第五話 ダンジョン配信者
「……待て待て待て、なにをとち狂いおった吉沢よ。なんじゃ、その……配信は?」
俺たちの中で一番にフリーズから解けた古月が代表して疑問を投げる。
いやマジで意味がわからんのじゃが吉沢?
思わず古月の口調が移っちゃうほどわからんぞよ。
「ふっ、よく聞いてくれたな古月……」
「ルイちゃんじゃなくてもこんなの誰でも聞くわよ! いいから勿体ぶるな吉沢ァ!」
そうだぞ吉沢ァ!
さっさと答えろ吉沢ァ!
「お、おう……まぁ真面目に話すとだ。これから〈勇気クラス〉のお前らには、ダンジョンがどういう場所なのかをこのダンジョン配信者たちを通して理解してもらう。これは学園で認められた教育だから否は通らんと言っておくぞ」
つまりなんだ……ダンジョン配信で危険な場面でも見せれば俺たちが怖気づくとでも思ってるのか?
確かに≪ギフトホルダー≫は学園からも世間からも、冒険者には向いてないと言われている。
だが流石に舐め過ぎだろ、これは……。
「吉沢、俺たちが今までの人生でダンジョン配信を見てこなかったとでも?」
自慢じゃないが勇者の動画なら一万回は見てる自信があるぞ。
「いんや。これは配信を見せながら教師が大げさな説明・解説を入れることで、お前らには無理だって諦めさせるための、謂わば洗脳だよ」
「……それをあんたはやると、吉沢?」
「やるわけねーじゃん」
「だよなー!」
ハッハッハッハ、と男二人で笑い合う。
この流れで「洗脳やりまーす」なんて言って通じるバカはおらんわな。
でもそうなると吉沢、お前がなんで配信つけたか理由がなんとなく想像できてしまうんだが、まさかお前……?
「じゃあなんで配信つけたのよ?」
「俺が見たかったからだ! 言ったろ? この人たちが今の最推しなんだ」
「「「だと思った……」」」
もう吉沢はこういう奴だと思って諦めよう。
俺たちに害のある担任じゃないだけ大歓迎だよ。
そして椅子を持ってきて俺たちと視聴を開始する吉沢。
もう誰も突っ込まない。
このままダンジョン行っても何も言われなさそうだが、初回だし興味もあるから一緒に見ることにする。
画面に映るダンジョン配信者、メグルぽんは五人組の冒険者パーティーのようだ。
五人すべてが綺麗な女性であるその画面は、端的に言ってばえる。
こういうわかりやすい要素もまた吉沢のような下種な男が熱中する理由なのだろう。
「今なんか――」
「なにも」
配信開始から雑談も交えて話は進み、いよいよダンジョンダイブが近い。
俺は現役の冒険者が見せてくれる戦いに、どんなものかと刮目するのだった――……。
◆sideメグルぽん◆
「今日は以前からの告知通り、新しいメンバーが加わることになりまーす! これからは六人で潜るから、攻略も大分進んじゃうかも? かも? あ、新メンバーも可愛いおにゃのこだから喜べ下種どもー」
〈コメント〉
:おにゃのこやったぜ
:新しいおにゃのこ……ハァハァ
:これ以上増えたら俺は誰を娶ればいいんだー⁉
:↑ ゴブリンじゃね?
私が配信を開始すれば、いつものようにたくさんの視聴者がコメントをくれる。
みんな下種だけどそれでも応援は嬉しい。
でも新しく入るあの娘はこの空気大丈夫かな?と心配にはなる。
結構ダイレクトに私たちを女として見てくる下種もいるから、そういうのからはちゃんと守ってあげないとね。
なんたってあの娘はまだうら若き十五才。
それとは別に心配事もあるし……。
「さ! それじゃ早速新メンバーをご紹介しよう! 十五才にしてその正体は死神魔女っ娘⁉ めちゃかわな私たちの妹分! おいで~不破ちゃーん!」
〈コメント〉
:死神魔女っ娘とか属性盛りすぎww
:十五才ってことは冒険者なり立て? ついてけるの?
:ダンジョンでレベル差あるのはきついゾ~
:十五才って俺はいつ娶ればいいんだー⁉
:↑ ブタ箱にいって、どうぞ
横目でコメントの反応を確認しながら、新メンバーの不破ちゃんを呼ぶ。
ふふ、驚きそして狂喜乱舞するがよいぞ下種共め!
不破ちゃんは私たちから見てもとびきり可愛いおにゃのこなのだー!
「……不破です」
配信魔道具の前に立った、魔女のローブに死神のような大鎌を持つ絶世の美少女。
見た目はアンバランスだけど、この娘の持つ魅力がそれを許しちゃうんだよねー。
さて、下種共の反応は……
〈コメント〉
:きゃわええええええええっ!!
