第二話 実力証明
「あなた、私の部下になりなさい」
そう言って目の前のお嬢様は俺にその綺麗な手を差し出した。
この手を取ることは確定事項……そんな自信に溢れた表情で俺を待つ。
しかし俺には先に聞かなければならないことがある。
それを経ずして手を取れるほど、現状の俺たちの地位は高くない。
「……先に聞きたいんだが、なぜ俺を? 俺は≪ギフトホルダー≫で、〈勇気クラス〉の人間だぞ」
「……≪ギフトホルダー≫。世間からは冒険者適性皆無と言われる者達ね。情報が古いわ。いえ、自己肯定感が低いのかしら? セバス」
「こちらに、お嬢様」
「あれを見せてあげなさい」
「御意に」
俺の問いに目を細めながら答えたお嬢様は、側の執事になにやら指示を出す。
≪ギフトホルダー≫が冒険者適性皆無と言われるのはずっと昔からだ……だが情報が古いとは?
俺が聴取で時間取られてる間になにか変わったのかなっと執事さんの差し出した端末に目を向けた。
『≪ギフトホルダー≫が冒険者デビュー⁉ まさかの快進撃も』
そこにはそんな題の記事が載せられていた。
最近冒険者デビューして名を挙げてる≪ギフトホルダー≫と言えば不破ちゃんだが、はて……。
「読みなさい」
続きを促すお嬢様に一つ頷き、俺は記事の中身に目を通した。
要約すると近頃有名な不破ちゃんに感化された≪ギフトホルダー≫たちが冒険者になり始めたとか、そこで思わぬ快進撃を見せる≪ギフトホルダー≫構成のパーティーがいるとか……そんな内容だった。
「つまりお嬢様はこの記事見て≪ギフトホルダー≫の可能性に期待してるってことなのか?」
一通り読み終えた俺は紅茶を飲んで待つお嬢様にそう訊ねる。
……視線上げたらすっごく絵になる光景だったからちょっとびっくりしたのは内緒。
「違うわ。そんなわけないじゃない」
「ありゃ? 違うのか」
この流れで?
なんでこの記事見せた?
「その記事は今上手くいってる≪ギフトホルダー≫に焦点を当てているけれど、挑戦した母数に対して成功した例は実は少ないのよ。その成功した例にしたって、快進撃は序盤だけでその先は一般の冒険者と同じ……いえそれ以下になると私は見ているわ」
「あー、まぁそんな簡単に上手いこと続くならこんな風潮もできてないもんな……」
「そういうこと」
ダンジョンの歴史は100年以上だ。
その時の中で≪ギフトホルダー≫の認識が冒険者適性皆無と言われる所以は、確かにあったのだろう。
正直どうでもいいけどな。
「俺はただ俺が好きでやってるだけだから、期待も風潮も気にしたことないけどな。何かに感化されるって気持ちは、よくわかるけど」
それは俺が勇者ケンジに憧れたように、な。
「そう、私があなたを勧誘したのはそれが理由よ。世間の風潮が冒険者適性皆無である時代に、先んじてその舞台に立った者達が二人いるわ。それはメグルぽんの不破ちゃんと……あなたよ、宿敵くん」
「……お嬢様ってのはそんなことまで調べられるんだな」
「当然でしょ? 一時期この学園で自らこそ宿敵だと自称する男がいたけれど、私は真実を把握していたわ。だって私、天宝院飛鳥だもの」
だってとか言われても天宝院家とか俺は知らん。
だが、本物の情報網を持ってるところなら俺の情報も丸裸ってわけか、ふーん。
「しかしお嬢様よ、さっき先んじた者が二人って言ったが、俺の他にも〈勇気クラス〉の者はいるだろ? それこそ二年にも三年にも。俺と同学年なら猫と古月だって」
「二、三年の彼らはダメよ。あなたより多くダンジョンに挑む時間があって、それでいて凡人以下の成績しか残せていないもの。さっきも言ったでしょ、母数は多いのよ、成功した例に対してね」
そこも既に調査済みってことね。
あれ?
