑みを浮かべ、まるで獲物を見つけた鷹のような眼光だ。

耳にかかった風が、彼女の髪をふわりと持ち上げ、薫風の香りが解説席にも漂う。


その隣、ミルキークイーンが長い脚を組み替えながら、氷のカップを指先でくるくると回している。

吐息から零れるのはミルク氷の極冷気――マイナス1無量大数度の世界。

白く甘い冷気が、マイク越しにすら視聴者へ届くかのようだ。

「ふふ……見えるわね〜……トルクの暴れ馬が空回りして、氷の上を滑っているみたい〜……」

そう言うと、手元のミルク氷がほんのり渦を巻き、低速バンクの路面をイメージした小さな模型が作られていく。


ベルギー「……ほら、もしこの状態でアウトから刺されたら、完全に止められませんよ、、?」

ミルキークイーン「ええ〜……この先、冷たい罠みたいに〜……」

彼女の指先から舞い上がったミルク氷の粒が、解説席のライトに照らされてキラリと光った――まるで、この後の展開を予告するかのように。


なんとここで白いGR86!!????

濱さんがラインを崩しながらも前に出たァァァァァァァ!!!!!!


古田「......やられたかーー」

「まだ、隠し球はいくらでもあるんだぜ、、、?」

岡田「......だけど俺もまだ負けてないですよ。GR86の濱さん。」


そして――

まさかの一撃が戦況をひっくり返す!!!

後方から鮮やかに躍り出たのは、陽光をそのまま塗り込めたようなレモンイエローのR8!!

低く唸るV10サウンドが、潮風を切り裂きながら柳津のM4の背後に迫る!


柳津「……なっ!?嘘だろ!? このタイミングで――!!!」


次の複合コーナー、柳津がブレーキを残して進入した瞬間――

そのアウト側から、ギリギリまで踏み切った黄色い閃光が差し込んできた!!!


内藤「えへへっ……お先に〜!!!」

フロントをすっと入れて、まるでコーナーの外側の空気まで味方につけるかのような旋回。

イン側に戻りながら、さらりと柳津の鼻先をかわす。


内藤「フミッパスライダーはね……実はフェイントバージョンもあるのよ〜!おほほほほほ!!!」

ハンドルを切る一瞬前に、わずかなフェイント――それが相手のブレーキタイミングを狂わせる。

狙ったかのようにラインを奪い、あっさりとオーバーテイク成立!!


実況席がざわつく。

ベルギー「……これは……まさに昔の私ですね……」

マイク越しにもわかる、少し誇らしげな声色。

「とにかく、内藤ちゃんを弟子にしてあげたいくらいです。私もかつてFCやR33を乗っていた頃は……こうやって一瞬の判断で勝負を決めたものですよ」

その目は、走りの記憶を追いながらも確かに未来を見据えていた。


ライブ視聴者コメント欄が爆発する!

