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86伝説エーペックス[POWER!!!]  作者: SAI
第1シリーズ 開幕編
1/341

第1話[新]運命の86

2025.11.09 アプライドをEに切り替え。

大幅にシーンを完全版にしました。

よりよい品質でお楽しみください。

腹切カナタ――本名、矢田原奏汰(16)。

彼は今日もまた、学校を抜け出し、人気のない道をのんびりと歩いていた。


カナタ「……また学校の授業つまんねぇなぁ」


吐き捨てるようにつぶやく声は、蝉の鳴き声に紛れて空へ溶けていった。

夏の陽射しに焼かれたアスファルトはじりじりと熱を放ち、カナタのスニーカーの底を焦がすようだった。制服のシャツは風に張りつき、汗が肌を伝って落ちる。


カナタは決して不良ではなかった。ただ、学校という檻の中に閉じ込められていることが、どうにも我慢ならない。そんな彼と同じように、授業をサボるもう一人の存在がいた。


伊藤翔太(15)。

頭は切れるし、成績もトップクラス。

周囲からは優等生扱いされているが、本人の性格はいたって自由奔放。

そんな伊藤から、さきほどカナタにメッセージが届いていた。


――「おれんち来るか?」


カナタ「……やっぱりアイツだな」


自然と足は方向を変えていた。退屈な今日が、少し変わるかもしれない。


伊藤の家は町外れの工場地帯にあった。

古びた倉庫が並ぶ一角で、油と鉄の匂いが鼻をつく。

その一角に、シャッターの下りたガレージがひっそりと佇んでいた。


ガラガラッ――。


シャッターがゆっくりと開く。


伊藤「よぉ!カナタ!」

カナタ「伊藤!!」


出迎えたのは、汗で額を濡らしながらも、いつもの爽やかな笑顔を浮かべる伊藤だった。

背後には、工具やタイヤ、オイル缶が散乱するガレージ。

埃と油の混じった空気が充満しているのに、どこか胸をざわつかせる匂いだった。


伊藤「お前、また授業サボったろ?」

カナタ「お前だって同じだろ。毎回俺と同じくらいサボってんじゃねーか」

伊藤「ははっ。やっぱ俺ら、似た者同士だよな」

カナタ「……ったく」


軽口を叩き合いながら、二人はガレージの奥へと足を進める。


――そのときだった。


???「うふふ。その友情が芽生えるといいね。もっと先で待ってるよ?」


女の子の声が、どこからともなく聞こえた。


カナタ「……今、聞こえたか?」

伊藤「え? 何が?」

カナタ「女の声だよ。……この辺、誰もいねぇはずだろ」


辺りを見回しても、人影はない。

ガレージの隅には古タイヤの山、朽ちかけた木箱、埃をかぶった工具。

だが、声の主らしき姿はどこにもなかった。


伊藤「おかしいな……。お前の気のせいじゃね?」

カナタ「いや、確かに聞こえたんだ」


耳の奥に残る、妙に澄んだ声。

思い出そうとするほど、霞のように輪郭がぼやけていく。


カナタ「……まるで、ループしてるみてぇだ」


胸に重く残る違和感。だが確かめる術はない。


伊藤「お前さ、最近授業でも疲れてただろ? 寝不足なんじゃねーの?」

カナタ「ああ……。まあな」


互いに肩をすくめあい、笑い飛ばす。

だがカナタの胸の奥では、先ほどの声が消えずに渦巻いていた。


そんなカナタの様子をよそに、伊藤は奥の作業台へと向かう。

鉄板の擦れる音、ベルトコンベアのモーター音。


ゴソゴソ――。


伊藤は赤い布に包まれた大きなものを抱えて戻ってきた。


伊藤「カナタ、ちょっと見せたいものがある」

カナタ「なんだよ、それ……?」


布が解かれると同時に、カナタの目に飛び込んできたのは――


艶やかな赤いボディのパーツ。

鋭いライン、独特のフォルム。


カナタ「これ……ガレージか!? いや……車!?」

伊藤「そうだ。トヨタの86――」


伊藤は布を取り払った。


そこに現れたのは、年月を経てもなお輝きを失わない、一台の赤いハチロク。

