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86伝説エーペックス  作者: さい
第2シリーズ 86伝説再び!!!!相馬編
100/137

第92話SP その差0.3秒

お知らせ

次回第93話は、データが破損してしまったことにより

公開が出来なくなってしまいました。

また、公開できるようになり次第お知らせします。

ご迷惑をお掛けします。

ーーなんだァァァァァァ!???

後方で内藤がクリスタオーバーテイクしていたはずですが、....さらに下からの後方区間から石井のクリッパーが仕掛けてきたァァァ!!!!!


左へと回り込む中速セクション。

そこは、速度域もグリップもドライバーの”引き算”が求められる、繊細なコーナー。

内藤セリナのR8は、一度抜いたばかりのフェラーリとの接近戦で、わずかに熱を帯びていた。


ステアリングが少し重い。

そして今、彼女の脳内をよぎったのは「次のコーナーで少し呼吸を置こう」という判断だった。


ブレーキングポイント、コンマ0.5秒。

セリナが右足をアクセルから浮かせた、その瞬間だった。

――後方、タイヤがうなる。

しかしその音は、決して高回転の悲鳴ではない。

低く、うねり、地を這うような異音。

セリナの視界の左下に、見慣れない白い直方体が侵入してくる。


内藤「……なに……? え……? えっ!?」

R8のカーボンミラーが、揺れながら映したのは

NV100クリッパー。

荷室のステッカー、わずかに剥がれたリアガーニッシュ。


天井にはうっすらと油染み。

それはセリナが「レースにいるわけがない」と思い込んでいた存在だった。

しかし、その軽バンがいた。

完全に、そこにいた。


セリナがアクセルを戻す0.5秒のあいだに、石井のクリッパーは、ギアを変えることもなく、ただアクセルを戻さずに、R8のインへねじ込んでいた。


内藤「……なんでアンタが来るのよ……っ……!!」


石井の顔は冷静だった。

いや、冷静ですらない。

いつものように昼に唐揚げ弁当を食べた人間が、いつものように公道を走っている。


ただそこに、Audi R8がいただけだ。

R8のフロントが外へ流れる。

そこへ、石井はスパッと鼻先を差し込むノーロール。ブレーキランプすら点いていない。ただ、走っている。


角度も膨らみもないまま、R8の足元に潜り込んでいく。

セリナの脳内で何かが崩れる。

ブレーキを遅らせようとした判断が間に合わない。


ハンドルを絞るタイミングを逸する。

完全に”殺された”。

実況席が騒然とする。

ピットのスタッフたちが絶句する。


ミルキークイーンは、一瞬だけ目を見開き、震えた。

石井のクリッパーが、完全にR8のインへ入り込む。わずかに膨らみながらも、荷重がタイヤに吸い付き、

スライドすらしない。


そのまま、R8の目の前をふさぐように前に出る。

その差、0.3秒。


その0.3秒で、すべてが決まった。

セリナはアクセルを踏み直した。

だが、もう遅い。

クリッパーは前にいる。


ドアミラーを覆う角張った白い背中が、視界の中心を奪っていた。

内藤「……う、そ……」


呆然とした声が漏れた。

ブガッティに抜かれた時よりも、

フェラーリとぶつかった時よりも、


R8の心臓が、冷たく沈んでいく感覚があった。その横を、石井は、ただ普通に加速しながら、呼吸一つ乱すことなく、走り去っていく。


石井「クリッパーだからって……舐めんなよ。

こっちは毎日、昼飯の時間をかけて走ってんだ……。

読んだだけだよ。あんたのブレーキタイミングをな。」


彼の口からは、歓声も、興奮もない。

ただ、一言――

「弁当万歳。」

それだけだった。


衝撃のオーバーテイクが完成しましたァァァァ!!!!

白のNV100クリッパー石井ィィィィィィ!!!!!

信じられないコーナリングでR8内藤をオーバーテイクしましたァァ!!!!


石井のクリッパーが緩やかにでも確実にR8のインに割って入る瞬間のリプレイが

ライブに流れ出ていく。R8のブレーキングポイントを読み切った石井の判断が

勝ちにつながる!!!


セリナ「......うそ...うそでしょ!?????!?!?!?

なんで30馬力に620馬力が負けるの__!??」


このレースもう何が起きてもおかしくない!!!!

