第十一話 探索と大勝負
改稿済(2026/01/04)
ダンジョンの一層は広く、端まで行こうとすれば丸一日かかるなんてこともある。
だが次の階層に進むだけならばそう時間はいらない。
入口から直進するだけで、一時間もかからないのだから。
この次階層までの距離と時間は五階層のボス部屋を突破するごとに増加していく。
だが、転移陣も利用する関係で十階層までは日帰りで進むことが可能だ。
それが正しいと証明するように、一階層を直進した俺の前には二階層へと続く渦が存在していた。
「これを潜れば二階層……フィールドは一階層と同じ草原、でも確かに魔物は強くなる……気を付けないとな」
改めて装備を外し、剣の状態に問題がないことを確かめる。
持ってきた物資から水分を補給してしばしの休憩だ。
時刻はまだ九時前、攻略を進めるには十分な余裕がある。
二階層に現れる魔物は武装ゴブリン。
剣や盾、槍に弓、斧なんて持ってる個体もいる。
それに加えて個体それぞれが武具に合わせた鎧を纏っているから厄介だ。
熟練の達人と戦うほどではない……が、二階層では対人戦を意識したほうがいいのは確か。
普通に考えれば俺みたいな実戦経験の浅い子供が戦場で生きてきた輩を複数相手取るなど自殺行為に等しいのだが……ここはダンジョンで、俺にはギフトスキルがある。
【剣斬】でどこまで優位を取れるか、それが二階層に限らずこの先のダンジョン攻略の鍵となるのだ。
「不破ちゃんは【断絶】とかいうので纏めて処理してたけど、あれは俺には無理だな。【剣斬】に刃を飛ばす能力はないし、一体一体潰していくしかないか」
思えば不破ちゃんのギフトスキルっていったい何をしてるんだろうか?
風の刃を飛ばしてる?
いやそれなら鎌鼬とかいうスキル名になるよな。
断絶っていうからには……空間を切り裂いてるとか?
でもそうなると俺が受け止められた意味がわからない。
まあなんでも切り裂けるならそれなんてチートって話だし、流石に限界はあるのかね……っと、確認も終わったしそろそろ休憩もいいだろう。
これ以上考えたら長くなりそうな思考を打ち切り、立ち上がって二階層へと続く渦に飛び込む。
一瞬の浮遊感の後、周囲を確認すればそこは確かに一階層とはどこか違う雰囲気を纏う草原だった。
「草原は草原、でも一階層で見えた角ウサギ特攻兵が見えない……代わりに武装ゴブリンの集団がチラホラと……。掃除屋スライムは健在、か。なんか安心する」
入口から視認できる情報を纏め、早速抜剣し歩き始める。
まず始めに相手取るのは比較的少なそうな五匹の集団だ。
見える武装も剣・剣・剣盾・短剣・槍といった近接が主なものばかり。
リサーチ済みで申し訳ないが二階層武装ゴブリンは暗器なんて持たないので見える武器警戒でおけ。
槍のリーチにさえ気を付けていれば、最悪【剣斬】でごり押しも可能と見た。
息を潜め、慎重に五匹の集団に近づく。
どの道地形が草原ではバレずに奇襲は無理があるのだが、こういうのは緊張の問題なので仕方ない。
それにゴブリンは視力が悪いというし、他の集団に見つからないためにも無意味ではない……はず。
「ギャ? ギャギャッ!? ギャッギャッ!」
