ランドセル畑
ランドセル農家の朝は早い。
毎朝、畑に行っては水をまき、雑草を抜いて世話をする。
ランドセルには害虫が付きやすいので、こまめに様子を見に行かないとすぐに枯れる。
最近では海外から入って来たフタゴタマサオムシがランドセルの根を食い荒らすので、大変な被害が出ている。
種を巻く前に土を消毒しないと、大変なことになるのだ。
「おーい! お茶にしようかぁ!」
「いいですねぇ!」
平田さんが妻の米子さんに休憩を呼びかける。
平田益男さんはこの道50年のベテラン。
妻と一緒にランドセルの栽培で生計を立てている。
「最近はのーきょーの規格が厳しくなってねぇ。
少しでも出来が悪いとはじかれてしまうんですよ」
笑いながらそう話す平田さんだが、ランドセル農家を続けるのは並大抵の苦労ではないはずだ。
一般的にランドセルは温帯を好み、少しでも気温が下がるとできが悪くなってしまう。
そのため、栽培できる地域が限られており、栽培できる絶対数を増やすことはできない。
かつて人口増加によるランドセル需要の急増に対応するため、政府は補助金を注ぎ込んでランドセル農家の支援を行った。
しかし、ここ最近の少子化の影響で、廃業する農家が続出。
空いた土地にはスマホ液晶とバッテリーの種がまかれている。
「ずっと続けて来たことですからね。
簡単にはやめられないんですよ。
私らにもプライドがありますので」
「んだんだ」
真剣な目つきでそういう平田さんの隣で、妻の米子さんは柔和な顔つきで頷く。
二人がランドセル農家を続けてこられたのも、お互いに支え合ってきたからだろう。
数年前の大災害の時。
平田さんの畑は大きな被害を被った。
もう再建は難しい。
諦めて畑を手放そう。
そう思ったそうだ。
しかしそれでも、沢山の人たちからの応援の言葉により再起を決意。
こうしてランドセル農を続けている。
「あの時ね、沢山の人たちが手紙を送ってくれたんです。
私らが育てたランドセルを使ってくれた子供たちがね。
これからも頑張って欲しいって」
かつてランドセルを背負っていた子供たちが大人になり、新しい世代を育てる親たちになった。
自分たちの子供に平田さんのランドセルを送りたいと、多くの人が応援の言葉を送ってくれたという。
「必要とされる限り、ランドセルの栽培を続けますよ。
それが私らの生まれて来た意味です」
「んだんだ」
二人はこれからもランドセルの栽培を続けるだろう。
畑を照らす太陽は、今日も燦然と輝いている。