弁当万歳の男が!!!!!!!!!!!

今、シーサイドPKの最速マシンを使う天才少女を上回りましたァァァァ!!!!


ーーそしてきたァァァァァァ!!!!!!!!

先頭グループが....いや!もはや激戦の王座争いの舞台に舞い降りたのは......!

紅い戦闘機_____!!!!!!


1コーナー出口からついに切り抜けて腹切カナタの紅い戦闘機が...

ブガッティ・シロンに張り付きましたァァァァ!!!!!!!!!!!!

その差は3台ともに約0.3秒!!!!


おっとォォォォ!!??

ここで後方Z4古田が動くかァァ!!??

きたぞォォォォ!!!!!!

初参戦のBMW Z4、古田だああああああ!!!!!!


弁当の湯気がまだ残るコースに――まさかのドイツ製オープンスポーツが、牙を剥いたああああ!!!!!!


ギュオオオオオオオンッ!!!!!!

Z4が地面に張り付くような低姿勢で迫る。低く構えたボンネットが、風を斬り、空気を裂く。


視線のその先には――たった今、R8を喰った白い“異物”がいる。

古田「……前にはブレーキがいるだろう?なら、……ポジションを上げていけるッ!!!!!」


この発言!!!完全にクリッパーを“動く障害物”と見切ったああああああ!!!!

古田ァァァ!!!Z4の本気が今、弁当に向けられる!!!!!

FRの底力をFFに見せつけることはできるのかァァァァァッッ!!???


だがその白い弁当箱は、直線でもまだアクセルを抜いていない。あくまで「走る」という事実だけを積み重ねるように、粛々と進み続けている。


石井「……また誰か来たな……音が明らかに“高そうな音”だ……」


Z4の古田は、スリップストリームを使いながらじわじわと距離を詰める。

だが、あまりにも見慣れない光景――

オープンカーが、軽バンの背中を狙う。

ギアは3速、エンジンは6,000回転を超える。


古田はステアに手を添えながら、冷静にラインを見ていた。

古田「左インが開く……。

唐揚げの油で滑らなければ……そこを使う。」


クリッパーの左リアがわずかに浮いた。

ブレーキのタイミングをほんのコンマ1秒、早めに仕掛けたZ4は、

弁当の内側を狙って――突っ込む。

ズバアアアアアアアアアアア!!!!!!!


来たあああああ!!!!

Z4ァァァァァ!!!内側だあああああああ!!!!!」


古田はステアリングを1センチ刻みで微修正。吸い付くような旋回で、クリッパーの横腹にピタリと並ぶ。

だが――


石井「……いいよ、それでこそレースだよ……。

でも、ひとつだけ言わせてくれ……」

古田「……なんだ?」


石井「Z4だろうが……うちのクリッパーには……パワーウィンドウがある!!!!!!」

カチィッ


左の窓が……電動で下がる。

ほんのわずかに“風通し”が良くなる。

その空気抵抗の変化が、奇跡的にインの抜けを妨げた。


たった1ミリだけ、Z4のラインが詰まり、立ち上がりがズレる――

石井「唐揚げと……窓の力を侮るなよ……」


ま、まだか!!!まだ石井が前だ!!!

Z4と並んでいるのに、クリッパーが前だああああ!!!!!!


古田「ッッッ!!!なら……次のヘアピンで決める!!!!」

Z4が再加速!立ち上がりのトルクでクリッパーを外から引き剥がしにかかる!!!


石井も譲らない!唐揚げ弁当の湯気をまといながら、アクセルを緩めず並走!!


これは……止まらない!!

Z4 vs クリッパー!!

ドイツ製クーペ vs 日本の配送魂!!!!!!

続くコーナーで、次の運命が決まる!!


現在の順位 最終ラップ

大きな変動がありました。

1吉田    NSX”92

2MRTAKA  ブガッティ・シロン

3腹切カナタ TOYOTA86

4伊藤翔太 SUIFTSPORT

5黒川海斗  EVO9MR

6相川    R35

7柳津    M4

8岡田    GRカローラ

9クリスタ 488GTS

10古田 Z4

11石井 クリッパー

12内藤 R8

13東條 80スープラ

14陽太 ロードスター

15ユナ 86

16ゾフィア C7

DNF濱さん GR86


まずいな...段々と置いてけぼりにされてるような感覚しか気持ちに収まらないーー。

このままでは、クリッパーにカナタや黒川に舐められたマンマだーー。

一度、作戦も考えずに頭カラッポにして一からやり直すか......。


腹切カナタみたいなことはできないけどーー何も考えずに似たようにとっさの判断でいくことが俺が本気になればいけるんだーー!!


