私と口の悪い冒険者、さっちゃん パート3
「ほんとあなた達はいつになったらAランクになるの?」
私達がBランク冒険者だった頃の物語です。今、ギルドの受付嬢に怒られています。
私は魔法使い、さっちゃんは武闘家兼剣士です。2人でパーティーを組んでいます。
私は気の強そうな容姿ですが、気が弱くて、人付き合いが苦手です。さっちゃんは庇護欲そそる様な容姿ですが、気が強く、敵認定されない限りフレンドリーなのです。容姿も性格も真逆な私達ですが仲良くしています。
でもさっちゃんにはとても困った事があります。もうお気付きだと思いますが、さっちゃんは口がとぉーっても悪いのです。
冒険者ランクはSを頂点として、A、B、C、D、E、見習いとしてFがあります。現在、この国にはSランクの冒険者はいません。Aランクの冒険者も殆ど居ません。
私達はすでにAランクの実力はあるのですが、私は気が弱い、さっちゃんは口が悪くて、品性や人格も採点に含まれるAランクの試験に合格出来ないのです。
それで早くAランクになるように受付嬢に怒られているのです。
「私はBランクでも良いのですけど」私は弱々しく言いました。
「何言ってるの、このギルドにはAランクが1人もいないの。ギルマスから怒られるのは私なのよ」
「だったらさっさとAランクにしなさいよ」
さっちゃんはAランクになりたいのです。ただ大物を倒したいだけなのですが…
「あなたの口が悪いから試験に落ちるんじゃないの」
いつもこういう調子で受付嬢と喧嘩しています。
「じゃあどうすればいいの?」さっちゃんが聞きました。
「そうね、とりあえず他のパーティーと合同でクエストを揉めずに成功させれば試験官に加点するように進言するわ、だからさっちゃん、あなたはあまり喋らないようにしなさい」
ということで他のパーティーと合同で受注することとなりました。しかし。
「相手がいない」私がポツリと呟きました。
みんな私達のパーティーのことを知っているので、一緒に受注してくれる人がいないのです。
主にさっちゃんと揉めるので…
「私達を知らない人を探すしかないわね」
「さっちゃんは喋らないようにしてね」
「分かってるわよ」
しばらく受注ボードを見ていたら、3人組の男性に声をかけられました。
初めて見る人達でした。
「俺達はCランクパーティー「疾風の剣」俺はリーダーの剣士、他は槍術士と弓士、君は魔法使いだよね」
「はい、私は魔法使いです。こちらはさっちゃん、武闘家兼剣士です。Bランクパーティー「私と、…さっちゃん」です」(本当は「私と口の悪いさっちゃん」というパーティー名なのですが、口の悪いと言うのはやめました)
男性達はBランクと言ってるのをDランクと勘違いしました。
私とさっちゃんがとても弱く見えたらしいです。
「俺達はオーク退治を受注したのだが、魔法使いがいないので手伝ってもらえないか?」
本当はオーク退治ならCランクが3人居れば充分なのですが、女の子にカッコいいところを見せたいだけでした。
「私達は構いません」
これを逃すともう相手が見つからないかもしれないので、了承しました。
「これから東の森に行く、深部に行かなければゴブリンかオークぐらいしかいないから安心して」
男性達は親切に説明してくれます。
「オークでも3体以上いれば危ないから注意して、とりあえず俺達が倒すから後で待機して、ところで治癒魔法は使える?」
「はい、使えます」
「それは助かる、いざという時は準備して」
「分かりました」
それから男性達は冒険者の心得を色々私達に教えてくれました。
珍しくさっちゃんは大人しくしていますが全く聞いていないようでした。
東の森に到着しました。
「弓士は眼がいいので、偵察頼む」
「了解」
さっちゃんがこっそり私に「300m先にオークが2体居る」と言いました。
さっちゃんは探知魔法が使えるのか、と思えるくらい魔物を見つけるのが得意なのです。
「オーク2体発見」50mあたりで弓士が言いました。
弓士が先制の矢を放ち、剣士と槍術士が突撃していわゆるタコ殴りをしました。
さっちゃんが「あ〜素材が」と呟きました。
私はさっちゃんが怒り出さないかとヒヤヒヤしていました。
よほどAランクになりたいのか、おとなしくしてました。
男性達はカッコいいところを見せようと、張り切っています。
オーバーキルの状態で戦闘は終了しました。
