第十六話 『ギフトホルダー』だから
改稿済(2026/01/09)
「ろろろ、ろくじゅうまん⁉」
ろくじゅうまんってなんだ⁉
まさか六十万なんてそんなことあるわけないし、きっと俺の聞き間違いだよな。
「そやで、六十万や。どや?」
「ろろろ、ろくじゅうまん!?」
ろくじゅうまんってなんd痛ったぁ⁉
「思考ループはやめなさい! 時間が勿体ないです!」
「いてぇ」
この受付嬢め、遂に暴力まで振るってきやがったな。
いつか絶対ぎゃふんと言わせてやる。
大体思考ループするのも仕方のないことなんじゃないか?
六十万って、学生がぽんと手に入れていい額じゃないと思う。
上位冒険者が稼げるのは知ってるど、俺はまだまだ駆け出しだしな。
「いやはや守護者の魔石は高いとは聞いてたが、まさかそこまで高値がつくとは。始まりの二階層の守護者だぞ?」
守護者が現れるのは二階層からだ。
少なくともダンジョンが現れてから百年、一階層で守護者は目撃されていない。
そういうところもチュートリアル階層らしく優しい創りだと思うがそれはさておき。
つまり俺が倒した二階層の守護者は、守護者界隈では最弱の最低ランクでしかないのだ。
魔石が高いと言っても精々二、三万で売れるくらいなもんだと思ってたよ。
それが六十万……。
「そうですね、個体から得られる魔石の強度や濃度からいえば、精々三十万が妥当なところでしょう」
「さささ、さんじゅうまん!?」
さんじゅうまんって――あ、はいやめますだから殴らないで。
「この魔石をそない見方で計るなら、確かに三十が妥当やな」
遂に単位をつける手間すら省いた。
もう万で単位は固定なんだな……。
「でもな。この守護者の魔石は希少性って付加価値がえらい高いんよ。下手したら百は軽く超えるほどにな」
「ひゃひゃひゃ、ひゃく!? かるく!? ひゃくって――」
「うるさい!」
「いてぇ」
この女遂に敬語すら使うのやめやがったぞ。
しかもグーパンはやめろ、グーパンは……。
まぁでも俺もちょっと取り乱し過ぎたかな。
ここまで来たらこれはもうそういう案件なんだと思って臨もう。
「売るとこに売ればって話や。ギルドに売るなら三十で買い叩かれる可能性もある。ま、そこはウチが頑張るとこやから気にせんでええ。大事なんはこの魔石が如何に希少かってとこや。理由わかるか?」
二階層の守護者の魔石が希少な理由、か……。
そもそも守護者の魔石が希少じゃない例がないからなぁ。
レベル差を埋める実力と死を恐れぬ覚悟があって、初めて守護者と戦える。
そこから勝ちまで辿り着いた例なんか年に一回か二回聞くかどうかだもんな。
なんなら討伐報告の出ない年だって普通にあるほど。
一レベルを覆す実力がついた頃には狙ってたその守護者とレベルが並んで出会えませんなんてことは珍しくも……ん、これか?