東條「並んだ時点で勝敗は生まれる。

そうだろ?腹切。伊藤。そして黒川に相川。」

「だから、俺はここでただ立つわけにはいかねぇんだ......。」


そうだ...俺は、父親にあれだけ子供の頃から両手、血豆ばかりでハンドル握らされてたんだ......。

その悔しさも滲みだせずにここで負けられねぇんだよ!!!!!


時間は残り数分、海岸線に向かって吹き荒れる強風。

ラインはわずかに砂を被り、スリップ率が急上昇する……


しかし、彼らに「様子見」などという概念はなかった。

突如、Z4・古田がフルブレーキングで切り込んだ。

ターンインと同時にリアを振り、R8へ横に並ぶ。


古田「……スーパーカーってのは、“鼻先”を制された瞬間に死ぬんだよッ……!!それを知らないやつがレースに出たら死んじまうぞッ!!!?」


R8、内藤セリナはすぐさまステアを絞る。

が、動きが鈍い――そう、“恐怖”がブレーキに滲んでいた。


セリナ「また……来た……!?

今度はZ4!?!?? どいつもこいつもぉぉぉおおおおお!!!」


ギャアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!

タイヤが、コースのザラついた白砂を巻き上げる!!!


Z4がアウトからスライドを残しつつ、R8のフロントへかぶせるッ!!!

そして――!!

そこへ現れたのは、あのバンだった。


NV100クリッパー――石井。

ドオオオオオオン……という轟音でもなく、ただしぶとく、じわじわと、静かに近づいていた。

石井「……あ〜あ……

Z4もスーパーカーも……ぶつかってる場合じゃねぇんだよなぁ……」


その直後、R8とZ4の隙間に――“ねじ込んだ”。


なんということだッッ!!

Z4とR8のスキマを、あの白い軽バンが通っていくうううううう!!!!!!

ギュルルルルルルル!!!


轟くタイヤスキール、しかし車体の上下動は皆無。荷台の唐揚げ弁当だけが、ふわりと揺れていた。


内藤「うわっ!? また来たッ!ふざけんなッ!!!」

「やめてえええ!!!もう弁当バンに抜かれるのはやだああああ!!!」

「私のフミッパスライダーのパッシブが薄れていくじゃないの......ッ!!」

古田「冗談だろ……!?またイン刺された……!?!? 軽バンにィィィィィ!!?!」


観客たちが悲鳴のような歓声を上げる。

もはやクリッパーはただの“珍走”ではなかった。

石井というドライバーの“読み”と“タイミング”が、スポーツカーを捩じ伏せていく。そこへ、東條ヒカルが突入する。

シャープでコンパクト、しかし明らかに高次元の旋回性をもって、

彼のマシンが全車両の外へ、一気にラインを描いた。


東條「……はあい、じゃあ“このお遊び”……まとめて終わらせるぞ......?」


東條の赤い瞳が静かに燃え上がるように眼光が煌めく。

その走りは異様だった。

キレのあるステアに対して、スライドはわずか2度。

まるで“縫うように”、4台の外から一気に回頭し――


内藤「東條!? お前までェ!?!?!?

え、いやちょっと待って、バンもZ4もいんだけどォォ!!???」


ギュアアアアアアアアアアアア!!!!!!


4台が並ぶ。

バン、Z4、R8、東條。

カオス。異次元。もはや事故レベル。

だが、この中に**“真実の一位”**が生まれることは――

誰もが確信していた。


そして――!!!

