第四話 予定外
学園占有ダンジョンのギルドにて、白銀の兜、マント、腰当て、マジックポーチ、愛用の剣を確かめ装備する。
学園はまだ授業中でダンジョンに訪れる生徒は俺以外いないだろう。
ま、もうこの装備を隠す気もさらさらないから見られたって別に構わないんだが。
「行くか」
一言、声に出して気合いを入れる。
これより目指すは五階層より先──亡者の王国。
各階層の守護者を討伐するにしても、先に十階層までの攻略は終わらせておこうという魂胆だ。
別に不破ちゃんに対抗してとかそういうのじゃないぞ、ただ順を追ってやること成していこうというだけだ。
【勇気】というアーティファクトを手にした今の俺なら十階層のボスもそう苦戦しないと思うしな。
あれは強い意志を以って発動すればまるでレベルが一つ上がったかのような全能感が得られる。
まだ一度もレベルアップしたことがないから実際どんなもんかは知らんけどね。
そんな風に着々と準備を整え終わると、タイミングを見計らったかのように受付から声を投げられた。
「アイスくん、もう躊躇うことがなくなりましたね」
「奈落さん。そりゃ俺だって冒険者ですから、慣れとは別に強かにだってなりますよ」
「私は授業をさぼってここに来ることを言ってるんですけどね。にこにこ」
「……さーて、早いとこ潜ろ……」
「にこにこ!」
早いとこ潜ろ!
俺は逃げるようにダンジョンへと突入した。
「あーなんかあの人には苦手意識あるんだよなぁ」
ダンジョンに入って魔物を軽く撫でながら先を目指す。
ダンジョンを利用する以上ギルドの受付嬢たる彼女との邂逅は避けられないんだが、にこにこ攻撃はやめてもらいたい。
ありゃいっそのことダンジョンの魔物より魔物ゲフンゲフン、これ以上いけないな命に関わる。
……どこからかにこにこって幻聴が聞こえてきたような?
末期かな。
俺はそんな幻聴を振り払うように猛進した。
もう五階層までの魔物で俺を止められるのは守護者くらいなものだろう。
ここで都合よく遭遇したならそのまま討伐戦に移行しよう……そんな風に思っていたが別段そう上手くいくことはなく。
俺は六階層、亡者の王国へと辿り着いたのだった。
◆◇◆◇◆
「さて、不破ちゃんの配信でも見たが、スケルトンはしっかり頭を狙わないとな。打撃武器じゃないことが一応の不安要素か」
六階層に突入して俺は早速剣を構える。
いつもの【勇気】と【応答剣】で臨戦態勢はばっちりだ。
本来スケルトンに斬撃はあまり効かないが、【勇気】で能力が大幅に向上している俺ならなんとかなるのではと特に打撃武器は持ってきていない。
そもそも打撃武器にしたら今度は【応答剣】が使えないしな、こっちを利用したほうが最善だと考えたわけだ。
さてそんな俺にとっての万全な状態で六階層を練り歩くのだが……スケルトンたちが寄ってこない。
こちらから襲えば応戦はするのだが、動画や話で聞くより動きが鈍い。
いくら【勇気】を使っているとはいえ、これは……と少し思案する。
「……いや、そういえば似たような状況を、いつかの動画で見た記憶があるな。あれは確か、そう。ダンジョンが出現して間もない頃のニュースで、聖水特攻って名前だったか」
聖水特攻。
アンデットが嫌う聖のオーラを宿す水を持つことで、一部の魔物が近寄ってこなくなったり攻撃に特攻が生まれるというものだった。
その時の状況よりは控えめな感じはするが、今のこれは正しくそれではなかろうか。
もちろん俺は聖水なんて持っていない。
だが、聖なるオーラは纏っているかもしれない。
そう、【勇気】だ。
あるいは【聖剣】へと変貌する【応答剣】もまた、彼らへの特攻なのかもしれない。
「しかしそうなるとどうするかねぇ。攻略が簡単になるのは嫌ってわけじゃないが、六階層の魔物の強さも経験しておきたかったな。でも流石に【勇気】も【応答剣】もなしに攻略はしたくないから……うーん」
スケルトンが近寄ってこないのをいいことにその場で熟考する。
恐らくここ六階層でこれなら先の階層でもまぁ同じ感じだろう。
一応様子見くらいしてもいいが、それなら十階層まで攻略完了してしまいたいところ。
だが今からだと時間がな……。
「よし、戻ろう。戻って先に残す守護者の討伐を優先する。一、二階層はもう討伐済みだから、三階層と四階層か。三階層は情報を集めて挑むとして、今日は四階層をダメ元で徘徊すっかね」
現在の時間と状況を加味してそう結論を出した。
なに、当初の予定は狂ったがアンデット特攻という新たな俺の力が発覚しただけ儲けもんだ。
【聖剣】なしでこれなら尚の事十階層のアンデットドラゴンは心配しなくて良くなったしな。
冒険者に予定外の事態なんてものは珍しくもない。
すべての冒険を予定の内で終えられるなら、それはもう冒険者ではないからな。
そう、予定外の事態なんてものは珍しくもないんだ。
例えそれが極稀に発生するダンジョン現象であったとしても、予定外という意味では珍しくなどないのだと──……




