第十話 地元ダンジョン、攻略開始
改稿済(2026/01/03)
あれから教室に戻り、談笑していた猫と古月に状況を説明した。
「ふーん。そうなのね」
「頑張るのじゃぞアイス。儂が応援しちゃるでな。かっか!」
……いや、二人とも反応が薄すぎやしないかい?
ちゃんと状況が伝わっているのだろうか。
「猫、古月。恐らくこれから〈勇気クラス〉を対象とした誹謗中傷が学園中に広まるはずだ。それにダンジョンも軽々と入れなくなる……俺が原因でな。それ以外にも日常でなにかしら――」
「あーもう! なんでまた同じこと繰り返してるのよ! わかったって言ってんじゃない! あほ! 禿げ!」
「俺は禿げてな――」
「のぅアイス。儂らをちと舐め過ぎじゃぞ? お主が今語ったことなぞすべて予知できたことよ。それくらい、この学園の〈勇気クラス〉の立ち位置は危ういのじゃ。禿げ」
「おい古月ぅ! 今の禿げ明確にいらなかったよね⁉ なんで今最後に禿げって付け足したの⁉ あと俺は禿げてないから!!」
俺の必死のツッコミにコロコロと笑う二人。
おのれ、冗談で空気を和ませるにしてもヒヤヒヤさせてくれるぜ。
……俺もいつか親父みたく禿げるのかな……。
「なんだアイス、お前禿げてるのか?」
「〇すぞ吉沢ァ……!!」
「ごめっ!? ごめんって! その殺気やめて!」
因みにこの場には吉沢もいたりする。
俺の話は配信に夢中で聞いていなかったようだが。
……なんで禿げだけ聞き取ったお前?
だが二人の考えはわかった。
確かに俺は猫と古月のことを侮っていたのかもしれない。
〈勇気クラス〉に来た俺が覚悟完了してるのに、同じ〈勇気クラス〉の猫と古月は覚悟が足りてないなんて、あるはずがなかったのに。
「見た目可憐だと騙されるんだよな……」
「あんたナンパしないでよね! 禿げ!」
「これは儂のギフトスキル、【禿げ】を使う時かのぅ? ほほ」
「いやいつまで禿げに拘るんだお前ら!? 俺は禿げてないしこれからも禿げねぇ……禿げねぇっ! だから古月その凶悪スキルはマジやめてください……!!」
「今一瞬禿げない宣言に躊躇いがあったわよルイちゃん!」
「哀しき禿げ族の宿命じゃな」
俺は禿げない、例え古月の凶悪スキルを使われてもな!
いや流石に冗談だとはわかってるんだけどさ。
『ギフトホルダー』ならそういう変則的なスキルがあってもおかしくないから怖いのよ。
……いや、まじで冗談だよね……?
「安心せい、冗談じゃ」
「「ほっ……」」
横で同じ吐息が聞こえた気がするが、吉沢やっぱりお前も禿げには敏感なんだな……。
「それじゃアイス、お前はしばらく地元のダンジョンに潜るってことでいいのか?」
配信を見ながら吉沢が聞いてくる。
そういや今流れてる配信はメグルぽんじゃないけど、あっちはどうなったのかな……?
それはあとでじっくり確認するとして。
「俺の地元辺境だからさ、目立たずじっくりってのには最適なんだわ。ギルドの買取所はまじ小さいけどな」
「ほーん。んじゃしばらく学園は出席扱いにしとくから、気が済むまで潜ってこい」
「……いいのか?」
そんなことしてもし学園側にばれたら、吉沢お前ただじゃ済まないだろ。
なんでお前がそこまでしてくれるんだ……?
「ま、次世代に輝く勇者ってのを見てみたいからよ……配信してくれ」
「結局配信かよ!」
ダメだこの担任、ダンジョンオタクすぎる……。
普通生徒の配信なんてド素人感丸出しで面白くないと思うんだが……ホントにやるの?