東條「“格下喰い”はもうおしまいにしよう。……トップに戻るのは、“俺”だ。」


アクセルが全開になった瞬間、

彼の車は他の3台を置き去りにした。

軽くタイヤを滑らせ、低く唸るエンジン音だけを残して――


東條ヒカルが、この地獄の異種混合戦を一瞬で抜けていった。


エンジンが悲鳴を上げる。

タイヤが焦げたような匂いを撒きながら、ラインの外側を走る。

だが東條の目は――その先の未来を、まっすぐに見据えていた。

周囲にはバン、R8、Z4。

カオス。無秩序。

けれど、その中にいる自分が“空っぽになっていく”のが、怖かった。

東條「……ちくしょう……」

「……俺は、ここでくたばるわけにはいかねぇんだ……!!」

軽く、ステアを強めに切り込む。

グリップが限界に近づき、タイヤが一瞬唸る。

けれど――その軌道に、迷いはない。

東條「出番が……このまま消えて……」

「何も残せず、立ち去ってたまるかよおおおおおおお!!!!!!」

そして――その怒りにも似た咆哮の中、東條の視界がにじんだ。

スープラの、赤いボンネットが脳裏に浮かんだ。


《過去:赤い80スープラと、妹の笑顔》

――その日は、夏だった。

空は快晴、蝉の声がうるさくて、汗が止まらなかった。

東條ヒカル、17歳。

今から6年前の出来事だった。


教習所を卒業したての若葉マーク。

その手に握られたスマートキーは、

レーシングコーチをしていた父親から買って貰えた“中古の80スープラ(後期・6速)”のものだった。

色は、真紅。

光に照らされると、ボンネットに“夕焼け”のようなグラデーションが生まれる。

サイドのラインは少し傷んでいたが、それも味だった。


東條「……うっわ、マジで……マジで俺の……これ、俺のか……」

震える声。


そしてそれを、にこにこと見つめる一人の少女がいた。

「……おにーちゃん、似合ってるよ、すっごく。」

東條の妹、東條カレン。

年の差は6つ。


兄バカのヒカルが、毎週ジュース奢ってた相手だった。


カレン「後ろ乗っていい?助手席でもいいけど……兄ちゃんのスープラ、いちばん最初に乗るの、私がいい。」


東條「……当たり前だろ。

誰よりも早く、お前を乗せるって決めてたんだよ、ずっとな。」


助手席のドアをカチャリと開けて、カレンが乗り込む。

その時、ヒカルは気づく。

妹の制服のポケットに、小さく折り畳んだ手紙が入っていたことに。


「なあカレン、なんかポケットに……」

「あ、これはいいの。見ないでおにーちゃんのえっち。」

「お、おう……」


発進。坂道を下り、カーブを抜ける。

高回転まで引っ張るのは怖くて、2,500回転止まり。けれどその振動だけで、胸が熱くなるほどだった。


赤いスープラは、まるで生き物だった。

小さな操作ひとつに反応し、

ブレーキ一つで鼻先が曲がる。


「ねぇ兄ちゃん。」

助手席から、カレンが言った。

「私、兄ちゃんがこうやって走ってる姿……ずっと見てたい。」

その一言が、ヒカルの胸に突き刺さった。ああ、俺は。

こいつの記憶の中で、

ずっと“走ってる兄ちゃん”でいなきゃいけないんだ――と。

そして、数年後。


カレンは、事故で亡くなる。

自転車通学の途中、信号無視のダンプに跳ねられた。

乗っていたのは、ヒカルがあげた赤いヘルメットだった。


その時から、東條ヒカルは変わった。

もう笑わない。

もう喋りすぎない。

だけど、走る時だけは――かつての“兄ちゃん”のままだった。


海沿いの左高速。

風が強く、視界は砂埃でにごっていた。

Z4がラインを外し、R8が躊躇し、

石井のクリッパーが進路を塞ぐ。

その中を、東條が真っ直ぐ抜ける。

まるで迷いも、恐怖も、哀しみも――すべてを“炎”に変えて。


東條「……カレン。見てろよ。」

「今の俺は……まだ“走ってる兄ちゃん”だろ?」

そしてスープラの幻影が、彼の横を駆けた。

赤い光が、風の中に走り抜けていった。


舞台は、S字後のL字ターンから、海沿いの高速ベッドコーナーにかけての超危険ゾーン。

内側は細かいバンプが続き、外側は滑れば即、海!!

このデスゾーンに、真っ向から突っ込ん

でくるのは――あの4台だッ!!!


5位:黒川海斗(EVO9MR)

6位:相川律(R35)

7位:柳津(M4)

8位:岡田大成(GRカローラ)


咆哮を上げて、4台のエンジンが怒りをぶつけ合う。

その中で、相川律のR35が、L字のインを突いた――!