そのボディは光を反射し、静かに、しかし確かに存在を主張していた。


カナタ「……ッ!」


息を呑む。

胸の鼓動が速くなる。

ただの機械のはずなのに、なぜか心を掴まれる。


伊藤「どうだ? すげぇだろ」

カナタ「これ……お前んちのか?」

伊藤「いや。親父の形見だ。だけど俺は……これを走らせたい」


伊藤の瞳が真っ直ぐに光った。

その強さに、カナタは思わず言葉を失った。


カナタ「……」


気づけば手が、ボディへと伸びていた。

熱を帯びた鉄の感触が、掌に伝わる。


カナタ「伊藤……これ、俺にも触らせてくれ」

伊藤「当たり前だろ。お前と一緒に走らせたいんだ」


二人の視線が重なる。

その瞬間、ガレージの空気が震えたような気がした。


???「ふふ……その出会いが、運命を変える」


再び聞こえた少女の声。

けれども今度は、カナタも伊藤も、驚きはしなかった。

ただ互いにうなずき合い、赤い86を見つめた。


これが――すべての始まりだった。


伊藤がゴソゴソとベルトコンベアーで大きなものを赤い布で包みこんで見せた。  


カナタ「これ、、、ガレージか!?」伊藤「ああ!うちの店はガレージなんだ!伊藤自動車!!それだけじゃないぞ....おまえにプレゼントがあるんだ!!!」


カナタ「なに?」そういって伊藤が布を外す!!がさっ、、、、!

そこには赤い2012年式のトヨタ86の姿があった。


カナタ「、、、、なにそれ。」

伊藤「知らないのか?86っていう車なんだ......」


カナタ「……86。その名前は……聞いたことがある」


赤い2012年式の86を目の前にして、カナタの視線は過去へと引きずり込まれる。

胸の奥底で、忘れたくても消えない記憶が疼いた。


カナタ(親父……そうだ、親父は昔AE86トレノに乗っていたっけ……)


休日になると、親父はよくトレノを洗車していた。

手にしたバケツから水をかけ、布でボディを拭き上げる。

その姿は不器用ながらも楽しそうで、幼いカナタは横でじっと眺めていた。


ハンドルの感触。助手席から見た山道の景色。

親父の笑い声。

それらは全部、確かに幸せだった日々の断片だった。


――しかし、その記憶は血で塗り潰されている。


母親が台所で包丁を握りしめていた夜。

泣き叫び、怒鳴り声が飛び交い、次の瞬間――。


「やめろ!!」という叫びとともに、親父は胸を刺され、血の海に崩れ落ちた。

カナタ「……っ」


喉の奥が焼けるように痛む。

幼い自分はその場でただ泣き叫ぶしかなかった。


母はその後、警察に捕まり、裁判で死刑判決を受けた。

両親を一度に失ったあの夜。

家庭というものが一瞬で崩壊したあの瞬間。


カナタ「……だからだよ。俺は……車なんか、大嫌いなんだ」


86の存在は、ただの車じゃない。

自分の過去を呼び起こす「忌まわしい象徴」そのものだった。

それでも――胸の奥のどこかで、強烈な衝動がうずいている。


カナタ(なのに……どうしてだよ。どうして目が離せねぇんだ……?)


赤い86が静かにそこにあるだけで、心臓の鼓動はどんどん速くなっていく。

まるで、過去の記憶と未来の運命が重なり合うように。


カナタ「お前さ、、、こんな遊びいい加減やめろよ。」


伊藤が急に失望したかのような顔になり両手の感覚が抜けていく。 

伊藤「どうしたんだよ?急にーー」

カナタ「お前なんか友達もいないくせに、、、勝手にこんなの作らないでくれる!??」


ああ、、カナタ。君、車嫌いなのかな?

、、、あんな車昔見つめていたのに、、、、。


伊藤「分かったよ。必要になる時が来ると思うからその時まで俺の家のガレージ、、、伊藤自動車で預かるよカナタ。」


カナタ「俺がこの86に乗る……?

なら……お前を殺すゥゥゥ!!!」


その声は、叫びというよりも悲鳴に近かった。

カナタの脳裏には血に染まった夜が蘇り、父の倒れる姿、母の狂気の顔がフラッシュバックする。

気づけばカナタの手は、伊藤の胸倉を掴んでいた。


ガァァンッ!!!

