第二十話 届かぬ橋事情
改稿済(2026/01/14)
「……退学?」
吉沢からの着信、そこで告げられたのはなんとそんな悲報だった。
俺が退学とは、いったい何がどうなってそんなことになるのか。
心当たりといえば学園さぼって地元のダンジョンに通い詰めてたことくらいしかないぞ俺は。
「なんらかの陰謀……か?」
『いや今お前が考えていただろう心当たりで間違いないと思うぞ』
吉沢に現実を突きつけられる。
しかし吉沢、俺が学園さぼった期間がまだそんなに長くないんだが、問題になるの早すぎやしないだろうか?
これくらいならまだ病欠で済む話だと思うんだが……。
「あー、もしやタイガとかいう男が関係してたりするか?」
これは流れ的になんとなくあいつが絡んでいる気がしたので聞いてみる。
というより、俺の行動を問題視するのはこの段階だとあいつくらいしか思いつかないのだ。
『正解だ。なんでもタイガという男は不破ちゃんの騎士であるらしく、それをお前が騙ったという理由で一度面会を求めていたらしい。そこになって登校していないことが明らかになったわけだな』
「ほへー、流石ユートピア学園、俺たちの隙を見逃さないわけだ? ところでタイガって奴が不破ちゃんの騎士だと、吉沢は信じてるのか?」
『馬鹿やろー。信じるわけねぇだろ。あんな雑魚に不破ちゃんの【断絶】は防げっこねぇよ』
興味本位で聞いたら思ったより判断材料が現実的だった。
流石ダンジョンオタクなだけあってこういうときはちゃんと実力で冒険者を計るらしい。
この男ならもっと感情で熱くなるかとも思ってました。
やるな吉沢ァ!
『教師陣も信じる信じないはまちまちだが、事実は別としてお前の行動を非難したがってる奴らはいる。ま、いつもの『ギフトホルダー』蔑視だわな』
その『ギフトホルダー』である不破ちゃんが絡む案件であっても、彼らにとってそこは見ぬふり知らぬふりか。
しかし困った、俺はまだ学園での目的を達成していない。
それを成さずうちに退学というのは、俺としてよろしくない事態だ。
先の吉沢の口ぶりからすればまだ確定ではないような言い方だったが、果たしてそこに希望はあるのだろうか?
「単刀直入に聞くけど、俺が退学を免れるために必要なことは?」
『お、やる気だな? 幸い学園側も入学早々退学ってのは外聞が悪いからな、時間はある。来月から始まるダンジョン内実技演習期間内に、より深くまで攻略を進める。それだけやれば実力に不足なしと、とりあえずの間は認めさせられるだろうよ』
ダンジョン内実技演習……もう始まるのか。
しかしなるほど、そこで俺の実力をアピールできれば、冒険者を育成する機関として退学にはできない。
もっとも時間と共に全体の攻略も進むだろうし、そうなると俺の実力もまた示す必要があるから足踏みはしていられないが。
しかし……ふむ。
「……なぁ吉沢。別に他の一年と大差をつけてしまっても構わんのだろう?」
『……ククッ。あぁ、それが今のお前にできるというのなら、身に着けたその力、存分に見せつけてやれ。頭の固い馬鹿共が、ぐぅの音も出ないほどにな』
「『クックックック……!』」
悪い笑い声が共鳴する。
そうだ、どうせなら自分たちが優秀だと信じる彼らに見せつけてやろう。
お前らが馬鹿だ弱者だと嘲笑する存在が、一体どれだけ先にいるのかを。
不破ちゃんが見せた『ギフトホルダー』の可能性を、今度が俺が奴らに証明する。
今度の実技演習、俺が狙うは十階層突破だ。
そこは学園入学から半年という時間をかけて到達するのがセオリーだが、俺はそこに入学一ヶ月で到達する。
いや、来月までまだ時間もあるし、もしかしたらもっと先を目指せるかもしれない。
なんにせよ、今から刃を研いでおかないと。
「……あ、そうだ吉沢。話は変わるが俺、明日からまた学園登校するから。来月とか待たずもっと早く十階層突破もあり得るかもなっ」
『なんだ、随分と戻ってくるのが早いじゃねぇか。おーけーおーけー、猫と古月にもそう伝えとくよ。んじゃ、また明日な』
通話はそこで終わった。
思えばまだ学園は授業が残っている時間だし、隙間時間で通話を掛けてくれたのだろう。
通話の切れた画面を見る。
ここでの目標が達成されたらまた次がやってきたわけだが、もともと俺は学園生。
学園でひと時の青春ってやつを味わうのも、ありなのかもしれない。
「……お話は終わりましたか? 退学園生さん」
「学園生だ、まだな。あぁ、てことで明日からはまた学園生活だ。ここでの目標も達成したとこだったし、丁度よかったよ」
「はんっ。結局不破さんとの邂逅はなしですか。つまらない男ですね」
「なんで俺がお前に酒のネタを提供しなきゃならん。それにいつかまた会える日もくるさ。なんたって、宿敵だからな」
俺がそう言えば、瑠璃桜の口元に笑みがこぼれる。