相川「おばあや美保……それにカナタや伊藤達の為にも――俺は抜くッ!!!」

「みんながいなければ、俺はここまで来られなかった……!!」


その瞳は真っ直ぐに“未来”を見つめる。

アクセルを少し緩め、ステアリングを柔らかく切り込む。

R35特有のアンダー気味の動きを読んで、最短で回頭した!!

だが――!!


黒川「……そんなの、知るかよッ!!! オラァァァァァァ!!!!!!!」

「よそ見すんじゃねぇぇぇッ!!!!!!!」

――ガアアアアアアアン!!!!


黒川のEVO 9 MRが、エアロごとR35の左リアフェンダーに突っ込んだああああ!!!!


わずかにリヤが跳ねる。R35が滑る……が!

観客席の悲鳴、SNSの「事故か!?」の文字が駆け巡る中――

相川「……ッ!!……まだ、だ!!」


ブレーキバランスを一瞬でリセット、R35のトルク配分を変更!!

リアへの負荷を逃し、すぐさま電子制御で挙動を立て直したあああ!!!


ミルキークイーン「立て直し早すぎですすね〜....!!!!」

「いったいどんな制御してるんですかぁぁぁッ!?もうこれはーお兄ちゃんレベルですよぉぉぉ!!!」


黒川「チッ……残念だったな……お前、最近滑るの下手くそじゃねぇか!!?」


相川「……うるせえ!!!!!」

「**家族が!!**美保やおばあが、テレビでこのレースを……俺の走りを見てくれてんだよ!!」

「諦めてたまるかああああああああああ!!!!!!」


ここでアクセルを全開へッ!!!

トラクションコントロールも切り気味に!!

高速ベッドの外からR35がもう一度追い上げようとする――その後方!!!!

M4の柳津が冷静にラインを分析していた。


柳津(フフ……子供のケンカか。だが、今はその隙を突くのみだ……)


落ち着いた左足ブレーキ、

アウト→インへ切り込みながら、最も安定したグリップゾーンへ――!

そのさらに外側!

赤黒のGRカローラが、フロントをねじ込んでくる!!!


岡田「フフッ……いくぜええええ!!!」

「真っ直ぐ突き抜ける……のが、俺の流儀だッ!!」

海風が吹く。

タイヤが焼ける。

誰ひとり、ラインを譲らない――!!


コースはL字の中盤。

四駆たちが怒涛の立ち上がりをかけるこの瞬間、ついに過去の因縁が火を噴いた――!!


黒川「相川ァァ……お前、そんな運転じゃ――いつか“スリップマン”とか呼ばれちまうぞ……!」

ニヤリと笑いながら、タービンの音を爆ぜさせるEVO 9 MR。


その言葉は、かつての“須賀川戦”でR35を滑らせ敗北を喫した、あの屈辱を抉り返すものだった。

だが、次の瞬間――


相川「……っるせええええええええええ!!!!」

頬をわずかに赤らめながら、しかしその瞳には決意が満ちていた。

相川律は――過去の自分を断ち切ろうとしていた。


相川「みんなが……いてくれるから、大丈夫だ……!」

「お前には……絶対に負けないッ!!」

想いが弾ける。

ハンドルを握る指に力がこもる。


相川「須賀川戦の借り……ここで返す!!!」

「あの時もL字でやられた!!だったら――今回は、」

「このL字で“ソイツ”を奪い返してもらうぞォォォ!!!!!!」

――ブレ―キ!!!


突如として、相川のR35が信じられないブレーキングを見せた!!!


ギィイイイイイィィン!!!!

空気が焼ける。

トラクション制御が切れ、リアがわずかに滑る――しかし、それすらも計算のうち。


後続の黒川のEVO 9 MRが、直後まで迫る――!

黒川「おいおい……マジかよッ……!?その進入速度で曲がれるってのかよォォ!!!」


だが、それが相川律の真骨頂だった。

かつて負けたL字――そのコーナーに、再び真っ正面から突っ込む!

路面のうねりをフロントがなぞる。

タイヤの悲鳴。

重すぎる車体を、四駆の技術で押さえ込み、ギリギリのラインでねじ込む――!


ギリッ……!!!