とか亀の歩みで進んでたら余裕で発見されてしまった。
幸い相手は狙い通り五匹の集団。
意を決し剣を構える。
「ギャギャッ!」
「ギャッギャッ!」
「ギャーッ!」
武装ゴブリンは装備は立派だが連携という概念はないのか、各個バラバラで突っ込んでくる。
真正面から剣を振り上げてきた個体をまず【剣斬】で一閃。
「ギャ――!?」
狙い違わずその一撃は鎧のない首を斬り飛ばし、まず一匹を仕留めた。
遅れてまた正面からやってきた個体を【剣斬】で斬り飛ばす。
その後に続いた個体にも【剣斬】を浴びせてやった。
「一直線に突撃してきすぎだろ……せめて並ぶな」
単調な攻撃に思わずアドバイスが零れる。
もちろん言語など通じるはずもないが。
今のでもう五匹中三匹を仕留めたことになるが、これで五匹を相手取ったと言えるのかは甚だ疑問だ。
しかしよくよく考えてみれば俺は一撃で仕留められたからいいものの、少しでも手間取れば追撃のゴブリンにどんどん押されていくことになる。
そうなればもう袋叩き……やっぱりダンジョンは命懸けだ。
「お前で最後。【剣斬】! ……って、お?」
最後に残った剣盾のゴブリンを倒す際、思いっきり盾で防がれた。
――いや、盾に当たった。
「……なんとも、まぁ」
結論をいえば、剣盾ゴブリンは絶命した。
俺の【剣斬】は剣盾ゴブリンの盾により防がれた……かに思えたが、刃は盾をバターをように切り裂き、そのまま剣盾ゴブリンを鎧ごと斬り殺したのだった。
初の武装ゴブリン戦を終えた。
しかしこれはある種、一階層のチュートリアルと変わらないかもしれない。
【剣斬】の威力が高すぎて、この階層の盾や鎧が意味を成していないのだ。
俺が見た限りあれはしっかりとした鉄製であったようなのだが、それでもこれ。
つまり【剣斬】を当てたら俺の勝ち、という安直なゲームの始まりだ。
「もしかして【剣斬】って名前ほどしょぼくないのか……?」
実はこっそり思ってたこと、名前がしょぼい。
不破ちゃんの【断絶】とかかっこよくて聞いたとき内心荒れたてたんだよ俺は。
ギフトスキルにも格差があるのは知ってたけど直視しないでいたのに、あいつブンブン振り回しやがるんだ。
もし俺のギフトスキルが勇者の一撃を追うのに掠りもしないものだったら、流石の俺もキレてたね……。
でも【剣斬】、お前実はやればできる子だったんだな。
俺は信じてた。
だからこそ俺の剣術は一撃で仕留めることに重きを置いたものなんだ。
隙?
なにそれ美味しいの?
えぇ、えぇわかっておりますとも。
一撃で仕留められなかったら危ない流派だってことはよ……でも!
この【剣斬】くんがあれば俺の剣術は最強だ。
やっぱり勇者の一撃を信じてよかった。
そこからの二階層探索は徐々に相手取る数を増やし、いつしか一階層と同じような狩りスピードで階層中を駆け回っていた。
「おおおおっ【剣斬】乱舞ぅ! 一回で全部殺せない? なら何度だって振るえばいい! ギフトスキルでだって戦えるんじゃあ!」
調子に乗って見えるゴブリンを片っ端から狩り尽くしていく。
最初五匹の武装ゴブリン相手に緊張してのろのろしてた男とは思えない豹変ぶりだ。
これが実戦経験というやつだろうか?