「もしかして、二階層でレベル差を覆す実力持ちがなかなかいない?」
冒険者も人間だ。
その冒険者が実力を高めるのにも時間と運と経験とと、絶対に欠かせないものがある。
そしてそれを獲得して実力が高まってきた頃には、二階層なんて浅い階層は適性帯じゃなくなっていることだろう。
守護者は適性レベルの者の前にしか現れない。
ここでいう適性レベルは階層のほう、つまり確定的にレベルが上の魔物と戦わされるからこそ守護者は忌避されるのだ。
そしてだからこそ二階層の守護者は倒そうと思っても倒せる時には出てこない……というジレンマが発生する。
こう考えると希少性が高いという話にも合点がいく。
低い階層でしか手に入らない代物だからこそ、熟練と呼ばれる冒険者には手が出せないわけだ。
なにせ熟練になった頃には少なくともレベル一はほぼ確実に脱却しているから。
俺の回答に霊蓮は満足そうにうむうむと頷く。
どうやら正解を得られたらしい。
「その通りや。少し訂正するならなかなかおらんのやなくて、まったくおらんかった。初めから守護者と渡り合える冒険者なんぞ、それこそ『ギフトホルダー』でもない限りありえへんよ。そういうワケで、二階層の……正確にはレベル一が適正階層の守護者は討伐不可能とまで言われとった」
霊蓮はそこで一息つくと茶を啜り、受付嬢が持ってきた守護者の魔石に目をやった。
釣られて俺も改めて観察するが、やはり守護者から得られた魔石としてはかなり小さい。
だがこの小さな魔石一つに何十万という金が動くのだ。
俺は思わずゴクリと唾を飲み込んだ。
「そ、それじゃあ霊蓮はこれに六十万の価値ありと見たんだな。正直俺にはわからないが貰えるというのなら文句はない。これで取引成立でいいのか?」
「なんや、もっと釣り上げてこんのか? さっきも言うた通り、売るとこ売れば百は下らん代物やで? ホンマに六十でいいんかいな」
いやもう六十でいいから早くこれを手放したい。
金に換えれば銀行預けて一安心できるが、こんな小さな石ころ失くしたらと思うと震えちまうよ。
それになんとなくだがこの小さな買取屋と値上げ交渉してたら逆に値下がりして買い叩かれそうな予感がするんだよなぁ……。
俺は無言でしっかりと頷くことで了承の意を示す。
これ以上は取引が終わるまで迂闊に話さない構えです。
「……ちぇ。まだ若い思てたのに存外勘が効くなぁニーサン。ウチは門外漢やけどそういうの大事なんやと思うで、冒険者って職種にはな。ケラケラケラ」
その後、正式な書類で以って記録を取り、守護者の魔石の売買は完了した。
六十万という大金をそのまま持って歩くのは不安でしかないので、ギルドの銀行を利用してそこに預ける。
今後は冒険で得られたお金は全部ここに入金する方向でやっていくことにしよう。
「アイスのニーサンはこのままダンジョンかいな? どの辺まで潜るん?」
取引が終わり、一息ついたところで霊蓮が聞いてくる。
二階層の守護者を倒せる実力があるならもう五階層まで行っても大丈夫そうだが、俺の目的はダンジョン攻略と合わせて一撃を高めるアイテム収集もある。
よって三階層の置き物ブロックに挑戦するのだけは絶対にやっておきたい。
「しばらくは三階層かなぁ。置き物ブロックからアーティファクト出るかもって期待してる」
「あのレアモンスターやな。不破たんがアーティファクト出してから三階層はめっさ人集まっとるらしいわ。こない辺境は例外みたいやけど、独り占めできてええやろ?」
「完全ソロで進める実力があるうちはな。もっと深い階層に行けば一人じゃ手が足らなくなる」
その辺の事情もあって転移陣が普及している現在でも、辺境のダンジョンは人気がないのだ。
完全ソロで階層全部の魔物を相手するより、他の冒険者チームが間引きした中を適度な緊張感で進むほうが安全だし、誰だって命は大事だからそっちを選ぶ。
俺もいつまでこの辺境ダンジョンでソロ活動できるのか、はっきり言ってわからない。
それはどれだけ運に恵まれるかもそうだし、どれだけ努力が実を結ぶかでも変わることだからだ。
だが、かつて完全ソロでダンジョンに挑んだどの冒険者も、必ず何処かで躓き、挫折した。
その例に漏れた冒険者など、今まで一人もいなかったのだ。
「ウチはそのうちアイスのニーサンもメグルぽん加わるんちゃうかなぁて予想しとるんやけど、その様子見るに今はそんな気ぃまったくなさそうやなぁ。不破たんとアイスニーサンのコンビ、人気でそうでウチ見てみたいんやけどなぁ。ケラケラケラ」
「俺がメグルぽんに入ったらファンに殺されるよ……。多分配信に映るだけでも炎上するんじゃないかなぁ」
メグルぽんは見目麗しい女性たちで構成されたパーティーだ。
