第十四話 不破ちゃんなりの第六階層
改稿済(2026/01/08)
不破ちゃん……というかメグルぽんの動画ちゃんねるを開けば、ちょうどライブ配信が始まったところだった。
場所は五階層、セーフティエリアとなっている。
不破ちゃんがボスを倒したことで解放された安全圏、そこからの配信開始ということはつまり……
『やっは下種共! 五階層突破後のお休み期間も終わり! 今日からは六階層潜っていくぞー!』
第六階層より先、『亡者の王国』に進むということか!
自分はまだ二階層をうろついているだけで六階層なんて先のことではあるんだが、それでも不破ちゃんがそこでどう戦うのかには興味がある。
六階層からはアンデットと呼ばれる類の魔物が現れるが、あいつらを果たして不破ちゃんはどう処理して進む?
今までのように無作為に【断絶】なんかしてたらえらいことになるぞ……。
「予習するつもりでいたんだが、ちょっと配信眺めてくか」
幸いもう不破ちゃんたちは六階層のすぐ手前まで来ている。
戦いをちょっと見てその後予習に移っても、大したロスにはならないだろう。
六階層の不死者はグロくもないし、朝食後でも安心だ──……。
◆sideメグルぽん~ソラ姉~◆
くくく……六階層からはアンデット蔓延るリアルお化け階層。
幼気なおにゃのこである不破ちゃんが怖がって私に「助けて! ソラお姉ちゃん……!」なんて言ってくっついてくる光景が目に浮かぶわぁ……!!
「うえへへへ……不破ちゃん、大丈夫よぉ……私が守ってあげるからねぇ……もっとくっついていいのよぉ……ぐえっへっへっへ……!」
「……不破ちゃん、こっちおいで。あっちは危ないから」
「……いつものこと。ソラ姉はいつも危ない人」
「「「「それもそっか……」」」」
ん?
なんだか冷たい視線を感じるわね……。
まだ五階層なんだけど、まさか六階層のアンデットの眼光がここまで……?
「気を付けて不破ちゃん! さぁ早く私の後ろへぇ! ふひひひっ……」
〈コメント〉
:うーんこれは犯罪者
:百合百合は歓迎だがこれは百合ではない
:なんかグロくないか?
:メンバーのあの冷たい視線……ハァハァ
:不破ちゃん完全スルーで草
:下種はお前じゃソラァ!
:ナカーマ(^-^*)人(*^-^)
なんだかコメントが騒がしいみたい……けど私今忙しいからあとでね。
私はこの時を待ってたんだよぉ!
不破ちゃんまじ天使作戦は今のところ順調で。
ある程度の反発はあれど予想範囲内に留まった。
今世界中の冒険者、そして『ギフトホルダー』が私たちの配信に……いいえ、不破ちゃんに注目している。
まぁその注目の要因に不破ちゃんがボス相手に放ったアーティアクトがあることは否定できないのだけれど……あれシナジー凄すぎない?
まぁとにかく!
「既成事実を作るならココォ! 秘密裏に練った『ソラお姉ちゃん大好きちゅっちゅ! 作戦』を開始するのよ!」
「……ソラ姉うるさい。静かにして」
「おっとごめんね不破ちゃん。ちょっと考え事してたのよ、とっても大事な……ね」
「……そう」
〈コメント〉
:まさかこいつ……気付いてないのか?
:思いっきり声に出てますよ
:ソラさんはもっとリーダーとして適役な方だとばかり思ってました
:下種な表情→妄想中 真剣な表情→取り繕い中
:こんなところで新たなソラさんの業が発覚とは
:やっぱ下種はお前じゃソラァ!
:不破ちゃんの変わらぬ態度猛者すぎる
:っぱ不破ちゃんよ! 推し推し
ふぅ……さて、と。
おふざけはこの辺にしときましょうか。
作戦なんて大仰に言っても六階層に入ればそうなるのは自然の摂理。
なにも焦らなくていい、考えなくていい、ただ……感じるだけ。
「準備はいい? みんな、不破ちゃん」
「「「「ええ」」」」
「うん」
私たちの前にあるこの渦が、六階層から先十階層まで続く『亡者の王国』への入り口。
ここから先は今までのような不破ちゃん蹂躙劇は通用しない。
それを確認する意味も含んだ私の問いに、仲間たちは頼もしい返事を返してくれた。
「それじゃ行きましょ。リアルお化けかいそ……う゛う゛ん゛っ! ――『亡者の王国』へ!」
やっぱり冷たい視線をこの身に感じながら、私は六階層への渦を潜った。
さぁ不破ちゃん覚悟なさい。
ここから先は……一人じゃ耐えられないわよ?
