第二十二話 〝憧れ〟
改稿済(2026/01/17)
◆side~騙るに落ちた男~◆
クソ。
クソ。
クソ。
クソクソクソ、どいつもこいつもクソがよォっ!
俺様の不破ちゃんが配信で嘘を言ってから、周りの俺様を見る眼が変わりやがった。
つい前まではあるべき尊敬の瞳で俺様を見ていやがった連中が、侮蔑を籠めた目線を送ってきやがるッ!
俺様にあんな眼を向けてきて、許されると思うなよクソがッ!
大体、不破ちゃんも不破ちゃんだぜ。
いくら大好きな騎士である俺様の名声を高めたいからって、あれは流石に無理があるってわかんだろ普通。
アーティファクトなんてそうぽんぽん入手報告が上がるもんでもないってのに、自分が手に入れたからって調子こいたか?
やっぱ顔と身体だけの女なんてさっさと利用するだけして捨てちまうべきだった。
いや、あれは捨てるには勿体ない身体してっからな、俺様の下僕にするのもアリか?
周りのおまけ共も一緒に俺様に奉仕させてやってもよかったのに、不破ちゃんに便乗して嘘吐きやがってクソ共が!
「俺様がいったい何をしたってんだ! 下手な嘘ついて俺様の名声に傷をつけやがって、絶対ぇ許さねぇ!」
あーイライラするぜ。
こんなとこで雑魚の魔物共殺してたって、少しの気分も晴れやしねぇ。
……雑魚と言えば、この前の蛮勇のクズは惜しかったなァ。
もう少しで俺様のサンドバックとして活躍できる機会が与えられたってのに、もう引退した冒険者風情が出しゃばってきやがって!
ダンジョンが怖くなったからって、こんなとこで格下相手によくもああイキれるもんだぜ、恥ずかしくないのか?
「あの女も見た目は悪くねぇんだから、俺様みたいに強くてイケてる男にケツ振っておけばいいのによォ! どいつもこいつも馬鹿しかいねェ!」
ダメだ。
やっぱりこの苛立つ気持ちを解消するにはサンドバックが必要だ。
こんな雑魚の魔物共じゃなくて、もっといい声で鳴いてくれる殺しても構わねぇクズがなァ。
「適当に蛮勇のサンドバックを呼び出すか。逆らったらまた俺様の靴でも舐めさせてやれば目も覚めんだろ。ハハハハハ!!」
さて、誰を呼ぶかなァ。
もう面倒臭いし全員呼んでやるか。
並んで俺様のサンドバックとして活躍できる機会を与えてやれば、そりゃ望外の喜びだろ。
「蛮勇のクズにもいい使い道を見出してやれるなんて、俺様も人が良すぎんだろ! ブッハハハハハ!!」
これから始めることを想像するだけで気分も上向くってもんよ!
やっぱ蛮勇の使い道はこうじゃなくっちゃなァッ!!
「お前の人が良かったら、こうはなってないだろう」
「……あァ?」
……背後から声……?
あァ、わかるぜわかるぜェ。
俺様その声を頭ん中で何度ボコボコのサンドバックにしてやったかもうわかんねぇもんよォ……!!
「なァ、蛮勇のガキィ……俺様お前を待っててやったんだぜェ?」
「逃げる先がダンジョン……それも一階層とは、随分と臆病なんだな、タイガくん」
「馬鹿かお前よォ。てめぇみたいなクズでも来られるようにここにしてやったんだろォ? 待っててやった先輩に、まずは一発殴らせろやサンドバックゥゥゥッ!!」
楽しい楽しい、暴力の時間だァ……!!
