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唯一無双の現代ダンジョン  作者: 歌歌犬犬
第二章 宝物殿
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第五話 〝審門〟



「なんじゃこりゃ……」


 六階層からの亡者の王国攻略を中止し、俺は守護者討伐を優先することにした。

 なるべく低い階層から達成したほうが感覚を掴みやすいだろうと五階層まで戻って来たのだが……今俺の目の前では異常事態が発生していた。


 本来階層同士を繋ぐゲートは白い渦だ。

 それが別の色になるということは、それだけで異常事態である。


「これは、〝審門〟か。知識としては知ってたが、見るのは初めてだな……」


 五階層から四階層へと戻るゲートは白ではなく黒。

 この黒という色がダンジョンで極稀に見られる現象──〝審門〟であると物語っていた。


 先に言ってしまうが、別にこの〝審門〟という現象は危険なものというわけではない。

 ただ〝適正レベルの者しか通ることができない〟というだけである。

 ここ五階層から四階層なら適性レベルは一、俺は通れる。

 だがこの〝審門〟を見て通ろうと思う者は少ないだろう……知識があれば、だが。


 俺もこの〝審門〟を通るかどうかは悩んでいる。

 正直な話をするならすぐにでも()()()()

 何故なら常人なら忌避すべき守護者が、今この先にはいるからだ。

 そして守護者がいるからこそ、少し待てばこの〝審門〟は開放される。


 〝審門〟とは即ち、ゲートの近くで守護者と誰かが戦っている時に起きる現象なのだ。


 ゲート付近で戦闘になっている時点で、その戦っている冒険者も予定の内ということはないだろう。

 だから〝審門〟はすぐに開く……その戦闘()が戦闘()()となることによって。

 実際には若干のタイムラグがあるらしいけど、どの道守護者が去るのを待つなら大した問題じゃない。

 そう、去る……この現象に遭遇した冒険者は戦っている同じ冒険者の勝利なんて考えもしない。

 予定外の守護者との遭遇とは、それを当然に受け入れるにたる事態なのだ。


「その階層に適性レベルの者だけがいるときに限り、守護者は姿を現す……運が悪かったな、この先で戦う冒険者は」


 まぁ、俺がいなかったらの話だけど。


「本来ダンジョン内での戦闘の横槍は褒められたもんじゃないけど、流石にこの状況なら許されるよね? いや勝ち目がありそうなら手は出さないよ? 一応の確認だよ確認、同じ学園の生徒が危ないかもしれないんだから」


 まるで自分に言い訳するかのように早口で捲し立てる。

 この状況、俺にとっては本当に運がいい。

 会いたいと思って会えるものでもなく、されど会いたくないと思って叶うものでもなく。

 存在が気まぐれな守護者という獲物を、俺は早々に見つけたのだ。


「【勇気】があれば万が一でも逃げることくらいはできる。まるでレベルが上がったかのようなあの全能感の中なら、あるいは……」


 守護者が恐れられる所以。

 適性レベルより高いレベルで現れるソレは確かに脅威だろう。

 だからこそ、俺の【勇気】は守護者に対する特攻となりえる。


 さぁ、証明を始めようか。




 ◆side~とある冒険者~◆


 どうしてこうなったんだろう?