:よし! 俺と結婚しよう!
:全然容姿に気を遣ってなさそうなのにこのレベル。推しです
:どけ! その娘は俺が娶る!
:不破ちゃんは俺の彼女なんだが?
:不破ちゃんなら昨日俺の横で寝てたよ
:早速もの凄い人気獲得してるなー不破ちゃん。もち俺も推し確だが
うんうん、まったく予想通りの反応だねー。
下種の考えはわかりやすくて私好きよー。
「さて、不破ちゃんの紹介も済んだことだし、そろそろダンジョン潜りますか! 不破ちゃんはダンジョン初めてだから一階層からゆっくり慣らしていくよー」
私がそう言うとコメント欄はにわかにざわつく。
まぁ私たちメグルぽんって割と上位冒険者だし、今更一階層から新人鍛えるとは思わなかったかな?
かといって普段通りの階層でパワーレベリングするのは絶対イヤ。
不破ちゃんには私たちのエースとして輝いてもらうんだから、少しづつでも着実に伸ばしていくよ。
不破ちゃんにはその労力を割くだけの可能性があるんだよにぇ~。
驚きはあるだろうけど、見りゃわかるさ!
さ、早速ダンジョンへ――
「……ごめんソラ姉。一階層なら、昨日一人で潜った」
「……ほへぇ?」
ちょっと思考停止。
休憩休憩……あ、ソラ姉ってのは私のことね。
昔から不破ちゃんは私のことソラ姉ソラ姉って言ってそりゃもうかわいか
「――ってなにしてんの不破ちゃん⁉ 一人でダンジョン潜るなんてなにかあったらどうするの⁉」
一階層はチュートリアルって言われてるけど、してることは結局命の奪い合いだ。
不破ちゃんなら負けることなんてないだろうけど、それでもお姉ちゃん心配だよ。
そんな可愛い顔でジッと見つめてきても私は怒るんだからね!
「もう、不破ちゃんは仕方ないな~。危険な目には合わなかった?」
こんなかわいい妹分に怒れるわけないよぉ。
パーティーメンバーがジト目で見てくるけど、気にしないからね。
「……うん。ゴブリンも角ウサギも弱かった。……一人、私の刃を受け止めたのがいたけど」
「「「――っ⁉」」」
不破ちゃんの刃を、受け止めた……?
「……それってどんなゴブリン?」
「……ゴブじゃない。人間。ユートピア学園の制服着てた」
ユートピア学園にそんな生徒が?
不破ちゃんの刃を受けるのは私でも躊躇うというのに、さしてこの娘と変わらない年齢の子供がそれを成し遂げたというの?
「≪騎士の兜≫、身に着けてた……。あれは、きっと強くなるよ」
「……へぇ。不破ちゃんがそこまで認めるなんて珍しい……。私も会ってみたくなっちゃったなー、名前とかわかんないの?」
「……謎。でも、また会えると思う」
「およ? そんな約束まで取り付けたんだ……ふぅん」
ユートピア学園の何年生か知らないけど、私のかわいい不破ちゃんに手を出すなんていい度胸……もいじゃおっかなー。
と、思ったけどなにやら不破ちゃんの様子がおかしい。
あれれ、不破ちゃんのこの感じは……。
「……違う。彼と私は既に運命の糸で結ばれているのよ。だって……私の【断絶】を受け止めるなんて、許されないことをしたんだもの…!! キヒヒッ!」
「……わーお、いい笑顔。これは楽しくなりそうね……」
不破ちゃんに気に入れられたその彼を、私もちょっと味見してみたいと思った……。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「ぐふぅっ……」
あまりの衝撃に机に突っ伏す俺。
斜め上からの攻撃に俺のライフはぐんと削られた。
「ど、どうしたアイス? 配信の途中からお前不審者だぞ? 腹痛いのか?」
思わぬ再会(?)に胃を痛めていると、吉沢が見当違いなことを言ってくる。
とりあえずなんでも腹痛いで済ませようとするそれなんなの吉沢?
吉沢が推してるというダンジョン配信者メグルぽん、その新メンバーのおにゃのこに見覚えがあり過ぎて困る。
普通ならかわいい女の子といい出会いがありましたで喜ぶところなんだろうけど、あれ目をつけられたらいけないタイプのやつだ。
なに許されないって、俺いつの間に罪犯したの?
あー胃がいてー。
これ思ってみれば腹が痛いってことなのか……?
吉沢メンゴ、お前は正しい。
「……まぁ、そんな簡単に身バレもしないか……でも今のうちに実力はつけとこ」
また一つ強くなる理由を得た俺なのであった……いや、嬉しくないけどね?
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