なにかきっと違う気がする……でも楽しいからいいものとする。
「おっと……二階層からは魔石を集めればそれなりの金になる……ちゃんと拾わないと……」
狂喜乱舞中、突然我に帰って魔石を拾い始める。
さっきからずっとこの調子だ。
一度始めると何処からか止まるんじゃねぇぞと声が聞こえてくる。
まぁそれは冗談として、とにかく抗いがたい衝動に駆られ歯止めが利かなくなるのだ。
こういう時、自動収集の魔道具やマジックバックなんかのアイテムがあると嬉しいんだが、無い物ねだりしても仕方ない。
魔道具のほうはまだしも、マジックバックはダンジョンでしか手に入らない貴重な代物だ。
見た目以上に容量があって、重さも感じなくなる夢のマジックアイテム……俺もいつかは欲しいものだ。
「……そろそろ荷物が魔石で一杯だ。まだ少し早いけど、一度帰るしかないか……やっぱりマジックバック欲しいな~。はぁ」
あの夢のアイテムさえあればダンジョン探索はもっと捗るのに。
むしろないと冒険者として高みを目指すのは困難と言われるほどの品なのだ。
やっぱりどこかで早いうちに手に入れないと、今後の攻略にも支障が出るな……。
かと言って学生に過ぎない俺が買えるお値段なのかというと、そんなわけもなく……どこも現実は世知辛い。
「───……──…………──」
その時、何処からか念仏のような詠唱が聞こえた。
俺はこの意味のわからない言葉の意味を知っている。
謎かけのようになってしまったが、その声が聞こえてからの行動は早かった。
「……――!!」
「【剣斬】ッ!!」
敵の詠唱が終わるのと、俺が【剣斬】で身を守るのは、同時だった。
突如なにもない草原の一角から、人の頭ほどはある炎の弾が飛来する。
それは疑いようもなく俺へと迫り、咄嗟の【剣斬】と衝突した。
「ぐぅぅっ……⁉」
あれほどゴブリンを圧倒した【剣斬】が、この炎弾相手では拮抗状態にしか持ち込めない。
その事実に驚愕する間もなく、また何処からかあの詠唱が聞こえてくる。
「……――…………」
「くっそ、がぁぁぁ!!」
【剣斬】と拮抗する炎弾を腕力で無理やりで消し飛ばす。
だがそれはただ単に炎が形を保てなくなっただけ……逆に言えば消し飛ばすまであれだけの時間を要するということだった。
――まともに受けるのは危険
瞬時にそう判断し、再度飛来する炎弾を今度は飛び退いて回避する。
俺の横を通過した炎弾は数秒後に後方で爆発し、爆風が背中を炙った。
「攻めに転じないと……! もしくは逃げるか? 相手は十中八九守護者だ。どうする……⁉」
――守護者。
一階層を除く全到達階層でその存在は確認されている。
その階層に出現する魔物の特徴を引き継いだまま、一レベル上の実力を有する上位個体。
今回でいえばゴブリンという種族で、上位個体のゴブリンメイジが守護者として登場しているのだ。
「なんで武装ゴブリンの上位個体が魔法使いなんだっての! 意味わっかんねっ!」
次々飛来する炎弾をどうにか避けながら次の行動を思案する。
ゴブリンメイジ自体は先の階層に進めばいずれは出会う敵だ。
それも守護者としてではなく、階層に巣くう一般の魔物として。
それだけ聞くと「なんだその程度か」と誤解するかもしれないが、問題はこのゴブリンメイジが一レベル上の個体として現れる守護者であるということ。
レベルが一上昇するだけで冒険者として大きな差が生まれる。
それはまさに雲泥の差と表現していいほどに。
ダンジョン出現当時から生きた最高位冒険者がレベル十だと言えば、その一レベルの重みがわかるだろう。
この二階層の推奨レベルは一。
俺のレベルも当然一だ。
対してあのゴブリンメイジはレベル二。
本来あいつの炎弾をレベル一の俺が受け止められること自体おかしいのだ。
そこは流石の【剣斬】さまといったところだろうか。
ホント名前がしょぼいとか言ってすみませんでした。
「……そうだ。俺には【剣斬】がある。【剣斬】だけあって、他にはなにもない。なら、その【剣斬】が守護者の魔法に対抗できたなら……もうやるっきゃねぇだろ……!」
【剣斬】が守護者の一撃を受け止めた。
俺の信じる唯一のスキルが、その力を示したのだ。
ここでもし逃げたりしたら、俺は一生勇者の一撃に届かない。
ただのスキルの一撃を、俺は胸張って誇るのか?
否……!!
