第十二話 戦利品
改稿済(2026/01/05)
「今なんか聞こえたか? ……気のせいかな」
二階層の守護者、ゴブリンメイジを打倒した。
その際、頭に中になにやら声のようなものが聞こえた気がしたが、すぐにどうでもよくなった。
なにせ……
「ハハハ! 冒険者になって初めての守護者討伐! やればできるではないか俺! やればできるではないか『ギフトホルダー』! ハハハハハ!」
俺は今、多くの冒険者が畏怖する守護者という存在を、この手で、一人で倒したのだ。
思わずルンルン気分で小躍りしてしまう。
この行為を咎める者など何処にもいないだろう。
そして俺が守護者を討伐した勇姿を見た者も何処にもいないだろう……。
「……やっぱ観客は必要だよな。吉沢の要請きいておくんだったかなぁ……」
俺が地元ダンジョンに潜るという話をした際、吉沢より配信してくれという要請があったのを思い出す。
あれを聞いていればあるいは俺も不破ちゃんのように認められたかも……。
「……ないな。勇者の一撃を極めるのは認められたいからじゃない。俺がそうしたいからそうするだけだ。守護者を倒した程度で認められても嬉しくないだろ」
若干気落ちしていた心に馬鹿野郎と拳を叩き込み、俺は守護者から得た戦利品を確認する。
見やる先には地面に落ちるいくつかの物体。
「一つは安定のガチャドロップか。これはあとでやるとして、他は魔石と……お! これが話に聞く討伐者の証か。ふーん、なかなかかっこいいな」
ガチャドロップの説明は省くとして。
守護者の魔石は高値で換金できる。
二階層で現れる始めの守護者とはいえ、その額は五階層のボス魔石よりもよっぽど高い。
守護者というのがダンジョンにとって特別なのか、魔石の創りからして一般のものとは一線を画すのだ。
そして討伐者の証。
拳大の輝くメダルに、その守護者の特徴が描かれたもの。
これはその階層の守護者を討伐したという言わば証明書だ。
持ってると冒険者としての箔が付くことは勿論、その階層の守護者に嫌悪感を与え近寄らせない効果がある。
守護者を敬遠する冒険者にとっては、是非近くにいて欲しい人材だ。
そんな討伐者の証だが、盗難や偽装は不可能な創りになっている。
持ち主の意志に応え自由に具現化したり消したりできる上、持ち主の手から離れると輝きが消え失せ、更に距離が離れると存在自体保たなくなる。
要するに『ギフトホルダー』の俺が持ってても疑われない仕様というわけだ。
いや、訝しむくらいはされると思うが。
俺は一度討伐者の証を消し、思わぬ収入である魔石をウキウキしながら横に置いた。
そう、横に、である。
何故なら鞄にしまうより、今俺の目の前に鎮座するこれに入れるほうが、よっぽど安全だろうからだ。
「さて、お楽しみは最後とスルーしてたが、もう我慢ならん……! このフォルム、この色合い、そしてダンジョンで出土する鞄ということも加味すればこれは間違いなく!」
興奮冷めやらぬ俺は最終確認とその鞄にその辺の石ころを入れる。
石ころはスッと入るが、鞄の重みに変化はない。
緊張が高まる。
更なる確認をするために手あたり次第に石ころを入れるが……やはり重さは変わらない。
そもそもこの鞄の見た目で入る量は既に超えているはず。
つまりこれは……
「やっぱりマジックバックだぁっ! いや大きさや形状からポーチ? どっちでもいいけど夢みたいだ……!」
俺が最後に手にしたアイテムは、とんでもない容量を誇りそのうえ重さは感じないという、冒険者憧れの品……マジックポーチだった。
ポーチはバックよりも容量は劣るが、その分素の重みもポーチの方が軽い。
それに腰に付けて移動できるという点でもソロの俺にはピッタリのアイテムだろう。
「わーい」
また小躍りする。
守護者を倒したときよりも踊りは激しかった。
ひとしきり踊りで喜びを表したあと、後回しにしていたガチャドロップに目を向ける。
正直ここまでの戦利品で俺としては大満足なのだが、ここで『白騎士シリーズ』でも出ようものならもはや踊りでは喜びを表現しきれない。
それはもう、この階層のゴブリンを殲滅するくらいしないとダメかもしれないというほどに。
「いやまぁ、流石にね? 流石に流石に」
期待はしていません。
俺はそんな雰囲気を前面に出してガチャドロップを掲げた。
結果得られたものは――
「白銀の……マント。いや、そうなんだけどさ、そうじゃないじゃん。期待してないにしてもよ? 白銀の、まで合わせたならもう騎士シリーズ出してよ。やっぱり正直者として欲望を隠すのはダメだったか……」
俺は微妙に違うと思わされるそのマントを羽織ってみる。
まぁ、兜と色合いは同じだし、悪くはない……のか?