「ま、配信用魔道具も高いしすぐにとは言わねぇよ。ただそのうちの目標ってことで覚えといてくれ」
「はは……おーけー吉沢。期待に応えるよう精進するよ……ありがとう」
俺の小さな礼の言葉に、吉沢は手をひらひらと振って配信視聴に戻った。
辰巳教官といい、この担任といい、素直に礼を受け取ってくれない人が多いもんだ。
でもその人たちは揃って俺たち〈勇気クラス〉の助けになってくれた。
辰巳教官に関してはそれも認めてないけどね。
ユートピア学園、捨てたもんじゃない。
……どこからかにこにこという声が聞こえてきた気がするが、もちろんわかってるので黙っててください奈落さん……。
◆◇◆◇◆
話してるうちに下校の時間。
俺は駅の転移陣に乗り地元へと帰り着いた。
相変わらずこの地元は辺境というだけあって、見る人みんな知った顔ばかりだ。
集まって談笑する奥様方、箒を持って道を綺麗にするお爺さん、いい香りのパン屋の前で接客するお姉さん……。
俺はそんな代わり映えしない、されどお気に入りの風景を横目に自宅の玄関を開ける。
「ただいまー」
帰宅の声を上げると途端に迫るドタドタという足音。
ものの数秒で我が最愛の妹、チョコの顔が見えた。
「おかえりにぃに! 待ってたんだよー!」
「ただいまチョコ。なにか俺に用事でもあったのか?」
俺の帰りを待っていたらしいチョコは、その問いに焦らすような間を開けた後満面の笑みで教えてくれた。
「なんとね! にぃにと同じ『ギフトホルダー』の人がおっきい実績を立てたの! それで今冒険者界隈で『ギフトホルダー』の在り方を見直す動きがあるんだよ! やったねにぃに~!」
その話を聞いて真っ先に思い当たるのは、不破ちゃんという『ギフトホルダー』だ。
俺はあの配信を最後まで見なかったが、そうか上手くいったのか。
もちろんすべての冒険者が『ギフトホルダー』を見直したというわけではないだろう。
それくらい、俺たち『ギフトホルダー』に根付いた悪印象は強いのだ。
けど……
「そいつは嬉しい報せだな! お兄ちゃん俄然やる気が出てきたよ!」
「キャー! チョコも嬉しいの! これでにぃにとダンジョン潜れるもんね!」
チョコを抱え上げて一緒に小躍りする。
俺が『ギフトホルダー』であることに悲観していないのは周知のことなのだが、それでも世間の声に抗って進む姿には少なからず心配もかけたのだろう。
また不破ちゃんに会う機会があったら、その時はしっかりお礼を言わないとだな。
一人の『ギフトホルダー』としても。
一人の家族を持つ人間としても。
「……それはそうと、チョコ。俺と一緒に潜るかはしっかりお友達と相談してからだぞ? 約束を破る悪いチョコは溶けちゃうんだぞ~?」
「きゃー!? さ、咲ちゃんたちに電話してくるぅ!」
「ははは」
顔を強張らせたチョコは駆け足で部屋に戻っていった。
恐らく俺にこの報せを伝えることで頭が一杯だったのだろうが、お友達は、大事。
因みに溶けちゃうというのは昔チョコの教育の際に用いた言葉で、今尚その言葉に我が妹は敏感だ。
階段を駆け上がるときも、「チョコは溶けない……溶けない……と、溶け……」と念仏のように呟いていた。
……流石に効力があり過ぎやしないだろうか?
俺がチョコの部屋の前を通る際、「咲ちゃん私溶けちゃう! と、溶けるぅ……!」という声が聞こえたが……チョコよ、お前はいったいお友達になにを相談しているんだ?
お兄ちゃんとのダンジョンの話はどうなったのか、非情に気になった夜でした……。
◆◇◆◇◆
翌朝。
本来なら今日も学園に通わなければならないのだが、俺は担任公認でダンジョンへと挑む。
ユートピア学園に入学した際には、周りの妨害を避けてどう攻略に勤しむか悩んだものだが……まさかこんな好条件で人気のない地元ダンジョンを攻略できるとは。
もともとユートピア学園はその占有ダンジョンに用がなければ入学しなかった。
ただどうしても欲しいアイテムあり、それが残っていると確実に思えるのがダンジョン学園だけだったのだ。
これはダンジョンの初回報酬の話なのだが、一般公開されてるダンジョンだともう誰かに取られている可能性は否めない。
だが冒険者のなり立てが主に潜る学園のダンジョンなら、奥深くの階層の初回報酬でも残っていると考えたわけだ。
まぁ、これも百%のことではないのだが、一応確認した限りでは出土された記録はなかったから、あとは願うばかり。
だからどの道学園在籍中に占有ダンジョンには潜るのだが、それを生きて成し遂げるためにもまずはここで実力を高める。
この『日本辺境:0011ダンジョン』で。
はい、というわけでやってきました第一階層。
装備は人気のない地元ダンジョンということで、いつもの剣に『白騎士の兜』を着用しております。
合わせて今日からは二階層を進むということで水や簡単な食料も。
服装は学園の制服。
吉沢が出席扱いにしてくれるとはいえ、私服で潜る気にはなれないので。
今日の目標は二階層の攻略、最終的な目標は五階層のボス部屋突破。
ついでに三階層でレアモンスターにも挑戦したい……一ヶ月以内にこれ全部達成したいところだな。
ウォーミングアップに一階層のゴブリンを狩りながら今後の目標を確認する。
二階層の武装ゴブリンは【剣斬】なしで狩れるよう慣れるまでが攻略目標だ。
三階層のゴーレム相手は恐らく【剣斬】なしだと純粋に火力が足りない気がするが……それもやってみないとわからない。
レアモンスターの置き物ブロックはゴーレム相手に【剣斬】がどこまで通用するか確認してから判断しよう。
「願わくばギフトスキルが進化することにも期待したいが……それは流石に高望みかな。こんな序盤で進化したなんて話聞かないもんなー」
そもそも『ギフトホルダー』が冒険者になった例自体少ないのだが、それでも過去にいなかったわけではない。
大成したという話こそ、聞こえることはなかったが……。
「よしっ! ウォーミングアップ終了! それじゃ進みますか、二階層!」
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