◆◇◆◇◆
学園の占有ダンジョン、その一階層。
そこに騙り男タイガはいると、にこにこ笑顔の奈落さんから教えてもらった。
「――まずは一発殴らせろやサンドバックゥゥゥッ!!」
「嫌だね」
第一階層で見つけたこいつは懲りた様子もなく、むしろ苛立つ気持ちをまたもや格下相手に発散しようとしている。
装備は身に着けているが、盾もその槌も握る素振りすら見せないことから大変舐めていることがわかる。
「俺も殺す気はないから」
タイガの初動を視認して、問題ないとわかってはいたが念のため抜いていた剣を鞘にしまう。
今改めてこいつを見てわかった。
確かに動きは速いが、それはレベル二とレベル一を比べた時の差でしかない。
こいつ自身の速さはレベル二としては鈍足もいいほうだろう。
そして今の俺にはそれくらいの差なら覆せる力がある。
「【勇気】」
正直全然気持ちが上がらないのだが、それでも強化されたこの肉体……その眼でタイガの動きは容易に視認できる。
その遅い拳を避けることも、強化された肉体を以ってすればどうということもなかった。
「あぁ⁉ クソっ、避けるんじゃねぇよッ! 当たらねぇだろうが!」
当たるつもりもないからな……なんてことは言っても無駄なんだろうなと無言を貫く。
噂や騎士を騙った件からしても恐らくこのタイガという男は防御に寄ったスキル構成なのだと思う。
直撃しても大したダメージにはならないと思うんだが、わざわざ喰らってやる義理もない。
「動くサンドバック相手は楽しくないか? 格下ばかり狙ってたから腕がないんだよお前」
「うるせぇぇぇッ! 蛮勇のクズが舐めた口利きやがってッ! まぐれで一発避けられたくらいで粋がるんじゃねェェ!!」
一発どころではない回数避けたはずだがもうそれはいい。
吠えると共にタイガの身体が赤く光り出している。
あれはなんらかのスキルを発動した際によく見られる光だ。
「遊びは終わりと、そういうことなのか?」
「そうだなァ! お前ムカつくから俺様の一番楽しいやり方で遊んでやるよぉ! 圧倒的な力の差を見せつけていたぶるっていう、最っっっ高に気持チイイやり方でなァ! ギャハハハハ!!」
「なるほど、まだ遊びの範疇なんだな。なら俺ももう少し付き合ってやる」
こいつが遊び気分で俺と対面しているうちは、俺も全力を出さないと決めていた。
そうでないとこのどうしようもない男にはわからないだろうと思ったから。
今まで辛酸を舐めさせられてきた者たちの想いなど、言い訳の余地を残したままではきっとそこに逃げて理解しないに違いないと。
「その舐めた態度がいつまで持つか楽しみだぜェ……!」
下卑た笑みを口元に浮かべ、勝利を疑わぬ顔で動き出すタイガ。
確かに武器もなにも握っていないところを見るに、こいつにとってはまだまだ遊びか。
ずっと避けて無力感を与えるのも悪くないと思ったが、予想以上に肥大化したプライドがポジティブな思考を生み出しているようでこれじゃいつになるかわからない。
「目には目を。歯には歯を。暴力には、暴力を」
言い聞かせるように呟いた。
あの日憧れた勇者を目指す者として、やりたいことでは断じてない。
しかし今後……それこそ学園から去った後でも同じことが起こらないようにするには、少々手荒でも縛りが必要だと思ったから。
圧倒的な力の差による抗えない敗北というものを、それによる悔しさと恐怖を、ここで知ってもらわなければならない。
暴力には暴力を。
それは見る者が変わればこの目の前の男と同類に見えるだろう。
力の差で相手を踏みにじるその姿には、とても憧れた勇者の面影はない。
だが俺はやる。
それでもやるのだ。
見る者が変われば同じクズでも、こうしなければ晴れぬ傷を負った者も確か存在する。
そしてこの先にまた新たに生まれる傷があると知っていて、それを見過ごすことはそれこそできない。
すべてが終わった時、この暴力の敗北者を見て少しでも被害者の傷が癒えるなら。
この先の被害者がその傷を負わずに済むというのなら。
「構わない。俺は今から、魔王になる」
やる意義は確かにここに存在する……俺はそう信じる。
◇
「くそっ、このっ、当たれェェェ! うあっ!?」
それは猪のように……いや、あるいは翻弄される闘牛のように。
走っては転び、起き上がればまた膝を突く。
俺は絶対的な暴力でタイガを打ちのめす。
拳を避け、足を払い、頭をペシっと叩いたりもした。
俺に幾度となく殴りかかってきたタイガの身体には土や泥が付着し、既に息も上がって満身創痍。
タイガもそうなる前に武器を握ろうとしたり、この場から逃げ出そうと試みた。
しかし俺がそれを許さなかった。
この男がいつもの遊びでそうであったように、反抗も逃走も俺がさせなかった。
「……らしい姿なんじゃないか。泥に塗れ、苦悶の表情を浮かべ、地に這いつくばる。お前がこれまでやってきたことだからこそ……本当に、お前にはぴったりの姿だよ、タイガ」
とうとう四つん這いになって動くのをやめたタイガに、静かに告げる。
楽しくない。
面白くない。
自分でも驚くほど冷めた声に、なんでこいつはこんな行為に喜びを感じていたのかまるでわからないと疑問ばかりが湧く。
それが人の個性だと言われても、きっと俺には生涯理解できないかもしれない。
「……どうしてだ」
「ん?」
地面に手を突き四つん這いになった体勢のまま、呟くようにタイガが聞いてきた。
「どうしてお前みたいな奴がそんな力を持ってる……『ギフトホルダー』のくせにどうして……!」
タイガのその静かな叫びを聞いて、俺は思わずはははと笑う。
ちょっと嬉しかったから。
「ははは……初めてなんじゃないか? 俺たちのこと、蛮勇じゃなくて『ギフトホルダー』って呼んだのは」
「んなことはどうでもいいんだよ! 問題はお前がどうやってそこまでの力を手に入れたかだ! ダンジョンに潜れるようになって日の浅いお前が! どうして!?」
どうしてどうしてとうるさい……駄々っ子かと思ってしまう。
思い通りにいかないと駄々をこねるのか?