ギィンッ ギャリリリ… キィンッ
月が輝く闇夜の墓地。
そこに迸る火花の閃光。
迫りくるは赤い光を宿した骸の眼光。
私たちメグルぽん古参メンバーにはどうということもない敵だ。
この真夜中の墓地のようなフィールドも、長く冒険者をやっている私たちなら恐れるに足らない。
でも敵と同じレベル一で、尚且つ不利な武器で相手しなければならない不破ちゃんはというと……
「……っ、刃が、通りにくい……!」
斬撃が効きにくいというその魔物、スケルトンの対処に苦難しているようね。
あの大鎌は私が餞別にとプレゼントしたもので、属性も付与された一品ではあれど打撃武器ではないわ。
スケルトンに斬撃は効きにくく、代わりに打撃が有効的。
大鎌では一匹処理するのにも苦難するでしょう?
絶対の安定武器なんてものがないのがダンジョン、これも経験よ。
「不破ちゃん! いつでも私のところに来てね!」
「……そんな嬉しそうに言われるの、ムカつく……!!」
「あ~ん。でも私たちはレベルが違うから、斬撃でも楽勝だし? 不破ちゃんをいつでも援護できるってことは、忘れないでね」
「……ん!」
うむうむ、苦難しながらも落ち着いて対処できてるわね。
なにかあっても私たちがいる、という安心材料はあれど、不破ちゃんはきっとそんなの頼ってないんでしょうね。
スケルトンの相手は片手間にもならないし、少しコメントに反応しとこっかなー。
〈コメント〉
:不破ちゃんが苦戦してる?
:ひぇ骨が動いてる……キモッ
:どうしていつもみたく【断絶】使わないの?
:確かにあれ使えばこんなの一瞬でしょ?
:ふっ、お前らダンジョンを舐め過ぎだ
:お、お前はっ……⁉
:知ってるのか⁉
:……知らん
:ずっこけーー!
……なんだか愉快なコメントが飛び交ってるけど、戦闘中は反応できないから下種同士で談笑してるのね。
でも今はそんな戦闘なんて呼べることしてないし、下種共の疑問にも答えておきましょう。
「それいい疑問よ下種男くん。不破ちゃんがなんで唯一のスキルである【断絶】を使わないのか……それはね。ここの魔物がアンデットだからよ」
〈コメント〉
:???
:それじゃわかんねっす
:俺は訳知り顔で腕でも組んでおくかね……
:ソラさんの解説だぞお前ら傾注ー
:アンデットなのは見たらわかる
;ソラたんの焦らし……ハァハァ
うんうん、私の解説役を奪わないその姿勢は素直に好きよー。
でもなんでも変に曲解して興奮する下種くんは早く捕まって欲しいわ。
「ま、焦らすのもあれだし答え言っちゃうとね。スケルトンは頭以外を壊しても死なないのよ。いえアンデットだし消えないって言ったほうがいいかしら? まぁとにかく……不破ちゃーん! ちょっと【断絶】で一掃してー!」
「……ん!」
こういうのは実際に見てもらったほうがわかりやすいわよねー。
そんな私の意図をすぐに汲み取って頷く不破ちゃんも流石だけど、相思相愛ならこんなものよ、ぐへへ!