そこに野郎の影なんか映ったら身元特定からの嫌がらせの毎日……考えたくもない。
不破ちゃんとは良き宿敵であり続けたいけど、それ以上もそれ以下も続く関係なんか望んじゃいない。
「不破さんといえば、今日の配信でタイガという名前を騙る何者かがいるから気を付けろ、というコメントがたくさん寄せられているようですね。経緯は知りませんが今ネットでは宿敵さんの正体はユートピア学園のタイガくんということになっていて、それに嫉妬した落ちこぼれが名前を騙っているのだとか。私この先の展開が楽しみで仕方ありません宿敵さん!」
……なんかすっげぇことになってんな。
「ワクワクしてるとこ悪いが、特に訂正するつもりも対抗するつもりもない。真実が明らかになったところで得られるものは高々名声だけ……そういうのは別口で得る予定だから今はむしろいらないんだ」
「「ちぇ」」
ここでいう別口ってのは勿論勇者のことだ。
俺は名声を得るなら勇者としての実力を備えてからがいい。
不破ちゃんの宿敵というのはただの彼女との関係であって、名声を求めるものではないと思っている。
だからお前らそんな「つまんなーい」みたいな顔でこっち見てくんな。
しかしネットで広まるその噂は十中八九あの騙り男……タイガによるものと見て間違いないだろう。
あの日の接触から学園には行っていないが、もし登校していればダンジョン内外問わず嫌がらせでもされていたのかもしれない。
「やっぱり早急に実力を高める必要があるか……。『ギフトホルダー』の有利を活かすとしても、三階層でアーティファクトは手に入れたいところ……」
「あぁ、それやったら多分心配いらないと思うで」
「ん? どういうことだ、霊蓮……?」
今一番の心配事であるアーティファクト獲得について思い悩めば、霊蓮はけろっとした顔でそう言った。
心配いらないとは、もう既に置き物ブロックからアーティファクトが得られる条件が明らかにでもなったのか?
「置き物ブロックな、ここ最近ぎょーさん冒険者が狙ってるいう話したやろ? そこである程度の条件が見えてきたんよ。まず、既存の冒険者ではアーティファクト獲得は無理や」
「はいありがとう霊蓮俺もう行くね」
「まぁ待ちぃニーサン。話続くねん」
齎された結論にその場を立つ俺をガシッと止める霊蓮。
別に俺は霊蓮の言葉を信じてアーティファクトを諦めたわけではないが、果たしてその話信憑性はあるのか?
「ニーサンが欲しがる結論から言うとな、『ギフトホルダー』ならアーティファクトは手に入る! ……かもしれへん。まぁそこはニーサンが検証してくれるとウチは信じとるで」
「信じてくれるのは構わないが、まだなにか条件があるんだろ? 詳しく教えてくれ」
「よしきた! といっても条件はたったの二つや。適正レベルで、一撃で倒す。これだけ成し遂げればアーティファクトは手に入るんちゃうかって話を友達としとんねん」
「まぁ今のところ手に入った実例が不破さんの一件だけですからね。これは宿敵さんに先駆者となってもらわないと」
なるほど……言われてみれば納得だ。
確かに不破ちゃんが実例となって以来、多くの冒険者が挙って置き物ブロックを倒した。
が、アーティファクトを手に入れたという報告はただの一件もない。
霊蓮の推測が正しいとするのなら、三階層に適さないレベルで挑んでもアーティファクトは出てこない、ということなのだろう。
三階層の適正レベルは一。
そして一撃を極めんとする俺が持つ【剣斬】なら可能性はある……か。
「一撃でってのは不破ちゃんの例からか? ていうか友達と話してるってこの受付嬢のことかよ……仲いいんだな」
「ウチらはもうマブダチや! メグルぽん待ってる間も桜ちゃんがいるから暇せぇへんのや」
「一撃に関しては狙っておくのが安牌です。わざわざ成功例から外す必要もないでしょう。あと私のことは瑠璃桜さんと呼びなさい。気安く桜なんて名前呼びしたら殺します」
ここで発覚、名前も知らない受付嬢さん、瑠璃桜桜なる名前と判明。
瑠璃桜さんも桜さんもあんま変わらん気がするが、俺も名前呼びなんてしたくないので瑠璃桜と呼ぶことにする。
「へいへい瑠璃桜ね。それじゃ条件も見えてきたことだし、そろそろ行ってくるわ。レアモンスターは見つけるのがそもそも辛いんだよなぁ……」
「そこは気長に頑張りやー。メグルぽんは夜七時には戻ってくるで、鉢合わせたくないなら覚えとき」
「精々頑張るんですね」
いつもの装備を纏った俺はそんな二人の軽い声援を受け、手を振りながらダンジョンの三階層へと潜り始めた。
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