頂点者たち
辛い。
魔王とはこれほど辛いとは思ってなかった。
小説などで出てくる魔王というのは、大抵この星で一番強いやつみたいなもんだろう。(適当に言ってみただけだ。)
実際は違う。
僕が生まれた後、任された仕事は、人間やエルフなどが治める土地以外の管轄だった。
その土地面積はまさにこの星の9割超。つまり、人間側としては未開発領域に囲まれた地域に住んでるわけだが、それはどうでも良い。
なぜ辛いかって?教えて進ぜよう。
「おお、坊ちゃんや。大きくなったな。今年で何歳じゃ?」
「631歳です。ユグドラシル様。」
「まだまだ若くて良いの。」
この方、ユグドラシル様は全ての植物を統べるお方だ。外見は、葛のような蔦が苔でできた感じで、大きさは測れるかどうか分からないぐらい大きい。年齢も誰も知らないという。
どうやらうちの曽祖父が子供だった時も先ほどのような話し方だったらしい。恐ろしい。
「やっ。久しぶりだね。魔王君。調子はどうかな?」
軽快に話しかけてきた方は、不死鳥のフェネクス様だ。
「僕は元気にやっています。フェネクス様の調子はいかがですか。」
「そうだね。まあ、元気でやってるね。それより、ここが火気厳禁だってことは僕の参加は許されてないってことかな?」
「いえ、そのようなことは、」
「まあ、全然気にしてないし、こんな立派な建造物が燃えたら、少し勿体無い気も分かるからしようがないね。」
と返答が返ってきた。
死ぬかと思った。あの人の冗談はきつい。あの永続的焼き鳥が、本当に機嫌が悪い時はいつ死ぬか分かったもんじゃないからだ。
「やあ。魔王さん。お久しぶりです。お元気ですか。」
「はい。こちらはすこぶる元気です。リヴァイアサン様はどうですか?」
「こちらも元気ですよ。すみませんが、兄の方が少し遅れてつくそうです。申し訳ないです。」
「全然気になさらないでください。誰でも遅れることはありますから。」
龍か蛇か見分けがつかないこの方は、リヴァイアサン様だ。ヨルムンガンド様という方と兄弟で、今の海中をこの兄弟二人で治めているという。
現在の難船必須の荒れた海域は、この方達の腸内活動が一番活発なところ(十二指腸?)の周りらしいが、実際に潜ったことがないので本当のことは分からない。
うわ?なんだこの感じ。だいたい見当はついているけど、まだ慣れない。三歩先の何も空間から形容し難い気持ち悪い空間が現れ、中から人?が出てきた。冥界の支配人の、ハーデース様だ。
「こんにちは。魔王君。元気そうでなにより。」
よく分からない微笑とともに言葉が繰り出される。
「お久しぶりです。ハーデース様もお元気そうでよかったです。」
「そうかい。ハーデース様が元気そうに見えるかね?」
「」
言葉に詰まる。しまった。つられていってしまった。ハーデース様は、常に病み上がりみたいな感じなのだ。
「いえ、この前会った時よりは調子が良さそうだと思ったので、そう申しました。」
「そうかね。それは嬉しいことかもしれないね。最近は、悪い気を持った者が送られてくるのが少なくなったからかもね。」
なんとか切り抜けた。
しかしこれが嘘から出た真というのか。確かにハーデース様の顔色は前回会った時より良くなっていた。
そういえばうちの領土内でも最近段々と犯罪件数が減っているし、噂によると、人間界の方でも未知なる領域、つまり今僕たちがいる所への進出、開拓を図っている殊勝な人たちが増えていると聞いている。
ハーデースさんは稀に見る人型の出席者だ。僕としてはもっと親しくしてみたいが、あのどことなく掴めない感じのせいで近寄りがたい。
もっと積極的にいけと思うだろう?今回出席する方々に僕は絶対勝てるわけがないのだ。一度相対したら最後、こっちが一瞬でバラバラになって果てるのが分かるくらいに。
なんでそんなやばいやつらが一箇所に集まってるかって?もちろん毎日こんな感じだったらこっちの身が持たない。今日は特別な日だ。
そう。今日は二百年に一度開催される、地球の支配者たちの会合の日なのだ。