そういえば俺、猫と古月がダンジョン潜ってるの見たことないかも。
いつも吉沢の授業(という名のダンジョン配信視聴)に付き合ってやってるし。
やはりあいつらも問題児か……と渋い溜息を吐いた。
授業出るよりやることあんだろ、冒険者ならよ……と首をヤレヤレ振っていると
「あなたのクラスメイトたちに関しては事情が特殊なのよ。ま、そこは自分で聞きなさい」
と、お嬢様が訳知り顔で意味深なことを言う。
うん、ぜってー聞かねぇ。
面倒事の香りがプンプンするぜ。
「つまるところ、俺が不破ちゃんに宿敵扱いされてるから興味を持ったってことか。だが悪いな、俺は誰かの下につく気は──」
「──退学、させられそうなんでしょ? 私の部下になるなら守ってあげるわよ。だって私、天宝院飛鳥だもの」
……やっべぇ、完全に忘れてた。
そういや俺、今学園から退学させるかどうかの危うい橋に立たされてるんだった。
連日続く聴取で頭から吹っ飛んでたな。
まぁそれを踏まえればこのお嬢様が守ってくれるってのは助かることだ。
だが部下になれという前提の話なら答えは……
「断るってな。退学の件なら俺が実力を証明すればいいことよ」
ま、十階層突破くらいならなんとかなるだろ。
一般の生徒たちが半年かけて攻略する場所をこの時期に突破……証明には十分のはずだ。
「果たして今あなたが十階層突破を果たしたところで、学園はそれを実力ありとして見てくれるのかしら?」
「あ? いや十分だろ? 普通なら半年かける階層だぞ」
「えぇ、普通ならね。でもあなたは普通じゃない、«ギフトホルダー»よ。さっき見せた記事を覚えているかしら? 今序盤の快進撃は«ギフトホルダー»にとって成されたことよ。それができない者たちをそもそも冒険者としてこの学園は認めない。……さて、あなたは自分が最初だけの一発屋ではないと、証明できるのかしら?」
……そういうことか。
なんでこのお嬢様が最初にあの記事を見せてきたのかわかった。
つまりはこれが言いたかったんだろう。
今変わりつつある世風の中で、更にその上を行けるのか……と。
……普通に考えれば難しいよなぁ。
なんせ十階層より先は日帰りで探索できないのだ。
まともに攻略を視野に入れようとすればダンジョン内泊は必須になってくる。
ボスを倒した後の十階層セーフティエリアで一度野営を挟み、翌日その先の攻略を開始する、ってのが一般的だ。
だが学園の生徒である以上いくら〈勇気クラス〉といえどそれを勝手にするのは許されないだろう。
下手したらその時点で退学処理だな。
その先を求められているのにその先に進むことを許されない……これが蛮勇クオリティってか?
笑っちまうね。
「言っておくけれど、学園にダンジョン内泊を申請しても降りないわよ。これは«ギフトホルダー»蔑視ではなく学園の規則。ダンジョン内泊はみんな一年生で必要なことを学び二年生からとなっているもの」
「だよね……」
俺もその情報は知っていた。
だから十階層の先を攻略するのはムリ。
普通に考えればこの時点で俺は詰んでいて、退学崖っぷちってことなんだろうな。
普通に考えれば。
「さあ、もう諦めなさい。大人しく私の部下になれば全部この私が守ってあげる。だって私は天宝院飛鳥だもの──」
「断る……ってな。悪いね、普通に魅力的な勧誘だってわかってるんだが、俺には俺の夢と、道がある」
「……正気? 退学になるわよ」
「ならないね、残念ながら。俺には実力を示す道が別にある。っていうかもともとやりたいとは思ってたんだ、丁度いい」
「………?」
退学するかの崖っぷち、しかし俺の溢れ出る自信にお嬢様は困惑の表情で続きを待つ。
俺は、一枚のメダルを取り出した。
「守護者討伐の証……? いえ、でも待って、そのメダルは……!?」
流石のなんちゃら家のお嬢様、一目見てわかるんだな。
お嬢様は執事に「セバスッ、あのメダルの情報はある!?」と調べさせたが、答えは「未だ知れない」だった。
「なんなの……!? この天宝院家の情報網を以ってして知られない守護者のメダル……あり得ない、だって始まりの二階層から最高到達階層まで、すべてを把握できてるはずなのに……!!」
霊蓮に希少と言わせる二階層のメダルまで把握してるのは流石だが……惜しい。
このメダルは、その上をいく───!
「存在しない第一階層守護者……これは、その討伐の証だ」
今まで誰一人手にしたことのなかった知られざる守護者のメダル……。
驚愕に目を見開くお嬢様にそれを見せつけながら、俺は宣言した。
「やってやるよ、十階層までの全守護者討伐を──!」