素材の価値はかなり低いでしょう。
「解体するか」剣士のリーダーが言いました。
「私のアイテムボックスに入れましょうか?」
「アイテムボックスが使えるのか?頼む」
私はアイテムボックスにオークを入れました。
「アイテムボックスが使えるなんて羨ましい、じゃあもう少し狩っていくか」
それから男性達はさらにオークを狩っていきました。
少し森の深部に入り込んでいました。
6体倒したところでさっちゃんが「50m先にオーガが8体居る」とこっそり私に言いました。
もっと前から分かっていたはず。
絶対わざとだ。
やる気満々のさっちゃんです。
「すみません」私が男性達に言いました。
「何かな?」
「オーガが8体います」
「何、オーガは無理だ」
「私たちが倒します」
「無茶だ」
男性達は撤退しようとしました。
「やるわよ、アンタは左の3体をお願い」さっちゃんが言いました。
「分かった」
男性達が引き止めようとするのを無視して私たちは突撃しました。
「アイスカッター」
3本の氷の刃が3体のオーガの首を跳ねました。
「すげぇ」
男性達は私の魔法の威力に驚いています。
「くおらーテメー」
さっちゃんがオーガの首を切り飛ばします。
「オーガごとき大した事ねーわ」
次はオーガの頭を殴り飛ばします。
「うりゃうりゃテメーなんぞ相手にもならん」
こうして罵声を浴びせながら、5体のオーガを倒しました。
ずっと黙っていたので相当鬱憤が溜まっていたみたいです。
「……………」
「……………」
「……………」
男性達は無言で佇んでいました。
「き、君達はDランクじゃないのか?」
「私達はBランクですよ、はじめにちゃんと言いましたけど」
「……………」
ギルドに帰るまでなぜかみんな無言でした。
「合同受注達成したぞ」
さっちゃんが受付嬢に満面の笑みで報告しました。
「どうして男性3人ががっくりしているの?揉めずに、と言うのは守れなかったみたいね、達成とは言えないわ」
「えーなんでよ」
さっちゃんはゴネた、それはもうゴネまくりました。
それでも合同受注の達成は認められませんでした。
☆☆☆
私達は、男性冒険者と来た森に来ています。
「あいつらがランクBとDを間違えたせいだ」
あの後3人の男性冒険者はギルドに現れませんでした。
さっちゃんはまだ荒れていました。
「テメーらのせいでクエスト失敗しただろーが」
さっちゃんはオーガを次々と倒していきます。
「オーガのせいじゃないと思うなぁ。それにクエストは達成しているし、受付嬢の言った合同受注が認められなかっただけで、ペナルティーにもなってないのになぁ」
私はポツリと呟きました。
「我慢してほとんど喋らねーでいたんだぞテメーら分かってんのか」
「オーガに分かる訳無いと思うんだけどなぁ」
散々オーガに当たるさっちゃんでした。
「そろそろ帰るか」
オーガに当たり散らして気が済んだのか、その場に居た15体を倒して全滅させたさっちゃんが言いました。
ちなみに一応リーダーは私なのですが、戦闘はほとんどさっちゃんが仕切っています。
ーーーーーー
翌日私達はギルドに来て依頼を見ていました。
「いい依頼無いわね」
「常時依頼でいいと思うけど」
「ダメよ、Aランクに近づける依頼じゃないと」
まだ拘っているさっちゃんでした。
「あれ、これは?」さっちゃんが何か見つけたようです。
『ヘルバイパー討伐 Bランク以上(Aランク推奨)』
さっちゃんはその依頼書を剥ぎ取り、受付嬢のところに持っていきました。
「この依頼なんだけど、ヘルバイパーって強いの?」
「あぁこの依頼ね、ヘルバイパーは巨大な毒蛇で、強さはBランクの中堅ってところかしら」
「だったらどうしてAランク推奨なの?」
受付嬢の話はまとめるとこうでした。
この依頼はかなり前に出されたもので、隣町の街道を整備する予定の場所で目撃されたものでした。
何組かのBランク冒険者が受注したのですが、ヘルバイパーは地中に生息している為、なかなか発見できず依頼は失敗に終わったそうです。
討伐依頼の失敗は大きなペナルティとなります。
それ以来目撃情報がないため、報酬が安くなってしまいました。
しかしギルドとしては依頼を破棄することができません。
誰も受注しなくなって所謂「塩漬け依頼」となりました。
Aランク冒険者なら、報酬に関係なく受注してくれる可能性もヘルバイパーの発見の可能性も高いだろうということでこういう依頼となったそうです。