「……【断絶】」
不破ちゃんの一撃、その薙ぎ払いでスケルトンの身体がバラバラに斬れていく。
いくら斬撃耐性が強いからって【断絶】は流石に防げないみたいね。
さてここから。
地面に崩れ落ちたスケルトンはそのまま動きを止めると、急に周りの骨と共鳴するかのようにカタカタと鳴り始めた。
「……これいつ聞いてもジ〇リのあの映画に出てくる森の精霊にしか――」
「「「「シャラップ!」」」」
はいごめんね、少しふざけちゃった。
私だからこうして余裕の態度でいられるけど、適正レベルでここに来た人は絶望する展開だったりする。
だってほら、消えずに崩れた骨が寄り集まってどんどん固まって巨大化していく。
そして出来上がるのは……
「久しぶりに見たわこれ。というか生で見るのって初めてじゃない? がしゃどくろ」
スケルトンの合体個体、がしゃどくろ。
こいつはここで出現するスケルトンの軽く十倍はある巨体で、タフさも膂力も比較にならない強さを持つ。
その上歩幅がデカいのも相まって緩慢な動きのくせになかなか引き離せないから、冒険初心者を泣かせること間違いなしの罪深い奴なのよ。
「さぁがしゃどくろ! あなたを起こした罪深いおにゃのこはそこよ! 彼女を泣かして私にすり寄らせるのよぐへへへへ!」
〈コメント〉
:こいつサイテーだ⁉
:冒険者の風上にもおけん下種め
:これやばいんじゃないの⁉
:うわー不破ちゃん逃げてー⁉
:レベル一でがしゃどくろは無理ゲー
:流石に遊びすぎだぞソラ!
:ちゃんと責任取れよー
はんっ!
責任?
もちろん取るわ!
取らせていただきます!
安全圏から指を咥えることしかできない下種共に、私の不破ちゃんは渡せないの。
不破ちゃんは私が貰う。
誰から何を言われようと、私の歩みを止めることなどできはしないのよ!
さあがしゃどくろ!
私の夢の『ソラお姉ちゃん大好き! ちゅっちゅ! 愛してる! ずっと一緒にいて……ね? 作戦!』を現実のものとするのよぉ!
「――ん、【断絶】」
オォォァァァ……がらがら……
「……へぁ?」
今……なにが……私の夢を叶えるがしゃどくろ君はどこ……?
「……ん。がしゃどくろ、的デカすぎ。一体だし楽に倒せる。ありがとソラ姉、いい狩り方見つけた」
「不破ちゃん……」
「この調子で狩ってくるね。……【断絶】」
〈コメント〉
:六階層の新しい攻略法見つかって草
:スケルトンがウザい? 合体してがしゃどくろ一体にできるよ!
:不破ちゃんにとってはがしゃどくろにした方がやりやすいんだね
:っぱ不破ちゃんよ! 推し推し
:ていうかソラさん息してる? 微動だにしないけど
:ダメだ死んでる……ただの屍のようだ
:亡者の王国に亡者一匹追加、と。メモメモ( ..)φ
:ソラ……いい奴……いい……奴ではなかったな
:なんだ万事解決か。ヨシ!
「あへぇ……?」
◆◇◆◇◆
「まさかわざとスケルトンをバラバラにして、がしゃどくろを【断絶】で一撃とはな……」
配信にがしゃどくろが出たときはちょっと興奮した。
今までにも見たことはあったが、それはダンジョン出現当時に地獄絵図と呼ばれた動画でのことだったので、落ち着いて見れなかったのだ。
しかしその地獄を生み出したがしゃどくろでさえ、今不破ちゃんによって一つの攻略法になり下がった。
「流石だな。流石俺の宿敵を自称するだけはある!」
言ってて少し、いやかなり自分が焦っているのがわかる。
このままでは俺は、そのうち置いて行かれる序盤の踏み台ライバルキャラになってしまう……と。
もちろんキャラどうこうはただの例えだが、置いていかれるこの焦りに嘘はなかった。
それに携帯端末で見た情報だが、どうやら不破ちゃんは五階層ボス部屋で例のアーティファクトを使ったらしい。
不破ちゃんの【断絶】とのシナジーが凄まじく、一度で使い切りになるわけではないようなのにその力は常軌を逸していたのだとか。
「やはり俺も三階層でレアモンスターを仕留めるしかないな……一撃で」
不破ちゃんが一撃で仕留められたなら、宿敵である俺にできない道理はない。
いやできるできないではなく、やるのだ。
こと一撃に関して、俺は不破ちゃんにも他の誰にも、譲れない矜持を抱いて冒険者になったのだ。
俺の一撃は、置き物ブロックに通じるはずだ。
問題は見つけるのにどれだけかかるかだ。
置き物ブロックは移動こそしないが、階層のどこにいるかは完全ランダム。
最悪階層の端から端まで探すことに……。
「もう予習なんてしてられない……! 早いとこダンジョン行こう!」
宿敵不破、俺はお前に負けたくない。
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