その顔はまるで、見守ることに楽しみを覚えた慈母のようだった。
「………?」
なんでそんな顔をするのか俺にはわからなかったが、俺も冒険者なら彼女も受付嬢、視点が違えば見え方も違うのだろう。
この場でそれ以上の会話はなく、俺は何も言わずギルドを出て行った。
◆side瑠璃桜◆
面倒な少年がギルドを去ります。
いつもダンジョンと冒険に夢を抱いていますと言いたげな彼は、これからしばらく来ることはないでしょう。
想い人に負けたくないとか、対等でありたいとか言っている彼ですが、私が若かった頃だってそんな甘い青春は送っていません。
本人はただのライバル関係だと否定しますが、あれは黒ですね、間違いないです。
霊蓮さんとの女子トークでもあれは怪しいと意見が一致していますから。
まぁ大分聞き手特有のこうなって欲しいという想いがないとはいいませんが……。
実のところ、私に相談にくるのは彼だけではないんです。
そう、誰あろう、自称ライバルの不破さんも相談に来るんです。
周りに同じ女性の大人がたくさんいるのに、どうして私に? と思ってはいけません。
メグルぽんは不破さん過激親衛隊ですから、男の話など血涙もので語りたくもないでしょう。
そうこう彼らの届かぬ橋事情に悶々とした時間を過ごしていると、件のメグルぽんが帰還する時間になりました。
「そろそろですね、霊蓮さん」
「よっしゃ、またお仕事の時間やなぁ」
ここには二時間ほど前に魔石の取引きから戻ってきた霊蓮さんもいます。
彼女はもともとメグルぽんと契約してここに出張してきているわけですから、当然ですね。
「問題は彼がしばらくここに来ないと、不破さんにどう伝えるか、ですね」
「アイスのにーさんも不破たんも、ウチらに同じ要求してきよるんだもんなぁ。参ったるで、ホンマ。ケラケラケラ」
そう言って笑う霊蓮さんですが、その表情は明らかに楽しんでいる人のそれです。
かくいう私もなんだかんだこの新しい日常を楽しんでいるので、人のことは言えませんが。
その後無事にメグルぽんの皆さんが帰還して、霊蓮さんはリーダーのソラさんと話し込むことに。
長い付き合いということで不破さんを除くメンバーも向こうに行っているようですが……
「……力が、足りない」
私の前では相も変わらず、不破さんが一人話しかけてきます。
さて、力が足りないとはどういうことでしょうか?
この娘の実力は配信でも見ていますが、潜り始めて一週間程度であの実力は脅威と言って差し支えないです。
むしろ宿敵さん含めこの子たちが異常なだけであって、一般の冒険者はもっと苦労しつつ階層を攻略していくもの。
しかしそれを言っても詮無き事なのは把握済みです。
なにせこの娘も宿敵さんも見ているのはお互いのことばかりで、一般の有象無象のことなど「そんなのもいたね」くらいしにか認識していないだろうからです。
私は彼女の発言から数瞬のうちに答えを考え、口にします。
「どうやら宿敵さんもアーティファクトを手に入れたようです。けれどこれでやっと同列になったくらいでは? 無理ある冒険は命を脅かしますよ」
しかし私のこの返答は間違いだったようで。
「……! やっぱり足りない! 私のアーティファクトは広域殲滅型、あいつならアーティファクトなんてなくても突破してきた! そこに加わる新たな力……? やっぱり足りない!」
と、明らかに動揺して更なる力の欲求を高めてしまった様子。
両者から話を聞く度に思うんですが、どうしてお二人とも互いのことを過剰に高く見るんでしょう?
そりゃ確かにアーティファクトの力は絶大ですが、そもそもの振るう矛先が宿敵さんで決定しているその発言は如何なものかと……?
とりあえず一旦落ち着かせる意味も込めて、しばらく宿敵さんがここに来ないことを教えてあげましょう。
不破さんもまた彼と同じように、今は会いたくないと私たちに頼み込んできた口ですからね。
きっとこの情報はここで探索をする上での安心材料になるはずです。
教えました。
「……ふーん、そっか……」
…………。
いや、なんです!?
その切なそうなお顔は!?
あぁぁぁぁ甘いぃぃぃぃ。
この子たちの届かぬ橋事情を仲介されるこっちの身にもなってください!
もじもじしないで!
髪の毛くるくるしないで!?
「またいつか会えるかな……」とか呟かないでぇぇぇぇっ!
「はぁ……はぁ……はぁ……」
「……? どうしたの?」
「……お、お気になさらず……」
心の叫びで息が上がるなんて、生まれて始めての経験です。
あぁ、これはまた霊蓮さんとの女子トークが盛り上がってしまいますね……。
あ。
おつまみの和菓子、どうしましょう?
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