「これ私達が受注するわ」
「この依頼はやめた方が…」私はすごすごとさっちゃんに言いました。
「Aランク推奨の依頼を達成したらポイントが稼げるじゃない」
そうすると受付嬢が言いました。
「この依頼を達成したら確かに功績ポイントは稼げるけどAランクになれるかどうかは別問題よ」
「功績ポイントが上がれば、Aランクになれる確率は上がるでしょ」さっちゃんはまだ食い下がります。
「まぁそれはそうだけど」
「それでこの依頼は受注させてくれるの?どうなの?」
「冒険者ランクの条件は満たしているから断る理由は無いわね」
「じゃあ決まりね」
こうしてヘルバイパー討伐を受注することになりました。
ーーーーーー
「ここら辺かしらね」
魔物を探すのはさっちゃんの役割です。
私?魔法担当ですよ。もちろん。
「地中に居たら倒せないわね、アンタ爆裂系の魔法で誘き出せない?」
「爆裂系って?」
「とにかく広範囲で沢山ドカンドカンとするの」
「ん〜よく分からないけど分かった」
私は杖を掲げました。
「炎弾」
50個くらいの炎の塊が前方に飛んで行きました。
ドンドンドンドン
あちこちで爆発して土に穴を開けました。
しかしヘルバイパーは出て来ません。
「もっとそこら中に打ちなさい」
「分かった」
「炎弾」
「炎弾」
「炎弾」
「炎弾」
「炎弾」
ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン……
辺り一帯穴だらけですが、ヘルバイパーは出て来ません。
「う〜ん出て来ないなぁ」
さっちゃんが呟いていると、40代くらいのおじさんが走って来ました。
「こらぁぁぁぁ」
なんだかとても怒っています。
さっちゃんが相手すると絶対揉めるので私が話します。
「ヘビ出てこいつーてんのにおっさん出て来てどーすんだ」って言うに違いない。
「何でしょうか?」
「俺達が整地したところを穴だらけにしたのはお前達だろう」
「あ、はいそうです、依頼で」
「依頼?穴を開ける依頼なのか?」
「え、いえヘルバイパー討伐の依頼ですが」
「だったらこんなに穴を開ける必要無いだろ」
「そ、そうですね、すみません」
「とにかく、この穴を元に戻せ、ここは工事現場なんだぞ」
「こうじげんば?」
「そうだ、俺達の仕事場だ、こんなに穴だらけにしやがって」
「あ、はい分かりました」
私はさっちゃんの方を恐る恐る見ましたが怒ってないようでした。
「おい、お前達、そんな格好でするのか?」
「あ、はい、これしかないので」
「俺の仕事場でそんな格好で仕事するのは許さん」
おじさんはどこから出したのか作業着とヘルメットを差し出しました。
「あ、あの、これは?」
「作業着とヘルメットだ」
「さぎょうぎ?へるめっと」
「そうだ俺の仕事場ではこれを着るのが決まりだ」
そう言って作業着の着方とヘルメットの付け方を教えてくれました。
さっちゃんは絶対嫌がると思ってましたが、嬉々として着替えていました。
私は地味すぎてとても嫌でした。
そしてシャベルを差し出し、使い方を教えてくれました。
「いいか今日中にやるんだぞ」
「は、はい分かりました」
そう言うとおじさんは帰っていきました。
私たちは早速穴を埋め始めました。
「ふんふん♪しゃべるぅー♪さぎょーぎー♪へるめっとぉー♪」
さっちゃんは何故かご機嫌で謎の歌を歌いながら、物凄い速さで穴を埋めて平らにしていきます。
私は土魔法でします。
「こらぁちゃんとしゃべる使ってやれー」
「はい」
さっちゃんはシャベルを使わないとなぜか怒ります。
私はシャベルを使っているふりをして、こっそり無詠唱で土魔法を使っています。
「あ、親方、お疲れっす」
「お疲れさん」
さっちゃんはさっきのおじさんを親方と呼んでとても仲がいいです。謎です。
「こーじげんばぁー♪おーやかたぁー♪ふんふん♪」
「さっちゃんもう冒険者やめてここで働けばいいのに」とは言いませんが、それくらい馴染んでます。
「よぉしこれで終わりかぁ〜」さっちゃんがそう言った時。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ
土の中から何かが飛び出してきました。
「あああああぁぁテメーせっかく綺麗に仕上げたのに」
ズガーーーーン ドスン!