「内藤のこの感じたまんねー!!!」

「これだよ!R8でこの走り、マジでヤバい!」

「フェイント入れてくるとか性格悪ぅ〜(褒め言葉)」

「ベルギーさん、完全に教えたくなってるやんw師匠決まりか?」

潮風が吹き抜ける中、レモンイエローのR8はさらに前方へ加速していく――。


場面はレース会場から遠く離れた、山沿いの小さなコンビニ。ヤマブキモーターズ。

店内の一角、ホットスナックの保温ケースの横に置かれた小型テレビから、レース中継が流れていた。

ガラス越しに差し込む夕日が床を朱色に染め、その光を浴びながら――4人は画面に釘付けになっている。


「内藤、抜いたッッ?!!!」

山吹花が思わず声を上げる。

14歳とは思えぬ鋭い目つきで、カウンターに両手をついて身を乗り出していた。

制服姿の上着の袖口からは、冷たい空気を纏ったちとせの手をぎゅっと握り締めている。


ちとせ「ん〜……おじさん的には……あのフェイント、ええねぇ〜……」

ちとせはのんびりとした口調で、冷蔵ケースからペットボトルのミルクティーを取り出しながら呟く。

白銀の髪先から零れる粉雪が、ほのかに光を散らす。

彼女は雪の獣神。その吐息すら店内をひんやりと染め上げていた。


「はぁぁぁぁ!? あれフェイント入れてたのかよ!?」

サテラがレジカウンターに手をドンとつく。

27歳、気さくで人付き合いは上手いが、ツンデレ気質が隠しきれない。

サテラ「くっそー、やるじゃん内藤! ぼくもあれ真似してやろうかな〜!」

と言いながらも、口元は悔しそうに笑っていた。


レジの奥でエプロン姿の店員は、淡い草色の髪を揺らしながら、にこやかに応える。

??「は〜い……でもみんな、声大きすぎますよ。お客さん他にもいるんですから」

そう言いつつも、店員自身もチラチラと画面を気にしている。

「……うわ、今のライン……キレッキレじゃないですか...。あんなのができるんですかね?」


モコモコのピンク髪の少女は、画面から目を離さずに、息を呑む。

山吹花「……これ、もしかして内藤……もっと前行く気じゃない?」


ちとせがふわりと笑い、

雪混じりの吐息を花の肩に落とす。

「おじさん的には……行くねぇ〜。

あのR8、まだ本気出してないよ〜?

もへ〜......。」


サテラは腕を組み、少しそっぽを向きながらも口元が緩む。

「……ったく、あいつ……ほんと、やることが派手なんだよッ」


テレビの中で、黄色い閃光がさらに上位のマシンへ牙を剥こうとしていた。

コンビニの中は、エアコンの音とレース中継のエキゾーストノートだけが響いていた――。


ちとせ「てーいんちゃ〜ん、

エッチッチチキン4人分作れそう〜?」

奥の揚げ物用キッチンから、のんびりした声が響く。

店長・ちとせが、雪色の長髪をゆらしながら、頬をほんのり桜色にして顔を出す。


ちとせ「揚げたて〜! もへ〜……」

吐息と一緒に小さな雪片がふわりと舞い、厨房のライトを受けて瞬く。


「え、4人分!? ちょっと待って、今レース中継から目が離せないんだけど!」

花は揚げ物トングを片手に、画面とフライヤーを交互に見る。

R8内藤の車体が高速でコーナーを抜けるたび、手元も自然とリズムを刻むように動いてしまう。


サテラ「……あ、ぼくの分も入れてくれると助かるな〜」

カウンター前でお菓子を抱えたサテラが、気さくに笑いながらも少し視線をそらす。

「ほら、レース見ながら揚げたて食べるの、やっぱ最高だと思うんだよね〜」

その言い方はのんびりしているのに、目の奥には一瞬だけ少年のような輝きが宿る。


ちとせ「じゃあ……まずは油を温め直すねぇ〜……おじさんの冷気で、温度下げすぎちゃったかも〜」

サテラ「なにそれッ!!??」

ちとせがそう言いながら、軽く手をかざすと、雪混じりの冷気がふわっと消えていく。

代わりにフライヤーの油がジュワッと音を立て始め、香ばしい匂いが店内に広がった。


――コース全域に響き渡る、明るくも挑発的な声。

「おほほほほ!!!」

内藤セリナの声が、まるで炸裂する花火のようにパブリック通信を駆け巡った。


ライブ配信のコメント欄が一気に爆発する。

「腹いてぇwww」

「レース中におほほほほは草」

「わざとやってんだろこれ」

「この人ほんと最高だわ」

「実況より声通ってるんだよなぁ…」


レーサー達のヘルメット越しにも、その響きは容赦なく突き刺さる。


腹切カナタ「……何だ今の……声で後輪が一瞬滑ったぞ……」

伊藤翔太「くっそ、笑いこらえるの必死なんだが……前見ろ俺!」

相川「うるせぇえええええ!耳がバグるわ!!」

黒川「はぁ!? こいつふざけてんのか!? いや…速ぇのがムカつく!」

岡田「は? GR魂が一瞬持ってかれたわ…」

柳津「……内藤、舐めすぎだぞ……だが、面白ぇ…!」

吉田「……何だあの度胸……若いってのは恐ろしいな」


そして視聴者のコメントはさらに加速する。

「耳が幸せ」

「いや今の煽り力S級だろ」

「この人だけ別の競技やってない?」

「フミッパスライダー+おほほほほ=精神攻撃」


解説席のベルギーは笑いをこらえきれず、マイクに雑音が入るほど肩を震わせ、

ミルキークイーンは「……あらあら、これが内藤ちゃん流の冷やし方なのね〜」と、

甘い声とともに白い冷気をマイクへと吹きかけ、スタジオをうっすらと凍らせていた。

次回第97話AWD特有の粘り

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