ブレーキング勝負……制したのは相川だッ!!抜いたあああああああああああああ!!!!

L字リベンジャーッ!!!!

R35相川律がEVO9黒川海斗をオーバーテイク!!!須賀川戦の再現を、今度は逆の立場でやり返したああああああああ!!!!!!」


黒川「チッ……!!クソがァ……!!」

拳をステアに叩きつける黒川。

だがまだ、火は消えていない――!!


R35相川の横顔は静かに笑っていた。

「これが――今の俺だ。もう、あの時のままじゃない。」


──プライドを貫く元天才、東條ヒカル!!

そして立ちはだかるは、どこかのんびりした雰囲気漂わせるも、戦場では“読めない男”、BMWM4ッ!!柳津雄介!!


豪快な立ち上がりからのL字〜高速ベッド進入!!

ギリギリの多重攻防戦が、今ここに激突ッ!!!!!!


東條「……あいつらに飲まれてたまるかよ……!!」

歯を食いしばるようにステアを握りしめる東條ヒカル。

彼は知っている――自分の立ち位置が危ういことを。


華やかさも派手さも持ち合わせた天才だったはずの男が、今や中団でくすぶっている。


東條「負けっぱなしで終わってたまるか……!クソッ、クソッ……!!」

その視界に入ったのは、M4柳津雄介の白いボディ――。

一瞬、東條の頭の中に過去がよぎった。

『かつて同じ道を走っていた友人』のこと。

『家庭の事情で諦めた夢』のこと。

『妹に見せた、最後のレース』のこと――

だが、今はそのすべてを断ち切る時間だった。

東條「どけぇええええええええええッッッ!!!!」

アクセルをガンと踏み抜き、GR86から載せ替えた80スープラの赤い鼓動が爆ぜる!!

インだ――!!

柳津のM4がアウトにじわりと膨らんだ、その刹那――

スルリと食い込む赤いスープラ!!!

柳津「おっとぉ……やるねぇ。最近の若ぇもんは……元気があっていいこったァ……!」


のんびりした声とは裏腹に、左足ブレーキでギリギリの調整をかけてくる柳津。

しかしこの位置では、インを取られた分ラインが遅れる――!


おおっとォォォォ!!!柳津がアウト側に回り込む!!!インには東條ヒカルが突っ込んでくるぞおおおおおお!!!!!


二人のラインに、今相川のR35が巻き込まれようとしているううううううう!!!!ピンチだああああああ!!!!


相川「くっ……来たか……!!」

ブレーキングに入りかけた相川の横っ腹をなぞるように、スープラのヘッドライトが迫る!

相川「やべっ……止まりきれねえぞこれ!!一気に3ワイド!?!」


ギュウウウウウウウン!!!

スキール音が重なり、タイヤが白煙を上げる!!!


東條「俺は……消えねぇ!!!!」

柳津「うはは、どうなるやらァァァ……!」

相川「負けねぇ!!俺はここで踏みとどまるッッ!!」

──ギリギリの横並び。

R35、M4、そして80スープラが、同時にヘアピンに突入ッッッ!!!


場内通信が、東條の車内に響く。

突如としてスピーカーから流れ込んできたのは、パブリックエリアの遠隔応援――レースに参戦中にも関わらず、C7で16位最下位に沈んでいるはずの、あの【ゾフィア】からだった。


ゾフィア「東條ぉぉぉ!!クソクソとか言ってたら、うんCうんCとか言ってるのとおなじよおおおおお!!!!!!」

東條「……ゾフィアッ!?!?!?」


まさかの電波乱入。言ってることは意味不明。だが魂だけはストレートに響く。

黒川「てめぇ……!まだリタイアしてねぇのかよ……!」


脳裏をよぎる、ゾフィアの不器用な走り。何度もスピンしながらも立ち上がり、「アクセルって踏みたいから踏むのよー!!」と叫んでいたあの背中。


あいつが最下位でも……まだ走ってんだな……。濱さんとかはリタイヤしたのによ......ッ。


東條「うっせぇえええ!!でもよォ……ありがとなァァァ!!!!」

ガンッ!!!

スープラのアクセルが再び床まで踏み込まれた!

東條の真紅を纏う80スープラ再加速!!ゾフィアの”電波投下”が効いたのかあああああ!!!