さっちゃんのドロップキックが炸裂しました。
「あ、あれは」
「またやり直しじゃねーか」
さっちゃんはブツブツ言いながら、穴を埋めて平らにしました。
「よし、親方ぁ終わった」
「おう、ご苦労さん」
「でさぁ親方」
「わかってるよ、作業着とヘルメットはやるよ、シャベルは…もう使えないな」
ちゃっかり作業着とヘルメットは親方から貰ったさっちゃんです。
でもシャベルは酷使しすぎて使い物にならなくなっていました。
私は必要無かったのですが、さっちゃんが睨むので、私の分の作業着とヘルメットも貰いました。シャベルも何故か欲しがったので、私のシャベルも貰いました。
一体何に使うのか気になりますが、何故か聞いてはいけない気がするのでやめました。
「じゃ親方、帰るわね」
「おう、また来いよ」
「失礼します」私もポソっと挨拶しました。
「前よりこの現場良くなった、助かった」
てくてく
とっとと帰ろうとするさっちゃんです。
「ちょちょちょとさっちゃん」私は慌てて呼び止めました。
「何?」
「あれ」
私が指を刺した方向にはさっき、さっちゃんがドロップキックしたブツが。
「あれって何よ」
「ヘルバイパー」
「あ、忘れてた」
「やっぱり」
ここに何の依頼で来たのかすっかり忘れていたさっちゃんでした。
さっちゃんがドロップキックしたのは偶然にもヘルバイパーだったのです。
「ふんふん♪しゃべるぅー♪さぎょーぎー♪へるめっとぉー♪」
「こーじげんばぁー♪おーやかたぁー♪ふんふん♪」
帰り路もご機嫌で謎の歌を歌いながらブンブン手を振って歩くさっちゃんです。
調子に乗ってドブに落ちて泣きべそをかいていたのは内緒です。
ーーーーーーー
からん♪
ぱちぱちぱちぱち
「は?」←さっちゃん
「え?」←私
ギルドに入るといきなり拍手されました。
「あなた達すごいじゃない。今日からAランクよ」受付嬢がいきなり言いました。
「は?」
「え?」
訳が分からない私たちです。
実は工事現場の親方はギルドマスターのお兄さんでした。
さらに元ギルドマスターだったそうです。
さっちゃんがドブに落ちていた間に追い抜いたみたいです。
そのお兄さんが「何であいつらがBランクなんだ。あんな凄い奴ら滅多にいないぞ、お前の目は節穴か?気が弱いとか口が悪いくらいなんだ」とギルドマスターを叱り飛ばしたらしいです。
実は私のどっかんどっかんやった炎弾も、無詠唱の土魔法も、物凄い速さで整地したり、ヘルバイパーを一撃で倒したさっちゃんの身体能力も、真面目に工事を手伝っていたのも、私たちが作業着に着替えてるところも、さっちゃんがドブに落ちていたのも見ていたらしいです。バッチリと。
こうして私たちはAランク冒険者になりました。
いつのまにか…
おわり