伊藤「な、何するんだよッッ!!!!」


鉄骨の壁に背中を叩きつけられ、伊藤の息が詰まる。油と鉄の匂いが混じったガレージの空気が、一瞬で張りつめた。


カナタ「……お前が……お前がこんなモン持ち出してくるから……俺の頭は、過去ばっかり蘇って……ッ!!」


震える拳が伊藤の胸に押しつけられる。

瞳は涙に濡れ、それでも憎しみに似た赤い炎を宿していた。


伊藤「カナタ……!」

カナタ「もう、二度と……あんな血を見たくねぇんだよ!! 俺に車を押しつけんなァァ!!」


伊藤は歯を食いしばり、必死にカナタの腕を振りほどこうとする。

だがその力の裏にあるのは、怒りではなく――友を失う恐怖だった。


伊藤「……バカ野郎! 俺はお前に押しつけたんじゃない! 俺は……一緒に走りたいだけなんだ!!」


その叫びがガレージに反響する。

カナタの拳が震え、壁際で二人の視線が激しくぶつかり合った。


カナタ「……っ」


心の奥で、憎悪と友情がせめぎ合う。

殺す、とまで言った言葉の裏には、どうしようもない恐怖と、自分でも認めたくない“羨望”が潜んでいた。


伊藤「ふざけんなよカナタッ!!」

カナタ「ふざけてねぇ!!俺を地獄に引き戻す気かよッ!!」


カナタの拳が振り上げられ、伊藤の頬へと叩きつけられた。


ドゴッ!!!

伊藤「ぐっ……!!」


乾いた衝撃音が鉄骨に反響する。

伊藤の口の端から血がにじんだ。


伊藤「……テメェ……!」

カナタ「伊藤ォォォォッ!!」


次の瞬間、伊藤も拳を振るった。

力任せのストレートがカナタの頬を打ち抜く。


バキッ!!!


カナタ「っぐ……!!」


視界が一瞬揺らぎ、赤い86のシルエットが滲む。

だが怒りに任せ、再び拳を振り返した。


カナタ「俺を……過去に縛るなああああッ!!」

伊藤「お前こそ逃げるなッ!!!」


拳と拳が交錯し、二人は床へ転がる。

オイル缶が倒れ、工具が散乱する。

ガシャン!バラバラ!と騒音が鳴り響き、埃が舞った。


カナタ「ハァ……ハァ……!!」

伊藤「ぜぇ……ぜぇ……!!」


互いに髪は乱れ、息は荒く、拳は赤く腫れ上がっていた。

だが止まらない。


カナタ「……伊藤、俺を壊す気か……!」

伊藤「違ぇよ!俺は……お前を引きずり戻すんだ!!」


ドスッ!!

カナタの腹に伊藤の拳がめり込み、肺から空気が押し出される。

それでもカナタは伊藤を突き飛ばし、額と額をぶつけ合った。


カナタ「俺は……二度と車なんか信じねぇ……!!」

伊藤「なら……俺が信じさせてやるッ!!」


拳と拳、怒鳴り声と呼吸がぶつかり合う。

二人の衝突は、友情を壊すのか、あるいは強く結びつけるのか――誰にも分からなかった。


赤い86は、ただ静かに二人の激突を見守っていた。

ガレージの奥で、まるで心臓の鼓動のように淡い光を反射させている。

その瞬間――。


びゅおおおおおおっ!!!