「断じて否だ。ここで戦いを否定するならもう冒険者なんてやめたほうがいい。俺にはこれしかないんだから」
気合い一喝。
やることは決まった。
この炎弾の猛攻を潜り抜け、姿を隠す守護者をぶちのめす。
……とはいったものの。
「まずはこの炎弾をどうにか処理しないと、近づきようがないぞ……!」
姿の見えない守護者からの攻撃は、絶えず続いている。
今それを避けていられるのは、発射地点から距離があるからだ。
俺が守護者を倒すには近づいて一閃するしかないが、これ以上近づくと炎弾を避けられなくなる。
かといってこのまま回避行動をしててもいずれ先に俺の体力が尽きることは明白。
どうする……。
「……ッ! 向こうも決めにきてるな」
思案中、先程まで回避できていた炎弾が肩を掠る。
いつの間にか炎弾の発射地点が近づいてきていたせいだった。
恐らく避けて埒が明かない俺に痺れを切らして、守護者が寄ってきているのだろう。
「当たらないならゼロ距離でか……変則的な魔法使いプレイするな」
俺も近づかれるのに合わせて後退しているが、いつまでもこうしている訳にもいくまい。
なにか……なにか打開できる策は……
「……って、考えるまでもないな」
俺にある手札、それはもう何回も確認してきた。
俺にあるのは【剣斬】という相棒で。
それ以外に頼れるものは相棒を輝かせる我流の剣術だけ。
「――次で決める」
避けるため走り続けていた足を、止める。
腰を落とし、深く息を吐く。
剣を構え、耳を澄まし守護者の詠唱を聞き取る。
もうここまで何回も炎弾を避けてきた。
次弾発射に必要な時間は、把握済みだ。
「…………今」
聞こえる詠唱と直感を合わせて導き出した、確信を持てるタイミング。
俺は炎弾が発射される直前、【剣斬】使用と共に……上へ跳んだ。
最初の一撃でわかったこと。
俺の【剣斬】と守護者の炎弾は拮抗する。
それはつまり強い力と力が、ぶつかり合って押し付け合うということだ。
それを利用すれば、衝突の力点次第では俺の身体がずれる。
【剣斬】を放つ剣の先で、球体の炎弾を撫でるように。
最後に【剣斬】で炎弾の後ろを押せば……俺の身体が前へと推進する。
「うおあっ!?」
直後、背後で爆発。
視界に映ったのは、俺のいた地面を焼き焦がす炎弾の姿だった。
「あの野郎、当たらないなら間接的に吹き飛ばそうって魂胆だったか。だが――!」
むしろ好都合。
背後で発生した爆風は俺を押し出す風として更に突撃力を高める。
このまま守護者が隠れているだろう場所へ【剣斬】を見舞えば――
俺の勝ち、にはならなかった。
『──略式 炎魔弾』
闇の底から響くような、簡潔な詠唱。
比較にならないその詠唱の短さは、俺の目の前で炎弾を構築した。
ほぼゼロ距離。
眼前でメラメラと揺れる、先程よりは小さいがしかし炎弾。
早い。
次弾にはまだかかるはずなのに。
先程までの攻撃では見なかった、恐らくはこの守護者の切り札。
喰らえば死ぬ。
いくら先程より小さかろうが、これはレベル二の守護者が放つ魔法なのだから。
防御のスキルもなにもない。
俺は――……
「――【剣斬】二連撃ィィィッッ!!」
──二度、【剣斬】を放った。
一度目の【剣斬】で小さい炎弾を消し飛ばし、続く二撃目の【剣斬】で見えた発射地点を切り裂く。
鮮血が舞った。
「すまんな守護者。スキルの連続発動は俺の十八番なんだ。伊達にあちこち走り回ってゴブリン狩りまくってないよ」
振るった剣をそのまま残心し、油断なく告げる。
守護者のとっておきには驚いた。
しかし通常の炎弾と比べ威力も大きさも小さかったのが勝敗を分けたのだろう。
通常通りの威力で俺の【剣斬】と拮抗状態なのだから、そりゃ小さくすればこちらが勝つ。
「ギ、ギ、ャ……ァ」
攻撃を受けて魔法が切れたのか、守護者であるゴブリンメイジの姿が露わになる。
その体には斜めに大きく裂傷ができており、もう長くはないことがわかった。
「いい勝負だったよ。さよなら」
もうなにかする力は残っていないようだった。
苦しむ守護者に、その刃を振り下ろす。
戦いが、終わった。
【……守護者『隠匿の炎魔』の討伐を確認……】
【討伐者が『ギフト』所持者であると判明……】
【……『ギフト』昇華に必要な情報、不足……】
【対象の『ギフト』昇華を保留します】
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