踊りはなかった。
疲れたから今日は帰ろうと、荷物を纏めて新品のマジックポーチに入れる。
その際守護者の魔石が見当たらなくて、すわ踊りで蹴ったか⁉ と不安になったが、いつの間にかマジックポーチに入ってた。
さっきその辺の石ころと一緒に入れていたのだろう。
なんにしても時間を無駄にしてしまった。
早く帰らないと家族を心配させてしまう。
俺は駆け足でダンジョンの外を目指して駆け出した――……。
外に出ると、既に辺りは薄暗くなっていた。
時計は確認していたつもりだが、ダンジョン内の明るさは固定なので少し読み違えたようだ。
「こりゃ換金してなんか買って帰らないと後が怖いぞ……」
いくらになるか初めての換金なのでわからないが、家族を……というか母とチョコをご機嫌取りできるくらいのお金にはなって欲しい。
親父はきっと笑って許してくれる。
俺は守護者に挑むより憂鬱な気持ちで小さなギルドの小さな買取所へと足を踏み入れた。
「すみません、換金お願いします」
「うにゃうにゃ……もう食べられません……」
このギルド唯一のカウンターに足を運べば、そこには伏せて眠っている受付嬢がいた。
声を掛ければ流石に起きると期待してみたが、どうやら駄目なようだ。
今朝ここで装備を取り出す際はちゃんと対応してくれたのに……。
「まぁ、ここ小さいとはいえ一人で受付やってるみたいだしな……すみませーん! 換金お願いしまーす!」
「にょふぁっ!?」
悪いとは思いつつ、俺も早く帰りたいので起きてもらう。
別に換金は明日でもいいんだが、剣や兜なんかの装備をそのまま許可なく持ち歩いてると違法だから仕方ないのだ。
突然の大声に跳び起きた受付嬢さんはしばしキョロキョロした後、その眠たそうな視線を俺に固定する。
無言で「至福の時間をよくも邪魔しましたね……」と講義してくるが、俺も対抗して「早く帰りたいんだよぉ……」と抵抗の視線を飛ばす。
「「……はんっ」」
しばしの睨み合いの後、どちらからともなく目を逸らす。
ダメだ、俺こいつとは馬が合わない。
今の一瞬の睨み合いでそんな確信を抱いた。
「……それで? 換金するなら早くしてほしいんですけど?」
「……あぁ、申し訳ない。起きていらっしゃるとはつゆ知らず。随分と眠たそうな顔をしているから」
「「…………」」
バチバチ……という擬音が聞こえそうな空気が俺たちの間で激突する。
「「はんっ!」」
もはや俺たちの間に友好などという文字は存在しない。
大体なんだ、その頭は?
ぼさぼさで碌に手入れもしていない。
目元も大きな隈ができていて如何にも不健康そうだ。
ちゃんと応対できるようにするのも職員としての役目だろうに、しっかりと休んでから業務に望んで欲しいものだね。
「これ、換金してくれ。あと装備の預かりも」
さっさとやること済ませて退散しようと、俺はぶっきらぼうにそう告げる。
換金を頼むのは魔石全部、守護者の魔石もだ。
預ける装備には今回手に入れたマントとマジックポーチも含む。
あぁ、持ってきた物資は先に取り出しておかないとな。
俺が提出した諸々を素早い手付きで処理し始める受付嬢。
まず預かる装備品から片付けようとしたところで……
「……あなたマジックポーチなんて行くときは持っていなかったはず。これを何処で?」
と、無視するには大きな品であるマジックポーチに目を付けた。
驚いた、眠そうな顔してちゃんと冒険者の所持品は把握してたのか。
まぁそれだけマジックポーチが高価な代物ということか。
「二階層の守護者からドロップした。魔石もそこにあるだろ? 討伐者の証は……これな」
この受付嬢相手に隠し事も面倒だと包み隠さず教えてやる。
俺の言葉に眠そうなその眼を少し見開いた……かどうかはわからんが、感心といった様子で頷くとまた作業に戻っていった。
粗方手続きを済ませたところで、残るは守護者の魔石だ。
今回の収入としてはこれが一番の値になるはずだが、どうしたことか触れようとしない。
俺が不思議そうに首を傾げると受け嬢は徐に口を開く。
「この守護者の魔石ですが、うちでは扱いきれないので買い取れません。ですが、預かることはできます。ちょうど今有名な冒険者チームがここを利用している関係で、専属の買取屋さんが出張してきているので。機会があればそちらで買い取ってもらいますが、どうしますか?」
それを聞いて、確かにこの小さなギルドでは守護者の魔石は手に余るか、と納得する。
しかし続く受付嬢の提案には正直かなり驚いた。
買い取れないならそこで話は終わりだとなりそうなものだが、まさか職務範囲外の手続きを代わりにやってくれるというのか?
「……ありがたいけど、そこまでするメリットがあんたにあるのか? 仕事の範疇外だろ」
「馬鹿言わないでください。冒険者のサポートが受付嬢の役目です。それで、預けるんですか? 預けないんですか? 早くしてしてください」
「……預けるよ。よろしく頼む」
「承りました」
冒険者のサポートが受付嬢の役目、ね。
そんな手間まで請け負ってるからそんな眠そうな顔してるんじゃないのか?
そんなことを俺は思ったが、決して口には出さなかった。
それはきっと、彼女なりの誇りが成す行動であろうと、勇者に憧れた幼き俺が囁いたからだ。
帰り道、俺の手には二階層の魔石を売った金、約一万が握られていた。
二階層なんて浅い階層であろうと、あれだけ狩り回ればこれだけの金額にはなるようだ。
マジックポーチを手に入れたから次からはもっと稼げるかもしれない。
そんな一万円の金を手に、俺はご機嫌取りの品を買いに和菓子屋に寄った。
「すみません、これとこれ……四つづつお願いします」
渡す相手は母とチョコと親父にと……あとの一つは名前も知らないお眠りさんにでもくれてやるかね……。
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