 ただ冒険者に憧れて、夢見て、その姿を追うのが好きだった。

 自分までもがそんな憧れの対象になれるなんて、考えたこともない。

 けど幼い頃からの友人たちに誘われて、私は去年このダンジョン学園に入学した。

 してしまった。


「くそぉ! こんな状況だってのに、学園の教師はなにやってんだよ!」

「なんで助けに来ないわけ⁉ ホントあり得ない!」

「戻ったら抗議……いや訴えてやる!」


 一緒に入学してパーティーを組んだその友人たちが、口荒く教師たちに文句を垂れる。

 そんなこと言える立場じゃないのに。

 だって今は授業中、本当ならダンジョンに潜っていい時間じゃない。

 教師なら授業やってるからこんなとこ来るはずもないよ……。


 でも私だって同罪だ。

 彼らを無理やりにでも止めるべきだったんだ。

 そうしたらこんな……守護者に襲われるなんて事態に見舞われることもなかったのに。


 あぁ、ギルドの受付で奈落お姉さんに言われた言葉が脳裏を過ぎる。


『──冒険者は命懸けなのだから、合わないと思うならパーティーを抜けるのがあなたのためなんですよ?』


 珍しくにこにこしていない奈落お姉さんの、本気で身を案じてくれるあの言葉と、瞳。

 そうするべきだったんだろうなぁって、今になって思う。

 ……もう、遅すぎるけれど。


「おいこのままじゃマジでやべぇぞ⁉ 全滅しちまう!」

「んなこと言ったって、耐えるのでもう限界だぞ! なんか手があんのかよ!」

「誰か一人を囮にするってのはどう⁉ そのうちに私たちは逃げるのよ!」


 あ、考え事してるうちに最後の友人の言葉で一斉にみんなが私を見た。

 誰か、なんて言ってるけど私たちは逃げるって言葉でその誰かが誰なのか嫌でもわかる。

 でも……。


「……チッ。無理だな、コイツじゃ足止めすらできねぇ。そもそも相手は守護者のリーダーウルフだぞ!」


 そう、私一人生け贄に助かるならもうとっくにそうしてる。

 けれどここ四階層の守護者リーダーウルフは配下のステップウルフたちを巧みに統率して攻め立ててくる。

 元々回復役としての意味しか持たない私では、この状況を打破する一手なんてとても担えない。

 落ちこぼれではあれど、私たちはみんなこの学園の二年生、それくらいの状況判断はできるんだ。

 だからこそ、このどうしようもない状況で教師にあたることしかできない。

 敵は守護者一体だけじゃない、統率されたステップウルフたちもまた、私たちの命を危ぶませる狩人なんだ。


 例え私じゃない誰か一人を囮にしたって意味なんかない。

 この状況を変えるほどの力を見せつける存在が現れない限り、守護者たちのすべての目が私たちから離れることなんてないのだから。


 ──そう、だからそれは願ってはいけないことだった。

 ──そんな都合がいい奇跡なんて、所詮私たち目線のものでしかないって、わかってたはずなのに……。


 私の利己的で我儘な願いの存在は、突如五階層へ続くゲートから現れたんだ。


 瞬間、すべてのウルフが、守護者含めその何者かを注視する。

 警戒している、それが落ちこぼれの私でもよくわかった。

 私にわかることが、同じ落ちこぼれの彼らではわからないなんてことはなく──。


「──しめたっ! 今のうちだ、撤退するぞ!」

「おう!」

「ええ!」


 唐突に訪れた好機に、彼らは迷う事なくこの状況を現れた彼に押し付けることを決断した。


「ま、待ってください! 擦り付けは冒険者として一番やっちゃダメなことですよ⁉」


「うるせぇな! だったらお前だけ残って戦ってればいいだろうがよ! 俺らはもう行くからな!」


 静止する私を他所に本当に彼らは一寸の迷いなく逃走を開始した。

 信じられなかった。

 二年になっても十階層を突破できなくて、クラスでも落ちこぼれと笑われている自覚はあった。

 だけど、夢を追ってこの学園の門を潜った彼らは、それでも冒険者という憧れを踏みにじる真似はしないって、信じていたのに……。


 動き出した彼らに反応して、ウルフたちが未だ留まる私を見る。

 あぁ、私はここで死ぬんだろうな。

 でもそれはいいの、無理な憧れを抱いてこんなところまで来てしまった私がいけないんだもの。


 でも。

 でもっ……!


「ごめんなさいっ……! 私のせいで、冒険者の卵が死んでしまう……憧れを壊してしまう……!!」


 どうか神様、命を落とすのは私だけでお許しください。

 どうか、もしこの世に救世主様がおられるなら、巻き込まれたあの子だけでもお救いください……!!



 咆哮が聞こえる。

 守護者が命令を下した。

 その牙の向かう先に、私の命はきっと──



「逃げればいいものを。ま、嫌いじゃないけどな、あんたみたいなのは」



 ………え?



「下がってな……【聖剣解放──フラガラッハ】」



 

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