ゾフィア「アタイもねぇえええ!!うんCでも突っ込んでやるわよおお!!アクセル全開えええ!!」


白と赤のC7が、最下位からうねるような軌道で加速を始めていた。

東條「誰がクソで終わるかよ……!!このレースは、“燃え尽きる”までだろうがよッ!!!!」


――そしてその刹那。

ライン取りの混戦から抜け出したのは、またしてもあの黒い悪魔だった。

黒川海斗。


きたああああああああ!!!黒川ァァァ!!!エボ9MRが再び5位に返り咲いたあああああ!!!!


その走りはまさに「突撃」。

R35とZとスープラを引き裂くようなスラロームから、エグい踏みっぷりでL字をクリア。後続との差をたった1つの切り返しで消していった。


相川「くそッッ!!!またかよ黒川ッッッ!!!」

黒川「ははっ。甘えすぎなんだよ、お前……まだまだカスのようだな……?」


その声は、マフラーの爆音を割って車内に届くような錯覚すら覚える。

リプレイでは、相川がコーナーの中でわずかにアクセルを緩め、黒川がそれを逃さずインへねじ込んでいた。


視聴者1「相川また黒川にやられた!!??」

視聴者2「L字だろ!?前と同じ場所じゃねーか!」

視聴者3「黒川マジでえげつないな……あいつマジもんの肉食だ……」

視聴者4「相川頑張れ!!!負けんなよおおおお!!!」


相川「俺はッッ……!絶対にッッ……!!ここで終わらねぇぇぇえええええッッッ!!!!」


地を這うような86伝説の中盤戦、

再び”エボ9の暴走”が火を吹いた!!!


ブガッティ・シロンのリアセクションから、火花と閃光がほとばしる。

極限の駆動力が、タイヤを軋ませながらアスファルトに食い込んでいく。


その背後で――まるで火を吐く獣のように、紅い戦闘機が食らいついた。

“腹切カナタ”、その名を冠する86が、S字セクションから滑るように追い上げてくるッ!!


さああああああああ!!!

紅い戦闘機トヨタ86ッッ!!!あのモンスター、ブガッティ・シロンに並んだあああああ!!!!」


MRタカ「……へえ。

こんなに早く並んでくるとは思わなかったよ。やるじゃん、86の……」


フルカーボンボディのブガッティが吐き出すダウンフォース。

その風圧をも貫くように、カナタの86が震えながら隣に躍り出る。


カナタ「――絶対に……!このブガッティだけでも抜く……ッ!!

こいつだけは、越えてやる……!!」


ヘルメット越しに震える視線。

カナタの目は、ただ一台を見つめていた。


前方の――吉田のNSX。その背中に近づくために、目の前のブガッティを“捨て身”で超えようとしている!


MRタカ「……最高じゃん。

こんな熱い勝負、何年ぶりかなあ。

こっちまでゾクゾクしてくるぜ……ッ!!」


ふたつのマシンが並び、火花を撒き散らしながら加速区間へと突入。

V6と水平対向。シロンの8.0Lクワッドターボに対し、86はノーマルに近いエンジンチューン――


だが、恐ろしいまでのコーナー技術とシフトタイミングの極限精度で、一瞬の差を削っていく。


そして……

MRタカの名が、誰なのか――

それはまだ、この瞬間には、誰にも知られていなかった。

ライブを見ていた視聴者の誰かが叫ぶ。


「誰だよあのブガッティ!!」

「でもあの走り……ただの素人じゃねえ……!!」


これはもう……!カナタとブガッティの真っ向勝負ゥゥゥ!!!!紅い戦闘機が、一撃を叩き込もうとしているゥゥゥ!!!!勝つのはどっちだあああああああああ!!!!!!

黒川「ふざけんなァァァ!!!!」

「俺の集中どこいったぁぁぁぁぁ!!」

相川「そこどけよッ黒川ァ......!

邪魔なんだよッ!!!」

ドシュゥゥゥゥーーンッ!!!!

Rのストレート区間を猛突進する怒号が鳴り響く。

しかし、相川のRのタイヤはすでに限界を超えていた。

次回第93話 フィーリング

山吹花「相川の様子...どうしたの!?古田さんも動き始めた!??」

店員「なんか、次回は四駆対決勃発しそう.......ッ。」


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