突如、ものすごい強風が吹き荒れ、散乱していた工具や紙くずが宙を舞った。

埃が渦を巻き、二人の髪を激しく揺らす。


カナタ「……っ!」

伊藤「……」


拳を構えたままの二人は、思わず動きを止めた。

殴り合いの熱気を冷ますかのように、荒れ狂う風が吹き抜けていく。

まるで天の裁きが二人に下ったかのような、異様な静けさが訪れた。


やがて風は、嘘のようにすっと支えていた。

カナタ「……ありがとな、伊藤。俺……少し、熱くなりすぎた」


力なく笑いながら拳を下ろす。

頬は赤く腫れ、唇の端から血がにじんでいる。

それでもどこか晴れやかな顔をしていた。


カナタ「最近さ……イライラが止まらなくて。何なんだろうな……ははっ」


伊藤「……バカだな、お前。けど……俺も同じだ」


伊藤もまた肩で息をしながら、腫れた頬を押さえた。

二人の間に漂うのは敵意ではなく、不思議な連帯感だった。


――だが、その空気を破ったのは。

???「ふふ……君の気持ち、わかるよ〜?」


ガレージに柔らかな、しかし不気味な声が響いた。

耳元で囁くようでもあり、天井から降り注ぐようでもある。


???「君は本当は優しいのに……その優しさの中に罪悪感を抱えているんでしょう? 怒りよりも、罪悪感を強く感じている君は、立派だよ〜……カナタくん」


カナタ「……ッ!?」


胸の奥を鋭く抉られるような言葉だった。

父を失い、母を失い、心の奥にずっと沈めていた罪悪感。

自分がもっと何かできていれば……という後悔が、声によってあぶり出されていく。


伊藤「誰だ……? 姿を見せろ!!」


伊藤の叫びに返事はない。

ただ、赤い86のボディに映る影が、微かに揺らめいたように見えた。


カナタ「……お前は……誰なんだよ……」


恐怖、混乱、そして奇妙な安堵感。

三つの感情が渦を巻き、カナタはただ立ち尽くす


恐怖、混乱、そして奇妙な安堵感――。

三つの感情が渦を巻き、カナタはただ立ち尽くした。


???「その気持ち、うちは見てるからね〜? ずっと優しくしようと思えば思うほど、炎って強くなるんだよね〜?」


耳に直接触れてくるような声。

のんびりとした調子なのに、確かに心の奥底を揺らしてくる。


???「きっとカナタくんは……誰かのために火を灯したいんだよ〜?」

カナタ「……そう、かもな ……って、だれだ?今のーー」


思わず声に出す。

だが周囲には伊藤と自分しかいない。

声の主の姿はどこにもなく、ただ天井の鉄骨を抜けるように、空から降り注ぐ声だけが響いていた。


???「うちは……優しくいたいんだ。だからきっとこの86も……もう“腹切カナタ”としてじゃなくて、“カナタ自身”として受け止めればいいんだな」


カナタ「……」


まるで自分の心の奥を代弁するような声。

否定できず、ただ拳を緩める。


伊藤「どうすんだよ、カナタ。……お前、さっきまで暴れてたのに、少し落ち着いたみたいじゃねぇか」


伊藤の声が現実に引き戻してくれる。

その瞳には心配と、わずかな安心の色があった。


カナタ「……ああ。伊藤。ありがとな。……なぁ、明日の朝取りに来てもいいか? 学校、二人でサボろうぜ!」


伊藤「はぁ? お前なぁ……でも、まぁいいか」


カナタは大きく笑い、拳を振り払った。

ガレージの空気が、ほんの少しだけ軽くなった気がする。


その夜、カナタは自分の家で一夜を過ごした。

赤い86の姿と、あの風の感触、耳に残る少女の声――すべてが頭から離れなかった。


カナタ(あの風がなければ……俺はここにいなかったかもしれねぇ)


布団に横たわりながら、心の奥底でそう確信した。

あの出来事を、絶対に忘れてはならない――

そう強く刻み込むように。


カナタ「……俺こそパンチさせてくれよな? 伊藤。さっきはよくも殴ってくれたな……。不登校のくせによォ……!!」


ニヤリと口角を上げ、拳を握りしめるカナタ。

その目には怒りよりも、悪ガキ同士のじゃれ合いに近い光が宿っていた。


伊藤「おいおい、まだやる気かよ!? こっちはもう顔パンパンなんだぞ!」

カナタ「関係ねぇ! このまま引き下がれるかってんだ!」


ドンッと肩をぶつけながら伊藤へ詰め寄る。

カナタの拳が振り上がり――


カナタ「うおおおっ!!」

伊藤「うわっ!?ちょ、待て待て待てッ!!」

ガシィッ!!


だがその拳は途中で止まり、伊藤の額すれすれにピタリと止まった。

風圧で伊藤の前髪がふわりと揺れる。


カナタ「……ビビったか?」

伊藤「ビ、ビビってねぇし!?……っつかお前、心臓止まるかと思ったじゃねぇか!」

カナタ「あはははっ! やっぱおもしれぇなお前!」


伊藤は頬を赤らめ、呆れ半分で笑う。

二人の間にあった殺伐とした空気は、いつの間にか消えていた。


伊藤「……ほんっと、めちゃくちゃなヤツだな。腹切カナタ、、、!」

カナタ「お互い様だろ。不登校の伊藤ォ!」

伊藤「やれやれ、どうなるやらーー」


ガレージに笑い声が響く。

散乱した工具や油の匂いの中で、二人は拳をぶつけ合った。


ゴッ!!

今度の拳は痛みではなく、友情を確かめ合う音だった。

次回86伝説エーペックス

第2話 restart86。

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