なら俺たちは……『ギフトホルダー』は一生駄々をこねて生きるしかないな。
そんなものを、彼女はしなかったが。
「その答えは、お前も散々見たんじゃないのか」
「はァ? んなもん俺様が知るわけねぇだろ! そんな特殊な話俺様は聞いたことも……聞いた……ことも……ねぇはずだ……」
俺の言葉に、上を向いていたタイガの顔がまた下に落ち始める。
そうだ、お前は知っているはずなんだ、タイガ。
騙るためにたくさん見てきたお前なら、知らないはずがない。
自身を騎士だと自称する、その理由となった『ギフトホルダー』の存在を。
「ふ、不破ちゃんがアーティファクトを手に入れたのは知ってる……だが! お前は不破ちゃんでもなんでもねぇだろう!? 彼女が手に入れられたからって、お前にもそれができたとでも言うつもりかぁ⁉ アーティファクトなんてそうそう手に入るもんでもないって、俺様に何回言わせれば気が済む……あ? 手に入れた……話?」
「……ただ手に入れられた者が駆け上がり、そうでない者は地道でも己の道を往く。それだけの話だよ。お前は……道を踏み外したようだがな」
「……ま、待て……いや、そんなことあるはずがねェ……だってお前は、『ギフトホルダー』で……」
気付いた真実。
それを必死に否定しようと思考を巡らすタイガは、俺の目の前で顔をくしゃっと歪めた。
「お前がっ……不破ちゃんの騎士だとでもいうのか……?」
絶望の表情。
悔しい、悔しい、悔しい……そんな想いがタイガの頬を雫となって零れ落ちる。
思えばこの男はずっと不破ちゃんの騎士に拘っていた。
世間で宿敵という呼び名が一般になった今でも、この男は騎士としての自分を保とうとした。
その想いは、その想いだけなら、俺にもわかる気がする。
勇者に憧れた俺になら、わからないはずもないのだ。
「惜しい……同じ〝憧れ〟で生きる者同士、愚直に進み続けていればいずれ友となる道もあったかもしれない。だがお前は道を踏み外し、憧れを踏みにじった……!! ……もう、戻ることはできない」
目の前で顔をくしゃくしゃに歪める男を見て、俺も悔しくなった。
なぜ、そうなってしまったのだろう?
なぜ、憧れの背中を見失ったのだろう?
わからない。
けどそれがお前の選んだ道だ、踏み外した道だ、タイガ。
もうお前の中の憧れに、お前が届くことはないだろう。
でも。
「でももしお前が、今からでも己の過ちを認め、贖罪の日々を過ごすというのなら、憧れの騎士には届かずとも……!」
「うるせぇ」
「…………」
憧れを抱く者として、わかってくれるかもしれない。
そんな俺の淡い期待から出た言葉は、たった一言で拒絶される。
やはり俺の抱く憧れに対する理想とは、夢物語でしかないのだろうか?
俺はどれだけ過酷でもこの道を進むと決めた、しかしこの先一生、同じ憧れの道で生きる友には出会えないかもしれない。
それがなんともいえず、俺は悲しかった。
気付けばタイガの手には大きな盾と槌が握りしめられている。
俺が熱くなっているうちに準備していたのだろう。
俺の話なぞ、聞く価値すらないと判断したか……はは。
「それでいいんだな? タイガ」
「うるせぇって言ってんだろ……!! 俺は騎士になるんだよ……! 今はお前が騎士だとしても! お前の持つアーティファクトさえ手に入れば! 名声も騎士の座も全部元通りだァァァァッッ!!」
落ちるところまで落ちた人間、それを今俺は見ている。
道を踏み外し、例え這うことになったとしても、地の底ではなく壁を這って上がることができさえすればと……そんな期待があった。
でももう今は……ない。
「決着をつけよう、この醜い争いに。我が想いに応えろ……【応答剣】」
自分もこうなる道があったとしたなら。
そんな迷いを断ち斬るように、抜剣した。
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